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序章 物語を始める前に……
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しおりを挟む「はい、今月もお疲れ様」
そうして診療を終えたマックスから渡されたのは今月のお給料。
思わず笑みが零れてしまう……じゅるっっ!?
あれっ、ちょっと待って、ひいふうみい……ってこれって!!
フィオは思わずマックスを見上げ声を掛ける。
「マックス、今月分少し多いと思うのですが……残業もそんなにしてはいないですし、先月と働きも変わったとは思えないのですけど、もしかして計算間違いでは?」
あ゛あ゛〰〰〰〰私ってば馬鹿正直過ぎるのではないかと思ってしまうのだけれど、労力に伴わない対価は欲しいとは思わない。
いっ、いやホントは喉からニョッキッと手が出るくらいお金は欲しい!!
私にも金銭欲は人並みううん、それ以上あるわね。
自分の欲望を叶える為にはお金は正直幾らあってもいいものなのだから……。
でもね、幾ら欲しいからと言って正当な報酬でない限りは受け取れないし、そこまで人間落魄れてはいない。
私だって最低限の誇りはある――――筈。
しかしそんな彼女にマックスは朗らかに笑って言う。
「フィオ、これはフィオの正当な報酬だからちゃんと受け取ってね。先月より少し多いのは何時も頑張ってくれているご褒美だよ、それに実際君が来てくれてから患者さんも増えたし診療所も綺麗になったからこっちとしては大助かりなんだ」
「マックス……」
「フィオは何時も頑張り過ぎているから、もう少しリラックスしてくれるといいなってこれは医師としての意見だからね」
「あ、有難う御座いますマックス」
この人は私個人をちゃんと見てくれている――――それが今のフィオにとって泣きたい程嬉しい事なのだから……。
「さぁ今日はこれで終わりだから給料日くらい早く帰りなさい」
「あっ、でもまだ少し掃除がっっ」
「そのくらい僕にでも出来るから今日は早く帰りなさい」
そう言って私を早く帰らせようとするマックスの心遣いはとっても嬉しい事だけれど、彼が言う『そのくらい○○出来る』という言葉で私ははっと我に返る。
そう、彼は医師としては天才的なセンスを持っている事は確かなのだけれど、家事全般に関してはその天才的なセンスは全くと言っていい程該当しないのだ!!
フィオが勤めてから3年の間、彼のその言葉で何度翌朝出勤した時にこの自宅兼診療所が目も当てられないくらいの惨状になっていたのかは語るまでもない。
今ここで私が大人しく帰ればきっと明日の私は昨日の自分――――つまり今の私に対して殺意を抱くのに決まっている!!
これは考えるまでもない事。
私は明日の私の為にマックスを制止し、残りの掃除と彼の夕食の準備をして夕方帰路に就いた。
勿論彼の言う事を聞き流した私に対して彼は落ち込んでいたが私にとっては些細な事なのだ。
彼の落ち込みより我が身大事をとったまで。
そうしてフィオは貰ったばかりのお給料をベージュのメッセンジャーバックにしっかり入れて、紐の部分をギュッと握り家路へと急ぐ。
本当は何処かお店に寄って年頃の乙女らしく買い物もしてみたいという願望は全くない訳でもないが、この国へやって来て10年――――という時間の中で幼い少女は女性らしさや乙女心と言うものを綺麗さっぱり忘れさせられてしまったのだ。
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