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第三章 たどり着く先は……
3 愛は一途に……
しおりを挟む「落ち着いたら僕達はカーク領へ旅立つよ」
パーシヴァルはシリルに向かって満面の笑みでそう告げた。
「そうか、寂しく……なるな」
「何を落ち込んでいるの。シリル、今君は僕達よりももっと向き合わなければいけない事がある筈だよ」
「え、あぁだがしかし……」
「はぁ、これだけは言っておくよ。君に、多分君達に残された時間は後僅かだ」
「な、何をまさか……っっ!?」
パーシヴァルの言葉に対し、シリルは俄かに動揺露わにしたのだが――――。
「誤解をしてはいけないよ。王女殿下はどちらにも嫁がれる予定はない……いや、もう嫁ぐ事が出来ないと言う方が正しい」
「それはどういう……っっ!?」
パーシヴァルより発せられた言葉に、シリルは口の中と言わず全身の水分が一気にカラカラになるくらい干上がる様な感覚へと襲われる。
「漏れ聞くところによるとベルセフォーネ様は……もう長くはないらしい」
「おいっ、一体どういう!!」
「シリル落ち着いて、これはあくまでも極秘情報なのだからね。王宮内、王室のプライベートエリアにはもう以前から厳しい緘口令が敷かれている。そしてこの事実を知っているのは王族方と宰相である伯父上や魔法師長等上層部のみ。それ以外の貴族は皆一切知らされてはいない」
「おい、一体王女の病は――――」
「魔力暴走症。君も名前くらいは知っているよね」
「そ、そんな……そんな事ってっっ!?」
魔力暴走症。
その名の通り強大な魔力が体内で急激に増幅されると共に保持する事が出来ずに暴走し、小規模な暴発を繰り返すがやがて逃げ場のない魔力は最期に大爆発を起こす。
この世界でも奇病難病の類いとして広く認知されている。
そして一度その病に罹れば治癒する見込みがないと言う事も……。
「王女が発病されたのは今より三年前。まだ14歳になったばかりの頃より毎日死の影に脅かされていたらしいのだが、少し前にとても大きな発作を起こされてね、もう医師より治療は望めないと本人にも告げられているらしい。うん丁度君が婚約を破棄された頃……かな」
「それって今より……二ヶ月も前じゃないか。なのに、なのに俺は王女へたった一度として向き合わなかった!?」
その大き過ぎる事実にシリルは愕然とするしかなかった。
まだたった17歳。
然も婚約を交わした頃は15歳になる前だった筈。
幼い王女に俺は一体、俺はなんという子供じみた行動に出てしまったのだろうかっっ。
たった一人で病や死と必死になって向き合っていた王女に対しっ、俺は望んでもいない婚約等認めない!!
婚約等嫌だと子供みたいに散々駄々をこね、挙句の果ては敵前逃亡をし、アイリーンや王女とも一切向き合わなかった卑怯者だ!!
あの時……本来ならば断罪を言い渡されても当然だったのにも拘らず、病を患っていながらも王女は俺と部下を助けてくれた恩人である事も棚に上げ、遠征先では妖精族のベルへ馬鹿の一つ覚えの様に愚痴を零し――――妖精族のベル……ベル!?
王女の名前は確かベルセフォーネ。
陛下や王太子殿下は確か……ベルと呼んで……いた?
いやいやまさかそれはないだろう。
幾らなんでも――――。
「シリル、これは知っているかな」
「何をだ、今考え事を」
「まあまあいいから」
「いいからっておい……」
「ベルセフォーネ様は何故皆より氷姫と呼ばれているのか知っているかい?」
「今更何を、それは王女の美し過ぎる容姿と――――」
「やっぱり、君も真実を知らないのだね」
「何が真実だと……」
「王女の生まれ持った魔法量は陛下と同等なのだよ。それでいて得意分野は氷属性」
「それで氷姫と?」
「本当に君は剣以外では全く駄目駄目だね。いいかい、王女は常にこの国を護る為の防御結界を張っておられるのだよ。そして魔法の塔の天辺より何時も国を護らんとする者達への援護をしておられたらしい。君は知っていた?」
「いや、援護攻撃は確か……にあった。然も強力な氷系魔法……で、俺は何度もその攻撃魔法で助けられ――――っっ!?」
「もう言わなくてもわかるよね。王女様が何を一番に護りたかったのか……をね。何時君の事を好きになったのかはわからないけれど、確かに婚約を強要したのは否めないけれども、それでもその婚約でさえも君を助ける為のモノからだとしたら? 君が完全に王女様を拒否しようと彼女は何も、傍近くで仕える者、ましてや父王陛下や王太子殿下でさえも一切を不問に伏す様に願い出ていたそうだよ。非は全てに自分にあると言ってね」
「もういいっっ!! だが何故っ、どうしてこんな俺の事をそんなにしてまでっっ!?」
頭を抱え咽び泣くシリルへ、パーシヴァルはたった一言……言葉を発した。
「それは――――愛しているからだよ」
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