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47 必殺椅子、発動
しおりを挟む私たちに向かって集まってくるモンスター、モンスター、モンスター……。
数が凄い! 倒す側からまた八門遁甲の椅子にはまっている。
その八門遁甲の椅子の中もほぼ常時煙幕に覆われてしまってるので、私から見えるのは八門遁甲の椅子に飛び込んでいくモンスターの方だ。
「ジュスタさん! 一度モンスターを遠ざけて下さい! コンテナを回収します!」
「うむ、わかった」
ジュスタさんの頷きひとつで、潮が引くようにモンスターが去って行く。残ってしまっているモンスターを片付けると、八門遁甲の椅子を消してもらって急いでコンテナを回収。
倒した数の割りにコンテナが少ないな、と私はちょっと警戒した。
中身はお弁当とデザートと飲み物。但し、お弁当の蓋を開けた私は頬を引き攣らせるしかなかった。
黒塗り二段重のお弁当箱の中身は、超絶豪華バージョンだった。
これは、さすがに私にもわかる。いや、食べたことはないけど。
フォアグラのテリーヌ、上にどっさりキャビア!
そしてフカヒレの姿煮! あと、何かのロースト! もはや私が食べても「肉だな」という事しかわからない。料理に統一性がない!
お重の下の段は、斜めに区切られていて、松茸ご飯と何かのパスタ……これは、薄切りになってる白いこれは、もしかして白トリュフって言うやつかな?
子供たちはもはや「なんだかわかんないけど美味しいー」って食べる子と、「なんだかわかんないから食べたくない……」って子に分かれていた。
私自身も「なんだかわかんないけど美味しいー」って混乱しつつ食べてしまった。
なんだろう、なんだろうね……。一品一品なら「柔らかい! 濃厚!」とか「うわー、箸でほぐれそうなのに噛むとプリプリしてるー!」とか「香りが! 凄い! 美味しいー!」とか思うのに、それが節操なくお弁当箱に詰め込まれていると、最終的には全部が戦い合って「何食べたんだっけ」みたいになってしまった。
存在力の無駄遣い……。いや、もしかしたら経験値に振れる分も限度があるのかもしれない。
「これは! おおお! 世の中にはこのような食べ物があるのか! 凄いのう、凄いのう」
一番喜んで食べてるのは、結局ジュスタさんだった……。
本来食べる必要はないけども食べることはできる、という状態だそうで、人々の間に交じって生活していた頃以来、それこそ千数百年振りの食事だったらしい。
あまりに美味しい美味しいと食べているので、「なんだかわからないから食べたくない」って及び腰だった子もちょこちょこと箸を付け始めた。
でもね、システム管理者……。
キャビアとフォアグラは、子供にいまいち不評だったよ……。多分黒毛和牛のハンバーグとかの方がウケるんだよ。
ケーキも出たけどとてもお弁当の後では食べられないので、悠真くんに大きい椅子冷蔵庫を出してもらってそこにコンテナをつっこんでおいた。
そして、食後。
珍しく険しい顔をした杏子ちゃんが私のところへやってきた。
「あのね、聖那ちゃんがへろへろだから、虫が出てこないところに行きたい」
「やっぱり? 凄いもんね」
「うん、凄いけど……可哀想だよぉ」
杏子ちゃんはやっぱり他の子よりちょっと中身がお姉さんだなあ。こういうところに気づいてくれる。元々ふたりは仲良しだから、余計気に掛けているのかもしれない。
聖那ちゃんは朝から虫に椅子を投げ続けて、お弁当を食べた後もげっそりしている。なにせ、投げる速度が半端じゃないの。他の子が1回投げる間に3回くらい投げてる。
虫が嫌いだからと逃げるタイプじゃなくて立ち向かっちゃうタイプだからわかりにくいけど、相当ストレス溜めてるんだろうなあ。
へたするとトラウマになるかもしれない。
「ジュスタさん、虫系の魔物だけ遠ざけると言うことはできませんか?」
「それは無理じゃ。妾はここに魔物が近づかないようにしているだけだからの」
「やっぱりそうですよね……」
「虫がいるとまずいことがあるのか?」
「ええ、聖那ちゃんが」
私は聖那ちゃんの虫嫌いの度合いと、現在の状況をジュスタさんに説明した。最初は普通の顔をしていたジュスタさんも、説明を聞いた後で聖那ちゃんをチラ見して、あまりのやつれっぷりに真顔になっている。
「確かに……あれは良くないのう。ふーむ。ここからさほど遠くないところに、前文明の遺跡があってな。そこならモンスターも限られておる。恐らく虫は出ないはずじゃ。行ってみてはどうじゃ?」
「遺跡! ダンジョン! 行きます!」
「ミカコよ、決してダンジョンではないぞ。単に都市の廃墟が残っておるだけじゃ」
「いえ、どっちにしろロマンですよ! 行きます!」
私はジュスタさんの提案に鼻息荒く頷いた。
この世界に冒険者がいないってがっかりしたけど、古代遺跡があるなんて!
