王妃様は真実の愛を探す

雪乃

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第二部  第一章  新しい出会いと新たな嵐の予感

26 静かに忍び寄る嵐  Ⅹ

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「え、エヴァ様っ、お待ち下さいませっっ」

 先に仲良く歩いていくエヴァとアイザックの様子に慌てたアナベルは、自身のドレスの裾を捌きつつ急いで後を追い掛けようとしたのだが、そんな彼女の前に先に王宮へ到着していたマックスは彼女へと腕を差し出し――――。

、では我々も参りましょうか」

 貴公子然とスマートにエスコートをしようとするマックスに向かってアナベルは小声でそっと囁く。

「変な真似をなさいましたらただでは……そうですね、この世に生きている事を一万回程後悔して差し上げましてよ、ゴードウィン卿」
「母は……うーん、最近僕は耳の聞こえが悪くなってね……ってうわぁっつぅぅ⁉」

 お道化て見せるマックスは革製の靴越しとは言え、アナベルは構う事なく澄ました面持ちで彼の右足の甲を思いっ切りヒールでぐりぐりと踏み付けた。
 
 勿論ふわりとしたドレスのお陰で、彼女の所業は誰に知られる事もない。

 一方マックスはと言えば、小さな声ではあるが呻き声を若干漏らす――――けれどもここは広大なエントランスなのだ。
 次々と馬車より降り、取り澄ました表情で美々しく着飾った貴族達が招待状を小姓へ渡し、名を呼ばれれば今宵の舞踏会場でもある大広間へと続く通り道でもある。
 
 また衆目の目もあり、社交嫌いで有名なマックスなのだ。
 それでなくとも彼の存在を認めた貴族達――――主に独身の令嬢そして遊びとしての恋を愉しむ貴婦人達はちらちらと扇で隠しきれない興味言う深々と言う視線を、マックスだけでなく彼の隣にいるアナベルへと向けてくるのだ。
 
 だがそんな等興味本位な視線等マックスだけでなくアナベル自身も特に気にも留めてはいない。
 
 マックスは元々社交界で要らぬ噂や足の引っ張り合いよりも、王都で気楽な町医者として心の底から人々と笑い合う方が人間らしいと考えていた。
 そしてアナベルはと言えば社交デビューこそはしてはいないが、そこは名門ベイントン家の令嬢である。
 約十年間庶民として過ごしてはいてもそこはエヴァ同様、令嬢としての所作や礼儀作法等は幼い頃に厳しく躾けられていたのである。
 
 まあ彼女の性格上社交界でのやり取りは好きか嫌いかと問えば、迷わずの一択なのは言うまでもない。

 それもこれも全てはエヴァが今宵ここにいるからこそ――――なのである。
 また今宵は二人だけではなくエヴァがラファエルに内緒で参加しているのだ。
 だからこそ何時も以上に目立った行動は極力控えなければいけないと言うのに、毎度の事ながらアナベルは少しも容赦しないときている。
 
 まあそれがマックスの知るアナベルなのだが……しかし、これは流石に地味に痛いと彼は心の中で独り言ちた。
 だが今日のアナベルは何時もの姿と違い彼女の瞳に合わせたドレスを纏っているのである。
 デザインも流石ミドルトン公爵の趣味の良さが際立ち、凛とした美しさを持つアナベルをより一層引き立たせているのだ。

 少し妬ける……かな。

 今宵のパートナーとしては出来得る事ならば、アナベルの身に纏う全てのものをマックス自身が整えたかったという願いは、彼の心の中でひっそりと奥へとしまい込む。
 それと同時にそう思った自身の心に改めて酷く驚いていた。

 そう酷く……何故なら今この瞬間までアナベルに対してマックスが抱いていた思いとはズバリ――――でしかなかったのだから……。
 
*すみません。
 あともう少しで第一章が終わります。
                 雪乃
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