25 / 42
1-24 Side シュウ
しおりを挟む
なんだか深い眠りについているような安心感がある。
「うまい!」
大きな声に驚いて、目を開くとそれは自分の声だったらしい。目の前には少し照れたようにそっぽを向きながら視線だけ興味津々に向けるユウリがいた。
その様子に懐かしい気持ちが込み上げる。
長い間ずっと一緒にいたけれどユウリはあの時から寂しいも楽しいも口には出さなかった。それは自分に一線引いているようで、少し不服だ。シュウはアメジストの瞳を細めてその様子を見た。
———もっとユウリのそばにいたい。
ユウリはさみしい時に左耳につけているピアスを何気なく意地って、いつの間にか近くに座っていたりする。他の人が知らないであろうその癖はシュウの秘密だ。
シュウがここまでしてユウリに執着するのはまさしくシュウが探している人というのが唯一無二の半身ともいえる大切な幼馴染であるユウリのことであるほかにない。6歳で初めて出会って、何度もけんかをしたけれどそれ以上に一緒にいることが楽しくて、いつの間にか友達の枠では、親友の枠では、物足りなくなってしまった。成人したら思いを伝えて、できるなら永遠の誓いをしようと思っていた。誰にもとられたくなくて、何でもあいつの一番でありたくて、恋焦がれてきた相手だった。どんな手段でも一緒にいられることが一番の喜びだった。
まるで映像を見せられているかのような感覚にこれはまたあの時のことを見せられるのかと頭が可笑しくなりそうだ。
明確に覚えていることは、俺の人生が終わったあの日にこの世界の神の一人だという女が俺に声をかけてきたということだけで。
———突然だった。
「あなたはかわいそうな子ね。」
突然そう声をかけられた。
ユウリがいなくなってもう目の前が見えなかった。黒い霧がかかったようにはっきりしなくて感覚がなくて声が出なかった。手を握れば暖かくなるはずなのに冷え切っていて、一向に暖かくならない。ひたすら声をかけ続けているのに微動だにしない。
(——なぜ)
いきなり現れたその女は白いひらひらした服に身を包んでこちらを見ていた。
「あなたは孤独から逃れられないわ。でもわたしならあなたとここにずっといることができるわよ?どう?ここで一緒に暮らしましょう?あなたは私のお気に入りだから何でも願いをかなえてあげるわ。」
一方的に女はそういうと手を差し出してきて、手からポンポンいろいろなものを見せる。形のあるものも、幸せと呼べる概念もなんでも手の平の上だった。
シュウはボーっとしたままそれを眺めた。
どれくらいそうしていたかも明確ではなかったが、しばらくたってもどうしようもないシュウを女はずっと楽しそうに見ていてにこにこしていた。
いろんなことを話し続けていてもシュウの心は岩山のように冷たく、少しも動かされることはなかった。だから女の話すことはシュウにはどうでもよくて、一つも頭に入ってきてはいなかった。
女はそんなシュウを見て何を思ったのか、ある言葉を口にした。
「ユウリ」
———なんで。その名前を…?
なんでその言葉を今口にしたのかわからなくて、シュウは咄嗟に女に顔を向けた。
女は嬉しそうに笑う。たとえ自分とは何の関係のない男の名前だろうと、自分に関心が向けられたことに喜んだかのように一つの提案をした。その笑顔は何を考えているのかわからなくてシュウはあまり好きではなかった。
「そんなに願うならあなたを彼の元に戻してあげる。うれしい?でもあなたはまた戻ってきてね?だってあなたは——————だもの!そうね、対価はあれにしましょ?ね、いいでしょ?」
次の瞬間、あたりが真っ白に染まってシュウはいったい何が起きたのかしばらくわからなかった。何をするでもなく佇んでいると、次第に視界も安定してきて真っ白くなったのは大量の光があの一瞬であふれたからだと気づいた。しかし目を凝らしてその先を見ようとかすかに開けた隙間から見えたのは見慣れた景色だったのだ。
今さっきまで戦場と化していた土地が戦争なんてなかったみたいに元通りで、ここがエイデン領の中心街だと気づいた。さっきまでの出来事が夢でも見ていたみたいに遠い時間に感じた。
「…っはは。何だ夢だったのか」
無性に笑いが込み上げてきて、絶望を感じていたのがうそみたいだ。
それでも、あれが事実だったのかもしれないと思うと夢の中の女が「ユウリの元へ戻してくれる」といったことに頭の中はすぐに支配された。
だから無我夢中で走って、ユウリを探す。だからいつもだったら街中で声をかけてくれるものが無反応でシュウの横を通り過ぎていることに全く違和感もなかった。
ユウリの家に着くとそこにはいつもと変わらない様子のユウリがいて安堵する。
大きな声で叫んで手を伸ばして、そこで異変に気付く。
