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第二章 ただ今契約履行中
10 お披露目の舞踏会と訳のわからない動悸と嫉妬
しおりを挟む「今宵皆へ紹介する。これにおられる御方は我が愛しき婚約者であると共に、遠い異界より我が世界を護らんが為に来訪された尊き聖女茉莉花である。まだまだこの世界に来て日も浅いが故分からぬ事も多々あろう。しかし今宵この場へ集いし者、またこの世界に住む多くの者達よ、心優しき無垢なる聖女に変わらぬ忠誠を求む事とする」
「佐倉 茉莉花と申します。ただ今ヴァレンタイン陛下紹介された通りこの世界へ来てまだ日も浅いのですが、陛下により召喚された以上は、自身の持ち得る限りの能力をこの世界の為に遣いとう御座います。どうぞよしなにお願い申し上げますわ」
「「「「ヴァレンタイン陛下、並びに聖女茉莉花様へ我らの変わらぬ忠誠を尽くしましょうぞっっ」」」」
「「「「乾杯!!」」」」
ヴァルと茉莉花を中心として一斉にシャンパングラスが掲げられる。
そして王室付きの楽団達は優雅に音を奏で始める。
勿論舞踏曲だ。
ヴァルと茉莉花は乾杯後形だけシャンパングラスへ口をつける。
そうしてヴァルは二人分のグラスを侍従へ渡すと茉莉花を広間の中央へエスコートし、大勢の招待客が見守る中、二人は優雅なダンスを披露した。
一曲、続けて二曲とヴァルは優雅に茉莉花をリードしつつ、この短くも幸せなひと時を愉しんでいた。
一方茉莉花はと言えば前日までに説明を受けていたとはいえ、実際こんなにも多くの貴族達の前で拙いステップを披露する事を心の中で盛大に後悔していたのだ。
元来人前で踊る事に慣れない日本人の茉莉花にとって、これは本当に盛大なる公開処刑であった。
もう恥ずかしくて仕方がないと思うのだが、でも目の前で、お互いの吐息が触れ合うと言っていい距離にいるヴァルがとても幸せそうに微笑んでいる姿を見ると、もう止めたい……なんて素直に言い出せなかったのである。
普通なら頑として断っていただろう。
然も一曲でなく続けて二曲もだっっ。
茉莉花の性格上目立つ行動はあまり好きではない筈なのに、どうしてなのかはまだ彼女自身はっきりとわかってはいない。
ただ目の前のヴァルが余りにも幸せそうに微笑むから、そんな姿を見てしまうと何やら胸の動悸が騒がしくなり、とどのつまり流れのままに身を任せてしまっていると言う現状なのだ。
茉莉花はまだ一度もまだ異性を好きになった事もましてや恋をした経験がない。
だから恋うる気持ちがどのようなものなのかは、はっきり言って小説や漫画からの情報が全てだったりする。
そしてその情報源は何時も肝心な所で非常に曖昧なもの。
それ故胸の動悸に関しても茉莉花が最初に思った事は彼女の職業らしく、何か病気の、まさかこの若さで心臓病じゃあないわよね――――に至ったのは言うまでもない。
そうしてダンスを終えた二人は終始笑顔を絶やさず絶賛敵ばかりの貴族達より、形だけの忠誠と祝いの言葉を受け取っていた。
しかしその中に宰相は兎も角娘のエロイーズの姿はない。
いやいやエロイーズは当然国王主催の舞踏会へ出席はしていたのだがしかし、茉莉花へあからさまな嫉妬を抱いている彼女にとって茉莉花の前に顔を晒すと言う事は、何故か自分はこの婚約を認めたという気持ちになるらしい。
元々一公爵家令嬢がその様な権限を持っている訳ではないのだが、父宰相の持つ絶大なる権力故にそう思っているのだろう。
なんにしても彼女は奥まったスペースで、形だけではあるが幸せそうな未来の国王夫妻を憎々しげに睨みつけていた。
勿論睨みつけていた先にいるのは茉莉花である。
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