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秋の章
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「そうだな。まずあっちゃんが俺からしたら息子みたいな歳だけども。だいたいの年寄りから見たらあっちゃんが『都会から戻ってきた自慢の孫』だったんだ。あっちゃんは自分のことを卑下して貧乏小説家なんて言ってるけど、本が出てるってだけで俺らからしたらどえらい人が住んでるって思ってた。それでシロちゃんが来てくれてあっちゃんがテレビに映ったろ? そこからあっちゃんの本が出て――まるでシロちゃんは福の神だよ。ふたりとも、村の自慢なのさ」
「……俺は、そんないいものじゃないです」
この村が好きなのは間違いないが、篤宏に会いに来ていたのだ。もし篤宏がいなかったら、こんなに何度も来ただろうか。いや、きっと来てはいないはずだ。そう思うと、真珠には村の人々の好意が申し訳なく思えた。
「いや、たいしたもんだよ。ああいう世界でやっていくのは大変だろうになあ。頑張れ、俺達はみーんなお前さんの味方だよ」
ぎゅっと胸が締め付けられる。真珠がモデルの世界で活躍することを、確かにこの人達は望んでくれているのだ。
しがらみに捉えられたとも言えた。けれど、それを振り切る気にはなれない。子供や孫が成功することを喜ぶ、親しみが向けられていることを知ったから。
俺は、何をするつもりだったんだ。
自問すると、ぎりりと歯がみしたい気持ちになった。さっきまで篤宏のもとで帰りたくないと駄々をこねていた自分の横面を張り倒したかった。
自分の仕事を厭いかけていた。プロとしてのプライドを持ってやってきていた仕事なのに。
じわじわと自分が何かに侵食されていたことに気付いて、急に恐ろしくなる。
このままでは、プロ失格だ。真珠に期待を寄せる全ての人に対しての裏切りだ。今まで自分を支えてくれてきた人達――厳しいことを言いながらも真珠の希望に添うようにマネジメントをしてくれる久米や、事務所の人間。そして、カヨやミネ、達雄をはじめとする村の人々も含まれる。
そしてなによりも、プロであることを貫こうとした篤宏に対して顔向けできなくなる。彼は、「自分に任された仕事を全うする」ことでプロであろうとしている真珠こそを、尊敬すると言ってくれたのだから。
駅に着くと、真珠は達雄に深々と頭を下げた。
「達雄さん、本当にありがとうございました」
「気にすんな! 寒いから気をつけてな!」
軽く手を振って去って行く達雄の車が見えなくなるまで、真珠はそれを目で追っていた。
きっと、もう会うことはないのだ――この恩人達とは。
真珠が与えられ続けてきたものを、これから返していかなければならない。彼らが望んでいなくても、真珠はそうしないと気が済まない。
そこからの帰路は、いつにもまして寂しく感じた。けれど、帰ると最後に決めたのは自分なのだ。
もう村まで引き返すことはできないという場所まで行ってから、真珠は篤宏に初めて電話をかけた。2度目に会ったときに登録したきりで、こんな関係になっても一度も呼び出したことのない番号だった。
呼び出し音はほとんど鳴らず、すぐに篤宏の声が耳に飛び込んでくる。
「シロくん!? 今どこにいるんだい? どうしたの?」
「篤宏……もう、そこへは行かない」
「シロくん! 待って」
篤宏の言葉は続いていたが、真珠は通話を切った。
もう、そこへは行かない。それを伝えたいだけだった。
東京も寒い。真珠は風の冷たさに身を震わせた。自分で決めたことなのに、心にぽっかりと穴が空いている。
もう、戻ることはできない。
あの村は、間もない冬の訪れとともに閉ざされるのだから。
「……俺は、そんないいものじゃないです」
この村が好きなのは間違いないが、篤宏に会いに来ていたのだ。もし篤宏がいなかったら、こんなに何度も来ただろうか。いや、きっと来てはいないはずだ。そう思うと、真珠には村の人々の好意が申し訳なく思えた。
「いや、たいしたもんだよ。ああいう世界でやっていくのは大変だろうになあ。頑張れ、俺達はみーんなお前さんの味方だよ」
ぎゅっと胸が締め付けられる。真珠がモデルの世界で活躍することを、確かにこの人達は望んでくれているのだ。
しがらみに捉えられたとも言えた。けれど、それを振り切る気にはなれない。子供や孫が成功することを喜ぶ、親しみが向けられていることを知ったから。
俺は、何をするつもりだったんだ。
自問すると、ぎりりと歯がみしたい気持ちになった。さっきまで篤宏のもとで帰りたくないと駄々をこねていた自分の横面を張り倒したかった。
自分の仕事を厭いかけていた。プロとしてのプライドを持ってやってきていた仕事なのに。
じわじわと自分が何かに侵食されていたことに気付いて、急に恐ろしくなる。
このままでは、プロ失格だ。真珠に期待を寄せる全ての人に対しての裏切りだ。今まで自分を支えてくれてきた人達――厳しいことを言いながらも真珠の希望に添うようにマネジメントをしてくれる久米や、事務所の人間。そして、カヨやミネ、達雄をはじめとする村の人々も含まれる。
そしてなによりも、プロであることを貫こうとした篤宏に対して顔向けできなくなる。彼は、「自分に任された仕事を全うする」ことでプロであろうとしている真珠こそを、尊敬すると言ってくれたのだから。
駅に着くと、真珠は達雄に深々と頭を下げた。
「達雄さん、本当にありがとうございました」
「気にすんな! 寒いから気をつけてな!」
軽く手を振って去って行く達雄の車が見えなくなるまで、真珠はそれを目で追っていた。
きっと、もう会うことはないのだ――この恩人達とは。
真珠が与えられ続けてきたものを、これから返していかなければならない。彼らが望んでいなくても、真珠はそうしないと気が済まない。
そこからの帰路は、いつにもまして寂しく感じた。けれど、帰ると最後に決めたのは自分なのだ。
もう村まで引き返すことはできないという場所まで行ってから、真珠は篤宏に初めて電話をかけた。2度目に会ったときに登録したきりで、こんな関係になっても一度も呼び出したことのない番号だった。
呼び出し音はほとんど鳴らず、すぐに篤宏の声が耳に飛び込んでくる。
「シロくん!? 今どこにいるんだい? どうしたの?」
「篤宏……もう、そこへは行かない」
「シロくん! 待って」
篤宏の言葉は続いていたが、真珠は通話を切った。
もう、そこへは行かない。それを伝えたいだけだった。
東京も寒い。真珠は風の冷たさに身を震わせた。自分で決めたことなのに、心にぽっかりと穴が空いている。
もう、戻ることはできない。
あの村は、間もない冬の訪れとともに閉ざされるのだから。
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