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28 システム管理者
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上も下も右も左も一面の白。
それは私たちがこの世界に来たときに現れた霧が、もっと密度を上げたようだった。
視界も方向感覚も無くした私はパニックに陥っていた。
「うっ……」
吐き気がこみ上げてくる。ぐらぐらする頭と、あの霧を思い出す得体の知れない恐怖とで。
足もつかない場所で私が必死に体を丸めようとしたとき、その声は聞こえた。
「ミカコ」
名前を呼ばれてそちらに反射的に顔を向ける。すると、今まで漂っていた私の体はしっかりと立つことができた。
一瞬前までは誰もいなかった空間に、人がひとり立っている。
人? 人ではないかもしれない。
まず目についたのは紫色の長い髪。くるぶし近くまであるそれは、人間の持つ色ではない。
男性とも女性ともつかないけれど、整った顔立ち。年齢は――私と大して変わらないくらい若く見える。
白くて何の飾りもついていない簡素すぎる服から、白い素足と手が覗いていた。
「あなたは……?」
「君の言葉で話をしようか。僕は、人間が言うところの神だよ。より的確に役割を示すならば、この世界のシステム管理者。つまり、君たちをこの世界に召喚し、それにまつわる全ての事象を設定しているモノ」
少し低めの落ち着いた声が穏やかに話す。私はその言葉を聞いて動悸が激しくなるのを感じていた。
この白い空間は、明らかに人間の世界ではない。それはわかる。冥土とか三途の川とかそういう物騒ワードが頭をよぎっていくけども、そういう訳でもないようだ。
「全く、もっと早く話がしたかったのに。君は全然『神に祈る』という事をしないんだね。君たちの世界のことはそれなりに見ていたつもりだったけど、ここまで放置されるなんて予想外だったよ」
「私たちの世界を、見ていた?」
聞かなければ、聞かなければ、聞かなければ。
私たちが何故この世界に喚ばれ、どうやったら帰ることができるのかを。
気持ち悪い汗が噴き出しそうになる。
そんな私にはお構いなしに、目の前の「システム管理者」はうっすらと笑みを浮かべて頷いた。
「ああ、見ていたよ。君のクラスの子たちが、侵入してきた男を取り押さえたところもね。それはたまたまだったけども、それから君たちのことを気にして見るようになっていた。――面白いからね」
「まさか、面白いからで私たちをこの世界に?」
「違うよ。だからそんなに怒らないで欲しい。君が望む答えを、順番に与えよう」
穏やかな声が、私の過敏になった神経を鎮めるように話しかけてくる。
彼――もしくは彼女が右手を掲げると、そこに地球儀のような物が現れた。妙に解像度が高くて、地球儀と言うよりは天気予報の衛星写真を球にしたような感じだ。
「僕が他の世界を覗き見ていたのは、困っていたからなんだよ。他の世界に解決策のヒントを求めていた。
少し前にこの世界の基幹システムを少々弄ったんだけども、どうもその時にバグが出たらしい。それに気付くのにもだいぶ掛かってしまったし、気付いたときには世界全体に与える影響がとんでもないことになっていた」
掲げられた地球儀にふわふわと白い光が漂い、それは集まって帯のようになってぐるぐると地球儀を囲んで回り始めた。
「そんな時に見つけたのが、君たちだった。ねえ、ミカコ。君は、子供の何が一番凄いと思う? 子供が持っていて、君が持っていないものだ」
突然の問いかけに私は一瞬言葉が出なかった。
必死に考える。子供が持っていて、私が持っていないもの……きっとそれはたくさんある。
その中で私が選んだのは、極真っ当な選択肢だったはずだ。
「可能性、ですか?」
