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第一章 出会い?
水の妖精
しおりを挟む「旦那様…馬車のお支度が整いました」
執務室で書簡を見ていた俺にそう言ってきたのは執事長のホランだった。
今夜は王宮での舞踏会へ出席しなければならなかった。
何故と言われれば、王太子殿下の姫君…ルーレシア様の社交界デビューだからだ。
王室と我がフェンリーガ公爵家は昔からの付き合い…または親戚関係とも言うが、それ故此度の舞踏会は何が何でも出席をと…半ば半強制的に決められていたのだ。
もしかすれば18歳の乙女であるルーレシア姫の夫候補に入っているやもしれない。
そう思うだけでゾッとする。
俺は子供には興味ない…。
20代後半ならばまだしも…俺自身まだまだ結婚等考えてはいないが、当主としてはそろそろ結婚をという声もあり、何れにせよ子供を儲けねばならぬのだろう。
夜会は貴族にとって重要な社交の場…仕事をする上でも欠かす事は出来ないモノ。
王宮以外の夜会へはまぁ…その様な苦にもならない。
やや砕けた感じで時折本音で話す事も出来るし、女性とも簡単に…そして後腐れなく付き合う事も出来るからだ。
だが…王室主催となるとそうもいく訳がない。
礼儀に始まって礼儀で終わる。
肩っ苦しい事この上ない…何も楽しくもない、だから敢えて理由を付けては断ってきたのだが…今回は先手を取られてしまった。
国王からもそろそろ身を固めよ…と暗に言い始めてきている現状よりみても、きっとルーレシア姫ではなくとも…何処かの令嬢を押し付けてきそうな感じが鼻に付くではないか。
そう…行きたくもない王宮へ向かって川沿いに馬車が走っていた時だ。
大きな水音と子供の泣き叫ぶ声が聞こえたのは…。
何事かと天井を杖で叩く。
何時もなら執事のカイトが供をしているのだが、今日に限り1人で馬車に乗っていたのだ。
馬車は止まり御者から子供が川に流されている…そして女性がそれを助けに入ったらしい…と報告を受けた。
平民の親子か…と態態貴族が出張る事も普通はない。
そして何もなかったかのように通り過ぎるのが通例…だが俺はその場で降り、川へと向かった。
丁度母親が子供を掴みこちらへ戻ってくる所だったが、何かに足を取られたのか…体勢を崩し掛けた。
瞬時に沈み掛けた母親の腕を掴み岸へと引き上げる。
まさか親子で心中でもあるまい…とも考え、母親を責めていたら――――違ったのだっっ!!
私の責める声にも耳を貸す事もなく…少女の安否を心配していた女性は、母親ではなかったのだ。
それから子供達は探しに来た母親と共に帰って行った所で、彼女の身なりを背中越しに見た。
上質の絹の白いシャツに鮮やかな赤い色のキュロット。
全身ずぶ濡れで白いシャツは濡れた肌に張り付いて下着が透けて見える。
足首までのキュロットから下は雪の様に白い…形の良い足が見えていた。
これは如何みても貴族の令嬢…もしくは夫人か?
共も連れずに…とまぁ母親と勘違いもしていたのだから、まず謝罪をと思った時――――。
「――――何か御用かしら?」
そう言ってゆっくりと振り返った女性は紛れもないこの国の王女…アンフィリアン・ユージェニー・レクストンだったのだ。
黒く艶やかな美しい髪は…彼女の雪の様に白い肌に纏わりつき、それにもまして濡れたシャツから見えるのは女性らしいたわわな胸が下着越しにも拘らず、なんと艶めいてみえる事か…。
確かに彼女は今時の女性と比べれば…多少ふくよかなのかもしれないが、見たままに言えばそれは何と女性らしい丸みのあるラインで…失礼ながら顔も美しいと言うのではなく――――、実年齢よりも若く…可愛らしい面差しをされている。
思わず食指が動きそうな衝動へと駆り立てられそうな気持ちを抑え…ここは紳士として濡れた姫の身体へと自らの外套で包もうとしたが、即断られた――――早っっ!!
今まで女性には断られた事もなかったのだが…そして俺よりも姫は自身の愛馬を選び、その場を颯爽と立ち去ってしまったのだ。
まるで水の中より現れた妖精…かと愚かにもその時は思ってしまったのだ。
今まで行き遅れの王女…としか認知しておらず、どの様な女性かも全く興味はなかったのだが…少なくともアンフィリアン王女は勝気で向こう見ずな性格ではあるが、溺れている少女を助ける等心優しい御方なのであろう。
それにしても王女が脇目も振らず…川へ飛び込む等普通に有り得ない…そう有り得ない話だ。
だからこそ俄然興味を持ってしまった。
7歳年上…別に気にもならない。
子供を妻へ迎えるより…まだ年上の方がいい。
こうなると現金なモノだ。
先程まで行くのも億劫な舞踏会も…アン王女と逢えるとなれば、こんなに愉しいモノはない。
そうして私は再び馬車へ乗り…王宮へと向かった。
暫く時間を潰していると…彼女が現れた。
あの色香の漂う濡れた姿も捨てがたいが、凛とし背筋を伸ばし…正装をして淑女然としている彼女も中々どうして可愛らしい。
そう思った矢先の出来事だった。
突如10名程の令嬢方に囲まれ…?
様子を見れば…彼女の胸に堂々と顔を埋めている者もいれば…抱きついたり、彼女のあの雪の様な白い肌を触りまくっているではないかっっ!!
周囲の男性貴族達は何時もの事だと言うが、俺としては例え同性であっても姫にあのように触れて羨ましい…いや、嫉妬の炎で狂いそうになるっっ!!
嫉妬!?
俺が嫉妬…するだと?
まさか…それこそ有り得ない…女性に対して嫉妬する等…。
だが…この焦げる様な胸の苦しみは一体何と説明すればいいのだっ。
ただ気になる女性…ほんの数刻前に興味を持っただけの筈…なのにこの俺が恋をしているとでもいうのか?
有り得ない…。
ふと彼女を見ると令嬢方へ…その視線の先に俺がいる事も知らずに溢れんばかりの笑顔が映った。
その瞬間俺は非常に狼狽えてしまった。
柄にもなく顔が熱くなる。
最早重症かもしれない。
その笑みは俺に向けられたものでない…というのに、ただ微笑むだけでこんなにも心が躍るモノなのか…と自分で自分が理解出来なかった。
そんな思いに駆られていると、突然彼女がいなくなったっっ!!
周囲を脇目も振らず探していると――――いたっっ!!
庭園の向こう側へ向かって歩いている。
あの向こう…は確か…小さな東屋がある筈。
あまり知られてはいないが…まさか誰かと密会でも…っっ!?
まだ姫とは何も語り合ってもおらず…完全な俺の想いなだけなのだが、情けないとは思いつつも…何としても相手を確かめたいと思ってしまった頃には、もう走り出していた。
そして近くまで来ると、東屋で彼女はひっそりと1人で過ごしていた。
まだ男は現れない…と思っていたら、彼女は誰もいないモノだと思ったのだろう…小声…いや普通に愚痴をこぼしていた。
「悪目立ち過ぎるってモノ…よね、行き遅れと言われてるのに…最近はユリなんて事言われてるのですもの。何処をどうしたらそう見られるのかしら…ね」
その言い方が実に可愛らしく聞こえてしまったのだ…。
だからつい声を掛け姿を現してしまった。
俺の存在を知って欲しくて…。
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