魔法使いと魔の手鏡〜馬鹿にされ続けた下級魔法使いが突然超チート級上級魔法使いになった話〜

茶歩

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第16話

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冷んやりとした、暗い牢屋。
ぽつん、ぽつんと湿った天井から石の床に向かい規則的に水滴が落ちる。

どうしてあんなにもロストリア領主の城は立派なのに、その地下はこんなにも簡素で雑で原始的で、非衛生的なんだ。


目覚めてから、未だにどこか興奮気味のエドは、自分の置かれた状況を冷静に分析しながらも、わなわなと怒りが込み上げていた。





物分りが良く、温厚で従順。
そう思われがちなエドは、自分でも驚くほどに感情的になってしまうことがある。


10年ほど昔、学校の授業中にカルマート家のことを教師が馬鹿にした時もそうだった。


幼いながらに、カルマート家が世の中からどう思われてしまっているのかは重々承知していた。
カルマート家を理解してくれない全ての人と向き合ってぶつかり合おうとは思わない。
エドはカルマート家が好きだ。だけど、自分以外の世の中の全ての人達を納得させ、黙らせる方法なんて見つからなかった。


それでも、来る日も来る日も‥
同級生達がカルマート家の悪口を言えば、そういうのは良くない、と制した。
近所の悪ガキがカルマート家に石を投げていれば、どうしてそんなことするんだい?と訪ねて辞めさせた。


カルマート家を理解してもらえるよう、優しく、冷静に伝えることを意識していた。



ーーーあの時までは。




「お前らの同級生に、カルマート家の娘がいる」



黒板の上をスラスラ走らせていたチョークを停止させ、教師が思いついたように嫌な笑顔を浮かべて振り返った。


マレのことだと気付いたエドは、教師の言葉の続きが怖かった。


まさか、教師という立場の大人が、俺たちみたいな子どもにカルマート家の悪口を‥?しかも‥授業中に?


ゴクリ、唾を飲みジッと教師を見据える。



「出来損ないの家系のせいで、貧乏すぎて学校にも通えないんだぞ。まぁなんとか通ったところで、確実にいじめられていただろうがな。
いいかー、お前ら。しっかり勉強しないと、ああいう屑になるぞ」



サーーーッと血の気が引くのがわかった。
まるで、自分が自分じゃないようだ。冷静なのか、煮えくり返っているのかわからない。

マレも、レベッカも、ここにいる誰よりも確実に努力してる。勉強も、ひたすら家で頑張ってる。2人に魔法のことや勉強を教えるために、俺は学校で真面目に授業を受けているだけ。
レベッカは、学校に行けない悔しさで、勉強のこと素直に聞いてこないけど、それでも3歳離れてるとは思えないくらい頭がいい。


ここにいる誰よりも、2人は凄いんだ。




それを、影響力のある教師のひと言が打ち消す。
何も知らないくせに。
何も分かってないくせに。


2人のこと、
カルマート家のこと‥


「屑はお前だ!!」


ガタッと立ち上がり、教師を睨みつけながら怒鳴る。
ピクリ、教師のこめかみが動いた。



「エドワード。
なんか言ったかい?」



この時はまだ幼くて、魔力を調節することも出来なかった。そのためか、怒りから自然に溢れ出た魔力が、教室中を風となって駆け巡る。


「お、おいエドワード!
落ち着け!!」



所詮、魔法学校初等科の教師。
階級は下級魔法使いだった。



「屑はお前だって言ったんだよ!!!」



ブワッと更に強い風が巻き起こり、教室中の机や椅子、花瓶などが一斉に教師を襲った。

廊下を歩いていた他の教師が騒ぎに気付き、咄嗟に子供達や例の教師にバリアを張り、かろうじて怪我人は出なかったものの、突然キレる危ない子どもというレッテルを貼られてしまうことになった。


優秀な父と母、そしてマレとレベッカに刺激を受けて努力を重ねていった結果、時間が経つとともに『温厚で真面目で従順なエド』という認識に戻っていって今に至る‥が、根本的な部分は変わっていない。



どうしてカルマート家の素晴らしさを、みんなは理解しようとしないんだ。どうして気付かないんだ。
こんなに心が綺麗で優しくて、こんなに思いやりがあって、こんなに努力家な人達は他にいないのに‥。


そう、物心ついてからずっと思ってきた。



カルマート家が酷い目にあうのなら。
カルマート家が悲しい思いをするのなら。



何が何でも、俺が守る。




ずっと、そう思い続けてきたのである。






1人、薄汚い小さな牢屋の中で溜息を吐く。
さすがに感情的になりすぎた‥。
これでは近くでカルマート家を、そしてマレを守ることができない。
ましてや、結局マレのお父さんは捕まってしまった。



どうすれば救えたんだろう‥。
もっと自分が頭脳派だったらよかったのに。


こんな見た目で、中身はバリバリ武闘派だ。




はぁ‥。
何やってるんだろ‥。





打ちひしがれていると、突如看守たちが騒ぎ出した。



「間違いない!カルマート家からだ!」



え?!
カルマート家??


耳を澄まし、続きを待つ。



「馬鹿みたいな火柱が上がったらしいぞ!!」



ーーーーえ、




その言葉を聞いたエド、そして少し離れた牢に入っていたカイエンはその言葉をすぐに理解することはできなかった。


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