とりかえっこ

茶歩

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第4話『現実的な話』

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高梨のブツは、意外にも触り心地は悪くなかった。
ていうか大きい。これは普通なのかな?
幼い頃は普通にお父さんとお風呂に入ってたけど、もう何年も前のこと。一般的な息子のサイズ感なんて分からない。

けど、私の股に居座るふてぶてしいこのブツを、私は大きいと感じた。

それはそうと、ほんの少しだけ竿の部分をフニフニと触っただけなのになんだか芯が硬くなってきた気がする。

‥‥え、やばくない?これ。
え、え?なんか起きあがってきたんですけど。

こ、これは‥俗に言う勃起というやつですか‥?


サーっと血の気が引くのを感じて、顔を上げ始めたブツから目を背けた。とりあえずシャワーを出して、頭からお湯をかぶってみる。冷静を取り戻そうと頭を洗い始めるけど、シャンプーの容器を倒してしまったり、泡が目に入ったりと動揺が顕著に現れた。


「やばいやばいやばいやばい‥」


念仏のように「やばい」を繰り返す。心臓の音も同じくらいの早さで胸を打ち付け続けた。
意識しないようにしているはずだけど、嫌でも神経が股に集中してしまう。高梨のブツが熱を持ってそそり勃ってしまうまでに、そう時間はかからなかった。

顔を上げ始めたさっきまでとは形がまるで違う。

雄々しくて、禍々しくて、凶暴だ。目と目が合う。いや、この凶暴なブツに目なんて付いていないけど。


「ひぃぃ!最終形態‥!」


こんな恐ろしいバナナがこの世にあるのだろうか。
嫌だもう本当にお嫁に行けないよっ!もう泣けてくる!

どうすりゃ収まってくれるのよこれっ!


「し、鎮まれ‥鎮まれ‥」


ハンドパワーなんて信じたことない筈なのに、ブツに向かって手のひらを翳す。
やっぱり無理だ、1ミリも元に戻らない。

とにかく少し時間を置いてみようと途中だった洗髪を再開し、体や顔も洗った。

その最中に脳内で繰り返されるのは高梨の言葉。
すぐ勃つとか言ってたっけなぁ‥でもこんなにもすぐに勃つの‥?
いや意識はしちゃってたけどさ、フニフニって触っただけだよ‥?

さすが変態高梨の息子だ‥。

そして、なんと言っても私はやっぱり女の子。
この体つきに凶暴なバナナは似合わなすぎる。

でもこれが高梨についてたら‥?
うん‥ガタイのいい高梨にはお似合いのバナナなんだろう。

‥そういえばアイツ腹筋割れてたなぁ。
‥って今はそんなことどうでもいいんだけど。


‥なんだったんだろう。あの洗い合いっこ。
そっと耳に手を当てる。高梨から受けた刺激を思い出して体が疼いた。

アイツ、私の耳に何したんだろう‥。
あの時の感覚が蘇ってきて、やたらと頬が紅潮してしまう。
いつもの私なら、おそらく泣け叫びながら金的を食らわしてしまうほどに怒り狂ってもおかしくない。
だけど、不思議と受け入れてしまっていた。いや、あの思考回路がストップしていた場面では受け入れるしかなかった。

ところがどうだ。
時間が経った今でも、不思議なことに嫌悪感はない。


可愛いとか、エロいとか言ってなかった‥?
なんなの可愛いとかって。アイツの口から聞いたことない言葉だよ。アイツの頭の辞書にそんな言葉があったなんて驚きだ。


「夢、あんたも早く寝なさいよー
お母さん達はもう寝るからね」


「!!」


脱衣所の扉の隙間からこちらに呼びかけてきたのはお母さんだ。
思わず全身が強張った。年頃の娘であれど、仲の良い親子。万が一お風呂の扉を開けられてしまったら一巻の終わりだ。


「‥う、うん!おやすみ」


磨りガラスの向こうに滲む母の姿がこのまま消えることをただただ願う。


「はーい、おやすみ」


そう言って、磨りガラスの向こうの影は姿を消した。
‥ほっ‥‥。危なかった‥本当危なかった‥。


こんなものが生えているのを見られたら、きっとお母さん倒れちゃうもん。


そう思いながらバナナに視線をやると、なんとバナナは首を垂れていた。明らかに元気がない‥もしかして、さっきお母さんに驚いたおかげで‥?

ーーーーありがとう、お母さん!!




お風呂から上がり、部屋に戻る。
スマホを開くと、高梨からの不在着信があった。

どうやら掛け直してくれていたらしい。


ベッドに座り込み、高梨に電話を掛けた。


『‥‥もしもし』


電話越しに高梨の声を聞くのは初めてだ。
変に耳が疼いたことに気が付かないふりをして、私はいつもどおりの憎たらしい態度を取ることにした。


「ねぇ、どうしてまた戻っちゃったの?!」


『‥知らねーよ、俺に聞くな』


「なんかきっかけがあるのかな‥?
ていうか、もうアレだよね?‥見たよね?」


『仕方ねーだろそれはもう。風呂とかトイレとかあるし。
お前も見たんだろ?』


そう、私は見るどころか触ってしまった‥。
しかもそれどころか大きく‥


「まぁ、うん‥」


『‥夏休み中に見つけるぞ』


「へ‥?」


『元に戻る方法だよ。
学校始まったら厄介すぎるだろ』


「あぁ‥!いや、でも‥一刻も早く戻って欲しいよ‥!
明日もバイトあるし‥」


私のバイト先はスカートが短いカフェ。
怪しいお店ではないし、どちらかといえば可愛いを求める若い女性客が多いお店。店内の装飾やコンセプトも若い女性向け。

でも、だからこそ‥
もしも、ごくごく稀にスカートの中が見えてしまったら‥


『厄介だな』


「本当だよ‥
多分近々生理くるし」


『‥え』


どういう原理で取り替えっこされているのか、取り替えっこ状態でも生理が来るのか‥何もかも分からない。

できれば夏休み中に元に戻りたい‥
できれば今すぐにでも元に戻りたい‥。

どうしたら元に戻るのかも分からないまま、私たちの時間は流れていく。


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