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第三章 たどり着く先は……
13 たどり着く先は……
しおりを挟む「本当に幾つになっても貴方は呆れた息子だわ。でも、本当はわかっているのでしょう。この様な事をしてもあの娘が喜ばない事くらい……馬鹿ね、本当にお馬鹿さんね。でもそれ以上に貴方は心の優しい私の自慢の息子だわ」
「……余り馬鹿馬鹿と言わないで下さい母上」
「あら、本当にお馬鹿さんなのだもの……然も親子揃ってね。貴方のそう言う所は本当に陛下とそっくりよ」
「はあ、父上とそっくりだと言われましても、まあ実際血の繋がった親子ですからね」
長椅子へ向かい合う様に座る母と子は、侍従が用意したお茶をゆっくりと飲んでいた。
「昔からそう、二人してベルを溺愛するものだから、私だけでも心を鬼にしてでも厳しく躾けなければ、この娘はとんでもない我儘姫になってしまうと、あの時は本気で悩んだものよね。でも、あの娘は私の想像以上に立派な王女へと成長した……わ」
「母上」
「もう……ね、えぇ十分理解や納得もした心算だったのだけれど……まだまだ駄目ね。王妃として何時までも自身の娘に心を傾けず、何時如何なる時でも国民の為に動かねばならぬと言うのに……。でも流石にあれは少々虐め過ぎよフェルディナンド。扉の向こう側で聞いていたデュークが、あの頑丈に造られた扉を怒りの赴くまま、本当に今直ぐにでもにも蹴り飛ばそうと鼻息を荒くしていたのですもの」
「あの冷徹宰相が……ですか?」
「そうね、一見デュークは冷徹そうに見えるけれど、真実の彼はとても一途よ。だから覚えておきなさい。貴方、暫くの間彼より色々と厳しくやられるわよ」
うわぁとそれまで厳しい表情をしていたフェルディナンドは母王妃の前で相好を崩し、これより先予想される自身へ降りかかる展開に両肩を竦め、心底辟易とした。
「でも、僕はシリルへ突き付けた言葉に対し後悔はしていませんよ。確かに王太子として言葉や態度は決して褒められたものではないでしょう。ですが愛するベルの兄としてっ、家族としてどうしても我慢が出来なかったのです」
「……そうしてシリルの心を痛めつけて、貴方の気持ちは晴れたのですか?」
王妃は優しく諭す様にしかし、その中にも冷静な口調で息子へと声を掛ける。
一方声を掛けられたフェルディナンドはふるふると力なく頭を左右に振り……。
「わかっているのです母上。これは完全に八つ当たりなのです。僕は余りにも無力だっっ!! 持って生まれた魔力や聡明さの何もかも幼い頃よりベルに何一つ叶わない」
「フェルディナンド……」
「いいえ何もベルに嫉妬等してはいませんよ」
「それは十分過ぎる程わかっていてよ。貴方は本当にベルを愛しているのですもの」
呆れた様に王妃は軽く溜息してみせる。
「それは余計なお世話です。ベルの美しさもですが可愛さは最早神レベルなのですよ。もし実の兄でなければ――――痛っ、痛いですって母上っっ。これはモノの譬えなのだからして……っっ!?」
「いいえっ、その譬えが最早問題です!! 全く我が家の男達は一体何を考えているのやら……。大きな問題となる前に貴方の婚約を陛下と相談して早急に決めましょう」
王妃は握っていた大振りの扇を片手に持ち、しっかりと身を乗り出せば、息子へ愛の鞭と言わんばかりにバシバシと彼の頭をこれでもかと思い切り叩いていた。
勿論これ以上ないくらいに艶然と笑みを湛えたまま――――だ。
「そ、その僕の婚約はまだ宜しいでしょう。それよりも今頃きっとシリルは後悔しているでしょうね」
「そう……ね、本当ならば彼にはベルを逢わせたくはなかったのだけれど……。デュークが上手く言い含めてくれているといいのでしょうけれどね」
息子を叩く手を止め、王妃は何かを懇願するかの様に、窓の向こうに見える何処までも澄みきった青い空を暫くの間見つめていた。
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