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僕でよければ、寄り添います。
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「はぁー...こんな簡単なことも出来んのか?君は。全く、何だったら出来るのかね」
歳が30以上離れている白髪の上司がしかめっ面で、私に言い放つ。悪意に満ちた表情に見えた。
その言葉は、先端がとても鋭利で、私の柔らかい心を突き刺した。
「申し訳、ございません」
「これじゃあ、一向にプロジェクトが進まなくて困るなぁ、、、君のせいで!」
その語気は、嫌味ったらしく、不快だ。
「申し訳ございません」
「謝ることしか出来んのかね、君は」
「申し訳、」
「あー、もういい、もういいから下がりなさい」
「はい、失礼します」
上司に背を向け、私は扉を閉じた。
上司にいつも怒られていた私は、もう感情を閉ざしていた。
いつの間にか、ただ謝るだけのロボットとなっていた私。
上司の悪口や会社の悪口を裏で熱く独り言として叫んでいた時もあったけど、同じミスを繰り返す私にも非があって、上司の言うことが正しく思えてくると、私が何も出来ないダメ人間だから全て私のせいで私が全て悪いんだと思うようにまでなっていた。そして私は心を閉ざし、仮面を被るようになった。
それでも、私は、家では泣いている。
暗く、静まり返った部屋で、一人すすり泣くのだ。
こんな時、家族や友人、大切な人が励ましてくれたらいいのにと、思う。
私にそういう人は一人もいなかった。
今日も、私は一人で泣こうと思います。誰か見ている人がいれば、私を助けて下さい。
「あの、すみません、貴方ですか?これを書いたの」
「はい」
「そうですか」
「...」
「別に、無理して仕事、続けなくてもいいんじゃないですか?」
「無理なんて、、、してないですよ」
「...無理、してるでしょ?」
「...」
「人って生きてるだけで凄いんですよ、知ってました?」
「...」
「それで、無理して頑張ってる貴方はもっと凄いし、偉いし、尊い存在なんです」
こんなこと言われて、嬉しいはずなのに、私の天邪鬼な心が、その気持ちを邪魔する。
こんなこと、誰でも言えるって。言うだけなら簡単だって。
今までこんな事言ってもらったことなんて無かったのに。
「だから、頑張らなくていいし、仕事も辞めればいい」
「そんな、無責任な」
私は彼の前で初めて口を開いた。小さく小声で。
「だってさ、話を聞く限りだけど、今の仕事や人間関係に未練とかないんでしょ?」
「だからって、仕事辞めたら、生きていけなくなるでしょ!」
彼の脳天気な言葉に、思わず、語気を強めて返答してしまう。
「別に、何とかなるんじゃない?仕事なんて、この世に無数にあるんだし」
「また無責任なことを、、、」
「確かに無責任かもしれないね。でもさ、自分を失うことが、僕は一番いけないことだと思うけどね」
「...」
私は、自分を既に失っている。彼はそれを見透かしながら言っているような口調だった。その言葉は私の胸に深く刺さった。
「だからさ、」
「知ったような口を利いて、貴方は何なんですか!私の事なんて、何も知らないくせに!」
私は、彼の言葉に被せるようにそう言ってしまった。
私は彼にこんなことを言いたいわけじゃない。なのにぶつけてしまった。私は、本当に天邪鬼だな。
「確かに貴方ことは、、、知らない。でも、放っては置けなかった。僕も昔、貴方と同じように悩んでいて、それで昔の自分と重ねて、、助けたいと思ったんだ」
真っ直ぐと芯のある目で私を見つめて言う。心の籠った彼の言葉には嘘偽りは一切なかった。心の底から、私を助けたいと思ってくれていた。
この人も、私と同じように悩んでいたなんて外見からは想像もつかなかった。
「貴方は、そのままでいいと思うよ。無理に変えようとか、自分を責めなくていい」
「この世の中で、悩んでるのは貴方だけじゃない。貴方は独りじゃない。だから、孤独を感じる必要は無いよ」
彼の言葉はとても暖かかった。
「僕でよければ、寄り添うよ。僕も、あなたと同じだから」