「ところで、帰ってきたらあれを食べるのじゃろ?」
心なしかそわそわしているジュスタさんの目は、椅子冷蔵庫にしまわれているケーキの入ったコンテナに向けられていた。
「あー、はい。そうですね……遺跡に行ったら数時間で帰ってくるのは難しそうですから、遺跡に行くのは明日にします。今日のところは聖那ちゃんを中に戻して、このまま戦うことにします」
「そうか」
ジュスタさんが嬉しそうだ。その顔だけ見ていれば、外見相応の年齢に思えなくもない。
聖那ちゃんを始め、虫が辛い子には中に戻ってもらい、ガクンと落ちた戦力で私たちは午後の戦闘を開始した。
戦力は落ちたんだけど、まあ、八門遁甲の椅子にひっかかってるから、倒すのに時間が掛かるだけなんだよね。
そして友仁くんがまさかの必殺技を編み出したことで、戦闘は俄然効率的になった。
その必殺技とは――。
「椅子、召喚ッ! 貫け! スティングチェアー!」
「友仁くん、よくスティングなんて言葉知ってるね!?」
なんと、「貫通する椅子」だよ! 改めて「椅子とは」という命題を私に突きつけてくる存在だけど、もうそんなものは放棄していい。何せ強いんだから。
これを友仁くんの力で投げると、ひとつの大きな八門遁甲の椅子の中にいるモンスター全部を貫通してダメージを与えられるの! 正直凄い!
「へへへ、ママがいつも『つらぬき丸じゃなくてスティングで良かった』ってDVD見ながら言ってるから覚えた」
「ああああ、あの映画ね!」
元祖ファンタジーの超大作映画三部作。うちにも親の買ったDVDBOXがある。子供の頃はよく見たなあ。
原作も読んだけど、翻訳が古かったから正直私には合わないと思った本。でも映画は格好良くて何度も見た。
「先生、友仁くんの今の何!?」
スティングチェアーに子供たちがざわつき始める。
私は「貫く」という事の説明をしたけども、いまいちピンときていない子が多かった。
そうしたら今度は、悠真くんがやってくれた!
「ボンッ」
友仁くんみたいに力一杯力むんじゃなくて、椅子を投げた後にクールに言うところが格好いいね……。
こっちは「爆発する椅子」だよ。
爆発の原理がわかってるかどうかはわからないけど、まあ、「椅子なのに貫く」ものが発想力だけで出る世界だもの。モンスターにぶつかった瞬間に爆発が起きて、その爆風で髪の毛がぐしゃぐしゃになるほどの破壊力がある椅子ができたっておかしくない。
新たな攻撃力を持った椅子の登場で後半の討伐ペースは驚くほど上がり、その日の戦闘を終えるとLVは82まで上がっていた。
確か南の森に入る前はLV60台だったような。
やっぱり、ドラゴンとかも含めて大量に倒したから経験値が物凄く稼げてる!
もしかしたら、見えなかっただけではぐれでメタルな感じのスライムもいたかもしれないし。
そして夕方、よりどりみどりのケーキを前に子供たちとジュスタさんは目を輝かせ、「おいしいねー」と言い合いながら和やかにおやつを食べていた。
こうして見てると、だんだんジュスタさんが「女神にして魔王」というよりは「ちょっと学年上の子」に見えてくるな……。
お風呂は相変わらず椅子風呂だけど、寝る場所がベッドなだけでとても快適。
明日は探検に行くよと予告しておいたら、子供たちは目を輝かせていた。
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