「そうだね、可能性も凄い。でもそれは『力』ではない。子供の持つもっとも大きな力――それは、『信じる力』さ」
「……信じる力」
「そう、自分の可能性を信じる力。荒唐無稽な何かを信じる力。外から与えられた概念をそのまま信じる力。
君は『椅子召喚』と言ったら椅子が出てくるなんて言われても、いきなり信じたりはしない。大人は経験に基づいた判断ができる。その分、無垢にありのままを信じたりはしない。『根拠がなくとも何かを信じる』ことは難しいだろうね」
……どうかな、大人にもそういう人たくさんいると思うけど。
「大人にもそういう人はたくさんいる、確かにね。だけど彼らは無差別に信じたりはしない。自分に都合のいいことを選んで信じている。
椅子があれば戦えるのにと思ったからって椅子召喚とは叫ばない。それは成長の過程で身についてしまった常識が、それはあり得ないと切り捨ててしまうからだ」
私が言っていないことまで相手に伝わっていたので、私は軽く彼を睨んだ。
「人の心を読みやがりましたね」
「すまない。でも僕にとってはこの姿は仮初めのものだから、耳で音として認識するのも、思考の波動を受信するのも同じことなんだよ。
わかるかい? 君は真っ当な大人だからこそ、考えていたことを僕が受け取ったことを、『耳で聞いていないのだから心を読んだに違いない』と考えた。それは、視覚で受けている情報に惑わされているということだ。実際には『目』で見た情報ではないのに、『像を結んでいるから目で見ている』という逆の順番で勘違いをしている」
坦々と語る彼の言葉に、急に寒気がした。
今の話が本当なら、私は実体を持たないでここにいる。
ただ意識だけがあって、声を発しているのも考えているのも同じこと――。
この白い空間は生の気配が何もなくて、だからこそ彼が神だということも信じられるけども、そこに自分がいるというのはとても恐ろしかった。
私が自分の腕で自分を抱きしめていると、それを私の理解のサインと受け取ったのか、彼が言葉を続ける。
「本当にちょっとしたバグだったんだよ。世界の全体の『存在力』をほんの僅かずつ増やす程度の。元々、少し発展が遅いから土地がちょっとだけ豊かになるように、世界の肥料の様な物を足したつもりだったんだけど。
じわじわと『存在力』が増えていってね――まあ、運がいいことに魔物が増える方向にそれが使われてしまったんだ」
「運がいい? 魔物が増えたことが?」
彼の言葉に耳を疑って私は問いかけた。彼は何でもないことのように頷く。
魔物が増えるよりも、その『存在力』とやらが作物とかに向いていた方がいいように思えるんだけど。
「一気に作物が増えるのはまずかったんだよ。さっきも言ったけど、世界の肥料のような物を足したところだったからね。それが浸透すれば、少しずつ大地は肥沃さを増していく。
魔物が増えたくらいなら全然マシだった方だね。このエネルギーが土地を肥やす方向に働いていたら、先に足した肥料との相乗効果で、人口の膨大な増加を招いて世界規模での大戦争に発展した恐れもある」
彼の言葉に、ミカルさんの言っていたことを思い出す。魔物の脅威があるから、今は国同士の戦争が収まっている、と。
確かに、豊かになることはいいことだけども、それは争いを生み出す基盤になる。
貧しくても食べ物を巡って争いになるし、豊かなら豊かでまた別の争いが起きる。人間って、なんて厄介なんだろう。
「君も感じている通り、まだこの世界は物質的にも精神的にも未熟で、一過性の豊かさは毒にしかならない。
バグは既に修正したけども、問題はこの世界の中で魔物を倒しても、結局エネルギーが世界の中で循環してしまうことだったんだ。だから、異世界からやってきた君たちに『処理』してもらうことにした」
「処理……」
その言葉を口にして、思い当たったことに吐き気を催して私は咄嗟に口を押さえた。
