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115 恐怖の学校

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 立花は心菜のそんな不躾な様子に気を悪くするでもなく、困ったように肩をすくめた。

「ちょっと手が滑っただけだって。次は上手くやるから………」
「やらなくて結構。荷物運びの人材が足りていないらしいから、そっちを手伝ってくれると助かるのだけれど」
「ん、すまん。りょーかい」

 存外簡単にいうことを聞いてくれる立花の背中を見送って、心菜は自分の作業に戻る。的に色を塗るという作業は、ちまちました作業が好き且つ得意な心菜には、ぴったりな作業だった。

「うげー、これ、納期までに終わるかな?」
「終わる終わらないじゃない。終わらすの」

 ゆっくり丁寧すぎるぐらい丁寧に色を塗っている優奈に圧力をかけながら、心菜はちょっとだけ雑めに色を木の板に置いていく。存外、雑に塗っても、遠くから見ればわからないもので、心菜はそれをいいことに結構はみ出して塗っていた。

「………お前、前から思ってたけど、結構脳筋だよな」
「そう?そんなことはないと思うけど………」
「いいや、面倒くさがりな俺が言うんだから間違いない」
(いや、それ信用できないでしょ)

 心の中だけで突っ込んだ心菜は、次々に手を動かしていく。

「ん、できた」

 外が真っ暗になり始めた頃に作業を終えた心菜は、時計を見てびっくりしてしまった。なぜなら、2時間も集中してたの声に一切惑わされずに作業していたからだ。

「ふぅー、」

 一息だけついて作業のために使っていた絵の具を片付けると、心菜は急激に背筋に冷水を掛けられたかのような感じを抱いてしまった。10月の夕暮れとは早いもので、6時なのにも関わらず学校内は真っ暗で、それでいて、学校内は閑散としてしまっている。作業が残っている子以外に先生しか残っていない学校、それは正直に言って恐怖しか抱くことのできない光景だった。
 ぞくぞくと背中に嫌なものが走って、心菜はきゅっと目に涙を溜めてスカートの裾を握った。

「………こわくない、こわくないこわくない、こわくないこわくないこわくないこわくないこわくないこわくない………こわく、ない?」

 呪文のように『怖くない』という言葉を呟きながら、教室を施錠して職員室に鍵を返し、下駄箱のある1階まで降りてきた心菜は、目の前に一瞬だけ映った陽炎のように揺れていた影にビクッと身体を揺らした。

「ーーー今のって………、お、お、おば………け?」

 言うや否や、心菜はカタカタと震えながら、顔を真っ青に染め上げる。

「ひ、ひぎゃあああああああぁぁぁぁぁぁあああああああ!!」

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読んでいただきありがとうございます😊😊😊

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