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秋の章
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夜になると肌寒さを感じるようになった。標高の高さのせいか、ここは東京より少し秋が深まるのが早いらしい。
テレビを見ているときに何気なく篤宏に寄りかかると、彼の腕に閉じ込められた。そこが落ち着くので篤宏の体に完全に体を預けると、篤宏がくすりと笑ったのが聞こえた。
「なんだ?」
「シロくんのこんな姿を知ってるのは、僕だけだろうと思って」
「……そうだな」
篤宏のそばにいると気持ちが緩む。そして、自分の知らない自分がどんどん顔を出してくるのだ。
それは真珠に安らぎをもたらしてくれるが、時々わけのわからない恐怖を感じることもあった。
胸が押し潰されるような恐怖の理由も正体も、真珠にはわからない。
心の中にぽつりとある暗くて寒い場所から、冷たい風が吹き付けてくるようだった。それから逃げたくて、篤宏の温もりを感じたくて、真珠の首筋に顔を埋めた篤宏に頭を擦り寄らせた。薄く唇を開いて篤宏の袖を引くと、真珠が望んだように篤宏の生身の熱さがもたらされる。
「……んっ」
真珠が鼻から漏らす声で、篤宏がますます身を寄せてきた。しっかりとした厚みのある篤宏の胸板に体を寄せて、真珠は自分の口内を探る篤宏の舌を強く吸う。
「……シロくん、好きだよ。自分でも意味がわからないくらい君のことが好きだ」
唇を離して、目を熱く潤ませた篤宏は真珠の髪を撫でた。そのまま頭を自分の胸に抱き寄せて、髪を撫で続ける。
「君にキスをして、抱きしめる度に、どうしようもなく心がふわふわするんだ。君がいないときも、気がつくと君のことを考えてる。元気にしてるのか、ちゃんと食べてるのか、次はいつ来てくれるのか。
……もしかしたら僕は、初めて会った時に君に一目惚れしたのかもしれない。人を泊められるような家じゃないとか、スパーンと頭から抜けて、ただもっと間近で君を見てみたいと思った。打算もあったけど、君の近くにいたいと思ったのは、きっとそのせいだ。
それから君をメディアで見かける度に凄く嬉しくて。遠い世界の人にも思えるのに、そんな君が僕の向かいでご飯を食べてるのが不思議で、嬉しかった。君は僕にとっては大事な友達で、家族のようにも思ってた。だけど、今まで感じたことがない気持ちも味わってる。家族の親愛、友達の友愛、それだけじゃなくて――僕は、君に恋してしまった」
歌うような篤宏の声が、真珠の耳のすぐ横で低く甘く囁く。はっきりとした形を成した篤宏の感情は、迷いなく真珠にぶつかってきた。
「……あんた小説家だろう、もう少し面白い告白のセリフはないのか」
「面白いって、君ねぇ……」
抱きしめていた真珠を離して呆れ声を出した篤宏は、真珠が嬉しそうに笑っていることに気付いて笑いを漏らした。
「君の心に、届いたかな」
「嬉しいと思うくらいには、届いてる」
少なくとも篤宏の言葉と温もりは、真珠の心の中にある暗い部分に蓋をしてくれた。今はただ、彼の熱を感じられることが嬉しい。
「俺も」
篤宏の首に腕を回し、真珠は篤宏を見つめた。彼の目の中に自分の姿が映っているのがはっきりとわかる。
「誰かのことをこんな風に思ったのは初めてだ」
ぐらりと視界が揺れたと思ったら、畳の上に押し倒されていた。今まで真顔だったことはあっても、優しい表情ばかりを真珠に向けていた篤宏が、見たことのない顔で真珠を見下ろしていた。
そこにいるのは穏やかな物腰の青年ではなくて、抑えきれない欲に目をぎらつかせた雄だ。
獲物を獲って食らう目で真珠を見ている。
「篤宏、俺を食うのか?」
「そうだね、君を食べたい」
ぺろりと首筋を舐めあげられて、ぞくぞくと体中が粟立った。感じたのは恐怖ではない。
