追放された魔法使いの巻き込まれ旅

ゆり

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閑話 まどろみのなかであえたなら

つぐないのひび (メルオンside)


メルオンが久しぶりの登場なので、見た目を書いておきます。

緑の瞳に赤紫色の髪を七三で分け、右側の前髪がでてます(伝われ)。歳は17でクレアたちより歳上です(身長はファルに負けてますが………)。

──────────────────










キンッ

カァンッ


空模様は変わることがなく、しんしんと雪の降るグラント公国。
夕方に差し掛かった時間帯、公爵家の訓練場で、僕とファルは剣を交えていた。

とはいえ、勝負はもうついていると言ってもおかしくない。


ガキンッ!


真剣から聞こえるはずのない何かが崩れる音が聞こえて、お互いに止まった。

僕の剣の刃が欠けたのだ。
簡単なことでは欠けない魔法石でできた剣も、ファルとの打ち合いでこぼれることが多い。
僕の剣の扱い方が悪いのだろう。公爵家のものとはいえ、これで壊れるのは今月でもう3本目だ。

「………はぁ、ファルは強すぎるんだ」

僕は折れた剣を地面に放って、座り込んだ。
僕だけだと思っていたけどファルも息を切らしていたみたいで、隣に座ったファルは気持ちよさそうな汗を流しながら笑った。

「まだまだ、だけどな」

ファルはそう言って自分の剣を見て少し手入れをした。

この時間は、僕がファルの補佐官になると決まってからずっと続いている。
もともとはファルの父親である公爵様による剣術の時間だったが、ある程度ファルが強くなって「自分で学ぶこと」を名目とされてからは僕たちふたりの時間になった。

ファルが後継者として正式に発表された3年前あたりから、僕は補佐官らしい言動をするように父上に言われた。
この時間を除いて、僕はしっかりと補佐官らしく働いているし、ファルも後継者として公爵様と仕事をしている。

だから、この時間だけは僕とファルが周りを気にせずに、一人称もファルの呼び方も戻して一緒にいられる時間になっている。
きっと、公爵様もそんな意図ももってこの時間を与えたのだと思っている。
ファルも多分それをわかっているから、気のおけない僕との剣術の鍛錬を怠らない。
表情からして、ちゃんと息抜きにはなっているとわかるけど、もっと他にないのかとたまに心配になる。

「もっと剣術の授業を真面目に受ければよかったなぁ……」

ぼんやりと雪の降る空を見上げながら呟くと、ファルはちょっと馬鹿にしたみたいに笑った。

「本の虫だもんな、今も昔も。真面目に受けても、家系的にあんまり期待できない気がするけど……」
「ひどいこと言わないでよ。僕だってやればできるんだから」
「ははっ、それは悪うございました」
「もう……」

僕の呟きを拾えばすぐにいじってくるのは昔から変わらない。
ファルはふざけた調子で笑った。
事実だから何も反論できないのもまた悔しいから、口を尖らせるしかない。

確かに僕の家は代々公爵家の補佐官を務める家だから、どちらかと言えば……いや確実に騎士家系ではない。
家族全員が本の虫だから、無駄に知識が多い。父上も昔公爵様と剣術を共に学んでいたそうだが、嫌々やっていた上にまったくできず筋肉もつかなかったという。
その遺伝子を継いだのだから、同じように僕もできなかったんだと思う。
今もファルの剣を受けるのが精一杯で、たまに攻撃を仕掛けるくらいしかできなかった。

それでもいいから一緒にやろう、と言ってくれるファルに僕はずっと付き合っている。
嫌だと思うときもたまに……よくあるけど、昔あった一件で僕はずっと付き合っている。


昔、5年前。公爵家にやってきた歳下の女の子の『シャルア』という子。
その子が来たはじめのころ、公爵夫人をはじめとする公爵家の一部の人が『シャルア』につきっきりとなって、ファルの性格が変わってしまったことがあった。
僕も『シャルア』に構っていた一人で、あのころは無理やり体を動かすことをさせてくるファルが嫌いだったせいで、ファルの変化に気づくのが遅かった。
僕と『シャルア』に鉢合わせたファルが自分の気持ちを叫ぶまで、気づけなかった。


『父上との稽古も、母上とのティータイムも、メルオンとの追いかけっこも!
俺がしたかったこと全部!できなくなって………………。
全部、ぜんぶ、俺が欲しかったもの、なんでお前が持ってくんだよ…………』

『お前なんて─────どっか行っちゃえ!』


あのときの悲痛な叫びと、公爵夫人がファルを叩いたのを見聞きしたときの衝撃は、今も残っている。
無理をして笑って、迷惑をかけないようにしていたファルが決壊した瞬間に居合わせて、何もできなかったし、知らなかった。
家に帰ったら父上にこっぴどく叱られたことも覚えている。あの説教には感謝している。
遅すぎたけど、変わろうと努力する決心ができたから。

我慢せざるを得なかったファルがもう我慢しなくていいように、僕の前だけでも落ち着けるように、背中を預けてくれるように、頑張ろうと思った。
それから僕はファルの誘いはどんなに嫌でも断っていない。

償いを抜きにしても、ファルといるのは今や楽しい以外の気持ちはないけれど、ファルが知ったらまた我慢してしまいそうだから言っていない。
まだ公爵夫人へ我慢しているときがある。この間も少しあったようだけど、僕でさえ干渉を許されないから何もできない。
だから、何もできないなりにこれ以上の我慢を強いることのないようにしないといけない。

