上 下
6 / 42

1-5

しおりを挟む

「————大切な人?」

想定外の答案だった…というのも、ユウリはこぎれいな見た目のシュウが旅する理由はもう少し面白い話だと思っていたからだ。

例えば、盗賊に会って持ち物を取られたとかならば、思いっきり笑っただろうし、どんな強者にやられたのか、何されたんだと興味をそそられたに違いない。
しかし想定していたよりも何倍も真面目な回答だったがために返答に迷う。こういう場合、何を言えばいいんだ?

「……?」

口を数度パクパクすると、やっぱりいい言葉が出てこなくて口を閉じる。
冷静に見極めればわかるはずだ。

(きっと運命の人探しではないだろう。そんなずいぶん前にはやったことを今の時代にやる人は少ない、それに面倒だし、見つけ方が難しい。じゃあ、大切な人というと嫁が逃げたという説が確実では?)

さすが俺、と推理する。もし貴族だと想定すれば、こんな麗人に婚約者がいない方がおかしな話であるはずだし、あながち間違いではないだろう。

若い男女が考えることと言えばそういうことの一択だ。

この考えだすまでにかかった時間は一秒にも満たなかった。
それよりも、ユウリの頭の中は見た目に反して陽気なユウリでいっぱいで、口に出すことはしないが確実にそれだと決め込んだ。

その時、シュウが焦ったように声を出した。

「おい、適当なこと考えてるわけじゃねぇだろうな?」

「…嫁にでも逃げられたのか?」

「違う!親友を探しているんだ。」

「…嫁じゃないのか?」

「んなわけあるか、嫁だったとして、俺が逃がすわけないだろ。」

「ふーん。つまらない。」

逃がしてやらないとは、その親友はいったい何をやらかしたんだ。
ユウリは残った紅茶を飲み干した。

「それよりもどうして嫁だと思ったんだ?」

「逃げるのは嫁だろ?」

言葉に詰まるシュウを見るからに、きっと図星だったに違いない。
ここにきてようやくユウリも相手の弱みを見つけた気がして気分がすこぶるよくなった。
ますます誤魔化そうとしているシュウを見て、やっぱり嫁だったんじゃないか、と思った。笑えてくる。
目の奥で笑っているとますます余裕のある顔が崩れていく。そんなシュウに悪戯心がうずいたのは言うまでもあるまい。
「ちがう!おい、その疑いの目をやめろ!」

「ふっ…」
(まるで子供だな、それに普通に同い年だ。)

「本当に俺はヘタレじゃないから!!わかってんのか!?」

「ああ」

シュウは耳を真っ赤に染めた。それからユウリのほうをもう一度見ると、珍しいくらいの早口で話した。

「…お前今さっき、俺に対する礼を考えていただろ。お前が足を痛めている間、家事代行してやるから俺を家に置け、これが礼でいい。」

「え?」

「俺がお前の面倒見てやるって言ってんの!はいはい、もう決定事項だからな⁉」

シュウは耳を真っ赤にしたまま立ち上がると、空になったカップを持ってキッチンに隠れたのだった。

「…は?」
しおりを挟む

処理中です...