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第三章 たどり着く先は……
7 王女ベルセフォーネ ベルSide Ⅱ
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魔力暴走症とは、体内で蓄積される魔力が器である身体の許容範囲を超え、幾ら魔力を放出しても際限なく増大されてしまう魔力により死に至る恐ろしい病。
ああでも正確には一択ではなく、二択あるわね。
一つは最初述べた様に増大された魔力がそのまま身体の中心へ、そう心の臓へ集中した場合――――心の臓を中心に暴走した魔力は破裂する。
万が一その時を迎えるまでに病魔に侵された者へ適切な防御結界を施されなければ、その増大された魔法量が恐ろしい力となり、本人だけでなく人も物も関係なく周囲を巻き込み大爆発を起こす。
そして爆発の中心であろう本人の身体は、一瞬にて塵と化す。
所謂死と同一と言うか、死――――そのものよね。
次に二つ目の場合、今度は脳へと集中した時ね。
こちらに関しては周囲への被害はないし、器である身体もそのままの形を維持をするわ。
だけど暴走した魔力は確実に脳を攻撃し、脳は自身を守る為に初期化――――を選択する。
つまり身体は変わらぬままだけれど、その者の心と言うかはっきり言って自我の崩壊。
持って生まれた能力は残されるだろうけれども、命と引き換えに一切の記憶が消去されるわ。
それは普通の死ではないけれども、皆は『記憶の死』と呼ぶ。
何故なら今迄共に暮らしていた親や兄弟、それまで構築された人間関係等記憶の一切を失うから……。
本人は誰も何もわからない恐怖と闘いながら、周りはどう対応する事も出来ない。
そうね、譬えば初期化する前に抱いていただろう恋する気持ちや何もかもその一瞬で失ってしまうの。
それはある意味身体を失う死よりも辛く怖いものかもしれない。
運が良ければまた新たに良好な関係を築ける可能性があるのかもしれない。
でも多くは記憶の死と共に人間不信となり、自我が崩壊したまま天空の庭で暮らし、そうして寿命を全うするの。
天空の庭と言うのは簡単に言えば夢想世界とでも言うのかしら。
現実世界には決して存在しない夢の世界、心を失った者達が彷徨う世界の事を言うわ。
初期化された多くの者達は、肉体が朽ち果てるまで精神だけが天空の庭を当てもなく彷徨うの。
とても辛くて悲しい現実。
そう、以前講師達より昔座卓で教えを乞うた時、余りの悲しさに幼い私は我が事の様に泣いてしまったわ。
ある意味とても辛い人生。
周りの人達がどんなにその人の事を想っていたとしても、決してその人には、その心には永遠に届かない。
そして誰も報われる事はない。
時にはあまりに報われないが故、悲しみの余り恋人だった者にその命を絶たれてしまう事もあるとか。
でも今はその悲しい事件を顧みて、天空の庭へ旅立った者達を保護する目的も含めて魔力暴走症の患者達は、郊外にある施設へと入る事になっている。
そこでは魔力暴走症の研究は勿論の事、病に侵された者達の看護もしっかりと行われる。
だから看護に疲れ、思い詰めた先に命を絶たれる心配はない。
えぇ勿論命を脅かす者はいないけれども、だからと言ってそれが幸せなのかはわからない。
それこそ本人のみぞ知る……よね。
また病気の症状と進行はかなり個人差があるわ。
症状と言っても初期の頃は溢れた魔力が身体を突き破り、噴き出される鮮血と共に魔力を放出する。
そうする事で少しでも体内で蓄積された膨大な魔力を強制的に放出出来るの。
一種の小さな爆発みたいなものね。
ただし突き破る個所は何も一つだけとは限らない。
確実な数はわからないけれども、最大は今まで調べた中では一度に20か所より噴き出したらしいわ。
そう、その突き破る個所とほぼ同時に、身体の至る場所より血と魔力が噴き出すの。
でもね魔力は尽きる事がないけれども、血液量は普通のそれと何ら変わりはない。
だからその為過去に何人か、魔力が暴走する前に体内にある血液が枯渇し、そのまま失血死へと至った事例もある。
そうして末期へと進行が進む頃には、溢れる魔力に器である身体の負担が大きく反比例と化し、身体は徐々に衰弱し、日々の食事も思う様に摂れず、やがて眠りの中へと引き込まれるの。
それを何回か繰り返し完全な昏睡状態となれば、最期のカウントダウンが開始される。
でもそのカウントダウンは誰にもわからない。
誰にも知られる事なく密やかに、そして確実に時を刻み始める。
そう、最期の瞬間まで心の蔵かはたまた脳なのかの選択も、実際に起こるまで誰にもわからない。
この世界で最も辛く悲しい最悪な難病。
その難病にまさか私が侵されるなんて、然も私は何と言ってもまだ14歳!!
