69 / 76
第67話
しおりを挟むギルの部屋には、周囲を警戒するヴィンスと首を押さえながら青い顔をしているアイナがいた。
「首でも刎ねられたのか?」
「ナイフで貫通されたの。‥木偶でも生々しくて」
数日前にベットでギルさんに魔法の話を教わった時に、身代わり人形になる木偶の作り方も教えてもらった。
今日は木偶を使えとギルさんに言われて、初めて挑戦してみたのだった。
木偶を簡単に説明すると、魔法で木偶(木製の人形)を作り出し、自分の髪の毛を木偶に巻きつけて魔法をかけると術者そっくりの身代わり人形ができる。身代わり人形に起こった出来事はそのまま術者に引き継げるけど、身代わり人形は見た目が左右逆になってしまうという唯一の欠点もあった。
私の場合は眼帯の位置でバレてしまう可能性もあるから極力使えない。だから木偶を使わなくてもいいように、ギルさんは可能な限り側にいてくれたのだった。
大臣補佐に木偶をついて行かせて、私はギルさんの部屋に隠れながら篭り、その私の警護としてヴィンスが側にいた。
「それにしてもやっぱり狙われてたんだ」
私がそう言うと、ヴィンスは笑った。
「まぁそうだろうな。
で、大臣補佐が主犯だったのか?」
「いや、会合の人たちみんなだって」
「そうか。じゃあ一掃できるな」
そう言ってヴィンスが魔法で赤い蝶々を作り出し、ギルさんの元に送ったのだった。
*
会合に使われていた部屋は血に染まり、ギルもまた返り血を浴びていた。ギルの白い陶器のような肌に、鮮血がやけに映える。
ギルはその場にいた王宮騎士達以外の全ての人たちが生き絶えたことを確認すると、早々に部屋を出た。
そして自室にいる筈のアイナの元へと急ぐ。
殺されたのが木偶であり、本人が無事な事などは勿論分かってる。だけどアイナを一目見なくては落ち着かない。
「ギ、ギル大公‥?!そのお姿は‥?!」
王宮内の廊下にて、大臣補佐とその従者に遭遇した。
実際にアイナの木偶に手を掛けたのは恐らくこの男達。だけど怒りよりも、アイナに会いたいという気持ちの方が優っていた。
「‥‥え?」
返り血まみれのギルの姿に驚く大臣補佐の首は、大臣補佐本人も気付かないうちに足元に転がり落ちた。続いて、異常事態に慄く従者の心臓もギルの刀は簡単に貫いてしまった。
ギルは一言も溢さなかった。そんな時間すら惜しいのだ。
気付かない間に、こんなにもアイナを想っていたことに驚きつつも、アイナと離れたこの時間が堪らなく不安になり、苦しく思う。
アイナの命が狙われることは早々に分かっていたから、寝る時も共に過ごしていた。強がっていたけど勿論眠れるわけもなく、毎日クマができた。だけどそれでも懲りずに側にいたいと思う。
ーーこんなにも重たい気持ちを他人に抱くなんて。
見返りが欲しいわけじゃない。ただただ、愛しい。
自室の扉を思いっきり開くと、そこには目を丸くしたアイナとヴィンスがいた。
「アイナ!!」
「ギルさん‥血が‥」
「あ、あぁ‥本当だ。ははっ‥‥」
ギルはこの時やっと自分の姿に気が付いた。
「なに笑ってるんですか‥?」
「いやぁ、周りが見えてなさすぎた」
「ふふっ」
こんな2人のやりとりを、ヴィンスは呆れながら眺めている。
2人の関係性がもどかしく思えてたのに、周囲はもう慣れてしまっていた。
アイナもきっと恋心を抱いている。忠誠心を誓いたいが故にその気持ちを認めようとしていないが、きっとギルに抱く気持ちはとうの昔に忠誠心のみではなかった筈だ。
ギルは自分が求めれば、アイナは『恩返し!』とでも思って首を縦に振ると思っている。強制的に彼女を手に入れるのは嫌だった。
ただアイナは今でも忠誠!と理性で気持ちを押さえ込んでいる上に、立場的にも素直な気持ちを伝えて良いとは思っていない。
故に、このままでは2人はくっつかない‥。
0
あなたにおすすめの小説
私が王子との結婚式の日に、妹に毒を盛られ、公衆の面前で辱められた。でも今、私は時を戻し、運命を変えに来た。
MayonakaTsuki
恋愛
王子との結婚式の日、私は最も信頼していた人物――自分の妹――に裏切られた。毒を盛られ、公開の場で辱められ、未来の王に拒絶され、私の人生は血と侮辱の中でそこで終わったかのように思えた。しかし、死が私を迎えたとき、不可能なことが起きた――私は同じ回廊で、祭壇の前で目を覚まし、あらゆる涙、嘘、そして一撃の記憶をそのまま覚えていた。今、二度目のチャンスを得た私は、ただ一つの使命を持つ――真実を突き止め、奪われたものを取り戻し、私を破滅させた者たちにその代償を払わせる。もはや、何も以前のままではない。何も許されない。
【完結】使えない令嬢として一家から追放されたけど、あまりにも領民からの信頼が厚かったので逆転してざまぁしちゃいます
腕押のれん
ファンタジー
アメリスはマハス公国の八大領主の一つであるロナデシア家の三姉妹の次女として生まれるが、頭脳明晰な長女と愛想の上手い三女と比較されて母親から疎まれており、ついに追放されてしまう。しかしアメリスは取り柄のない自分にもできることをしなければならないという一心で領民たちに対し援助を熱心に行っていたので、領民からは非常に好かれていた。そのため追放された後に他国に置き去りにされてしまうものの、偶然以前助けたマハス公国出身のヨーデルと出会い助けられる。ここから彼女の逆転人生が始まっていくのであった!
