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第5話
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軋む木の椅子に腰をかけ、黙り込むお母さん。お父さんは、ヒビの入ったコーヒーカップを口元に近付けて、ゆっくりとコーヒーをひと口飲んだ。
「‥怒らないの?」
レベッカが口を窄ませながら2人に尋ねる。
お父さんとお母さんは、互いに目を見合わせて小さく笑った。
先程、家に着いた私たちは事の顛末を伝えて謝った。当初
お父さんは買ってきたばかりのパンが入った紙袋を落としていたし、お母さんは数秒呼吸が止まっていた。それぐらい、衝撃を受けていたはずだけど、何故か受け止めて落ち着きを取り戻している。
「‥どういう流れであれ、いつかこうなることはわかっていたよ。
‥私たちの味方は少ないし、この情勢だからね。真っ先に切られるのは私たちだから。例え今回のレベッカの件がなかったとしても、本当に些細なきっかけだけでも、いずれこうなってたはずだから」
お父さんが柔らかい表情を浮かべている。
「そうよ。それに、もしかしたら助かるかもしれない可能性もあるし‥。
‥まぁ、そうね。残された時間を家族4人で濃い時間にしましょう」
な、なんだか、地球滅亡の前夜のような、そんな空気感だ。
こんなにあっさりと、優しく微笑んで受け入れるくらい、2人にとっては覚悟ができていたということか。
生に執着がない、というかなんというか‥。
【カルマート家】の血筋のためになんとか生きていたって感じだ。
自分のため、ではなく。血筋のため。
その血筋のためにこんな目に合ってるのだから、もうなんと言っていいのかわからない。
ただ、運が悪かった。
それだけだ。
もし今回助かったとしても‥
カルマート家の血筋を絶やさないためには、どこかの魔法使いに婿に来てもらわないといけない。
魔法使いはみんな自分の家系に少なからずプライドを持っているし(カルマート家は除く)、その血筋を強くするためにも力のある魔法使いを生涯の伴侶に選びたがる。
‥私とレベッカを選んでくれる魔法使いなんて、この世にいるわけがない。いたらよっぽどのお人好しか、よっぽどの阿保だ。
魔法使いに興味のない人間なら、探せばどこかにいるかもしれないけど‥。その時点で、純粋な魔法使いのみのカルマート家の血に、人間の血が混ざってしまうことになる。
純粋な魔法使いのみの血であるにも関わらず、ただでさえ消え入りそうな魔力なのだ。人間の血が混ざれば魔力は消えてしまうかもしれない。
長い歴史も、いつかは終わる。
お父さんとお母さんは、その終わりの覚悟ができていたんだ。
「‥みんな死なないけど」
レベッカが、私たちの哀愁漂う空気にため息をつきながら言った。
「‥え?」
お父さんが目を丸くしている。
お母さんを見ると、お母さんの目も丸かった。
説明する気のないレベッカの代わりに、私が口を開く。
「ごめん、さっきの説明じゃ伝わってなかったと思うけど‥レベッカ、死相が見えるんだって」
「「え?!?!」」
「‥‥死相っていうか‥死期っていうか‥ね。
死因はわかんないけど、多分、病気とか事故とかに関わらず‥って感じ」
「ど、どうして教えてくれなかったのよレベッカ!!」
「さっきまで、みんな見えてるもんだと思ってたから」
「うっ‥うおおおおおっ」
突然、お父さんが泣き出した。
釣られてお母さんまでポロポロと涙を流し始めている。
レベッカは、そんな2人の様子にウンザリな表情を浮かべている。
「泣くとか気持ち悪いんだけど‥!!
言っとくけどコレ別に万能でもなんでもないから。考えてみると、見えるのって7日前からだから‥‥‥うちらは今のところ死なない予定だけど、明日になれば死相見えるかもしれないし」
つまり、7日前からのカウントダウンが分かるということか‥。
8日以降に死ぬかもしれないけど、それは今の時点ではわからない。
でも、少なくともあと7日は、こうして家族で過ごすことができるんだ‥。
やっぱりすごい能力だ。レベッカがこんなすごい能力を持ってるなんて、私としては凄く誇らしい。
「ううっ‥すごいぞレベッカ‥」
「そうよレベッカ‥特殊能力を持っているなんて‥」
「お父さんは嬉しいっっ!!