幾つもの検査が行われた結果、沈痛な面持ちで侍医達に告げられた瞬間――――。
父である国王は余りの悲しみと怒りで城内にある広大な森を、氷炎の魔王宜しくと言う具合に、2/3を一瞬にして焼失させてしまった。
母である王妃は豪胆な性格で知られているにも関わらず、生まれて初めてだったのでしょうね。
あまりにも大きなショックと悲しみとで一週間程寝込んでしまわれたけれども、持ち前の気力で見事不死鳥の様に復活され、お母様お気に入りの森を焼失させたとお知りになられた瞬間、お父様へ思いっきり怒りを爆発させていたわね。
そして王太子である兄様は、誰よりも深く傷ついたお顔をなさっているのに、一番傷ついているのが私だと知っていらして、今迄見た事もないくらい悲しくてお辛い表情で、だけどとても優しげな笑みを湛えたままそっと私を兄様の許へと引き寄せ、真綿で包み込むように優しく抱きしめ――――。
「何がどうあっても私達はお前を愛しているし、決して離しはしないよベル。何が起こっても私達はベルの家族だから……っっ」
「――――っつぅ、ん、は、はい、は……い兄……様っっ。そしてごめんなさいっ、病気になってごめんなさ……いっっ」
私は兄様の温かくて優しい腕の中で、赤子の様に大きな声をあげ、王女と言う身分も何もかも忘れて涙が枯れるまで泣いていた。
そうして病名を聞いても最初は何処か他人事の様だったのに、優しく兄様に抱きしめられ、思いっきり泣いた事により、初めて私自身が死を受け入れなければいけないのだと自覚した瞬間だったわ。
ああでも正確には一択ではなく、二択あるわね。
一つは最初述べた様に増大された魔力がそのまま身体の中心へ、そう心の臓へ集中した場合――――心の臓を中心に暴走した魔力は破裂する。
万が一その時を迎えるまでに病魔に侵された者へ適切な防御結界を施されなければ、その増大された魔法量が恐ろしい力となり、本人だけでなく人も物も関係なく周囲を巻き込み大爆発を起こす。
そして爆発の中心であろう本人の身体は、一瞬にて塵と化す。
所謂死と同一と言うか、死――――そのものよね。
次に二つ目の場合、今度は脳へと集中した時ね。
こちらに関しては周囲への被害はないし、器である身体もそのままの形を維持をするわ。
だけど暴走した魔力は確実に脳を攻撃し、脳は自身を守る為に初期化――――を選択する。
つまり身体は変わらぬままだけれど、その者の心と言うかはっきり言って自我の崩壊。
持って生まれた能力は残されるだろうけれども、命と引き換えに一切の記憶が消去されるわ。
それは普通の死ではないけれども、皆は『記憶の死』と呼ぶ。
何故なら今迄共に暮らしていた親や兄弟、それまで構築された人間関係等記憶の一切を失うから……。
本人は誰も何もわからない恐怖と闘いながら、周りはどう対応する事も出来ない。
そうね、譬えば初期化する前に抱いていただろう恋する気持ちや何もかもその一瞬で失ってしまうの。
それはある意味身体を失う死よりも辛く怖いものかもしれない。
運が良ければまた新たに良好な関係を築ける可能性があるのかもしれない。
でも多くは記憶の死と共に人間不信となり、自我が崩壊したまま天空の庭で暮らし、そうして寿命を全うするの。
天空の庭と言うのは簡単に言えば夢想世界とでも言うのかしら。
現実世界には決して存在しない夢の世界、心を失った者達が彷徨う世界の事を言うわ。
初期化された多くの者達は、肉体が朽ち果てるまで精神だけが天空の庭を当てもなく彷徨うの。
とても辛くて悲しい現実。
そう、以前講師達より昔座卓で教えを乞うた時、余りの悲しさに幼い私は我が事の様に泣いてしまったわ。
ある意味とても辛い人生。
周りの人達がどんなにその人の事を想っていたとしても、決してその人には、その心には永遠に届かない。