モンスターを倒すと出てくる色々なアイテム。それはお弁当だったりお菓子だったり飲み物だったり――ほとんど全て、何らかの形で私たちの体に取り込まれていた。LVが上がったこともそうだ。モンスターが持っているエネルギーを、私たちは様々な方法で取り込んでいた。
「うん、正解。食べ物や飲み物の形以外にも、純粋に存在力として君たちのLVを上げている。魔物の存在力はそういうことに使われている。行動パターンにも、一定距離の中に君たちの存在があるときには最優先でそちらに向かうように、自殺プログラムのようなものを仕込んだんだ。あくまでも一定距離の中、だから魔物が絶滅するようなことはないだろう。
騎士たちが食べた分は些細な誤差の範囲だよ。文明を知っている君たちが、この世界では見たこともないような便利な物を思いついて使ってくれるのも実に楽しいね。あれで消費するエネルギーも馬鹿にならないくらいだ。うん、実にいい」
彼は私の前で満足げに笑っていた。
つまり、今のところ私たちは神の思った通りに動いているんだ。
椅子があれば戦えると信じて椅子を召喚し、子供の自由な発想でその使い道をどんどん広げ、この世界に浮いてしまっている存在力を取り込み、それを消費しながら強くなっている。
「君たちがそうして強くなって、存在に取り込まれたエネルギーごと、後で元の世界に持ち帰ってしまえば一件落着ってことさ。向こうの世界とこちらの世界ではシステムが違うから、ここで得た『強さ』は直接反映はされないしね」
「元の世界に帰れること前提、なんですよね」
帰還の道筋を突然示されて、私はその言葉に食いついていた。当然だ、これが一番知りたかったんだから。
「もちろん。僕はそのつもりでいるよ。その為には、君たちにはたくさんの魔物を倒してもらわないといけないけども」
「つまり、ノルマを達成すれば、帰してもらえると」
「そういうことだね。そもそも、君たちが元の世界に帰らないとミッションクリアにならない。LV99になるまで頑張って戦ってくれ。どれくらいの存在力を取り込んだらいいかをあらかじめ決めておいて、それに応じてLVを設定しておいたからね。君たちにとってわかりやすいように」
「LV99……」
今私たちはLV44だったはず。結構遠いなあ。
どうやったら効率的にモンスターを倒せるだろう。そういうこともできれば――。
そう私が尋ねようとしたとき、彼はふと視線を上げて微笑んだ。
「おや、もう時間切れのようだ。君の生徒たちは先生思いだね。さよなら、ミカコ。これ以上の直接的な介入は難しいから、もう会うことはないけれど」
「ちょっと待って! まだ聞きたいことが」
「最後にひとつ。君の隣にいる子に僕とのパスを繋いでおいたよ。これからはドロップ品として欲しいものがあったら、その子に言うといい」
「えっ!? 優安ちゃんに何したの!?」
パス繋いだって何よ、と私が叫んでいる内に、視界に満ちていた白い靄が急激に薄くなっていった。
まず気付いたのは、頭の痛みだった。
次に気付いたのは、固いところに寝かされている感触。
「先生、先生! 大丈夫ですか!?」
目に涙をいっぱい溜めて桂太郎くんが私を覗き込んでいる。
「えーと……?」
「ああ、ミカコさん、やっと気付いたのね。良かったわ」
レティシアさんまで少し涙ぐんでいて。何が起きたんだろう。
「何が……痛たた」
「急に動かない方がいいわ。お祈りを始めたと思ったら、急に体が傾いで床に倒れたのよ。その時に派手に頭を打って、頭を切ってしまったようなの」
「えっ!? うわっ、本当だ、血が出てる!」
痛む後頭部に手を伸ばしたら、ぬるりとした感触がした。ひえー、だから桂太郎くんが涙目だったのか。
おそらく、傷自体は桂太郎くんがすぐ治してくれたんだろうけど、出ちゃった血は仕方がないもんね。
「突然倒れたのも驚いたし、意識が戻らないから本当に心配したのよ」
レティシアさんが桂太郎くんと優安ちゃんを抱きしめてその背中を撫でてくれている。