ファルには元気でいてほしい。
主人に仕える補佐官としてはそうだけど、一番は友達としてそう思っているから。


「剣術といえば、メルオンより下手なのがいるからな。それに比べれば全然ひどくない」
「…………ちょっと、僕と『シャルア』を比べるわけ?」

ファルが思い出し笑いをしながらそんなことを言うから、誰のことかすぐにわかった。
『シャルア』は……僕から見ても剣術がからっきしだった。
もともと体力や筋肉がないというのもそうだけど、あれは酷かった。
公爵様でさえ頭を抱えるくらいだった。

さすがに不服で僕がじとっとファルを睨むと、ファルは「ごめん」と笑いながら謝ってきた。

「ちょっと思い出したから言っただけで、メルオンのがまだできるから、な?」
「ご機嫌取りしなくていいってば」

ひと笑いして満足したのか、それとも僕が拗ねているからか、ファルはさっと立ち上がって「よし」と言った。

「メルオン、もう一戦だ」
「………え、本気で言ってる?」

急な提案に僕はげんなりした顔を見せた。
ファルは僕を立ち上がらせて僕の遠回しの拒否を受け付けなかった。

「やればできるんだろ?」

その言葉に、僕は何も言えなくなった。
さっき軽く言った言葉を悪用されてしまった。
こんなことになるなら言わなきゃよかったと、今さら後悔する。……まぁどっちにしてもファルの提案を断ることなんてしないけど。

「……あとで筋肉痛になったらマッサージして」
「はいはい、任されました~」

ファルは調子のいい返事をして僕に新しい剣を渡してくれた。




キンッ
カァンッ

受けてはいなすの繰り返しで、少しじれったい。
息も絶え絶えだけれど、少し仕掛けようか。

ガッ

僕からの攻撃に、ファルは血に飢えた獣のように喜びの表情を見せた。
敵だったら喰われそうなくらいの迫力だ。

ギギギ………

互いの剣が長い間拮抗する。
ファルも押してくるし、僕も負けじと押し返す。

カァンッ!

しかし、隙をみつけたファルによって僕は姿勢を崩すことになった。
その拍子で拮抗した剣が離れ、互いの距離も離れる。
ファルも少し息を乱しているのか、白い息が少し短めに多く出てきている。

息を整えつつ近づいてくるファルに、僕は後ずさって同じように息を整える。
しん、とする訓練場に雪が降り続ける。
お互いが攻め時を狙っている。

ザッ!

やがて緊張は最高潮に達して、ファルがその沈黙を破るように地面を蹴って突撃してきた。
その勢いある走りと一発で仕留める蛇のような剣の鋭さに、受けるしかないと判断して、その準備をした。





キィィィィィン




「………あっ、」

しかし次の瞬間、酷く鋭い耳鳴りに襲われて僕は立っていられなくなった。
剣が音を立てて地面に落ちた気がするけど、それすらわからないくらい耳がおかしくなる。

僕が片膝をついたのを見てファルも気づいたようで、僕を誤って傷つけないように剣を横に投げて駆け寄ってきた。

「メルオン、大丈夫か?
………いつものやつか?」

ファルは僕を自分の体に寄りかからせて、心配そうに頭に手を置いてきた。
少しずつ治まってきた耳鳴りで頭を押さえていたからだろう。
熱がないことを確認すると、ファルはすぐに訓練場を片付けて談話室に移動した。
その間に気分もよくなって、談話室でソファに横になるころにはファルにお礼を言えるくらいまで戻ってきていた。

僕の耳鳴りは、僕の家系に伝わる『共鳴』という能力に由来している。
『共鳴』は特定の土地の自然や動物の強い声を受け取る能力で、異常があったときにとても便利な能力だ。広大な土地をもつグラントで遠方の報告を待たずして対処に移ることができる。しかし、大抵が一方通行の声を受け取るために負担が大きい。
僕は家系の中でも能力が強くて、何度も体調を崩したことがある。

だるい体を何とか起こしてファルの手を握りながら言葉を紡ぐ。

「ファル、フューエク山に何か落ちたんだ。
騒ぎ方からして人かもしれない………」
「この時期に、あそこに人が……」

横に座ったファルに教えると、ファルはひとつため息をついた。

フューエク山は魔物の巣窟だ。同時に魔法石がたくさん採掘できる場所でもある。
しかし冬のこの時期は特に魔物が血気盛んになるため、結界を張って許可なく立ち入ることを禁じている。
だから入れるはずがないフューエク山に人が落ちたとは考えられない。けど、今もなお聞こえてくるあの山に住む自然や動物の声の中に何度か『人間』という単語が聞こえる。
人型の魔物はここの地域では出ないから、間違いでもない限り人が空から落ちてきたことになる。

季節はまだ冬だ。しかも深まってきたころだ。
魔物に襲われてしまったら最後。
早く助けに行かないといけない。

僕が無意識にファルの手を握る力を強くすると、どうしてほしいのか察していたファルは「……わかった」と険しい表情で決断した。
多分いろんな対策が頭の中を巡っていたのだろう。本来ならこういう緊急事態には、いつも僕の転移魔法で飛んで行くけど、当の僕がダウンしているから他の策を考えてくれていたのかもしれない。
でも、僕の焦る様子から早急に進める必要性を感じたようだ。どんな策でも、ファルの補佐官であり親友の僕が転移魔法を使う以上に速いものはないから。

ファルは僕の両手を持ってゆっくり立たせると、倒れないように支えてくれた。
肩を叩いてそこまでではないことを伝えると、少しだけ補助が緩んだ。
僕たちは周りを確認してフューエク山に転移した。




















そして、そこで『シャルア』と12人の子どもたちを見つけることになる。
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