小さな別れは、淡く儚い恋を呼ぶ

桐生桜月姫

文字の大きさ
139 / 144

138 心菜は復帰する

しおりを挟む
 心菜が学校に復帰できたのは文化祭初日から1週間後で、残念ながら文化祭が全て終了した後だった。学校に戻って1番に荒れた机の中を片付けた心菜は、文化祭の余韻故かわちゃわちゃしている教室の中を1人ぽつんと取り残された心地で見つめる。こういう時、限られた人間以外と一定の距離を保っている人間というのは、あまり気を使ってもらえない。気を遣ってもらうことこそ気を使うからちょうどいいのだが、やっぱり行事後にそうだと少しだけ寂しい。まあ、それもこれも自業自得だとため息をついて、心菜はやっとのことでお片付けを終えた机に着席した。

「それにしても、今年も吹奏楽部の演奏すごかったよね!!」
「うんうん!流行りの曲ばっかで、めっちゃ楽しかった!!」
「………………、」

 ついていけない話。楽し気な声。心菜はぎゅっと泣き出したくなるのを我慢してぷいっと窓の外を見つめた。窓際の席の特権を満喫しながら、心菜は心を押し殺す。

「ーーーおはよう、久遠」
「おはよう、立花。どうかしたの?変な顔してるよ?」

 ちょっとむすっとしているような、それでいて心配するかのようなごちゃ混ぜの表情で立花は心菜のことを見つめていた。綺麗な顔が台無しだと思いながら、心菜はこつんと机に突っ伏すようにして立花を上目遣いに見つめた。

「………なんでもない」
「そっか。じゃあ、ノート貸して。今までの欠席分の授業ノート写しときたいから」
「ん」

 渡されたノートを繁々と見つめながら、心菜はじっと彼の文字を見つめた。

「立花って案外几帳面な字を書くよね。なんか模範的じゃないけど、しっかりとした楷書体」
「そうか?俺はお前の方が几帳面な字を書く気がするが………」
「私はそう書かないと気が済まないだけ。だって字が汚かったら、正直に言って読めないじゃん」
「それはそうだな」

 ノートは大事なお勉強道具だ。見直しの必要がある物を、ぐしゃぐしゃに扱うなんてことができない心菜は、全ての教科のノートを几帳面にとっていた。

「はぁー、」

 カリカリとシャープペンシルを走らせて彼のノートを写していると、不意に心菜は大きなため息をついてしまった。

(………吹奏楽部の演奏、聴きたかったな)

 文化祭で唯一やり残してしまったことに心囚われながら、心菜は彼からの視線にも気が付かずにノート写しを再開するのだった。

****************************

読んでいただきありがとうございます😊😊😊

しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

あるフィギュアスケーターの性事情

蔵屋
恋愛
この小説はフィクションです。 しかし、そのようなことが現実にあったかもしれません。 何故ならどんな人間も、悪魔や邪神や悪神に憑依された偽善者なのですから。 この物語は浅岡結衣(16才)とそのコーチ(25才)の恋の物語。 そのコーチの名前は高木文哉(25才)という。 この物語はフィクションです。 実在の人物、団体等とは、一切関係がありません。

俺を振ったはずの腐れ縁幼馴染が、俺に告白してきました。

true177
恋愛
一年前、伊藤 健介(いとう けんすけ)は幼馴染の多田 悠奈(ただ ゆうな)に振られた。それも、心無い手紙を下駄箱に入れられて。 それ以来悠奈を避けるようになっていた健介だが、二年生に進級した春になって悠奈がいきなり告白を仕掛けてきた。 これはハニートラップか、一年前の出来事を忘れてしまっているのか……。ともかく、健介は断った。 日常が一変したのは、それからである。やたらと悠奈が絡んでくるようになったのだ。 彼女の狙いは、いったい何なのだろうか……。 ※小説家になろう、ハーメルンにも同一作品を投稿しています。 ※内部進行完結済みです。毎日連載です。

貞操逆転世界で出会い系アプリをしたら

普通
恋愛
男性は弱く、女性は強い。この世界ではそれが当たり前。性被害を受けるのは男。そんな世界に生を受けた葉山優は普通に生きてきたが、ある日前世の記憶取り戻す。そこで前世ではこんな風に男女比の偏りもなく、普通に男女が一緒に生活できたことを思い出し、もう一度女性と関わってみようと決意する。 そこで会うのにまだ抵抗がある、優は出会い系アプリを見つける。まずはここでメッセージのやり取りだけでも女性としてから会うことしようと試みるのだった。

夫婦交換

山田森湖
恋愛
好奇心から始まった一週間の“夫婦交換”。そこで出会った新鮮なときめき

極上イケメン先生が秘密の溺愛教育に熱心です

朝陽七彩
恋愛
 私は。 「夕鶴、こっちにおいで」  現役の高校生だけど。 「ずっと夕鶴とこうしていたい」  担任の先生と。 「夕鶴を誰にも渡したくない」  付き合っています。  ♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡  神城夕鶴(かみしろ ゆづる)  軽音楽部の絶対的エース  飛鷹隼理(ひだか しゅんり)  アイドル的存在の超イケメン先生  ♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡  彼の名前は飛鷹隼理くん。  隼理くんは。 「夕鶴にこうしていいのは俺だけ」  そう言って……。 「そんなにも可愛い声を出されたら……俺、止められないよ」  そして隼理くんは……。  ……‼  しゅっ……隼理くん……っ。  そんなことをされたら……。  隼理くんと過ごす日々はドキドキとわくわくの連続。  ……だけど……。  え……。  誰……?  誰なの……?  その人はいったい誰なの、隼理くん。  ドキドキとわくわくの連続だった私に突如現れた隼理くんへの疑惑。  その疑惑は次第に大きくなり、私の心の中を不安でいっぱいにさせる。  でも。  でも訊けない。  隼理くんに直接訊くことなんて。  私にはできない。  私は。  私は、これから先、一体どうすればいいの……?

偽装夫婦

詩織
恋愛
付き合って5年になる彼は後輩に横取りされた。 会社も一緒だし行く気がない。 けど、横取りされたからって会社辞めるってアホすぎません?

イケメンエリート軍団??何ですかそれ??【イケメンエリートシリーズ第二弾】

便葉
恋愛
国内有数の豪華複合オフィスビルの27階にある IT関連会社“EARTHonCIRCLE”略して“EOC” 謎多き噂の飛び交う外資系一流企業 日本内外のイケメンエリートが 集まる男のみの会社 そのイケメンエリート軍団の異色男子 ジャスティン・レスターの意外なお話 矢代木の実(23歳) 借金地獄の元カレから身をひそめるため 友達の家に居候のはずが友達に彼氏ができ 今はネットカフェを放浪中 「もしかして、君って、家出少女??」 ある日、ビルの駐車場をうろついてたら 金髪のイケメンの外人さんに 声をかけられました 「寝るとこないないなら、俺ん家に来る? あ、俺は、ここの27階で働いてる ジャスティンって言うんだ」 「………あ、でも」 「大丈夫、何も心配ないよ。だって俺は… 女の子には興味はないから」

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

処理中です...