私が何も言えずにいると、彼は畳み掛けて言った。
「貴方には笑ってて欲しいな。そして、幸せになって欲しい」
「ありがとう、ございます...」
私はそこで初めて、素直になれた。彼のおかげで私の天邪鬼な心はどこかへ消えていた。それと同時に、私の心を閉ざしていた鎖が解れた瞬間でもあった。
私の目から自然と涙が溢れてきて、そして私はしゃがみ込んだ。そんな私を、彼は黙って優しく背中をさすってくれた。無責任で脳天気なトーンの話し方とは裏腹に、彼にも悩みがあって、そしてこれ程までに優しい一面があった。
「そうだ、何かあったら、こう言うといいですよ」
私が、ようやく落ち着いてきた頃に、彼はいきなり言った。
「...はい?」
「絶対、大丈夫!問題ない!必ず人生なんとかなる!ってね」
こんな素敵な魔法の言葉を教えてくれたのだ。
その言葉の後に、私は再度お礼を言って彼と別れた。
別れた時の、あの優しい笑顔が忘れられない。その時初めて、彼に正面を向いて、まじまじと彼の顔を見た。最後の最後に。
何度も何度も、来るなと願った朝が来た。
私は、いつものように唸り声を上げながら、気だるく起きる。
カーテンを開けて、窓の向こうの世界を見ると、いつもと同じように朝日が昇っていた。カチカチと部屋の時計は静かに針を進めている。私は仕事に行く準備を始めた。
いつもと、同じなのに今日は何故か心が軽かった。
私は、やっぱりいつもと同じように、仕事でミスをした。
そしていつもと同じように、上司に怒られた。
「また君かね、、!何回同じことを言わせるんだ!このプロジェクトが上手くいかなかったらどう責任を取ってくれるんだ!」
いつもと同じ、私が恐れていた悪意しかないように見えるしかめっ面。
彼ならなんて答えるだろう。責任なんて取りませんよって真顔で無責任に言い返しそうだ。
でも、私はそんな彼の無責任さに救われたんだ。
「そうですね、、、」
「また君のお得意な、謝り倒しかね?」
しかめっ面が迫ってくる。昔の私なら、これに脅えて、何も言えなくなっていたかもしれない。
でも、今は、、、
「絶対、大丈夫です!問題ありません!必ず何とかなりますから!!!!!プロジェクト!!!!!」
今の私には、そのしかめっ面も、少し可愛く見えたんだ。
歳が30以上離れている白髪の上司がしかめっ面で、私に言い放つ。悪意に満ちた表情に見えた。
その言葉は、先端がとても鋭利で、私の柔らかい心を突き刺した。
「申し訳、ございません」
「これじゃあ、一向にプロジェクトが進まなくて困るなぁ、、、君のせいで!」
その語気は、嫌味ったらしく、不快だ。
「申し訳ございません」
「謝ることしか出来んのかね、君は」
「申し訳、」
「あー、もういい、もういいから下がりなさい」
「はい、失礼します」
上司に背を向け、私は扉を閉じた。
上司にいつも怒られていた私は、もう感情を閉ざしていた。
いつの間にか、ただ謝るだけのロボットとなっていた私。
上司の悪口や会社の悪口を裏で熱く独り言として叫んでいた時もあったけど、同じミスを繰り返す私にも非があって、上司の言うことが正しく思えてくると、私が何も出来ないダメ人間だから全て私のせいで私が全て悪いんだと思うようにまでなっていた。そして私は心を閉ざし、仮面を被るようになった。
それでも、私は、家では泣いている。
暗く、静まり返った部屋で、一人すすり泣くのだ。
こんな時、家族や友人、大切な人が励ましてくれたらいいのにと、思う。
私にそういう人は一人もいなかった。
今日も、私は一人で泣こうと思います。誰か見ている人がいれば、私を助けて下さい。
「あの、すみません、貴方ですか?これを書いたの」
「はい」
「そうですか」
「...」
「別に、無理して仕事、続けなくてもいいんじゃないですか?」
「無理なんて、、、してないですよ」
「...無理、してるでしょ?」
「...」
「人って生きてるだけで凄いんですよ、知ってました?」
「...」
「それで、無理して頑張ってる貴方はもっと凄いし、偉いし、尊い存在なんです」
こんなこと言われて、嬉しいはずなのに、私の天邪鬼な心が、その気持ちを邪魔する。
こんなこと、誰でも言えるって。言うだけなら簡単だって。
