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第一章 召喚された聖女のあれやこれ
1 扉を開ければなんじゃこりゃ!! (改)
しおりを挟む「先輩、巡視行ってきますね。えーっと何かあったら……そうですね重症部屋の安達さんのアラームが、う~ん多分大丈夫とは思うんですけれど、もしなった時は(PHSの)ベルを鳴らして下さい」
「あぁうん了ー解、気をつけるんだよ。大丈夫とは思うけれど何かあったらベルでもコールでもいいから直ぐ知らせなよ」
「はーい、んじゃあちゃっちゃと廻ってきま~す」
移動式ワゴンに電子カルテや更新分の輸液を数個、有熱者の為のクーリングにタオル、その他諸々を乗せて懐中電灯を手に取り看護経験二年目、最近漸く身に纏う白衣もしっくりと様になってきた看護師――――佐倉 茉莉花23歳は、真夜中にも拘らず意気揚々と詰所を後にした。
佐倉茉莉花は本当に何処にでもいる黒髪黒目のごく普通の容姿をした平凡な女性である。
特段痩せている訳でもなく、また太っている訳でもない。
中肉中背、平平凡凡、可もなく不可もない、本当に何処にでもいる女性だ。
まあしいて言うならば童顔である。
そんな茉莉花は真夜中の病院の廊下をガラゴロとワゴンを押して奥の病室へ向かっているのが、この夜で最期にになる事等、この時の彼女はまだ気付いてはいない。
だが何時の世も思いもかけないモノとは静かに密やかに気配を消し、そっと背後より忍び寄ってくるもの。
まさにこの時の茉莉花もそれに該当した。
まさかこの後自分の身の上に――――なんてものは、多忙を極める彼女がミジンコ一匹程も気付く訳もないのだ。
看護資格を取得して二年目。
確かに新人ではないけれども、だがまだまだ覚える事は山の様にあるのだ。
勉強は兎も角、ひと月毎に組まれた勤務表を毎日朝から晩まで白っぽい建物の中を馬車馬の様に働き、そして仕事が終わればくたくたの身体を引き摺るようにして寮へと戻る。
仕事は幾らやっても尽きる事はない。
探さなくとも幾らでも勤務時間内、いや毎日二時間くらい残業しても終わりはない。
それはそうだろう、茉莉花の仕事は命と直接向きあうもの。
確かに彼女の選んだ仕事は責任も重く、また辛い事が多い。
しかしその反面充足感もあるのだ。
出来る事ならもう少しその対価でもある給料が上がれば文句は――――ない。
けれども何より嬉しいのは、患者さんからの『ありがとう』と言う言葉かもしれない。
確かにそれで何もかもが帳消しとなる訳ではない。
でもその一言が新たな仕事とまた向き合う糧となるのも事実。
さて話は逸れたが奥の病室へ向かいつつ、担当する病室へ手前から入り一人一人しっかりと患者の様子をチェックし、バイタルチェックの必要な患者にはより入念に観察をしていく。
痰が溜っている患者には適宜吸引を行い、体温調節の出来ない患者にはタオルケットや氷枕等で体温を調節する。
そうして一部屋毎注意して茉莉花は特に問題もなく巡回していた。
思った程大した問題もなく、巡回し終えるまで残り一部屋――――と言う時。
最後の病室の扉を開けようとその取っ手へ何気に手を掛けたと同時に、ほんの微かに小さな声が聞こえたのだ。
『漸く見つけた!! そなたこそは世界の綻びを紡ぐ乙女、そして俺の、俺だけの運命の半身!!』
ほんの近く……茉莉花の耳元で優しく、いやその優しさの中に決して逃れられる事の出来なくてまた見えない呪縛とも取れる声音。
そんな意味不明な声に不思議と茉莉花自身恐怖は感じないのだが、はてそもそもその声は何処から???
囁かれた?声の方角――――に見当がつかないも、茉莉花は合点がいかず小首をこてんと傾げてみる。
そして徐に廊下をきょろきょろと見廻すが、そこにいるのは彼女自身と遠くで同じ様に巡回しているだろう先輩看護師の姿のみ。
その先輩看護師は第一女性なのだ。
だが茉莉花の耳が捉えた声は男性のもの。
だがこの病棟に声の主らしい若い男性の患者はいない。
声からして20代後半から30代半ばの低く力強い男性的だ。
しかし敢えて言おう、茉莉花自身断じて声フェチではない……筈?
そう声フェチではないのだが、そんな彼女でも思わず聞き惚れてしまいそうな程に壮絶な色香を纏った声。
もしかすれば声を聞くだけで恋に落ちるかもしれない。
そのくらい一度聞けば絶対に忘れられないだろう声……なのだが、如何考えてもその声はこの病院にそぐわないし、またそれらしい人物がいないのが現実である。
空耳……幻聴?
やはり最近働き過ぎた所為なのだろうか……等とつらつら思いつつ、気を取り直し再び扉へ手を掛け、ごく普通に横へゆっくりと引いた瞬間――――彼女は、茉莉花は一瞬視界の全てが真っ白になる程の凄まじい光をその身に浴び、自身の瞳が開いているのかそれとも閉じているのかさえもわからない状態に陥ったと同時に彼女の意思に関係なく光は彼女の身体を包み込む。
「まぶ……っっ!?」
光を浴びたほんの一瞬、素直に眩しいと言葉として発しかけたがどう考えても今は真夜中で、然も今は既に消灯した病室の筈。
点いているだろう灯りは常夜灯のみ。
それに病室では四人の患者が静かに眠っている筈。
詰所より最も遠いこの部屋には比較的状態の落ち着いている患者がいるだけ――――だとしても、誰もこんな時間に煌々と明かりを点ける患者はいないし、第一茉莉花が扉を開く瞬間まで明かりは少しも漏れて等なかったのだっっ!!
そしてまだ眩しい感覚が拭えないまま引いた筈の扉の前を見ると、これまたあり得ない光景が彼女の眼前に広がっていた。
ついでに言えば握っていただろう扉の取っ手ごと、その扉も茉莉花の前で綺麗に天へ召される様な感じで消失していくのだ。
現実ではあり得ない。
だからと言って夢……かと言われれば甚だ疑問ばかり。
何とも信じられない状態に陥っているかもしれないと茉莉花自身薄々と肌で感じ取ってはいたが、出来れば今起こっている全てが幻覚であって欲しい!!
これはきっと激務に追われ疲れ果てた脳が見せている幻覚であって欲しいと強く願う。
だが現実は無情にもそんな願いもむなしく茉莉花にとって冷たかった。
「な、なんじゃこりゃ――――っっ!?」
そう、まだ眩い明るさを放ってはいるけれども全く見えない訳ではない。
だからして茉莉花の視界にはしっかりと彼女が見る景色を捉えていたのだが、何故かそこは彼女の知る病室ではなかった!?
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