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第6話
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その日の夕方、玄関がノックされた。
先祖が建てた古いこの家には、その音がやけに響く。お父さんが意を決して、玄関に向かった。
リビングに取り残されている私たち3人に、会話はない。
レベッカの能力では、私たちは少なくとも1週間以内では死なない。もしも、国から追放されたり、連行されたりしても今すぐには死なないということ‥。
まぁ、来訪者があのリュウという貴族の男絡みだとは限らないけど。
私は、リビングから玄関を覗いていた。お父さんが扉を開ける。薄暗い廊下に、オレンジ色の光が差し込んだ。
「な、なんだ~!エドくんか!!」
お父さんが、心からの安堵の声を上げている。
私たちも、みんな表情を明るくして玄関に向かった。
「エド!帰ってきたのね!お疲れ様!」
私がそう言うと、エドは柔らかく笑った。
「総出のお出迎えありがとう。
何かあったの?」
私たちの様子に違和感を感じているようだ。
ビクビクと扉を開けたのに、今ではみんなホッとした表情を浮かべている。エドが何かに勘付いたのも当然だろう。
「いや、ちょっとね」
エドの言葉にそんな返事をしたのはお父さんだった。
「‥僕にできる事でしたら何でもしますから‥言ってくださいね」
「‥ありがとう、エドくん」
エドは帰ってきたという報告をしに来てくれただけだったようだ。エドを見送ったあと、再び4人でリビングに集まる。
また少し、緊張感が漂っていた。
そんな緊張感をほぐそうと思ったのか、お父さんとお母さんが会話を始めた。
「エドくんは本当昔からいい子だね」
「そうよね‥カルマート家に嫌な顔せず、普通に接してくれて‥有難いわねぇ」
「エドくんがひとりっ子じゃなければなぁ」
「うふふ、何言ってるのよ、貴方」
エドはレガート家の跡取りだ。もし、エドに兄弟がいたとして、レガート家の跡取りじゃなかったとしたら、唯一カルマート家のお婿さんになってくれる人だったかもしれないのに、ということだろう。
エドは昔から、当たり前のようにずっと私たちの近くにいてくれた。
でもエドは、あのレガート家の一人息子だ。カルマート家の一員になってくれるわけがない。
それに、私にとってもエドは家族同然。エドと結婚する姿なんて想像できやしない。
でも‥レベッカにとっては違うかもしれない。
昔から、私とエドが仲良くしてる姿を見て不機嫌になることもあったから。そんな話は普段しないけど‥もしかしたら、レベッカはエドのことが好きなのかも。
「‥‥エドがひとりっ子じゃなくても無理よ」
レベッカが低いトーンでそう言う。
そういえば、さっきからレベッカの表情が暗い。家族4人の時間が、限りあるものだと受け止めるのが辛いのか、眉間にシワを寄せている。
「‥例えばの話だよ」
お父さんがそう言って、レベッカに笑いかけても、レベッカの表情が晴れることはなかった。
その日の夜、私の部屋の窓がノックされた。
二階にあるこの部屋の窓は、外からノックできるものではない。
これは、エドの魔法によるものだ。
お喋りしよう、というエドからの合図。
家の裏の勝手口から外に出ると、同じように家の外にエドがいて、他愛もないお喋りタイムが始まるのだ。もしかしたら、今回の招集の話を聞かせてくれるのかもしれない。
私は、胸を踊らせながら部屋を出た。
「あ‥レベッカ!」
ちょうど階段を登ってきたレベッカがいた。
ウェーブ状に癖のある肩までの黒い髪が、少し濡れている。
「ちゃんと乾かさないと風邪引いちゃうよ!
あ、一緒にエドのとこ行かない?」
「‥行かない」
「そっか‥」
「‥もうエドと仲良くしない方がいいよ」
やっぱり、嫉妬してるのかな。
「大丈夫よ、レベッカ!