『お前は誰だ?俺の知り合いか?』
ユウリは何も覚えていなかった。幼いころにたくさんケンカしたことも、一緒に悪戯したことも、くだらないことで笑ったことも、一緒に出掛けた話も、全部全部記憶になくてシュウを知らない人だといった。
シュウの頭は一気に真っ白になった。親愛なる相棒が自分のことを覚えていないというのか。周りの音が一気に遠くなって、ユウリも何か話しているけど聞こえなくて。
シュウは何の冗談かと思った。もしかしたら、出会う前の時間に戻ってしまったのかと考えたけれど、手足は出会った当時のサイズではなく、十分大人に近づいているものでこの時の年頃ならば、出会ってから何年かは経過していたはずだった。
———それから何度も何度も同じような体験を繰り返した。
初めは、タイムループによって出た影響だと思いしばらくたったら治るだろうと思っていた。でも一向に思い出す気配はなくて何度も繰り返す記憶の中で、やっと気づいた。
ああ、そうだったのかと。
なんて都合のいいように考えていたんだろう。自分が心から望んだ人と代償もなしにそう簡単に再会できるなんて、あるわけないのに。
死んだユウリの両親は帰ってこなかった。幼いころにパンを分けてくれたおばちゃんも、いつも変な夢を見たと話してくれる面白いお爺さんもみんな死んだら帰ってくることはなかったというのに。
あの時のユウリはもういない。一緒にいたときの記憶を全部あの時間において来てしまったのだろうか。
これがユウリに会いたいがために支払った対価だったのだと悟った。ユウリに会いたいのは自分なのに、どうして自分ではなくてユウリからその記憶を抜いてしまったのかと。そして誰一人として自分を覚えていないのだから、この世界にまるで取り残されてしまったかのようだ。
自分はユウリとの思い出を犠牲にしてしまったのだ。
「うまい!」
大きな声に驚いて、目を開くとそれは自分の声だったらしい。目の前には少し照れたようにそっぽを向きながら視線だけ興味津々に向けるユウリがいた。
その様子に懐かしい気持ちが込み上げる。
長い間ずっと一緒にいたけれどユウリはあの時から寂しいも楽しいも口には出さなかった。それは自分に一線引いているようで、少し不服だ。シュウはアメジストの瞳を細めてその様子を見た。
———もっとユウリのそばにいたい。
ユウリはさみしい時に左耳につけているピアスを何気なく意地って、いつの間にか近くに座っていたりする。他の人が知らないであろうその癖はシュウの秘密だ。
シュウがここまでしてユウリに執着するのはまさしくシュウが探している人というのが唯一無二の半身ともいえる大切な幼馴染であるユウリのことであるほかにない。6歳で初めて出会って、何度もけんかをしたけれどそれ以上に一緒にいることが楽しくて、いつの間にか友達の枠では、親友の枠では、物足りなくなってしまった。成人したら思いを伝えて、できるなら永遠の誓いをしようと思っていた。誰にもとられたくなくて、何でもあいつの一番でありたくて、恋焦がれてきた相手だった。どんな手段でも一緒にいられることが一番の喜びだった。
まるで映像を見せられているかのような感覚にこれはまたあの時のことを見せられるのかと頭が可笑しくなりそうだ。
明確に覚えていることは、俺の人生が終わったあの日にこの世界の神の一人だという女が俺に声をかけてきたということだけで。
———突然だった。
「あなたはかわいそうな子ね。」
突然そう声をかけられた。
ユウリがいなくなってもう目の前が見えなかった。黒い霧がかかったようにはっきりしなくて感覚がなくて声が出なかった。手を握れば暖かくなるはずなのに冷え切っていて、一向に暖かくならない。ひたすら声をかけ続けているのに微動だにしない。
(——なぜ)
いきなり現れたその女は白いひらひらした服に身を包んでこちらを見ていた。
「あなたは孤独から逃れられないわ。でもわたしならあなたとここにずっといることができるわよ?どう?ここで一緒に暮らしましょう?あなたは私のお気に入りだから何でも願いをかなえてあげるわ。」
一方的に女はそういうと手を差し出してきて、手からポンポンいろいろなものを見せる。形のあるものも、幸せと呼べる概念もなんでも手の平の上だった。
シュウはボーっとしたままそれを眺めた。
どれくらいそうしていたかも明確ではなかったが、しばらくたってもどうしようもないシュウを女はずっと楽しそうに見ていてにこにこしていた。
いろんなことを話し続けていてもシュウの心は岩山のように冷たく、少しも動かされることはなかった。だから女の話すことはシュウにはどうでもよくて、一つも頭に入ってきてはいなかった。
女はそんなシュウを見て何を思ったのか、ある言葉を口にした。
「ユウリ」
———なんで。その名前を…?