その彼女に、私は真実を伝えることにした。
「私――その意識を失っている間に、神様に会いました」
それは私たちがこの世界に来たときに現れた霧が、もっと密度を上げたようだった。
視界も方向感覚も無くした私はパニックに陥っていた。
「うっ……」
吐き気がこみ上げてくる。ぐらぐらする頭と、あの霧を思い出す得体の知れない恐怖とで。
足もつかない場所で私が必死に体を丸めようとしたとき、その声は聞こえた。
「ミカコ」
名前を呼ばれてそちらに反射的に顔を向ける。すると、今まで漂っていた私の体はしっかりと立つことができた。
一瞬前までは誰もいなかった空間に、人がひとり立っている。
人? 人ではないかもしれない。
まず目についたのは紫色の長い髪。くるぶし近くまであるそれは、人間の持つ色ではない。
男性とも女性ともつかないけれど、整った顔立ち。年齢は――私と大して変わらないくらい若く見える。
白くて何の飾りもついていない簡素すぎる服から、白い素足と手が覗いていた。
「あなたは……?」
「君の言葉で話をしようか。僕は、人間が言うところの神だよ。より的確に役割を示すならば、この世界のシステム管理者。つまり、君たちをこの世界に召喚し、それにまつわる全ての事象を設定しているモノ」
少し低めの落ち着いた声が穏やかに話す。私はその言葉を聞いて動悸が激しくなるのを感じていた。
この白い空間は、明らかに人間の世界ではない。それはわかる。冥土とか三途の川とかそういう物騒ワードが頭をよぎっていくけども、そういう訳でもないようだ。
「全く、もっと早く話がしたかったのに。君は全然『神に祈る』という事をしないんだね。君たちの世界のことはそれなりに見ていたつもりだったけど、ここまで放置されるなんて予想外だったよ」
「私たちの世界を、見ていた?」
聞かなければ、聞かなければ、聞かなければ。
私たちが何故この世界に喚ばれ、どうやったら帰ることができるのかを。
気持ち悪い汗が噴き出しそうになる。
そんな私にはお構いなしに、目の前の「システム管理者」はうっすらと笑みを浮かべて頷いた。
「ああ、見ていたよ。君のクラスの子たちが、侵入してきた男を取り押さえたところもね。それはたまたまだったけども、それから君たちのことを気にして見るようになっていた。――面白いからね」
「まさか、面白いからで私たちをこの世界に?」
「違うよ。だからそんなに怒らないで欲しい。君が望む答えを、順番に与えよう」
穏やかな声が、私の過敏になった神経を鎮めるように話しかけてくる。
彼――もしくは彼女が右手を掲げると、そこに地球儀のような物が現れた。妙に解像度が高くて、地球儀と言うよりは天気予報の衛星写真を球にしたような感じだ。
「僕が他の世界を覗き見ていたのは、困っていたからなんだよ。他の世界に解決策のヒントを求めていた。
少し前にこの世界の基幹システムを少々弄ったんだけども、どうもその時にバグが出たらしい。それに気付くのにもだいぶ掛かってしまったし、気付いたときには世界全体に与える影響がとんでもないことになっていた」
掲げられた地球儀にふわふわと白い光が漂い、それは集まって帯のようになってぐるぐると地球儀を囲んで回り始めた。
「そんな時に見つけたのが、君たちだった。ねえ、ミカコ。君は、子供の何が一番凄いと思う? 子供が持っていて、君が持っていないものだ」
突然の問いかけに私は一瞬言葉が出なかった。
必死に考える。子供が持っていて、私が持っていないもの……きっとそれはたくさんある。
その中で私が選んだのは、極真っ当な選択肢だったはずだ。
「可能性、ですか?」
「そうだね、可能性も凄い。でもそれは『力』ではない。子供の持つもっとも大きな力――それは、『信じる力』さ」
「……信じる力」
「そう、自分の可能性を信じる力。荒唐無稽な何かを信じる力。外から与えられた概念をそのまま信じる力。
