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第一話  白い結婚と眠り死病

7  大陸一の聖魔導師VS眠り死病  Ⅱ

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 病に倒れた子供達は二階にあるそれぞれの寝室で、安らかな表情かおで眠っていた。
 その姿、表情は言うなればお昼寝をしているかの様で、優しい声で声を掛ければ『母さまぁ』と笑顔で何時起きても可笑しくないくらいに愛くるしい。

 眠り死病スリーピング・デスとはよく言ったもの。

 その寝顔はどう見ても死にゆく者のそれではない。
 だが確実に目の前で眠っている子供は、刻一刻と死へ向かっているのが現実。
 その恐ろしい現実にアレクサの身体は思わずぷるりと震え、そうして無意識に両手で自身の腕をぎゅっと抱きしめる。
 そこへ宮の誰かが知らせたのだろうか。
 子供達を見ていた侍医がここにいる筈のないアレクサ達を見つけると共に驚愕の色を隠せないでいた。
 やり場のない思いを表すかのように、ガシガシと短い白髪頭を掻きながら、湧き上がる怒りを隠さずアレクサへと詰め寄りそして――――。

「陛下っ、何故この宮へいらっしゃったのですっ、ここは既に病に侵された場所、死に逝く者達がいる場所ですぞっっ!! それにしてもニコレッタ様方も如何どうしてっ、何故王妃陛下をここへお連れしたのです!!」
「侍医長……」
「先生……王妃様には大変申し訳なく思っておりますがっ、わ、私達には如何してもっ、何があっても子供達を、ヨルゴスを……ぺリグレス達を見殺しには出来なかったのですっっ」
「……だからと言って如何して、いやいや理由はわからなくもないですがの、しかしじゃ……が、国王陛下はこの事をお知りになってはいないでしょうな。お知りになっておられたらこの様な暴挙を何があってもお止になる筈。さぁ王妃様今からでも遅くはないでしょう、一刻も早くこの場よりお出になって下され。そして御安静に……」
「先生っ、それではっっ!!」
「カッサンドラ様、この事に王妃様を巻き込んではいけません。王妃様はいずれこのブランカフォルトの国母となられるべき御方ですぞ。それをこの様な病に侵されている所へお連れする等もってのほかですぞっっ。この事が国王陛下のお耳に入らば、逆族と問われても申し開きも出来ませぬぞ。さぁ陛下もこの侍医の進言を受け入れられませ。そして直ぐにでもここから――――」

 侍医長はそう言いつつアレクサの後ろで控えているベア(結局ベアも心配だと言って押し入ってきたらしい)へ視線を向けるがしかし……。

「侍医長、私はここへ物見遊山に来た訳ではありませんわ」
「勿論存じております、陛下が素晴らしい聖魔導師である事もしかし……」
「わかっていらっしゃるならば、どうぞこれから私がする行動について何も申さないで下さいな」
「し、しかし〰〰〰〰」
「私は王妃である前に聖魔導師なのです。病める者、救いを求める者がいるならば、私はどの様な所へも進んで赴きます、それが聖魔導師としての私の務めなのです」
「し、しかし……ですが、国王陛下がこの事実をお知りになられれば――――」
「国王陛下? それがどの様な障害になると? 陛下には私がおらずとも愛妾が他にも数多おられるでしょう。それに私と陛下との間は……」
「白い結婚だと、勿論存じております」
「でしょう、だから私の事はどうか心配しないで、それよりも子供達の事が心配です。さぁ一刻も早く治療をしなければいけませんわね、この病は時間が勝負ですもの」

 そうしてアレクサは愛おしげに第二王子ヨルゴスの頬へそっと触れる。

 大丈夫よ、きっと私が死の病から助け出しますからね!!

「本当に仕方ありませんな王妃様、ですが必ず約束して下され、無理はしないで頂きたい!! 王妃様に万が一の事があれば陛下が悲しまれますぞ。侍医の首一つだけでは陛下の怒りは収まりませんからな」
「あら、条約は締結されたでしょう。だから私に万が一の事が起こっても陛下はお悲しみになられなくってよ。それよりも貴方こそよ侍医長、貴方は陛下が一番信頼のおかれている陛下の主治医なのに如何してここへ?」
「ふぉ、ふぉ、陛下とて人の子で御座いますよ。幼い王子様方がご心配なのでしょう、それに私も長く生きております故、こういう場所へは若者よりも死の近い年寄りが行くモノですぞ」
「まあ、貴方に何かあれば陛下をお支えする方がいなくなるのでは?」
「王妃様程陛下にとって大切な御方はおられませんぞ」
「ふふふ、お言葉がお上手です事。そうですね、皆で元気にならなければいけませんね」
 
 その言葉を聞いた母親達は安心して各々おのおのの子供達の許へと散っていく。
 ずアレクサはベアと共に侍医長より病状の説明を受けると、体力のない赤子である第二王子のヨルゴスと第二王女のディアンサを同時に治療する事としたのであった。
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