なんでその言葉を今口にしたのかわからなくて、シュウは咄嗟に女に顔を向けた。
女は嬉しそうに笑う。たとえ自分とは何の関係のない男の名前だろうと、自分に関心が向けられたことに喜んだかのように一つの提案をした。その笑顔は何を考えているのかわからなくてシュウはあまり好きではなかった。
「そんなに願うならあなたを彼の元に戻してあげる。うれしい?でもあなたはまた戻ってきてね?だってあなたは——————だもの!そうね、対価はあれにしましょ?ね、いいでしょ?」
次の瞬間、あたりが真っ白に染まってシュウはいったい何が起きたのかしばらくわからなかった。何をするでもなく佇んでいると、次第に視界も安定してきて真っ白くなったのは大量の光があの一瞬であふれたからだと気づいた。しかし目を凝らしてその先を見ようとかすかに開けた隙間から見えたのは見慣れた景色だったのだ。
今さっきまで戦場と化していた土地が戦争なんてなかったみたいに元通りで、ここがエイデン領の中心街だと気づいた。さっきまでの出来事が夢でも見ていたみたいに遠い時間に感じた。
「…っはは。何だ夢だったのか」
無性に笑いが込み上げてきて、絶望を感じていたのがうそみたいだ。
それでも、あれが事実だったのかもしれないと思うと夢の中の女が「ユウリの元へ戻してくれる」といったことに頭の中はすぐに支配された。
だから無我夢中で走って、ユウリを探す。だからいつもだったら街中で声をかけてくれるものが無反応でシュウの横を通り過ぎていることに全く違和感もなかった。
ユウリの家に着くとそこにはいつもと変わらない様子のユウリがいて安堵する。
大きな声で叫んで手を伸ばして、そこで異変に気付く。
『お前は誰だ?俺の知り合いか?』
ユウリは何も覚えていなかった。幼いころにたくさんケンカしたことも、一緒に悪戯したことも、くだらないことで笑ったことも、一緒に出掛けた話も、全部全部記憶になくてシュウを知らない人だといった。
シュウの頭は一気に真っ白になった。親愛なる相棒が自分のことを覚えていないというのか。周りの音が一気に遠くなって、ユウリも何か話しているけど聞こえなくて。
シュウは何の冗談かと思った。もしかしたら、出会う前の時間に戻ってしまったのかと考えたけれど、手足は出会った当時のサイズではなく、十分大人に近づいているものでこの時の年頃ならば、出会ってから何年かは経過していたはずだった。
———それから何度も何度も同じような体験を繰り返した。
初めは、タイムループによって出た影響だと思いしばらくたったら治るだろうと思っていた。でも一向に思い出す気配はなくて何度も繰り返す記憶の中で、やっと気づいた。
ああ、そうだったのかと。
なんて都合のいいように考えていたんだろう。自分が心から望んだ人と代償もなしにそう簡単に再会できるなんて、あるわけないのに。
死んだユウリの両親は帰ってこなかった。幼いころにパンを分けてくれたおばちゃんも、いつも変な夢を見たと話してくれる面白いお爺さんもみんな死んだら帰ってくることはなかったというのに。
あの時のユウリはもういない。一緒にいたときの記憶を全部あの時間において来てしまったのだろうか。
これがユウリに会いたいがために支払った対価だったのだと悟った。ユウリに会いたいのは自分なのに、どうして自分ではなくてユウリからその記憶を抜いてしまったのかと。そして誰一人として自分を覚えていないのだから、この世界にまるで取り残されてしまったかのようだ。
自分はユウリとの思い出を犠牲にしてしまったのだ。
0
あなたにおすすめの小説
番を拒み続けるΩと、執着を隠しきれないαが同じ学園で再会したら逃げ場がなくなった話 ――優等生αの過保護な束縛は恋か支配か
雪兎
BL
第二性が存在する世界。
Ωであることを隠し、平穏な学園生活を送ろうと決めていた転校生・湊。
しかし入学初日、彼の前に現れたのは――
幼い頃に「番になろう」と言ってきた幼馴染のα・蓮だった。
成績優秀、容姿端麗、生徒から絶大な信頼を集める完璧なα。
だが湊だけが知っている。
彼が異常なほど執着深いことを。
「大丈夫、全部管理してあげる」
「君が困らないようにしてるだけだよ」
座席、時間割、交友関係、体調管理。
いつの間にか整えられていく環境。
逃げ場のない距離。
番を拒みたいΩと、手放す気のないα。
これは保護か、それとも束縛か。
閉じた学園の中で、二人の関係は静かに歪み始める――。
氷の婚約者様に破談を申し出たら号泣された
楽矢
BL
目が覚めると、レースの牢獄のような天蓋付きベッドの上だった。
何も覚えていない出来損ない下級貴族ミラ。無能だクズだと冷酷な罵詈雑言を浴びせてくる氷の騎士セティアス。
記憶喪失から始まる、2人のファンタジー貴族ラブコメディ。
----------
※注)
かっこいい攻はいません。
タイトル通りそのうち号泣しますのでご注意!
