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第二部 第一章 新しい出会いと新たな嵐の予感
27 閑話 アナベルとマックス マックスSede 前編
しおりを挟むあれは今より約十年前――――。
シャロンとの戦が終わりそれに与したとされる敗戦国のライアーンより、まだ少し寒い春の訪れと共に二人の少女がこのルガートへとやってきたんだ。
一人はライアーン王国の第一王女殿下であられるエヴァンジェリン様は今年8歳になられてはいるのだけれども、その容貌はめったに見かけないだろう赤毛交じりの金色の髪に、然もその金色の部分は赤毛交じりの金色にはない白金。
そしてその珍しい髪色と遜色違わず煌めくエメラルドグリーンの瞳に、白く透き通る様な白磁の肌を持った大層見目麗しい姫君だった。
故国ではライアーンの百合と称えられている姫君と聞いてはいたがこれ程の美少女であるとは、一体成長すればどれだけその美しさは磨かれるのだろうかと思ったものだよ。
だがそんな彼女の美しいエメラルドグリーンの瞳はその当時余りにも虚ろなものだったんだ。
まあこの時の彼女の心はとても病んでいたのだからそれは致し方のないものだったし、その病んでいる痛々しい姿ですら美しい美少女だったのだよね、フィオは……。
名目上は若きルガート王に捧げられし可哀想な王妃――――って事で入国させ、そして極秘裏に警備を幾重にも厳重にし、この世界で最も安全とされる離宮へと隔離したんだ。
それは何のためだって?
勿論今は亡きシャロンの亡霊の魔の手からだよ。
確かに僕達は忌々しいシャロンを滅亡させた。
そして王族達も極刑にしたけれどもその中にあいつだけはいなかったんだ。
元シャロンの王太子であったアーロン・レジナルド・シャクルトン。
フィオの運命を変えた元凶と言ってもいい奴だよね。
そして今も何かと隙を窺っては何かと仕掛けてくる厄介な人物。
奴が生まれてから何かと世界が可笑しな方向へ向いていると僕達は思っている。
そしてもう一人……僕の人生においてアーロンよりも強烈な印象と何度も恐ろしい目に遭わされているのが、庇護欲のそそられるフィオとは対照的に、いやもういっその事性転換をお勧めしたい……いやいやこれがバレればこれがバレれば僕は瞬殺間違いなしだっっ。
そう、フィオの専侍女兼話し相手とは表向き。
実戦こそ……そもそもライアーンは永久中立国だから戦争はしない。
そんな平和な国に似つかわしくない異名を持つのが彼女――――アナベル・ルチアナ・ベイントン。
ライアーン王国きっての武門のお家柄としても名を馳せる名門ベイントン家の令嬢であり、騎士団にも所属をしていた弱冠15歳の若きライアーンの姫将軍との初めての出会いだった。
一言で言えばアナベルは脳筋令嬢だ。
それもフィオ限定のね。
彼女もまたフィオの魅力に憑りつかれたのだろうね。
まだまだ幼いフィオを護る為とは言えルガートについた早々彼女達をラファエルの執務室へ押し込め、そうして否応なく緊張しきったフィオへ婚姻誓約書へサインをする様に強要したんだ。
今……いやいやあの頃でもあれは少し犯罪めいた行いだと言われれば否定は出来ないな。
しかしラファエルを含め僕達の周りにはまだまだシャロンの間者が多く潜んでいた。
幼いフィオ達には悪いが事態は一刻を争うもの。
それでもフィオは一国の王女らしく何処までも気高くまた気丈で、だからこそその心内に秘められた悲しみが、僕達大人はどうしようもなく歯痒かった。
またアナベルはそんなフィオを全身全霊で護っていた。
そうして彼女たちが来た最初の夜――――真夜中となり、フィオが就寝したのを確認したアナベルは、前もって教えていた離宮奥にある抜け道を通っていた僕達の待つエルの執務室へと来たんだ。
うん、この時のアナベルはフィオと一緒にいた彼女ではなく、確実にあの姫将軍だったのを今でもしっかりと僕は覚えている‼
と言うか、怖くて忘れられる訳訳がないじゃないかっっ。
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