今までこんな事言ってもらったことなんて無かったのに。
「だから、頑張らなくていいし、仕事も辞めればいい」
「そんな、無責任な」
私は彼の前で初めて口を開いた。小さく小声で。
「だってさ、話を聞く限りだけど、今の仕事や人間関係に未練とかないんでしょ?」
「だからって、仕事辞めたら、生きていけなくなるでしょ!」
彼の脳天気な言葉に、思わず、語気を強めて返答してしまう。
「別に、何とかなるんじゃない?仕事なんて、この世に無数にあるんだし」
「また無責任なことを、、、」
「確かに無責任かもしれないね。でもさ、自分を失うことが、僕は一番いけないことだと思うけどね」
「...」
私は、自分を既に失っている。彼はそれを見透かしながら言っているような口調だった。その言葉は私の胸に深く刺さった。
「だからさ、」
「知ったような口を利いて、貴方は何なんですか!私の事なんて、何も知らないくせに!」
私は、彼の言葉に被せるようにそう言ってしまった。
私は彼にこんなことを言いたいわけじゃない。なのにぶつけてしまった。私は、本当に天邪鬼だな。
「確かに貴方ことは、、、知らない。でも、放っては置けなかった。僕も昔、貴方と同じように悩んでいて、それで昔の自分と重ねて、、助けたいと思ったんだ」
真っ直ぐと芯のある目で私を見つめて言う。心の籠った彼の言葉には嘘偽りは一切なかった。心の底から、私を助けたいと思ってくれていた。
この人も、私と同じように悩んでいたなんて外見からは想像もつかなかった。
「貴方は、そのままでいいと思うよ。無理に変えようとか、自分を責めなくていい」
「この世の中で、悩んでるのは貴方だけじゃない。貴方は独りじゃない。だから、孤独を感じる必要は無いよ」
彼の言葉はとても暖かかった。
「僕でよければ、寄り添うよ。僕も、あなたと同じだから」
私が何も言えずにいると、彼は畳み掛けて言った。
「貴方には笑ってて欲しいな。そして、幸せになって欲しい」
「ありがとう、ございます...」
私はそこで初めて、素直になれた。彼のおかげで私の天邪鬼な心はどこかへ消えていた。それと同時に、私の心を閉ざしていた鎖が解れた瞬間でもあった。
私の目から自然と涙が溢れてきて、そして私はしゃがみ込んだ。そんな私を、彼は黙って優しく背中をさすってくれた。無責任で脳天気なトーンの話し方とは裏腹に、彼にも悩みがあって、そしてこれ程までに優しい一面があった。
「そうだ、何かあったら、こう言うといいですよ」
私が、ようやく落ち着いてきた頃に、彼はいきなり言った。
「...はい?」
「絶対、大丈夫!問題ない!必ず人生なんとかなる!ってね」
こんな素敵な魔法の言葉を教えてくれたのだ。
その言葉の後に、私は再度お礼を言って彼と別れた。
別れた時の、あの優しい笑顔が忘れられない。その時初めて、彼に正面を向いて、まじまじと彼の顔を見た。最後の最後に。
何度も何度も、来るなと願った朝が来た。
私は、いつものように唸り声を上げながら、気だるく起きる。
カーテンを開けて、窓の向こうの世界を見ると、いつもと同じように朝日が昇っていた。カチカチと部屋の時計は静かに針を進めている。私は仕事に行く準備を始めた。
いつもと、同じなのに今日は何故か心が軽かった。
私は、やっぱりいつもと同じように、仕事でミスをした。
そしていつもと同じように、上司に怒られた。
「また君かね、、!何回同じことを言わせるんだ!このプロジェクトが上手くいかなかったらどう責任を取ってくれるんだ!」
いつもと同じ、私が恐れていた悪意しかないように見えるしかめっ面。
彼ならなんて答えるだろう。責任なんて取りませんよって真顔で無責任に言い返しそうだ。
でも、私はそんな彼の無責任さに救われたんだ。
「そうですね、、、」
「また君のお得意な、謝り倒しかね?」
しかめっ面が迫ってくる。昔の私なら、これに脅えて、何も言えなくなっていたかもしれない。
でも、今は、、、
「絶対、大丈夫です!問題ありません!必ず何とかなりますから!!!!!プロジェクト!!!!!」
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