魔法使いと魔の手鏡〜馬鹿にされ続けた下級魔法使いが突然超チート級上級魔法使いになった話〜

茶歩

文字の大きさ
5 / 16

第5話

しおりを挟む
   軋む木の椅子に腰をかけ、黙り込むお母さん。お父さんは、ヒビの入ったコーヒーカップを口元に近付けて、ゆっくりとコーヒーをひと口飲んだ。


「‥怒らないの?」


レベッカが口を窄ませながら2人に尋ねる。
お父さんとお母さんは、互いに目を見合わせて小さく笑った。


先程、家に着いた私たちは事の顛末を伝えて謝った。当初
お父さんは買ってきたばかりのパンが入った紙袋を落としていたし、お母さんは数秒呼吸が止まっていた。それぐらい、衝撃を受けていたはずだけど、何故か受け止めて落ち着きを取り戻している。



「‥どういう流れであれ、いつかこうなることはわかっていたよ。
‥私たちの味方は少ないし、この情勢だからね。真っ先に切られるのは私たちだから。例え今回のレベッカの件がなかったとしても、本当に些細なきっかけだけでも、いずれこうなってたはずだから」


お父さんが柔らかい表情を浮かべている。


「そうよ。それに、もしかしたら助かるかもしれない可能性もあるし‥。
‥まぁ、そうね。残された時間を家族4人で濃い時間にしましょう」



な、なんだか、地球滅亡の前夜のような、そんな空気感だ。
こんなにあっさりと、優しく微笑んで受け入れるくらい、2人にとっては覚悟ができていたということか。
生に執着がない、というかなんというか‥。

【カルマート家】の血筋のためになんとか生きていたって感じだ。
自分のため、ではなく。血筋のため。

その血筋のためにこんな目に合ってるのだから、もうなんと言っていいのかわからない。


ただ、運が悪かった。


それだけだ。



もし今回助かったとしても‥
カルマート家の血筋を絶やさないためには、どこかの魔法使いに婿に来てもらわないといけない。


魔法使いはみんな自分の家系に少なからずプライドを持っているし(カルマート家は除く)、その血筋を強くするためにも力のある魔法使いを生涯の伴侶に選びたがる。


‥私とレベッカを選んでくれる魔法使いなんて、この世にいるわけがない。いたらよっぽどのお人好しか、よっぽどの阿保だ。
魔法使いに興味のない人間なら、探せばどこかにいるかもしれないけど‥。その時点で、純粋な魔法使いのみのカルマート家の血に、人間の血が混ざってしまうことになる。
純粋な魔法使いのみの血であるにも関わらず、ただでさえ消え入りそうな魔力なのだ。人間の血が混ざれば魔力は消えてしまうかもしれない。



長い歴史も、いつかは終わる。
お父さんとお母さんは、その終わりの覚悟ができていたんだ。



「‥みんな死なないけど」



レベッカが、私たちの哀愁漂う空気にため息をつきながら言った。



「‥え?」


お父さんが目を丸くしている。
お母さんを見ると、お母さんの目も丸かった。

説明する気のないレベッカの代わりに、私が口を開く。


「ごめん、さっきの説明じゃ伝わってなかったと思うけど‥レベッカ、死相が見えるんだって」


「「え?!?!」」


「‥‥死相っていうか‥死期っていうか‥ね。
死因はわかんないけど、多分、病気とか事故とかに関わらず‥って感じ」


「ど、どうして教えてくれなかったのよレベッカ!!」


「さっきまで、みんな見えてるもんだと思ってたから」


「うっ‥うおおおおおっ」



突然、お父さんが泣き出した。
釣られてお母さんまでポロポロと涙を流し始めている。
レベッカは、そんな2人の様子にウンザリな表情を浮かべている。


「泣くとか気持ち悪いんだけど‥!!
言っとくけどコレ別に万能でもなんでもないから。考えてみると、見えるのって7日前からだから‥‥‥うちらは今のところ死なない予定だけど、明日になれば死相見えるかもしれないし」



つまり、7日前からのカウントダウンが分かるということか‥。
8日以降に死ぬかもしれないけど、それは今の時点ではわからない。
でも、少なくともあと7日は、こうして家族で過ごすことができるんだ‥。

やっぱりすごい能力だ。レベッカがこんなすごい能力を持ってるなんて、私としては凄く誇らしい。



「ううっ‥すごいぞレベッカ‥」


「そうよレベッカ‥特殊能力を持っているなんて‥」


「お父さんは嬉しいっっ!!
こんな血筋で申し訳なかったけど‥魔法使いにしか現れない特殊能力をレベッカが持ってる‥!うううっ、母さん‥私たちにもしっかり魔法使いの血が流れていたんだと‥実感できたなぁ‥‥」


「そうね‥もういつ死んだって、私は悔いはないわ」


「私もだよ、母さん。ありがとう、レベッカ。‥‥父さんは世界一の幸せ者だ」


「‥大袈裟でしょ、めんどくさっ」


レベッカの頬が少し赤い。
まんざらでもない様子だ。私たち家族が嬉し涙を流して喜ぶなんて、一度でもあっただろうか。


3人の姿に、私の瞳からもぽろっと一粒、涙がこぼれ落ちた。



あのリュウという貴族の男が‥どうか報復に来ませんように。
多くは望まないから‥どうかこの家族のひと時が、長く続いてくれますように‥‥



そう、心から祈った日だった。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

わたくしがお父様に疎まれている?いいえ、目に入れても痛くない程溺愛されております。

織り子
ファンタジー
王国貴族院の卒業記念パーティーの場で、大公家の令嬢ルクレツィア・アーヴェントは王太子エドワードから突然の婚約破棄を告げられる。 父であるアーヴェント大公に疎まれている―― 噂を知った王太子は、彼女を公衆の面前で侮辱する。

無能なので辞めさせていただきます!