貴族描写は緩い目で雰囲気だけお読みいただけると幸いです。
ハッピーエンドです。
激重感情をこじらせた攻→受な関係がお好きな同志の方、どうぞよろしくお願いします!
全16話 完結済み/現在毎日更新予定
他サイトにも同作品を投稿しています。
様子を見ながらそのうち統合するかもしれません。
初めての一次創作でまだよく分かっておらず、何かおかしなことをしでかしていたら申し訳ないです!
愛してやまなかった婚約者は俺に興味がない
了承
BL
卒業パーティー。
皇子は婚約者に破棄を告げ、左腕には新しい恋人を抱いていた。
青年はただ微笑み、一枚の紙を手渡す。
皇子が目を向けた、その瞬間——。
「この瞬間だと思った。」
すべてを愛で終わらせた、沈黙の恋の物語。
IFストーリーあり
誤字あれば報告お願いします!
分厚いメガネ令息の非日常
餅粉
BL
「こいつは俺の女だ。手を出したらどうなるかわかるよな」
「シノ様……素敵!」
おかしい。おかしすぎる!恥ずかしくないのか?高位貴族が平民の女学生に俺の女ってしかもお前は婚約者いるだろうが!!
その女学生の周りにはお慕いしているであろう貴族数名が立っていた。
「ジュリーが一番素敵だよ」
「そうだよ!ジュリーが一番可愛いし美人だし素敵だよ!!」
「……うん。ジュリーの方が…素敵」
ほんと何この状況、怖い!怖いすぎるぞ!あと妙にキモい
「先輩、私もおかしいと思います」
「だよな!」
これは真面目に学生生活を送ろうとする俺の日常のお話
※長くなりそうでしたら長編へ変更します。
虚ろな檻と翡翠の魔石
篠雨
BL
「本来の寿命まで、悪役の身体に入ってやり過ごしてよ」
不慮の事故で死んだ僕は、いい加減な神様の身勝手な都合により、異世界の悪役・レリルの器へ転生させられてしまう。
待っていたのは、一生を塔で過ごし、魔力を搾取され続ける孤独な日々。だが、僕を管理する強面の辺境伯・ヨハンが運んでくる薪や食事、そして不器用な優しさが、凍てついた僕の心を次第に溶かしていく。
しかし、穏やかな時間は長くは続かない。魔力を捧げるたびに脳内に流れ込む本物のレリルの記憶と領地を襲う未曾有の魔物の群れ。
「僕が、この場所と彼を守る方法はこれしかない」
記憶に翻弄され頭は混乱する中、魔石化するという残酷な決断を下そうとするが――。
ヒーロー組織のサポートメンバーになりました!
はちのす
BL
朝起きたら、街はゾンビだらけ!生き残りたい俺は、敵に立ち向かうヒーロー組織<ビジランテ>に出逢った。
********
癖の強いヒーロー達の"心と胃の拠り所"になるストーリー!
※ちょっとイチャつきます。
【完結】20年後の真実
ゴールデンフィッシュメダル
恋愛
公爵令息のマリウスがが婚約者タチアナに婚約破棄を言い渡した。
マリウスは子爵令嬢のゾフィーとの恋に溺れ、婚約者を蔑ろにしていた。
それから20年。
マリウスはゾフィーと結婚し、タチアナは伯爵夫人となっていた。
そして、娘の恋愛を機にマリウスは婚約破棄騒動の真実を知る。
おじさんが昔を思い出しながらもだもだするだけのお話です。
全4話書き上げ済み。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる