見世物少女、反乱します!《完》

茶歩

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第67話

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 ギルの部屋には、周囲を警戒するヴィンスと首を押さえながら青い顔をしているアイナがいた。

「首でも刎ねられたのか?」

「ナイフで貫通されたの。‥木偶でも生々しくて」

 数日前にベットでギルさんに魔法の話を教わった時に、身代わり人形になる木偶の作り方も教えてもらった。
 今日は木偶を使えとギルさんに言われて、初めて挑戦してみたのだった。

 木偶を簡単に説明すると、魔法で木偶(木製の人形)を作り出し、自分の髪の毛を木偶に巻きつけて魔法をかけると術者そっくりの身代わり人形ができる。身代わり人形に起こった出来事はそのまま術者に引き継げるけど、身代わり人形は見た目が左右逆になってしまうという唯一の欠点もあった。
 私の場合は眼帯の位置でバレてしまう可能性もあるから極力使えない。だから木偶を使わなくてもいいように、ギルさんは可能な限り側にいてくれたのだった。

 大臣補佐に木偶をついて行かせて、私はギルさんの部屋に隠れながら篭り、その私の警護としてヴィンスが側にいた。

「それにしてもやっぱり狙われてたんだ」

 私がそう言うと、ヴィンスは笑った。

「まぁそうだろうな。
で、大臣補佐が主犯だったのか?」

「いや、会合の人たちみんなだって」

「そうか。じゃあ一掃できるな」

 そう言ってヴィンスが魔法で赤い蝶々を作り出し、ギルさんの元に送ったのだった。



 会合に使われていた部屋は血に染まり、ギルもまた返り血を浴びていた。ギルの白い陶器のような肌に、鮮血がやけに映える。

 ギルはその場にいた王宮騎士達以外の全ての人たちが生き絶えたことを確認すると、早々に部屋を出た。

 そして自室にいる筈のアイナの元へと急ぐ。
殺されたのが木偶であり、本人が無事な事などは勿論分かってる。だけどアイナを一目見なくては落ち着かない。

「ギ、ギル大公‥?!そのお姿は‥?!」

 王宮内の廊下にて、大臣補佐とその従者に遭遇した。
実際にアイナの木偶に手を掛けたのは恐らくこの男達。だけど怒りよりも、アイナに会いたいという気持ちの方が優っていた。

「‥‥え?」

 返り血まみれのギルの姿に驚く大臣補佐の首は、大臣補佐本人も気付かないうちに足元に転がり落ちた。続いて、異常事態に慄く従者の心臓もギルの刀は簡単に貫いてしまった。
 ギルは一言も溢さなかった。そんな時間すら惜しいのだ。

 気付かない間に、こんなにもアイナを想っていたことに驚きつつも、アイナと離れたこの時間が堪らなく不安になり、苦しく思う。
 アイナの命が狙われることは早々に分かっていたから、寝る時も共に過ごしていた。強がっていたけど勿論眠れるわけもなく、毎日クマができた。だけどそれでも懲りずに側にいたいと思う。

ーーこんなにも重たい気持ちを他人に抱くなんて。
見返りが欲しいわけじゃない。ただただ、愛しい。

 自室の扉を思いっきり開くと、そこには目を丸くしたアイナとヴィンスがいた。

「アイナ!!」

「ギルさん‥血が‥」

「あ、あぁ‥本当だ。ははっ‥‥」

 ギルはこの時やっと自分の姿に気が付いた。

「なに笑ってるんですか‥?」

「いやぁ、周りが見えてなさすぎた」

「ふふっ」

 こんな2人のやりとりを、ヴィンスは呆れながら眺めている。
2人の関係性がもどかしく思えてたのに、周囲はもう慣れてしまっていた。

 アイナもきっと恋心を抱いている。忠誠心を誓いたいが故にその気持ちを認めようとしていないが、きっとギルに抱く気持ちはとうの昔に忠誠心のみではなかった筈だ。
 
 ギルは自分が求めれば、アイナは『恩返し!』とでも思って首を縦に振ると思っている。強制的に彼女を手に入れるのは嫌だった。
 ただアイナは今でも忠誠!と理性で気持ちを押さえ込んでいる上に、立場的にも素直な気持ちを伝えて良いとは思っていない。

 故に、このままでは2人はくっつかない‥。

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