婚約破棄して国外追放されましたが、王子が追っかけてきます。

胡蝶

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ディル④

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「おやおや、これは──殿下ではありませんか」
「ズルターン……」
 わざとらしい。
 俺はチッと舌打ちして腰から剣を抜いた。

「そこをどけ!」
「エルンスト王国の切れ者の親子はなかなか隙がありませんでしたが、とんだところにアキレス腱がありましたねぇ……」
 フードの男が呆れたように呟く。

「貴様は誰だ?」
 俺の誰何には答えず、男はズルターンの背中をドンと押した。

「ほら、大臣。大罪人を王子が勝手に連れ出しましたよ。これは重大な規律違反ですねぇ──」
「あ、あぁ……そうだな」
 ズルターンは、虚ろな目で頷いた。

「貴様だな、今回の黒幕は──」
「おやおや、さすがに切れ者王子ですね」
「何が目的だ!」
 俺は一歩進むと剣を真横に一閃させた。

 黒いフードを剣先が切り裂く。
「ふふふ」
 フードの下から出てきたのは、黒い瞳に銀髪に白い肌──。

 それは山岳地帯を拠点とするケムール国に住まう人々の典型的な容姿だった。


「ケムール人が何の用だ!」
「──ちょっとこの国を貰おうかと思ってね♪」
「それがトゥーレ伯爵を痛めつけることと何の関係がある……?」
「いや。私の用があったのは娘の方だけだ。伯爵の件はその男の醜い嫉妬心が向かった結果だな……」
 ケムール人の男は肩をすくめ、ズルターンを蹴りあげた。

「ぐっ!」
 ズルターンは見えない手に押さえつけられるようにクタクタと地面に伏し、倒れこんだ。


 ……こいつ。
 何か怪しげな術を使うようだ。

 ケムール族は催眠術が得意だと聞く。
 ここのところ、ズルターンはきっとこいつに操られていたのだろう。
     
 それより聞き捨てならない言葉をこいつは吐いていた──。

「娘? リアンのことか? なぜ──ケムール人がリアンを狙う?」
「それを教える必要はない。王子──あなたにはここで死んでもらうのだから」

 ケムール人の男は、破れたフードのかなぐり捨てると、フードの下に隠し持っていたロングソードを俺に勢いよく突きだした。
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