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第一話  白い結婚と眠り死病

8  大陸一の聖魔導師VS眠り死病  Ⅲ

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 早速アレクサの指示でヨルゴスの寝室へディアンサを心配そうに抱き抱えた彼女の母であるイサドラが入室し、猫足の長椅子ソファーの真ん中でゆったりと座っているアレクサの右腕にヨルゴスを、左腕にディアンサをそれぞれの母親達は恐る恐る預けていく。
 生後約6ヶ月の幼子2人は、はっきり言ってかなりの重量級である。
 子育てどころか子を産んだ事もなく、力仕事とは無縁な、元は皇女で現在王妃であるアレクサにとってこの愛くるしい子供達の重さはやや辛いモノがあるとはいえ、今はそんな甘い事言ってはいられない。
 何故ならこうしている間にも病魔は確実にこの赤子達の命を蝕んでいるのだから……。

「では、始めますね」
「「宜しくお願い致します王妃様っっ」」

 2人の母親へそっと視線を向けて心配させない様に笑顔でそう伝えると、アレクサは静かに瞑目する。
 暫くするとず赤子達を抱いていたアレクサの身体が白く、柔らかな光ですっぽりと覆われれば、その彼女の腕を伝って徐々に2人の赤子へとその光が降りてゆき、次第に赤子を包む様に楕円形の繭のへと形成されていく。
 キラキラとアレクサから放たれる柔らかな光に包まれた赤子達を、侍医長とベア、そしてニコレッタとイサドラは不思議とその様子が恐れるものではなく、どちらかと言えば眩い慈愛に満ちた、見ているこちら側でさえ心がほんわりと温かくまた優しい気分になるのだ。
 そうしてその状態のまま2時間程経過した頃、赤子を包む繭よりキラキラと眩いばかりの光の大小様々な珠が弾け出してくるのだ。

 そう、まるでその弾けてぶつかり合う珠より無数の音が弾けて音楽が奏でられる様に……。

 そんな状態が1時間程続くと奏でられた音楽は静かになりやみ、それと同時にあんなに弾けていた珠もシャボンの泡が消える様に静かに消えていく。
 そうして繭を形成していた光も徐々に赤子達からアレクサの身体へと戻っていく。
 数分経過するとゆっくり長い睫毛をしばたかかせ翡翠の瞳を開いたアレクサと同時に、ヨルゴスとディアンサもゆっくりと目覚めた。

「ヨルゴスっっ」
「ディーアっっ」

 無事に目覚めた我が子の許へ母親達は歓喜に打ち震えながら擦り寄り、アレクサより我が子を貰い受ける――――というか、力を遣い体力が消耗しぐったりしているアレクサより、重く圧し掛かる赤子を彼女より一刻も早く解き放ったという方が正しいのかもしれない。
 普通でも赤子2人を3時間以上椅子に腰かけているとはいえ、落とさず抱き続けるのは辛い、いやきつい。
 幾ら魔法で少しは赤子の身体を持ち上げているとは言え、アレクサの腕どころか肩までしっかりと痺れている。
 そうして赤子の重石より解放されたアレクサは、誰が見てもかなり疲れている様子だとわかるだが……。

「「王妃様有難う御座いますっ、本当に有難う御座いますっっ」」

 2人の母親は涙を流しながら我が子を抱きしめ、疲れ切っているアレクサへ心より礼を述べた。
 そう、こんな風に助ける事が出来、そうして笑顔を見られる。
 だからどの様に疲れていてもアレクサにとってこの瞬間は幸せなのだ。
 聖魔導師として、人として必要とされる。
 それは自由の身になったアレクサが一番したかった事。
 
「気にしないで、当然の事をしただけなのです。でも二、三日はまだ微熱が続くかもしれないから、水分をしっかりあげて下さいね」
「はい、承りました王妃様」

 傍で控えていた侍医長は指示を受け取ると共に「流石はだ」と感嘆の声をあげていた。
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