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リアン③
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「動くなぁ!」
突如背後からあがった大声にピタリと私は動きを止めた。
ゆっくりと振り向くと一人の男が、修道女姿の若い娘を後ろから羽交い締めにして、短刀の刃をその白い喉元に押し付けていた。
「動くな! この女の命が惜しければ有り金全部出せ!」
「……なんだ。ただの居直り強盗か」
私はスルーして、予定通り国境検問所がある建物を目指す。
「きゃあぁぁぁ!」
修道女はわざとらしい叫び声をあげた。
「そこの貴女! 聖職者がこんな酷い目にあってるのに無視をすると地獄に落ちますわよ!」
「……」
「やーい! ペチャパイ! ブッさいく!ぽっちゃりとか思ってるかもだけど、そんなの、既にデブなのよ!」
「──やかましいっ! それが助けてもらいたい人質のセリフかぁ!」
私は力任せに妖精猫を女にぶん投げてやった。
「で? これで助けたつもりなの?」
引っ掻き傷だらけの修道女がジト目で言ったのは、小さな食堂のテラスだった。
客の数も少なく、傷だらけで流血している修道女の姿を気に止める者もいない。
「は? あの居直り強盗はここの自警団に引き渡したんだし、充分助けたでしょうが」
香り高い特産の香茶をすすりながら私は答えた。
「そんな気の荒い猫を投げつけることはなかったのではなくて?」
修道女は恨みまがしい口調で言った。
「文句の多いヤツね」
「慰謝料払いなさいよ、慰謝料!」
修道女はテーブル越しに私の襟首を掴んでカクカクと揺さぶった。
「やめなさい。もう一回、ナンシーを投げるわよ」
手を振り払い、片手でテーブルの下で昼寝していた毛玉を私はひっつかむ。
「ひやっ!」
女はのけぞって飛びのいた。
余程ナンシーの爪が痛かったとみえる。
「だいたいあんた。さっきの強盗とグルだったんでしょーが」
私は眉をひそめて言った。
「なっ、なんでそれを……」
「バレバレだっつーの。それよりあんた、仲間だって自警団に突き出されたくなかったら協力しなさいよ」
「え?」
思わず、修道女は声をあげた。
「私、今日中に隣国へ行きたいのよねぇ──」
「そりゃ無理な相談だわ。だって今は門を閉じている奇数月だもの。あと半月は待たないと隣国へは行けない──そんなこと、この国の住人なら常識じゃないの……」
修道女の目がバカにしたようにすぅっと細められた。
「だから頼んでるんじゃないの。あんた、地元民でしょ? 隣国への抜け穴まで案内しなさいよ……あるんでしょ?」
威圧的に女をギロリと睨みつけてやる。
「あることにはあるけど──わ、わかった。一応、あっちに何とかなりそうな場所ならあるわ。保証はしないけど。じゃあ──私についてきて」
私の勢いに気圧されたように席を立ち上がると修道女は、検問所とは反対側の方向を指差した。
突如背後からあがった大声にピタリと私は動きを止めた。
ゆっくりと振り向くと一人の男が、修道女姿の若い娘を後ろから羽交い締めにして、短刀の刃をその白い喉元に押し付けていた。
「動くな! この女の命が惜しければ有り金全部出せ!」
「……なんだ。ただの居直り強盗か」
私はスルーして、予定通り国境検問所がある建物を目指す。
「きゃあぁぁぁ!」
修道女はわざとらしい叫び声をあげた。
「そこの貴女! 聖職者がこんな酷い目にあってるのに無視をすると地獄に落ちますわよ!」
「……」
「やーい! ペチャパイ! ブッさいく!ぽっちゃりとか思ってるかもだけど、そんなの、既にデブなのよ!」
「──やかましいっ! それが助けてもらいたい人質のセリフかぁ!」
私は力任せに妖精猫を女にぶん投げてやった。
「で? これで助けたつもりなの?」
引っ掻き傷だらけの修道女がジト目で言ったのは、小さな食堂のテラスだった。
客の数も少なく、傷だらけで流血している修道女の姿を気に止める者もいない。
「は? あの居直り強盗はここの自警団に引き渡したんだし、充分助けたでしょうが」
香り高い特産の香茶をすすりながら私は答えた。
「そんな気の荒い猫を投げつけることはなかったのではなくて?」
修道女は恨みまがしい口調で言った。
「文句の多いヤツね」
「慰謝料払いなさいよ、慰謝料!」
修道女はテーブル越しに私の襟首を掴んでカクカクと揺さぶった。
「やめなさい。もう一回、ナンシーを投げるわよ」
手を振り払い、片手でテーブルの下で昼寝していた毛玉を私はひっつかむ。
「ひやっ!」
女はのけぞって飛びのいた。
余程ナンシーの爪が痛かったとみえる。
「だいたいあんた。さっきの強盗とグルだったんでしょーが」
私は眉をひそめて言った。
「なっ、なんでそれを……」
「バレバレだっつーの。それよりあんた、仲間だって自警団に突き出されたくなかったら協力しなさいよ」
「え?」
思わず、修道女は声をあげた。
「私、今日中に隣国へ行きたいのよねぇ──」
「そりゃ無理な相談だわ。だって今は門を閉じている奇数月だもの。あと半月は待たないと隣国へは行けない──そんなこと、この国の住人なら常識じゃないの……」
修道女の目がバカにしたようにすぅっと細められた。
「だから頼んでるんじゃないの。あんた、地元民でしょ? 隣国への抜け穴まで案内しなさいよ……あるんでしょ?」
威圧的に女をギロリと睨みつけてやる。
「あることにはあるけど──わ、わかった。一応、あっちに何とかなりそうな場所ならあるわ。保証はしないけど。じゃあ──私についてきて」
私の勢いに気圧されたように席を立ち上がると修道女は、検問所とは反対側の方向を指差した。
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