君は『椅子召喚』と言ったら椅子が出てくるなんて言われても、いきなり信じたりはしない。大人は経験に基づいた判断ができる。その分、無垢にありのままを信じたりはしない。『根拠がなくとも何かを信じる』ことは難しいだろうね」
……どうかな、大人にもそういう人たくさんいると思うけど。
「大人にもそういう人はたくさんいる、確かにね。だけど彼らは無差別に信じたりはしない。自分に都合のいいことを選んで信じている。
椅子があれば戦えるのにと思ったからって椅子召喚とは叫ばない。それは成長の過程で身についてしまった常識が、それはあり得ないと切り捨ててしまうからだ」
私が言っていないことまで相手に伝わっていたので、私は軽く彼を睨んだ。
「人の心を読みやがりましたね」
「すまない。でも僕にとってはこの姿は仮初めのものだから、耳で音として認識するのも、思考の波動を受信するのも同じことなんだよ。
わかるかい? 君は真っ当な大人だからこそ、考えていたことを僕が受け取ったことを、『耳で聞いていないのだから心を読んだに違いない』と考えた。それは、視覚で受けている情報に惑わされているということだ。実際には『目』で見た情報ではないのに、『像を結んでいるから目で見ている』という逆の順番で勘違いをしている」
坦々と語る彼の言葉に、急に寒気がした。
今の話が本当なら、私は実体を持たないでここにいる。
ただ意識だけがあって、声を発しているのも考えているのも同じこと――。
この白い空間は生の気配が何もなくて、だからこそ彼が神だということも信じられるけども、そこに自分がいるというのはとても恐ろしかった。
私が自分の腕で自分を抱きしめていると、それを私の理解のサインと受け取ったのか、彼が言葉を続ける。
「本当にちょっとしたバグだったんだよ。世界の全体の『存在力』をほんの僅かずつ増やす程度の。元々、少し発展が遅いから土地がちょっとだけ豊かになるように、世界の肥料の様な物を足したつもりだったんだけど。
じわじわと『存在力』が増えていってね――まあ、運がいいことに魔物が増える方向にそれが使われてしまったんだ」
「運がいい? 魔物が増えたことが?」
彼の言葉に耳を疑って私は問いかけた。彼は何でもないことのように頷く。
魔物が増えるよりも、その『存在力』とやらが作物とかに向いていた方がいいように思えるんだけど。
「一気に作物が増えるのはまずかったんだよ。さっきも言ったけど、世界の肥料のような物を足したところだったからね。それが浸透すれば、少しずつ大地は肥沃さを増していく。
魔物が増えたくらいなら全然マシだった方だね。このエネルギーが土地を肥やす方向に働いていたら、先に足した肥料との相乗効果で、人口の膨大な増加を招いて世界規模での大戦争に発展した恐れもある」
彼の言葉に、ミカルさんの言っていたことを思い出す。魔物の脅威があるから、今は国同士の戦争が収まっている、と。
確かに、豊かになることはいいことだけども、それは争いを生み出す基盤になる。
貧しくても食べ物を巡って争いになるし、豊かなら豊かでまた別の争いが起きる。人間って、なんて厄介なんだろう。
「君も感じている通り、まだこの世界は物質的にも精神的にも未熟で、一過性の豊かさは毒にしかならない。
バグは既に修正したけども、問題はこの世界の中で魔物を倒しても、結局エネルギーが世界の中で循環してしまうことだったんだ。だから、異世界からやってきた君たちに『処理』してもらうことにした」
「処理……」
その言葉を口にして、思い当たったことに吐き気を催して私は咄嗟に口を押さえた。
モンスターを倒すと出てくる色々なアイテム。それはお弁当だったりお菓子だったり飲み物だったり――ほとんど全て、何らかの形で私たちの体に取り込まれていた。LVが上がったこともそうだ。モンスターが持っているエネルギーを、私たちは様々な方法で取り込んでいた。