篤宏に食べられてひとつになってしまえれば、どんなにいいだろうと真珠は思っていた。
テレビを見ているときに何気なく篤宏に寄りかかると、彼の腕に閉じ込められた。そこが落ち着くので篤宏の体に完全に体を預けると、篤宏がくすりと笑ったのが聞こえた。
「なんだ?」
「シロくんのこんな姿を知ってるのは、僕だけだろうと思って」
「……そうだな」
篤宏のそばにいると気持ちが緩む。そして、自分の知らない自分がどんどん顔を出してくるのだ。
それは真珠に安らぎをもたらしてくれるが、時々わけのわからない恐怖を感じることもあった。
胸が押し潰されるような恐怖の理由も正体も、真珠にはわからない。
心の中にぽつりとある暗くて寒い場所から、冷たい風が吹き付けてくるようだった。それから逃げたくて、篤宏の温もりを感じたくて、真珠の首筋に顔を埋めた篤宏に頭を擦り寄らせた。薄く唇を開いて篤宏の袖を引くと、真珠が望んだように篤宏の生身の熱さがもたらされる。
「……んっ」
真珠が鼻から漏らす声で、篤宏がますます身を寄せてきた。しっかりとした厚みのある篤宏の胸板に体を寄せて、真珠は自分の口内を探る篤宏の舌を強く吸う。
「……シロくん、好きだよ。自分でも意味がわからないくらい君のことが好きだ」
唇を離して、目を熱く潤ませた篤宏は真珠の髪を撫でた。そのまま頭を自分の胸に抱き寄せて、髪を撫で続ける。
「君にキスをして、抱きしめる度に、どうしようもなく心がふわふわするんだ。君がいないときも、気がつくと君のことを考えてる。元気にしてるのか、ちゃんと食べてるのか、次はいつ来てくれるのか。
……もしかしたら僕は、初めて会った時に君に一目惚れしたのかもしれない。人を泊められるような家じゃないとか、スパーンと頭から抜けて、ただもっと間近で君を見てみたいと思った。打算もあったけど、君の近くにいたいと思ったのは、きっとそのせいだ。
それから君をメディアで見かける度に凄く嬉しくて。遠い世界の人にも思えるのに、そんな君が僕の向かいでご飯を食べてるのが不思議で、嬉しかった。君は僕にとっては大事な友達で、家族のようにも思ってた。だけど、今まで感じたことがない気持ちも味わってる。家族の親愛、友達の友愛、それだけじゃなくて――僕は、君に恋してしまった」
歌うような篤宏の声が、真珠の耳のすぐ横で低く甘く囁く。はっきりとした形を成した篤宏の感情は、迷いなく真珠にぶつかってきた。
「……あんた小説家だろう、もう少し面白い告白のセリフはないのか」
「面白いって、君ねぇ……」
抱きしめていた真珠を離して呆れ声を出した篤宏は、真珠が嬉しそうに笑っていることに気付いて笑いを漏らした。
「君の心に、届いたかな」
「嬉しいと思うくらいには、届いてる」
少なくとも篤宏の言葉と温もりは、真珠の心の中にある暗い部分に蓋をしてくれた。今はただ、彼の熱を感じられることが嬉しい。
「俺も」
篤宏の首に腕を回し、真珠は篤宏を見つめた。彼の目の中に自分の姿が映っているのがはっきりとわかる。
「誰かのことをこんな風に思ったのは初めてだ」
ぐらりと視界が揺れたと思ったら、畳の上に押し倒されていた。今まで真顔だったことはあっても、優しい表情ばかりを真珠に向けていた篤宏が、見たことのない顔で真珠を見下ろしていた。
そこにいるのは穏やかな物腰の青年ではなくて、抑えきれない欲に目をぎらつかせた雄だ。
獲物を獲って食らう目で真珠を見ている。
「篤宏、俺を食うのか?」
「そうだね、君を食べたい」
ぺろりと首筋を舐めあげられて、ぞくぞくと体中が粟立った。感じたのは恐怖ではない。
篤宏に食べられてひとつになってしまえれば、どんなにいいだろうと真珠は思っていた。
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