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第二章 交差する想い
11 エステルの決意 Ⅱ
しおりを挟む「ああ長い時間待たせてしまったね」
「いえ、これも仕事ですので……それよりもお嬢様は――――っっ!?」
あれから約二時間経った頃に、エステルのいる応接間へパーシヴァルは戻って来た。
パーシヴァルの表情からはほんの少し疲労の色が見える様な気もしたが、今は目の前の彼の事よりも彼女の主であるアイリーンの身に現段階で起こっている諸々の事情を突きつめる事の方が最優先である。
だからエステルは背筋をぴんと伸ばし、表情をぎゅっと引き締め、やや強い口調でパーシヴァルへと問い掛ける。
でも本来ならば決してそれは許されない行動。
幾らアイリーンを通しての昔馴染みだからとしても所詮は高位貴族と伯爵家の侍女。
エステルは騎子爵家の娘であり、厳密に言えば貴族の端くれ。
でもだからこそである。
ほんの少しでも貴族というものを理解しているからこそっ、侯爵家、然も次期当主たるパーシヴァルへ、一介の伯爵家の侍女に過ぎないエステルから先に問い掛ける行為は決して許されるものではなく、また不敬と問われるだけならばまだいい。
下手をすればそのまま無礼打ちとなろうが、侍女であるエステルからは文句一つさえ言う事を許されないだろう。
それだけ身分には兎角厳しい世界なのである。
だがエステルは敢えてその危険を冒してまで、尚もパーシヴァルへ問い掛ける。
それは自身の命よりもただ偏にアイリーンを大切だと思うからこその行動であった。
「パーシヴァル様、現在お嬢様はどの様な状態でいらっしゃるのですか。それからその……ま、誠に差し出がましい事と十分理解して居りますが、その、お嬢様はもしかしなくても……」
「エステル、それは先程手配した侯爵家専属の医師の診断を待とうか。そうだね、全てを話すのはそれからでも遅くないと僕は思うよ」
「は、はいですが……!?」
「大丈夫。今迄は秘密にしてきた事も今日を境に全てを君へ打ち明けよう。それに君は知っていたのだろう。幼い頃より僕が彼女を心から愛している事を……ね」
「はい、それは存じておりました――――いえ、アイリーンお嬢様を通してパーシヴァル様とシリル様を見ていれば自ずとわかりますわ。お二人がどれ程お嬢様を愛しんでいらしたのかを……」
「ふふ、参ったね。これでも僕は必死に隠してきたのだけれどね。だから少なくとも今もアイリーンとシリルには気付かれてはいない」
「ですが――――っっ!?」
コンコンコン
「どうしたの」
「失礼致しますパーシヴァル様。ジェンキンス先生が参られました」
ノックと共に入って来たのはカーク侯爵家の執事だった。
「わかった、先生を寝室へ案内してくれるかい。流石に女性の診察に僕は立ち会えないからね。診察後先生にはご足労を掛けるが、この部屋へ来て貰えるようにしてくれるかな」
「わかりました。ではその様にお伝えいたします」
「うん、頼んだよ」
そう言って執事は静かに部屋を辞した。
ジェンキンス医師が二人のいる応接間へとやって来たのは、それから約一時間くらい経ってからの事である。
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