私が死ぬまでには完結させます。
追記:最後まで書き終わったので、ここからはペース上げて投稿します。
追記2:ひとまず完結しました!
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
妻からの手紙~18年の後悔を添えて~
Mio
ファンタジー
妻から手紙が来た。
妻が死んで18年目の今日。
息子の誕生日。
「お誕生日おめでとう、ルカ!愛してるわ。エミリア・シェラード」
息子は…17年前に死んだ。
手紙はもう一通あった。
俺はその手紙を読んで、一生分の後悔をした。
------------------------------
(完結)醜くなった花嫁の末路「どうぞ、お笑いください。元旦那様」
音爽(ネソウ)
ファンタジー
容姿が気に入らないと白い結婚を強いられた妻。
本邸から追い出されはしなかったが、夫は離れに愛人を囲い顔さえ見せない。
しかし、3年と待たず離縁が決定する事態に。そして元夫の家は……。
*6月18日HOTランキング入りしました、ありがとうございます。
クラス最底辺の俺、ステータス成長で資産も身長も筋力も伸びて逆転無双
四郎
ファンタジー
クラスで最底辺――。
「笑いもの」として過ごしてきた佐久間陽斗の人生は、ただの屈辱の連続だった。
教室では見下され、存在するだけで嘲笑の対象。
友達もなく、未来への希望もない。
そんな彼が、ある日を境にすべてを変えていく。
突如として芽生えた“成長システム”。
努力を積み重ねるたびに、陽斗のステータスは確実に伸びていく。
筋力、耐久、知力、魅力――そして、普通ならあり得ない「資産」までも。
昨日まで最底辺だったはずの少年が、今日には同級生を超え、やがて街でさえ無視できない存在へと変貌していく。
「なんであいつが……?」
「昨日まで笑いものだったはずだろ!」
周囲の態度は一変し、軽蔑から驚愕へ、やがて羨望と畏怖へ。
陽斗は努力と成長で、己の居場所を切り拓き、誰も予想できなかった逆転劇を現実にしていく。
だが、これはただのサクセスストーリーではない。
嫉妬、裏切り、友情、そして恋愛――。
陽斗の成長は、同級生や教師たちの思惑をも巻き込み、やがて学校という小さな舞台を飛び越え、社会そのものに波紋を広げていく。
「笑われ続けた俺が、全てを変える番だ。」
かつて底辺だった少年が掴むのは、力か、富か、それとも――。
最底辺から始まる、資産も未来も手にする逆転無双ストーリー。
物語は、まだ始まったばかりだ。
お飾りの妻として嫁いだけど、不要な妻は出ていきます
菻莅❝りんり❞
ファンタジー
貴族らしい貴族の両親に、売られるように愛人を本邸に住まわせている其なりの爵位のある貴族に嫁いだ。
嫁ぎ先で私は、お飾りの妻として別棟に押し込まれ、使用人も付けてもらえず、初夜もなし。
「居なくていいなら、出ていこう」
この先結婚はできなくなるけど、このまま一生涯過ごすよりまし
愛された側妃と、愛されなかった正妃
編端みどり
恋愛
隣国から嫁いだ正妃は、夫に全く相手にされない。
夫が愛しているのは、美人で妖艶な側妃だけ。
連れて来た使用人はいつの間にか入れ替えられ、味方がいなくなり、全てを諦めていた正妃は、ある日側妃に子が産まれたと知った。自分の子として育てろと無茶振りをした国王と違い、産まれたばかりの赤ん坊は可愛らしかった。
正妃は、子育てを通じて強く逞しくなり、夫を切り捨てると決めた。
※カクヨムさんにも掲載中
※ 『※』があるところは、血の流れるシーンがあります
※センシティブな表現があります。血縁を重視している世界観のためです。このような考え方を肯定するものではありません。不快な表現があればご指摘下さい。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる