小さな別れは、淡く儚い恋を呼ぶ

桐生桜月姫

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137 心菜はお風邪

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▫︎◇▫︎

 ーーーカタンっ、

 こぎみのいい扉に開く音に目を覚ました心菜は、うっすらと開けた瞳で部屋の入り口を見遣った。1人の女性が心配そうにこちらを伺うように立っていて、心菜は家に帰ってきたことを実感する。ふにゃっと頬が緩んでしまったのは、風邪故か安心故かは分からなかったが、心菜はなんだかとっても暖かい気持ちになった。

「あら、起こしちゃった?体調はどう?」
「………まあまあかな」

 声とは裏腹にシャキシャキと動く母親のことを見つめながら、心菜はこつんと母親の身体に身体を預けた。最近起こっている不安なことも、嫌なことも、これだけで全てが報われる気がした。

(立花とゆーなちゃんには、ちゃんとお礼しなきゃな。沢山迷惑かけちゃった)

 ぼーっと考え込みながら、差し出されたパジャマに着替え直して、心菜はばふんともう1度ベッドに寝っ転がった。

「あら、お薬をまだ飲んでいないのだから、まだ寝てはダメよ?」
「んー、」

 そう返事をしながらも、目はうつらうつらと閉じてしまって、心菜はあまりに弱った自分に苦笑する。身体がそこまで強くない心菜からすれば、体調不良はよくあることだ。けれど、学校内で倒れるのは初めてで、自分が『文化祭』という行事によっていかに浮かれていたことが簡単にわかった。

(ちょっと、いいえ、だいぶ恥ずいわね)
「こーら!お薬!!」
「うぇー、」

 母親に怒られて緩慢な仕草で起き上がって、錠剤のお薬を飲む。粉薬が苦手な心菜は、常に錠剤のお薬を使用していた。初めて錠剤のお薬を使用したときには、涙が出てきたくらいに、心菜は粉薬が苦手だった。

(不思議、いっつもはお薬なんて飲みたくないって思うのに)
 
 いつもは学校をサボれるからいいかなって思う風邪も、文化祭という出来事を前にすれば、早く治って欲しいと願ってしまう。心菜はごっくんと薬を飲み込んでぼふんとベッドにダイブした。

「おやすみ、心菜」
「………おやすみなさい、お母さん」

 額にあたる母親の冷たい手が心地よくて、心菜はあっという間に眠りの世界に落ちていってしまった。
 2度目に見る夢の世界は、幸せに満ち溢れていた。

▫︎◇▫︎

****************************

読んでいただきありがとうございます😊😊😊

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