こんな血筋で申し訳なかったけど‥魔法使いにしか現れない特殊能力をレベッカが持ってる‥!うううっ、母さん‥私たちにもしっかり魔法使いの血が流れていたんだと‥実感できたなぁ‥‥」
「そうね‥もういつ死んだって、私は悔いはないわ」
「私もだよ、母さん。ありがとう、レベッカ。‥‥父さんは世界一の幸せ者だ」
「‥大袈裟でしょ、めんどくさっ」
レベッカの頬が少し赤い。
まんざらでもない様子だ。私たち家族が嬉し涙を流して喜ぶなんて、一度でもあっただろうか。
3人の姿に、私の瞳からもぽろっと一粒、涙がこぼれ落ちた。
あのリュウという貴族の男が‥どうか報復に来ませんように。
多くは望まないから‥どうかこの家族のひと時が、長く続いてくれますように‥‥
そう、心から祈った日だった。
「‥怒らないの?」
レベッカが口を窄ませながら2人に尋ねる。
お父さんとお母さんは、互いに目を見合わせて小さく笑った。
先程、家に着いた私たちは事の顛末を伝えて謝った。当初
お父さんは買ってきたばかりのパンが入った紙袋を落としていたし、お母さんは数秒呼吸が止まっていた。それぐらい、衝撃を受けていたはずだけど、何故か受け止めて落ち着きを取り戻している。
「‥どういう流れであれ、いつかこうなることはわかっていたよ。
‥私たちの味方は少ないし、この情勢だからね。真っ先に切られるのは私たちだから。例え今回のレベッカの件がなかったとしても、本当に些細なきっかけだけでも、いずれこうなってたはずだから」
お父さんが柔らかい表情を浮かべている。
「そうよ。それに、もしかしたら助かるかもしれない可能性もあるし‥。
‥まぁ、そうね。残された時間を家族4人で濃い時間にしましょう」
な、なんだか、地球滅亡の前夜のような、そんな空気感だ。
こんなにあっさりと、優しく微笑んで受け入れるくらい、2人にとっては覚悟ができていたということか。
生に執着がない、というかなんというか‥。
【カルマート家】の血筋のためになんとか生きていたって感じだ。
自分のため、ではなく。血筋のため。
その血筋のためにこんな目に合ってるのだから、もうなんと言っていいのかわからない。
ただ、運が悪かった。
それだけだ。
もし今回助かったとしても‥
カルマート家の血筋を絶やさないためには、どこかの魔法使いに婿に来てもらわないといけない。
魔法使いはみんな自分の家系に少なからずプライドを持っているし(カルマート家は除く)、その血筋を強くするためにも力のある魔法使いを生涯の伴侶に選びたがる。
‥私とレベッカを選んでくれる魔法使いなんて、この世にいるわけがない。いたらよっぽどのお人好しか、よっぽどの阿保だ。
魔法使いに興味のない人間なら、探せばどこかにいるかもしれないけど‥。その時点で、純粋な魔法使いのみのカルマート家の血に、人間の血が混ざってしまうことになる。
純粋な魔法使いのみの血であるにも関わらず、ただでさえ消え入りそうな魔力なのだ。人間の血が混ざれば魔力は消えてしまうかもしれない。
長い歴史も、いつかは終わる。
お父さんとお母さんは、その終わりの覚悟ができていたんだ。
「‥みんな死なないけど」
レベッカが、私たちの哀愁漂う空気にため息をつきながら言った。
「‥え?」
お父さんが目を丸くしている。
お母さんを見ると、お母さんの目も丸かった。
説明する気のないレベッカの代わりに、私が口を開く。
「ごめん、さっきの説明じゃ伝わってなかったと思うけど‥レベッカ、死相が見えるんだって」
「「え?!?!」」
「‥‥死相っていうか‥死期っていうか‥ね。
死因はわかんないけど、多分、病気とか事故とかに関わらず‥って感じ」
「ど、どうして教えてくれなかったのよレベッカ!!」
「さっきまで、みんな見えてるもんだと思ってたから」
「うっ‥うおおおおおっ」
突然、お父さんが泣き出した。
釣られてお母さんまでポロポロと涙を流し始めている。
レベッカは、そんな2人の様子にウンザリな表情を浮かべている。
「泣くとか気持ち悪いんだけど‥!!
言っとくけどコレ別に万能でもなんでもないから。考えてみると、見えるのって7日前からだから‥‥‥うちらは今のところ死なない予定だけど、明日になれば死相見えるかもしれないし」
つまり、7日前からのカウントダウンが分かるということか‥。
8日以降に死ぬかもしれないけど、それは今の時点ではわからない。
でも、少なくともあと7日は、こうして家族で過ごすことができるんだ‥。
やっぱりすごい能力だ。レベッカがこんなすごい能力を持ってるなんて、私としては凄く誇らしい。
「ううっ‥すごいぞレベッカ‥」
「そうよレベッカ‥特殊能力を持っているなんて‥」
「お父さんは嬉しいっっ!!
こんな血筋で申し訳なかったけど‥魔法使いにしか現れない特殊能力をレベッカが持ってる‥!うううっ、母さん‥私たちにもしっかり魔法使いの血が流れていたんだと‥実感できたなぁ‥‥」
「そうね‥もういつ死んだって、私は悔いはないわ」
「私もだよ、母さん。ありがとう、レベッカ。‥‥父さんは世界一の幸せ者だ」
「‥大袈裟でしょ、めんどくさっ」
レベッカの頬が少し赤い。
まんざらでもない様子だ。私たち家族が嬉し涙を流して喜ぶなんて、一度でもあっただろうか。
3人の姿に、私の瞳からもぽろっと一粒、涙がこぼれ落ちた。
あのリュウという貴族の男が‥どうか報復に来ませんように。
多くは望まないから‥どうかこの家族のひと時が、長く続いてくれますように‥‥
そう、心から祈った日だった。
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