そして誰も報われる事はない。
時にはあまりに報われないが故、悲しみの余り恋人だった者にその命を絶たれてしまう事もあるとか。
でも今はその悲しい事件を顧みて、天空の庭へ旅立った者達を保護する目的も含めて魔力暴走症の患者達は、郊外にある施設へと入る事になっている。
そこでは魔力暴走症の研究は勿論の事、病に侵された者達の看護もしっかりと行われる。
だから看護に疲れ、思い詰めた先に命を絶たれる心配はない。
えぇ勿論命を脅かす者はいないけれども、だからと言ってそれが幸せなのかはわからない。
それこそ本人のみぞ知る……よね。
また病気の症状と進行はかなり個人差があるわ。
症状と言っても初期の頃は溢れた魔力が身体を突き破り、噴き出される鮮血と共に魔力を放出する。
そうする事で少しでも体内で蓄積された膨大な魔力を強制的に放出出来るの。
一種の小さな爆発みたいなものね。
ただし突き破る個所は何も一つだけとは限らない。
確実な数はわからないけれども、最大は今まで調べた中では一度に20か所より噴き出したらしいわ。
そう、その突き破る個所とほぼ同時に、身体の至る場所より血と魔力が噴き出すの。
でもね魔力は尽きる事がないけれども、血液量は普通のそれと何ら変わりはない。
だからその為過去に何人か、魔力が暴走する前に体内にある血液が枯渇し、そのまま失血死へと至った事例もある。
そうして末期へと進行が進む頃には、溢れる魔力に器である身体の負担が大きく反比例と化し、身体は徐々に衰弱し、日々の食事も思う様に摂れず、やがて眠りの中へと引き込まれるの。
それを何回か繰り返し完全な昏睡状態となれば、最期のカウントダウンが開始される。
でもそのカウントダウンは誰にもわからない。
誰にも知られる事なく密やかに、そして確実に時を刻み始める。
そう、最期の瞬間まで心の蔵かはたまた脳なのかの選択も、実際に起こるまで誰にもわからない。
この世界で最も辛く悲しい最悪な難病。
その難病にまさか私が侵されるなんて、然も私は何と言ってもまだ14歳!!
幾つもの検査が行われた結果、沈痛な面持ちで侍医達に告げられた瞬間――――。
父である国王は余りの悲しみと怒りで城内にある広大な森を、氷炎の魔王宜しくと言う具合に、2/3を一瞬にして焼失させてしまった。
母である王妃は豪胆な性格で知られているにも関わらず、生まれて初めてだったのでしょうね。
あまりにも大きなショックと悲しみとで一週間程寝込んでしまわれたけれども、持ち前の気力で見事不死鳥の様に復活され、お母様お気に入りの森を焼失させたとお知りになられた瞬間、お父様へ思いっきり怒りを爆発させていたわね。
そして王太子である兄様は、誰よりも深く傷ついたお顔をなさっているのに、一番傷ついているのが私だと知っていらして、今迄見た事もないくらい悲しくてお辛い表情で、だけどとても優しげな笑みを湛えたままそっと私を兄様の許へと引き寄せ、真綿で包み込むように優しく抱きしめ――――。
「何がどうあっても私達はお前を愛しているし、決して離しはしないよベル。何が起こっても私達はベルの家族だから……っっ」
「――――っつぅ、ん、は、はい、は……い兄……様っっ。そしてごめんなさいっ、病気になってごめんなさ……いっっ」
私は兄様の温かくて優しい腕の中で、赤子の様に大きな声をあげ、王女と言う身分も何もかも忘れて涙が枯れるまで泣いていた。
そうして病名を聞いても最初は何処か他人事の様だったのに、優しく兄様に抱きしめられ、思いっきり泣いた事により、初めて私自身が死を受け入れなければいけないのだと自覚した瞬間だったわ。
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