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小話 子供の宮が出来た理由
4 狙われた子供達 Ⅳ
しおりを挟む『――――邪魔者を消し去りなさい』
マルティナの耳に囁かれたものは、酷く甘美な漆黒に包まれた闇への誘い。
『お前は幸せになりたくはないの?』
「あ……ぅぁ……」
『邪魔者がいなくなれば、彼はお前にまた微笑んでくれるわよ。彼が欲しいのなら――――』
お前自身が動きなさい。
マルティナはの心へ一滴の真っ黒なインクが隅々まで滲み込んでいく。
まるで操り人形の様にマルティナの身体は動く。
クリスに腕を掴まれる瞬間まで……。
お前には失望したマルティナ……。
そんなマルティナに待っていたのは恋い慕う者より囁かれるだろう愛の言葉ではなく、瞬く間に凍りついてしまいそうなくらい軽蔑と決別を込めた青灰色の瞳。
終わった――――。
全て終わってしまった。
クリスに見限られ、ショックの隠せないマルティナに待っているのは、尋問と裁判……これでも伯爵家の人間。
形ばかりにしかならないだろうが、裁判を受けた後に処刑されるのは間違いない。
当然今のマルティナの打ちひしがれた心には、彼女だけでなく彼女の生家でもある伯爵家の取り潰しに領地没収、それは一族郎党にまで及ぶ事だろう。
幾ら王位継承権がないとされてはいても子供達はクリスの子。
このブランカフォルトの国王の血を受け継ぐ者なのだから……。
愕然と崩れる様に座り込むマルティナに残されたのは……。
『――――楽になりなさいな』
騎士達によって引き立てられようとしたほんの数十秒。
そう、それだけで十分。
マルティナはだらりと力なく前傾姿勢で座り込んでいた所為なのか、周りの者はしっかり見えていなかったのだろう。
彼女の前にはクリスがいたけれども、彼の心は背後で苦しんでいる王女へと向かっている。
それに気を許していたのかもしれない。
何故ならマルティナの2、3m後ろには彼女を捕え様と数人の騎士達が近寄って来ていた。
だからそこに生じたほんの一瞬の隙にマルティナは奥歯に仕込んでいたモノを力一杯噛み締めた。
両腕を騎士達に掴まれ立ち上がったと同時に、マルティナはゴボォっと大量の血を吐き出し、口腔内から胃に続くまでの間が焼ける様に熱く何十何千本の針で一斉に突かれる様な激痛が走り、緑色の瞳からも血なのか、それとも涙に血が混じったのかは定かではないけれども、死を迎えるその瞬間までマルティナは静かにクリスを見つめ続けた。
クリスがマルティナへ何度も真相を話すよう諭したのだが、死に逝く彼女は最早声を発する事が困難だったのか、何も語らずそのまま死へと旅立った。
それから間もなく第一王女アンティアは聖魔導師による治療を受けて無事に回復する。
また今回自決したマルティナの部屋より数種類の毒草が発見される。
侍医達の調べによりそれはどれもぺリグレスとアンティアへ使用されたものと一致した。
しかし気になる事が一つ――――。
それはどの薬草も高価だと言う事。
そして最期マルティナが使用したクレアス草の根に至っては我が国では入手困難とされる希少種。
一伯爵家、しかもその娘に果たしてそれ程の高価なものを取り揃える事が出来るのだろうか。
そもそも薬学の知識すらマルティナにはなかったと、後の調べで分かった。
またわかった事はそれだけではない。
この一年と半年にかけてある者がマルティナを個人的に呼び寄せていた事がわかった。
その者は言わずと知れた愛妾1号アデイラード。
子爵令嬢であり公爵家の後ろ盾のあるアデイラードには、国王であるクリスでさえ無碍に扱う事は出来ない存在。
またクリスが問いただした所で、アデイラードは蠱惑的な笑みを湛えるだけで何も知らないと言うだろう。
そしてこれ以上捜査を続ければ必ず犠牲者が出るだけ。
悔しいがクリスはブランカフォルトの王である筈なのに、まだこの国の全ての実権を掌握出来ていない。
それ故に歯がゆい。
だが何も講じなければまた幼い者が襲われてしまう。
そうして新たに作られたのが侍医長が進言していた子供だけの宮。
クリスが心より信頼出来るもの。
子供達の母親。
そしてそれ以外の入宮は何人たりとも覆す事はない。
例外はクリスと同じ立場を有する者のみ。
それ以来子供達は原因不明の病……毒を盛られる事や、また転落転倒等事故を装った襲撃もなく安全に過ごす事となる。
アレクサが子供達を護る為の宮へ赴く様になるのは、約一年と半年先の事である。
Fine
*何時も読んで下さりありがとです^^
これは本編で書いてみたのですがやや長くなりましたので、小話として分けさせて頂きました。
それから母の脳生検の手術も無事終わり、今週あたり検査の結果が出そうです。
さて、脳炎なのか、細菌感染なのか、それとも脳腫瘍……何れにしても
なる様にしかないですよ。
どんな病気でも何があっても家族ですからね。
そんな訳で更新出来る限り頑張りますので、これからも宜しくお願いします。
雪乃
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