サカキ カリイ
ファンタジー
ブラック商業ギルドにて、休みなく働き詰めだった自分。 マウントとる新人が入って来て、馬鹿にされだした。 えっ上司まで新人に同調してこちらに辞めろだって? 残業は無能の証拠、職務に時間が長くかかる分、 無駄に残業代払わせてるからお前を辞めさせたいって? はいはいわかりました。 辞めますよ。 退職後、困ったんですかね?さあ、知りませんねえ。 自分無能なんで、なんにもわかりませんから。 カクヨム、なろうにも同内容のものを時差投稿しております。

冤罪で辺境に幽閉された第4王子

satomi
ファンタジー
主人公・アンドリュート=ラルラは冤罪で辺境に幽閉されることになったわけだが…。 「辺境に幽閉とは、辺境で生きている人間を何だと思っているんだ!辺境は不要な人間を送る場所じゃない!」と、辺境伯は怒っているし当然のことだろう。元から辺境で暮している方々は決して不要な方ではないし、‘辺境に幽閉’というのはなんとも辺境に暮らしている方々にしてみれば、喧嘩売ってんの?となる。 辺境伯の娘さんと婚約という話だから辺境伯の主人公へのあたりも結構なものだけど、娘さんは美人だから万事OK。

愛人を選んだ夫を捨てたら、元婚約者の公爵に捕まりました

由香
恋愛
伯爵夫人リュシエンヌは、夫が公然と愛人を囲う結婚生活を送っていた。 尽くしても感謝されず、妻としての役割だけを求められる日々。 けれど彼女は、泣きわめくことも縋ることもなく、静かに離婚を選ぶ。 そうして“捨てられた妻”になったはずの彼女の前に現れたのは、かつて婚約していた元婚約者――冷静沈着で有能な公爵セドリックだった。 再会とともに始まるのは、彼女の価値を正しく理解し、決して手放さない男による溺愛の日々。 一方、彼女を失った元夫は、妻が担っていたすべてを失い、社会的にも転落していく。 “尽くすだけの妻”から、“選ばれ、守られる女性”へ。 静かに離婚しただけなのに、 なぜか元婚約者の公爵に捕まりました。

婚約破棄された翌日、兄が王太子を廃嫡させました

由香
ファンタジー
婚約破棄の場で「悪役令嬢」と断罪された伯爵令嬢エミリア。 彼女は何も言わずにその場を去った。 ――それが、王太子の終わりだった。 翌日、王国を揺るがす不正が次々と暴かれる。 裏で糸を引いていたのは、エミリアの兄。 王国最強の権力者であり、妹至上主義の男だった。 「妹を泣かせた代償は、すべて払ってもらう」 ざまぁは、静かに、そして確実に進んでいく。

妻からの手紙~18年の後悔を添えて~

Mio
ファンタジー
妻から手紙が来た。 妻が死んで18年目の今日。 息子の誕生日。 「お誕生日おめでとう、ルカ!愛してるわ。エミリア・シェラード」 息子は…17年前に死んだ。 手紙はもう一通あった。 俺はその手紙を読んで、一生分の後悔をした。 ------------------------------

【完結】悪役令嬢ですが、断罪した側が先に壊れました

あめとおと
恋愛
三日後、私は断罪される。 そう理解したうえで、悪役令嬢アリアンナは今日も王国のために働いていた。 平民出身のヒロインの「善意」、 王太子の「優しさ」、 そしてそれらが生み出す無数の歪み。 感情論で壊されていく現実を、誰にも知られず修正してきたのは――“悪役”と呼ばれる彼女だった。 やがて訪れる断罪。婚約破棄。国外追放。 それでも彼女は泣かず、縋らず、弁明もしない。 なぜなら、間違っていたつもりは一度もないから。 これは、 「断罪される側」が最後まで正しかった物語。 そして、悪役令嬢が舞台を降りた“その後”に始まる、静かで確かな人生の物語。

【完結】モブ令嬢のわたしが、なぜか公爵閣下に目をつけられています

きゅちゃん
ファンタジー
男爵家の三女エリーゼは、前世の記憶を持つ元社畜OL。社交界デビューの夜、壁際でひとりジュースを飲んでいたところを、王国随一の権力者・ヴァルナ公爵カイルにスカウトされる。魔法省の研究員として採用されたエリーゼは、三年間誰も気づかなかった計算の誤りを着任三日で発見。着々と存在感を示していく。一方、公爵の婚約候補と噂されるクロード侯爵令嬢セラフィーヌは、エリーゼを目障りに思い妨害を仕掛けてくるが...

処理中です...