アラフォー王妃様に夫の愛は必要ない?

雪乃

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小話  子供の宮が出来た理由

3  狙われた子供達  Ⅲ

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 明るい茶色ライトブラウンの髪を綺麗に結い上げ、茶色のお仕着せに身を包んでいる後宮侍女長は、自身が持つ瞳の色と同じくらい真っ青な表情かおでクリスより何故か視線をらしていると言うか、きっと直視出来ないのだろう。
 彼女はまだ20代後半でありながら伯爵家の次女でありながらも結婚する事なく王宮へ侍女として伺候し、また若いながらも侍女としての優秀さを認められ、後宮が開かれたのを機に後宮侍女長として今日まで勤め上げていたのだ。
 あぁ正確には――――だ。

 王宮でクリス付きとなった時も彼女は慎ましく勤勉だった。
 そう、クリスに名を覚えられる程くらいに……。

「マルティナ、如何どうしてお前がここにいる」
「ま、まぁ……陛下おひ、さしぶりに御座います」
「マルティナ、俺はまだお前より返事を聞いていない」
「そ、その事に御座いまするが、私は後宮侍女長の任を頂いておりますれば、第二王女アンティア様のお加減を把握致したく、それに万が一王女殿下の病が伝播するもので御座いましたら……後宮侍女長として放っておけない案件となります。それ故御様子を窺っていたに過ぎません」
「……ほう、様子を把握するのは扉の前で聞き耳を立てると言う事なのか」

 身体を小さくしたまま俯いていた後宮侍女長マルティナは、クリスの問い掛けにその身体を大きくビクつかせてしまう。
 それと同時にカタカタと小刻みに身体全体を震わせていた。

「あ、あの、私は何も陛下を……ただ私は……」
「そしてもう一つだ、伝染病を疑うならば何処にその支度をしていると言うのだ。よしんば疑った事を事実と認めよう、さすれば俺を見た瞬間お前は取るべき行動を起こしていないどころか、この部屋自体の隔離とお前を含め侍女や侍医達この部屋にいる者全てがその様な姿でいないのは何故なのか、答えろマルティナっっ」
「へ、陛下それはその……」

 追求されたマルティナは何も弁解出来なかった。
 伝染病を疑うのであれば少なくともマルティナ自身感染の媒介となるのを防ぐ為、出来るだけ目の細かい布で口や鼻を覆い、お仕着せの上にはエプロンと手袋を身につけるのは当然だろう。
 ましてマルティナは後宮侍女長なのだ。
 部下である他の侍女達にもそれを徹底させるべきだし、またここには王の傍にはべる愛妾がいるのだ。
 そう、愛妾達の健康管理をも言わばマルティナの任務である。
 愛妾達に万が一何かあればそれすなわち、王であるクリスへ害を及ばせる可能性がある。
 そして今更なのだが……アンティア王女がいるこのエリアンテの寝室にクリス達がいる事自体問題視されるべき筈なのだが、マルティナ自身それにも触れずまた侍医長含む医療チームの誰もが伝染病を疑っていないのか、基本的な予防対策は講じているはいるけれども、クリスとエリアンテの入出を許可しているのだ。
 
 誰も最初から伝染病など疑ってはいないとでも言う様に……。

「――――誰に頼まれた、何の為に幼子を狙う? 狙うならば何故俺にしない!! 答えよっ、マルティナっっ!!」
「あ、あ、も、申し訳……私はただ……」
「今なら命までは取らない、だが洗いざらい吐いて貰うぞっ、マルティナを牢へっっ」
「へい、く、クリス様っ、お許しをっ、わ、私は私は――――」

 縋る様な眼差しでマルティナは涙を浮かべクリスへ懇願するがしかし――――。

「お前には……」
「――――っっ!?」

 そうしてマルティナへと向けられたのは、一瞬で凍りついてしまいそうなくらい軽蔑と決別を込めた青灰色の瞳。
 それはマルティナが初めて見たもの。
 クリス付きの侍女となり、最初こそは女好きと噂の高い彼に仕えるのを躊躇われたモノだが、侍女として仕える間に如何しても彼へ惹かれていく自身がいる事に彼女は気付いてしまった。
 身分的に決して釣り合わない事もなくはないが、クリスはそんなマルティナの淡い恋心等気付かず後宮を開き、そして彼女の目の前で次々と新しい愛妾を入宮させる。
 どの愛妾達もマルティナより身分は劣る、けれどもそんな彼女達は確実にクリスより寵を受けている。
 おまけに子供まで誕生した。

 許せなかったっっ!!

 ただ単純に許せなかった。
 クリスがマルティナに向けてくれるモノは笑顔と侍女としての信頼のみ。
 決して愛情と言う慾ではない。
 何時も顔を合わせると爽やかな笑みを向けてくれる。
 最初はそれだけで十分だったのに、如何して人間とはそれだけで満たされず次から次へと貪欲になってしまうのだろう。
 マルティナのささやかな胸に抱いた小さな黒いしこりは、少しずつ時間を懸けて成長していく。
 そんな時だった。
 悪魔の囁きがマルティナの耳に届いたのは……。
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