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第一話  白い結婚と眠り死病

12 閑話  筆頭侍女ベアの心の日記???  Ⅱ

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 まあ父にしてみれば世間で揉まれる事により我儘娘も少しは大人しくなるだろう。
 そうして大人しくなっただろう私に、抵抗する間も与えず親の決めた男性と結婚へ踏み切らせようとでも考えたのでしょうね。
 本当に我が父かと疑いたくなるくらい阿呆ぶりですけれど――――。
 ところがどっこいです。
 私はその場で小躍りしたくなるのを必死で我慢し、そこは深窓の令嬢らしく両親の命令を有難く受け入れました。

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 しかしです。
 伺候するまでは大人しく聞き訳の良い娘を演じておりましたがっ、一度宮殿へ侍女と上がれば……もうこちらのものです!!
 ふふふ、親が帰って来いと命じても、この私が素直に帰る訳がないでしょう!!
 何としても居座ってみせますっっ。
 恋しい御方のお傍にいられるのならばこのベアトリス・コリーン・オルコット、多少阿漕あこぎな真似を致しましても絶対にアレクサ様のお傍より一歩も退きません事よ。

 こうして両親の目論見に上手く乗っかり、侍女となった私はアレクサ様と再び宮殿で再会したのです。
 そしてアレクサ様はそんな私を見て優しげに微笑まれ――――。

「まぁ、

 はううぅぅぅぅ……っっ!?
 こ、光栄にも覚えて頂いていたのですっっ!!
 あぁもう決してっ、そう決して私は貴女様のお傍を離れる事は致しませんっっ。
 この先アレクサ様がどの様な所へ行かれるにしろ、私は決してお傍を離れる事はないでしょう。
 たとええ両親と訣別してもですっっ。
 それ程に私の意思は堅いのです!!

 ですがその6年後まさか隣国ブランカフォルトへ輿入れされるとは夢にも思いませんでしたけれどね。
 しかし何があっても私はアレクサ様の味方です。
 私にとってアレクサ様と言う存在は世界樹にいらっしゃるという精霊様、そして勇者様と同等もしくはそれ以上なのです。
 また侍女になった利点の一つ、アレクサ様の素顔を知る数少ない人間となりました。
 私の幸せとは、そんなアレクサ様のお顔を何時までも見つめていたい……ただそれだけなのです。
 ただ……最近私にとって不幸な出来事がありました。
 そう、それは女性の私には到底出来ないもの。
 そしてぜーったいに認めたくないモノ!!

 クリス・レヴァン・ヘラクレス・ブランケル。

 皆様のご存じの通りこのブランカフォルト王国の王であり、私個人としては決して認めたくないのですが、公的にも認められた我が敬愛するアレクサ様の御夫君であり私の永遠の恋敵ライバル

 今でも忘れはしません。
 あれは三年半前の眠り死病スリーピング・デスでの事。
 アレクサ様が第一王子ぺリグレス様の治療を終えたと同時に魔力を枯渇された時――――。
 あいつはそう、クリス・レヴァン・ヘラクレス・ブランケルは丁度っ、まあ本当に偶然なのかそれとも故意なのかっ、アレクサ様が意識を失われた瞬間ぺリグレス様のお部屋に姿を現しましたのっっ。
 そうして倒れかけられたアレクサ様へ誰よりもっ、えぇ私よりも逸早いちはやくお傍に行きあろう事か我が皇女ひめ様のお身体をその汚らわしい腕で抱きとめてしまいましたわっっ!!
 当然私はその場で抗議を致しましたわよ。
 当たり前の事です、私の大切な命よりも大切な御方ですもの。
 な、なのにあいつは〰〰〰〰っっ!?

『我が妃を腕に抱いて何が悪い、侍女のお前に何も言う資格はないだろうそれに――――我が妃の部屋まで華奢なお前がどの様にして安全に彼女を運ぶと言うのだ? 転移魔法を行使するとは言え彼女を抱く事も出来ぬお前に、大切な妃を任せる事は出来ない』
『〰〰〰〰』

 そう言ってアレクサ様を誰よりも大切で愛おしそうな眼差しで見つめると、何も言い返せない私より回復薬ポーションを素早く奪い取り――――っっ!?
 め、目の前でっ、私の目の前であいつは回復薬を一気に飲み干しいいえ口に含むと、あの形の良い艶やかでぷるんとした美味しそうな桜桃さくらんぼの唇へ、自身の唇をそっと重ねたのですっっ。
 唇を重ねた理由は分かりたくないけれど頭ではわかっているのです。
 意識を失われたアレクサ様がご自身で回復薬を飲める訳がないのですから……。
 それに魔力を枯渇されているのです。
 一刻も早く回復薬をアレクサ様にお飲ませするのもわかってい入るのです。
 わかってはいるのですが――――。

 その役目は私が何としてもしたかった〰〰〰〰っっ!!

 あいつもそれがわかっているのでしょう。
 私が侍女と言う御役目以上にアレクサ様へ心酔している事に!!
 だからこそ回復薬をくっ、口移しでアレクサ様へお飲ませした後、あいつは色気駄々漏れでしかも挑戦的な表情で私を見ましたよ。

 !!

 ――――的な表情かおでね。
 おまけに私よりも豊富な魔力を有しているにも拘らずにですっっ。
 アレクサ様を抱いたまま転移魔法を遣わず子供の宮より遠く離れたお部屋まで、ゆっくりとその喜びを噛み締める様に歩いて行きましたわ。
 勿論私もですが護衛の騎士もお傍より離れはしません。
 当然ですもの!!
 でも私もわかっていますの。
 アレクサ様とあいつはいまだに白い結婚。
 最初こそですが私もアレクサ様同様、あいつは女性にだらしのない愚王だと。
 まあアレクサ様は今もそう信じておられますけれどもね。
 ですがこの四年もの間侍女として王宮で動いていればおのずとわかります。
 
 噂はあくまでも噂なのだと。
 そしてあいつはアレクサ様へ懸想している事を……。
 
 でもだからなんなのです。
 色々なしがらみで身動き出来ず、想いを寄せる女性へこれも一種の不実ですよね。
 その点私は一途ですわ。
 絶対にブレたりなんてしません!!
 精々苦しむといいのです。
 私からアレクサ様を奪おうとするのですもの。
 
 あぁ最後に、私の心の中では陛下は……で十分なのですが、これでも私は優秀な侍女なのです。
 声に出す時はちゃんと『』と呼んでいますわよ。
 では、これからも覚悟なさいませ陛下。
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