「うん、正解。食べ物や飲み物の形以外にも、純粋に存在力として君たちのLVを上げている。魔物の存在力はそういうことに使われている。行動パターンにも、一定距離の中に君たちの存在があるときには最優先でそちらに向かうように、自殺プログラムのようなものを仕込んだんだ。あくまでも一定距離の中、だから魔物が絶滅するようなことはないだろう。
騎士たちが食べた分は些細な誤差の範囲だよ。文明を知っている君たちが、この世界では見たこともないような便利な物を思いついて使ってくれるのも実に楽しいね。あれで消費するエネルギーも馬鹿にならないくらいだ。うん、実にいい」
彼は私の前で満足げに笑っていた。
つまり、今のところ私たちは神の思った通りに動いているんだ。
椅子があれば戦えると信じて椅子を召喚し、子供の自由な発想でその使い道をどんどん広げ、この世界に浮いてしまっている存在力を取り込み、それを消費しながら強くなっている。
「君たちがそうして強くなって、存在に取り込まれたエネルギーごと、後で元の世界に持ち帰ってしまえば一件落着ってことさ。向こうの世界とこちらの世界ではシステムが違うから、ここで得た『強さ』は直接反映はされないしね」
「元の世界に帰れること前提、なんですよね」
帰還の道筋を突然示されて、私はその言葉に食いついていた。当然だ、これが一番知りたかったんだから。
「もちろん。僕はそのつもりでいるよ。その為には、君たちにはたくさんの魔物を倒してもらわないといけないけども」
「つまり、ノルマを達成すれば、帰してもらえると」
「そういうことだね。そもそも、君たちが元の世界に帰らないとミッションクリアにならない。LV99になるまで頑張って戦ってくれ。どれくらいの存在力を取り込んだらいいかをあらかじめ決めておいて、それに応じてLVを設定しておいたからね。君たちにとってわかりやすいように」
「LV99……」
今私たちはLV44だったはず。結構遠いなあ。
どうやったら効率的にモンスターを倒せるだろう。そういうこともできれば――。
そう私が尋ねようとしたとき、彼はふと視線を上げて微笑んだ。
「おや、もう時間切れのようだ。君の生徒たちは先生思いだね。さよなら、ミカコ。これ以上の直接的な介入は難しいから、もう会うことはないけれど」
「ちょっと待って! まだ聞きたいことが」
「最後にひとつ。君の隣にいる子に僕とのパスを繋いでおいたよ。これからはドロップ品として欲しいものがあったら、その子に言うといい」
「えっ!? 優安ちゃんに何したの!?」
パス繋いだって何よ、と私が叫んでいる内に、視界に満ちていた白い靄が急激に薄くなっていった。
まず気付いたのは、頭の痛みだった。
次に気付いたのは、固いところに寝かされている感触。
「先生、先生! 大丈夫ですか!?」
目に涙をいっぱい溜めて桂太郎くんが私を覗き込んでいる。
「えーと……?」
「ああ、ミカコさん、やっと気付いたのね。良かったわ」
レティシアさんまで少し涙ぐんでいて。何が起きたんだろう。
「何が……痛たた」
「急に動かない方がいいわ。お祈りを始めたと思ったら、急に体が傾いで床に倒れたのよ。その時に派手に頭を打って、頭を切ってしまったようなの」
「えっ!? うわっ、本当だ、血が出てる!」
痛む後頭部に手を伸ばしたら、ぬるりとした感触がした。ひえー、だから桂太郎くんが涙目だったのか。
おそらく、傷自体は桂太郎くんがすぐ治してくれたんだろうけど、出ちゃった血は仕方がないもんね。
「突然倒れたのも驚いたし、意識が戻らないから本当に心配したのよ」
レティシアさんが桂太郎くんと優安ちゃんを抱きしめてその背中を撫でてくれている。
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