脳筋転生者はその勇まし過ぎる拳で世界にケンカを売ります。

きゅりおす

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第116話 砕け散る秩序

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 激しい戦闘が始まったその一方で、女神の軍勢は他の場所にも進行していた。

「ここにいるって本当か?」
「ああ、女神候補の連中が全員ここだってよ」
「さっさと終わらせるわよ」
 この勇者と女神はテルー宅に来ていた。

「おれもあっちに混ざりたかったぜ」
「バカ言うなよ。相手はあの魔神軍だぞ?こっちの仕事のほうがよっぽど楽だ。ちょっと女神候補をつまみ食いしても怒られねぇだろうし」
 
 勇者たちは周囲を経過しながら建物の中に入っていく。

「まあ好きにすると良いわ、上級女神から直々の命令だもの。きっと遂行した暁には私達の覚えもよくなるはずだわ」
 女神もその後について入っていく。

 最後の女神が建物内に入った途端、扉が閉まった。

「扉が勝手に?!」
 一同が周囲を警戒する、が誰もいない。

「まったく浅はかな子たちね」

 声が来た方向に目を向ける勇者達、そこにはテルーが一人立っていた。

「ッ?!」
「なんだコイツ!」
「猫?獣人ってやつか?」
 勇者達は構える。

「優しくてかわいい猫のおばあちゃんよ。いつもはだけどね」

「猫……?ひょっとして!元女神の……!」
 女神がようやく目の前に現れた猫の正体に気付く。

「うちのかわいい子たちをイジメようとする悪い虫はきっちり追い払わないとね」

「うるせぇ!こいつは女神候補じゃないから殺して良いんだな!」
「やっちまうぞ!」
 勇者達は武器を振りかざし、魔法を放とうと構える。

「お部屋の中であまりドタバタするものじゃないわ」
 テルーはそう言って手を一度パンッと叩く。

「猫魂《ねこだまし》」

 勇者達、そして女神もバタバタと倒れた。

「さ、もういいわよ出てきなさい」

「テルー様、ありがとうございます」
「気配を消すのが上手くなったわね。ちゃんと練習してるようで偉いわ」
 テルーは女神候補だった者達の頭をなでる。

「この人たちは?」
 倒れた勇者を元女神候補の1人がつつく。

「気にしなくて良いわ、この人たちはもう起き上がらないから。さあ、それでは私達も向かうわよ~」
 テルーが手をパンッと叩くと女神候補たちと共に姿を消す。



 女神軍と魔神王軍が衝突し戦いを繰り広げている最中。
 突如、空が強烈な光を放った。

「なんだ?!」
「光が降ってくるぞ!」
 女神軍の者たちは驚いた顔で空を見上げていた。

「退避しろ!」
 魔神軍の先頭に立っていた者が命令する。

「なんだ?連中が逃げるぞ!追いかけろ!」

 光は女神軍と魔神軍が衝突していた最前線に降り注いだ。

「ギャアア!」
 光に焼かれた勇者たちは悲鳴を上げた。

 魔神軍はギリギリのところでこれを回避した。

「なんだあれは?」
「まだ降ってくるぞ!」
 空の光がより一層強くなる。

「いかん、あの数では逃げ切れん!貴様らは下がり続けるんだ!」
 
 先程から命令を出している者が盾を構えて皆を守ろうとした。

 そんな彼に向かって光が降り注ぐ。

 彼の前にある二人の人影が現れた。

「あなた様は……バアル・ゼブル様!」
「それにクレイピオス様!?」
 彼らの前に現れた二人は空からの光を防ぐ。

「味方もろともか、何を考えているんだ。数が貴様らの取り柄なのに、自らそれを潰すような真似を」
「連中らしいですね!」
 二人はその光を弾き返した。

 バアルは後ろに振り向く。

「よくぞ撤退命令を出した、あの判断で多くの者が命を拾ったぞ。っと我は魔神軍の者ではないのに少々出過ぎた物言いだったかな?」

「いえそんな!そのようなお言葉を頂けて、光栄の至りです!」
 魔神軍の先頭にいたものが敬礼をした。

「よしマリス、場所はわかったな、フォルサイトを送ってくれ」
 バアル・ゼブルはマリスに魔法で連絡する。

