魔法使いと魔の手鏡〜馬鹿にされ続けた下級魔法使いが突然超チート級上級魔法使いになった話〜

茶歩

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第13話

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エドのお父さんは、レベッカが死期を見ることができる能力の持ち主であると知ると、血相を変えて飛び出した。未来は変えられる、と自分に言い聞かせるように呟いて‥。


エドが死んでしまう?
嘘でしょう?


死刑になるということ‥?


そんなの‥そんなの嫌よ。




エドのお父さんは、結局具体的な策は何も教えてくれなかった。



何をしたって上がらない魔力。上達しない魔法。
私やレベッカだけじゃない、お父さんもお母さんも‥いや、遡ればきっと300年前から‥。思いつく方法は、すでに数え切れないほど試してる。
それでも、出来損ないのカルマート家。


エドのお父さんは、それでもまだ可能性が残っていることを予想して私たちをけしかけた筈だ。
だけどその具体的な方法は言わなかった。


いや、きっと‥言えなかったんだ。




「お母さん‥レベッカ‥」


お母さんは、泣き続けるレベッカの肩を抱いていた。
私は、エドのお父さんが何を言いたかったのか気付いてしまった。
未来は変えられると言った、その真意‥。


踏み出せ、ということだ。





ーーー破られることのなかった禁忌。





「私は諦めないよ。
お父さんのことも、エドのことも、カルマート家も‥」



1人、部屋に戻る。



何故エドのお父さんが、具体的に話さなかったのか。
それは、その方法が正解か分からないから。


そして、その正解か分からない行為が、許されるものではないから‥。




もしも私たちの魔力を奪っているのが本当に何かの呪いだとすれば、その呪いの根源を破壊すれば、必然的に呪いは解けるはずだ。


カルマート家を限定としてかけられた呪い。300年の間ずっと私たちに呪いがかけられ続けるなんて、容易なことではない。




溢れかえる、魔法がかけられた祖先の品々。




『祖先の品を壊してはいけない』



だから、呪いは解かれなかったのではないか。
呪いがかけられたのが『祖先の品』だったから、誰も壊さなかったのではないか。



ぎゅっと拳を握る。
心臓はドクドクと音を立て、騒ぎ立つ。


ーーー怖い。


だって、これは賭けだ。
自分の命を賭けた、盛大な賭け。



これが正解か分からない。
でも、残された道はこれしかない。




「まぁ‥でも、ほら‥‥
魔法使いの掟を破った人が必ず死ぬとは限らないわ‥。そんな人見たことないもの‥!
ここで踏み出さなきゃ全てが終わるのよ‥!」



ワンピースをぎゅっと握って、なんとか自分を鼓舞する。



部屋の中を見渡した。
宙に浮かぶマグカップ。
窓際で寝ている白い猫。
触ると透明になるカーテン。
気分によって色を変えるランプ。
そして、私のポケットにいる手鏡。



「ねぇ‥貴方たち!
お願いがあるの‥‥!」


私がそう呼びかけても、それぞれが好きなように動いたまま。私の言葉は届いていないようだった。


ただ一匹を除いては。



白い猫が、本物の猫のような軽やかさで私の元へとやってきた。
足首の周りに頬を撫でつけながら、くるくると私の周りを歩く。


「白い猫‥」


どうか、お願い‥。
教えて欲しいの‥‥。



「貴方は300年前からいる?」


白い猫は、もちろん喋らない。
でもくるくると回る動きを止めて、ジッとこちらを見上げた。



「この家の、一体どれに呪いがかけられているのか教えて欲しいの‥。手当たり次第に壊したんじゃ、呪いを解く前に私が死んじゃうかもしれないから‥」


私の言葉を聞いた白い猫は、「知らない」というかのように、そっぽを向いて遠くに行ってしまった。


「やっぱり駄目か‥。
呪いがかけられてるのか見分ける方法を調べないと‥」


でも、一体どうやって?


ああ‥早くも行き止まり。


私の部屋の中でさえこんなにも魔法がかけられたものがある。
家の中全体で言えば、それはもうとんでもない量だ。


魔法使いの掟を破ったら、実際どんな目に合うんだろう。

破った途端死んじゃう?
それとも、寿命を削られる?

‥そもそも本当にそんな目に合うのかしら?



実際は何も起きなかったりして?
‥なんて、そんなこと言っておいてすぐに死んでしまったら、ただの無駄死にになってしまう。


慎重にやるべきだ‥。


じゃあ逆転の発想で‥
どれなら呪いをかけやすい?


私ならどれに呪いをかけるだろうか‥




ああ‥。
わかんない!


わかんないわかんないわかんないっ!
どうすればいいの!!


エドの命があと数日で終わりを迎えてしまうというのにっっ!!!


死にたくない!
まだ誰も救えてないのだから!!


でも、死ぬかどうかは分からない!



私はヤケになり、宙に浮かぶマグカップを掴むと、思い切り振りかぶり床に投げつけた。


目をぎゅっと瞑り、マグカップが音も立てる瞬間を待つ。‥が、音は鳴らなかった。


「なによ‥白い猫‥‥」


そのフェルト生地のような背中で、マグカップの衝撃を和らげてくれたようだった。
コツン、と白い猫の背中から零れ落ちるように、マグカップが床に落ちる。

マグカップにヒビは一切入っていなかった。





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