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第一章・美麺を制する者、世界を制す
白面金毛九尾の狐の復活
しおりを挟むその頃………。
堂園想がいた日本のある地方で、大がかりな葬式が行われていた。
田舎の豪華な和風の屋敷で、白と黒の垂れ幕が下がっている。
「両親が突然交通事故で…」
「それは…」
葬式の列に並ぶ、いかにも金持ちそうな客達が喋っている。みな、喪服を着ていた。
「でも、遺産100億円でしょ?生きていけるじゃない」
「いや…でもお金だけあれば、幸せって訳でもないでしょう……」
客達は、様々な事を勝手に喋っている。
「………」
屋敷の奥で、両親の写真を抱きながら、久山湊は正座していたが………。
「ああっ、くそ!!」
急に怒鳴り散らすように写真立てを投げつけて、部屋を飛び出した。
「おぼっちゃま!!どこに行かれるのですか!?」
上品な女中が止めるのも聞かず、走っていく………。
□
少年は自暴自棄になりながら、街を彷徨っていたが、やがてお腹が減ったのか、コンビニに入った。
「ふう……」
久山少年が買ったもの、それはマルちゃんのあかいきつねであった。
少年はそれを細い腕に抱きながら、とぼとばと夜道を歩く。
少年は13歳くらいであった。なかなか利発そうな顔をしている。
このか弱い少年が、まさか遺産100億円の持ち主であるとは考えも及ばない人々は、不思議そうに少年を一瞥するが、またすぐに自分の日常へと戻っていった。
「もうなにもいらない…この世界とは別の世界に行きたい……」
少年はぶつぶついいながら、ひとり、ネットカフェに入った。
□
ネットカフェのパソコンで、久川湊は暇つぶしをしていたが、やがてあるオンラインゲームにたどり着いた。
なぜなのかはわからない。しかし妙な謎めいた吸引力が、いつの間にか少年をネットの迷宮に誘っていた。
たまたま暇つぶしに読んでいた広告バナーをクリックし、少年はオンラインゲーム「スーパーソニック・ブレイド」の世界に入った。
(ああ………!!もうやけくそだ!!)
全てを失った少年には何もなかった。
ただ、自分を必要としてくれる人が欲しかった。
とにかく、自分を必要としてくれる人。
そう、それは例えば家族のような………。
(誰か……俺を守ってくれ………!!俺の悲痛をわかってくれ……!!)
そう、それは例えば………。
「信仰心のような?」
ぎょっとした。
なんと、狭いネットカフェの密室の中に突如、派手すぎるくらい華美な奇妙奇天烈な少女が現れたのだ。
パールのような白い髪。
金と銀のオッドアイ。
「お、お前は誰だ……!!」
「よいしょ」
少女はマウスをクリックした。
「あ」
なんと、いつの間にかそこには、「課金完了」の文字が踊っている。
「契約、成立しましたーーー♪」
少女は不気味ににっこりと笑った。
□
その頃。
東のビャンコのある辺境の街で、無垢なる少女が祈りを唱えていた。
教会はボロボロで、どうやら廃墟のようだ。なにか秘密めいた印象があった。
「神様、どうかこの国を悪しき吸血鬼の脅威から助けてください………」
その少女は、黒い修道女の格好をしていた。
シスター服の被り物から紫色の髪がみえる。
「聖女、クリスティナ様のご祈祷であるぞ」
騎士姿の少女が、信者達をなだめている。
「はは~」
「クリスティナ様………」
敬虔な貧しい服装の信者達は、次々と頭を垂れた。
クリスティナは紫色の髪に金色の目を持った、6歳くらいの少女であった。
まだ年端もいかぬ少女だが、その全身からは高貴で上品な趣きが感じられる。
「どうか、我らが金毛九尾の神、金扇様、お目覚めくださいませ………」
幼女は頑なに祈りを続けた。
すると、突然、教会の扉が開いた。
「魔女クリスティナ!!異端の罪で逮捕する!!」
現れたのは、スピルナ教の聖騎士達だった。
十字の赤い旗を掲げ、剣と槍を持っている。
「きゃあ!!」
その脅威に、信者達があちらこちらに逃げる。
「クリスティナ!覚悟しろ!!」
聖騎士達が槍をクリスティナに向かって構えた。
その時。
『待たれよ』
不思議な声がした。
そう。
いま、この世界に。
再び、ひとりの美少女が目覚めたのだ。
突然、眩い光が辺りを包み込んだ。
「なぬ!?」
聖騎士らの動きが止まる。
ふわり。
少女・クリスティナの体が浮かんだ。
「………あ」
幼いクリスティナを細い腕が抱きしめる。
その美少女は、年は、10歳くらいであろう。
真っ黒な髪は烏のように艷やかであった。
それを、整えられたおかっぱ頭にしている。
蒼い瞳はきらきらと輝いていた。
チョコレートのような褐色の肌は、うるおっている。
つり目がちな少女は、ミニ丈の……喪服を着ていた。
「おお……」
「奇跡だ………」
信者達がざわめく。
「これでも、クリスティナを聖女と認めぬつもりかのう」
僕は…久山湊は、そこに立っていた。
いや、もう、久山湊じゃない。
そのかつて『僕』であった少女は、クリスティナを抱きしめて歩き出す。
荘厳なる聖騎士達が次々と跪く。
彼女の後光からは、眩い光が指していた。
その黄金の光は、九つの尾の輝きであった。
狐のお面を左斜めに被り、アンニュイな雰囲気を醸し出す少女の頭の上には、黄金に輝く九尾の耳。
「迷える子羊に、主の導きを」
「金扇様ーーーーーッ!!」
「金扇様がご出現なさったぞ!!」
エウセビオ教異端派の信者達がざわめく。
感涙の涙でおんぼろな教会内の体温が上昇する。
「やはり、クリスティナ様は聖女だった!!」
「愚王・エウセビオに正義の鉄槌を!!」
信者達が熱気に晒されるなか、僕は内心がちがちに震えながら、少女を下ろした。
「金扇様……!!我々に救いの手を……」
クリスティナが祈る。
「うむ。それよりも……」
金扇はにっこりと笑った。
「そろそろラーメンよりも、きつねが喰べたい時期じゃのう」
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