「やっぱり……あんな高い所に作ってやがるのか。開けごまーっと」
 見上げてそう話すマリスは、魔法でゲートを開いた。

 彼女は目的地の上空にゲートを開けたらしい、しかし、ゲートの先はただ空が見えるだけでこれと言って目立つものは無い。

「ほー!普通の目なら目視もできないように結界を貼ってるのですね。まるで魔神城のようですね」
「次元は低いが、まあ連中にしては上出来だ」
 
 フォルサイトはちゃんと目標を感知しているようだ。

「あれって思いっきりやって良いんですよね?」

「ああ、戦闘員はもちろん非戦闘員も反応がない、この戦場に駆り出されているようだ。さっきのあの光は遠隔操作で放ったのか」

 マリスがそう言うとフォルサイトは姿勢を深くする。

「それでは行ってまいります!」
 勢いよくゲートに飛び込むフォルサイト。

「この反応!天界の側に巨大な反応が!」
 ミディカがグロリアに報告する。

「らしいな」
「らしいなって、あそこには私の研究所が!」
「黙れ!そんなことより目の前の戦いに集中しろ」
 自身の拠点が狙われているというのに気にしない様子のグロリア

 空中から目標に向かって降下するフォルサイト。

「思いっきりやれ、結界は外部からの衝撃にも耐性がある」
「畏まりましたー」
 フォルサイトは棍棒を振り上げた。

「破戒・一星ッ!」
 フォルサイトの強烈な一撃が結界を破壊し、その先に現れた空飛ぶ島を叩き割った。

「女神たちの島、おっと天界でしたか、撃墜!」
 粉砕された島は崩れ落ちる。

「確認したぞフォルサイト。防御態勢をとれ!」
「総員ッ!防御態勢!衝撃に備えろ!
 魔神軍は守りを固めた。

「な、なんだ?」
「連中構えが変わった?」
 勇者たちはその様子に少し困惑した。

 すると彼らに影がさす、影はみるみるうちに大きくなっていく。

「え?」
「なんだあれ?!」
 逃げる間もなく、勇者たちは降り注いだ巨大な影の正体に潰された。

「巨大な魔石が降り注いでる!」
「どうしてそんなのが?」

「女神の島が落とされたんだ。あれだけの魔石を持ってる連中はそう多くない、連中の拠点に溜め込んでた分が降ってきてんだ」
 ネラが落石を見ながらそう説明する。

「落としたのはフォルサイトだな」
「島を一つ落とすなんて……」
 ユイは唖然とする。

「何を言うんですか、あの方なら本気をだしたらそんなのでは済まないですよ」
「光景が容易に想像できるな。本気のアイツも見てみたいな」
 タケミはアスタムにそう言うと、彼は苦笑いする。

「その時は行って下さいね。僕は全力で逃げる必要があるので」



「魔石が!グロリア!一体どうするつもりだ!これで私達は天界からの魔力供給がなくなった!」
「それがどうした、まだ私達には相当量の魔力がある、それで傷の修復はできるだろう」

 ミディカはグロリアに掴みかかろうとするが寸前でやめる。

「……ッ!ああ、それでこの戦いを乗り切れたとしてその後は?島を用意するのは容易じゃないんだぞ。あの魔力供給のシステムだって過去の産物!資料だって足りてないんだぞ!どっかのバカが記録を焼き捨てたせいでな!グロリア!」
 
 ミディカが怒鳴る。

「口の聞き方に気をつけろ、様がぬけているぞ?ミディカ」

「ほざけ!貴様がいると私がまだまともだと自覚できて嬉しい限りだよ、まったく!上級女神だってもうそう多くは残っていない、連中を使うぞ、良いな?」

 ミディカが箱を開けると、そこには立方体をひどく歪めたものが入っていた。

「是非やってくれ。数の差はまだこちらに利がある、だろ?」
 グロリアは一杯のワインをグラスに注ぎ飲んでいた。

「実験の時間だ。そのワイン私も貰うぞ」
 ミディカは拠点の外に出る。

「いけ、神兵たちよ!」
 地面にその歪められた立方体を投げるミディカ。

 それは砕け、中から白い物体が溢れ出してくる。白い物体は巨大な化物へと変貌した。まるで石像のような皮膚に巨大な口と牙、それが幾つも身体の至る所に確認できる。

「さぁ!喰らうがいい!」

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