小さな別れは、淡く儚い恋を呼ぶ

桐生桜月姫

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136 心菜の夢

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▫︎◇▫︎

 ふわふわと揺れる夢の中、熱に時に見る夢を、心菜はどこか遠くの世界のように眺めていた。

『良い子ちゃん』

 ーーー良い子ちゃん、良い子ちゃん良い子ちゃん、良い子ちゃん良い子ちゃん良い子ちゃん良い子ちゃん良い子ちゃん!!………良い子ちゃん。

 不可思議なエコーのかかった声が、耳元で聞こえた気がする。いつもの夢は直ぐに忘れてしまうのに、いつもこの夢だけは朧気ながらも覚えている記憶があって、心菜はこの世界にくる度にどんどん心が凪いでいくのがわかって、すっと小さくため息をこぼす。

「………本当に嫌い」

 散々小学校低学年時代に男子に騒がれた言葉は、心菜を鎖でがんじがらめにしていく。『良い子ちゃん』になりたくてなったわけではない。正しいと思う道を進んだからなっただけだ。けれど、周囲はそんな心菜の事情を分かってはくれなくて、散々心菜のことを詰った。

『優等生』

 ーーー優等生、優等生優等生、優等生優等生優等生、優等生優等生優等生優等生優等生優等生優等生優等生優等生!!………優等生。

 今度は違う言葉が耳を掠めるけれど、その言葉も、心菜の心をがんじがらめにしていく。小学校中学年から中学生の今に至るまで、散々周囲に言われた言葉。男女関係なく、先生にまで言われた言葉。『優等生だから』そんな一言でいくつのことが片づけられただろうか。

『久遠さんは、“優等生だから”大丈夫よね?』

 友人とちょっと羽目を外した遊びをしてみたかった。けれど、先生にこう言われてしまうたびに、身体は動かなくなって、気がつけば、1人おいて行かれている。みんなが先生に叱られている中、1人だけ怒られずに本を読んでいる姿は、時に羨ましがられ、時に恨まれた。
 本当はみんなと一緒に怒られてみたかった。『優等生だから』という枠組みの中で、みんなを嗜められなかったからという理由で叱られるのではなく、みんなで悪いことをしたからと、怒られたかった。

(あぁ、本当に最悪)

 この夢を見るたびに、自分はみんなと一緒に集団行動ができないという風に怒られているように感じて、そのせいでどんどん人と関わるのが苦手になっていく。だからこそ、心菜は泣きそうになるのを必死に我慢して、夢の中で体育座りをして蹲る。

(だれか、たすけて)

 心菜は願っている。

 誰かが、殻を破ってくれることを。
 誰かが、自分を連れ出してくれることを。

****************************

読んでいただきありがとうございます😊😊😊

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