私にとってエドは家族だから」
家族愛であり、恋愛感情ではない。
「‥なんか勘違いしてない?」
「え?」
「‥‥まぁどう勘違いされてたっていいけど。
‥エドと距離を置いた方いいよ」
レベッカは、さっきから一体何を言っているんだろう。
嫉妬じゃないんだとしたら、なんでそんなにもエドから離れて欲しいんだろう。
「エド‥は、信頼できる人だよ?」
あんなにも三人で、仲良くしてたじゃない。
どうして突然エドを避けるようなことを‥
「‥‥‥‥とにかく、エドに依存しないで」
レベッカは、そう言って自室に入ってしまった。
バタンッ、と扉が大きな音を立てて閉まる。
モヤモヤとした感情を抱えながら、エドの元へと向かった。
先祖が建てた古いこの家には、その音がやけに響く。お父さんが意を決して、玄関に向かった。
リビングに取り残されている私たち3人に、会話はない。
レベッカの能力では、私たちは少なくとも1週間以内では死なない。もしも、国から追放されたり、連行されたりしても今すぐには死なないということ‥。
まぁ、来訪者があのリュウという貴族の男絡みだとは限らないけど。
私は、リビングから玄関を覗いていた。お父さんが扉を開ける。薄暗い廊下に、オレンジ色の光が差し込んだ。
「な、なんだ~!エドくんか!!」
お父さんが、心からの安堵の声を上げている。
私たちも、みんな表情を明るくして玄関に向かった。
「エド!帰ってきたのね!お疲れ様!」
私がそう言うと、エドは柔らかく笑った。
「総出のお出迎えありがとう。
何かあったの?」
私たちの様子に違和感を感じているようだ。
ビクビクと扉を開けたのに、今ではみんなホッとした表情を浮かべている。エドが何かに勘付いたのも当然だろう。
「いや、ちょっとね」
エドの言葉にそんな返事をしたのはお父さんだった。
「‥僕にできる事でしたら何でもしますから‥言ってくださいね」
「‥ありがとう、エドくん」
エドは帰ってきたという報告をしに来てくれただけだったようだ。エドを見送ったあと、再び4人でリビングに集まる。
また少し、緊張感が漂っていた。
そんな緊張感をほぐそうと思ったのか、お父さんとお母さんが会話を始めた。
「エドくんは本当昔からいい子だね」
「そうよね‥カルマート家に嫌な顔せず、普通に接してくれて‥有難いわねぇ」
「エドくんがひとりっ子じゃなければなぁ」
「うふふ、何言ってるのよ、貴方」
エドはレガート家の跡取りだ。もし、エドに兄弟がいたとして、レガート家の跡取りじゃなかったとしたら、唯一カルマート家のお婿さんになってくれる人だったかもしれないのに、ということだろう。
エドは昔から、当たり前のようにずっと私たちの近くにいてくれた。
でもエドは、あのレガート家の一人息子だ。カルマート家の一員になってくれるわけがない。
それに、私にとってもエドは家族同然。エドと結婚する姿なんて想像できやしない。
でも‥レベッカにとっては違うかもしれない。
昔から、私とエドが仲良くしてる姿を見て不機嫌になることもあったから。そんな話は普段しないけど‥もしかしたら、レベッカはエドのことが好きなのかも。
「‥‥エドがひとりっ子じゃなくても無理よ」
レベッカが低いトーンでそう言う。
そういえば、さっきからレベッカの表情が暗い。家族4人の時間が、限りあるものだと受け止めるのが辛いのか、眉間にシワを寄せている。
「‥例えばの話だよ」
お父さんがそう言って、レベッカに笑いかけても、レベッカの表情が晴れることはなかった。
その日の夜、私の部屋の窓がノックされた。
二階にあるこの部屋の窓は、外からノックできるものではない。
これは、エドの魔法によるものだ。
お喋りしよう、というエドからの合図。
家の裏の勝手口から外に出ると、同じように家の外にエドがいて、他愛もないお喋りタイムが始まるのだ。もしかしたら、今回の招集の話を聞かせてくれるのかもしれない。
私は、胸を踊らせながら部屋を出た。
「あ‥レベッカ!」
ちょうど階段を登ってきたレベッカがいた。
ウェーブ状に癖のある肩までの黒い髪が、少し濡れている。
「ちゃんと乾かさないと風邪引いちゃうよ!
あ、一緒にエドのとこ行かない?」
「‥行かない」
「そっか‥」
「‥もうエドと仲良くしない方がいいよ」
やっぱり、嫉妬してるのかな。
「大丈夫よ、レベッカ!
私にとってエドは家族だから」
家族愛であり、恋愛感情ではない。
「‥なんか勘違いしてない?」
「え?」
「‥‥まぁどう勘違いされてたっていいけど。
‥エドと距離を置いた方いいよ」
レベッカは、さっきから一体何を言っているんだろう。
嫉妬じゃないんだとしたら、なんでそんなにもエドから離れて欲しいんだろう。
「エド‥は、信頼できる人だよ?」
あんなにも三人で、仲良くしてたじゃない。
どうして突然エドを避けるようなことを‥
「‥‥‥‥とにかく、エドに依存しないで」
レベッカは、そう言って自室に入ってしまった。
バタンッ、と扉が大きな音を立てて閉まる。
モヤモヤとした感情を抱えながら、エドの元へと向かった。
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