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ある夏の日の思い出
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夏の終わりに、「なつのせいかつ」に今年の夏休みの思い出を振り返っていた。
僕が季節の中で、夏が一番好きだ。
その理由は単純で、夏休みがあるからだ。
僕は小学5年生で、友達もいるけど、学校は嫌いだった。
この理由も単純で、毎日朝起きるのが嫌だ。そして、勉強するのが嫌だからだ。
そんな日常に、いきなり現れる天国のような日々が、夏休みなのだ!
プール・海、夏祭り、甲子園、虫取りに、夏の特番、ホラー番組。
どのイベントも好きで、夏が一番、風物詩を感じられる。
例えば、海でスイカ割りの後に食べるスイカとか、海の帰り道にうるさく鳴く蝉の声とか、夏祭りに行ってみれば、花火の中、ラムネを飲んだりかき氷を食べたり、金魚すくいをしたり。家にいても、風鈴の音がなり、その中で流しそうめんを食べるのも、暑くて団扇を仰いだり、扇風機の前で声を出して宇宙人の物真似をするのも風物だ。
そんなよくある夏休みの一日で、僕は特に印象に残ってる日があった。
それは、山の奥にあるおばあちゃんの家に家族で行くことになったある日だ。
毎年夏休みに、おばあちゃんの家に数日ほど泊まって過ごすのは変わらないが、今年は初めていとこが来ることになっているらしいことを両親が話している時に小耳に挟んだ。
それもあってか、僕はいつもより少しワクワクしていた。
長い凸凹とした山道を父親の運転する車が進む中、僕は後部座席で寝転びながら揺られていた。
「そろそろ着くぞー」
父親の声に僕は飛び起き、窓の外を見た。一面、木。ほんとに田舎だなと思った。
おばあちゃんの家に着き、玄関に入ると、独特の木の家の匂いがする。この匂いは、他の場所では一度も嗅いだことの無いおばあちゃん家特有のものだった。そしてこの匂いを嗅ぐと僕は子供ながらにして懐かしい気持ちになるのだった。
いとこ達は、もう着いていて、玄関から 廊下を抜けて、居間に行くと何やら騒がしかった。
その騒がしさは、いとこのお母さんといとこ達が何やら言い合いをしているからだった。
僕は、おばあちゃんやおじいちゃんと挨拶をして、それに続いて、お父さんとお母さんが話をしているところを静かに聞いていた。だから、いとこがどんな感じなのか何を言い合いしているのかとかは分からなかった。
一悶着着いて、いとこのお母さんやお父さんがこちらに挨拶をしに来た。
その時に、初めて、僕はいとこと対面した。
いとこは二人いた。僕より年上そうな女の子と、僕より少し年下っぽい男の子。
「陽太、実は今日はいとこも来てて、伊織ちゃんと翔太郎くんだ。仲良くしような」
お父さんは、そう言って僕にいとこを紹介した。
多分お父さんは、僕が少し人見知りなことを知っててやった事だろう。
相当なお節介の父親だから、いおりちゃんやしょうたろうくんにも僕と仲良くしてやってくれと念を押していた。
あとは大人の会話が展開されていくことは予定調和であったから、お父さんは、僕といとこの2人で遊びに行きなと勧めてきた。
僕は、父の足の陰に隠れていたが、父親に背中を押されて、二人の目の前に出された。
そこで僕の顔は赤くなり、何も言えなかったけど、それを見て、いおりちゃんは気を使ってくれたのか、口を開いた。
「じゃあ、2階の漫画部屋、行く?」
「う、うん」
夏休み、ギラギラと太陽が照り付ける中、絶好の行楽日和に、おばあちゃん家の漫画部屋(お父さんやいとこのお母さんの子供部屋)で僕達は古い漫画を読んでいた。
「姉ちゃん、これ全部読んでいいの?」
「読んでいいけど、汚しちゃダメだからね」
「やったー!!」
いおりちゃんは静かに漫画を読んでいて、しょうたろうくんは、部屋の中をウロウロしながら漫画を読み、面白いところがあったら声を出して笑い、いおりちゃんに漫画を見せていた。いおりちゃんの読む漫画は少女漫画でしょうたろうくんは子供向けのギャグ漫画だった。
僕は、どの漫画を読むかずっと悩んでいた。古い漫画はあまり読んだことが無く、初めて見るものばかりで、種類も多かったのでどれを読んでいいか分からなかった。
「ようたくんって、何年生なの?」
「え、小5だよ」
いおりちゃんのいきなりの問いに僕はびくりとしながら答えた。
「あー、私の一個下で、しょうたろうの三個上か」
いおりちゃんとしょうたろうくんは四歳差だとそこで初めて知った。
「学校で何か部活入ってる?」
「いや、特に。そっちは?」
「私も、入ってない」
「陽太くんの学校では何が流行ってるの?」
「うーん、僕流行りに疎いし、、、」
「そっか」
「そっちの学校は何が流行ってるの?」
「今はやってるのは交換日記かな」
「交換日記か、、やった事ないな」
「ねえねえ漫画読まないの?」
「うん」
「どうして?」
「えっと、古いのばかりでどれを読んでいいのか」
「あー、確かに。私のおすすめは、」
「姉ちゃん姉ちゃん、コレ見てよ~」
いおりちゃんが何かを言おうとしたその時、しょうたろうくんが再び自分の読んでいた漫画を見せた。
「もう、さっき見たよこれ」
「えー違うって!これまた別のページ」
「同じような展開ばっかりだね、それ」
「言われてみればそうかも。なんか飽きたなー漫画」
僕が、漫画を読む前にしょうたろうくんはもう飽き飽きとしていた。
「うーん。確かにね」
「なんか別のことやろうよー、別の遊び!」
「うーん、、、陽太くん、何かある?」
「えっと、、鬼ごっことか?」
僕は、急に聞かれてふと思いついた鬼ごっこを適当に言った。
「鬼ごっこかー!いいなーそれ」
しょうたろうくんはテンションが上がり、心を躍らせてそう言った。それとは対照的にいおりちゃんは浮かない顔をしていた。
「私、運動苦手なんだよね、、」
「そうなんだ、、じゃあどうしよう」
「えー、姉ちゃん!たまには運動しないとダメだよ!運動不足~」
しょうたろうくんはそう言って、いおりちゃんの服の裾を掴んで引っ張っていた。
「えー、、もうしょうがないなあ。だから引っ張らないで」
結局、観念したといったような表情でいおりちゃんも鬼ごっこに参加することとなった。
おばあちゃんの家の大きな庭には、鬼ごっこができるスペースが十分にあって、家庭菜園をしている畑や物置小屋など、鬼をまくための障害物もあった。
「畑の中には入っちゃダメだからねしょうたろう」
「はーい。で、誰が鬼やる?」
「じゃんけんでいいんじゃない?負けた人が鬼で」
「いいと思う」
僕はいおりちゃんの提案に同意した。しょうたろうくんもそれに同意していた。
「ジャーンケーン、ぽん」
「あ、負けちゃった」
「あー姉ちゃん、言い出しっぺなのに負けたー!」
いおりちゃんはちょきをだして、僕としょうたろうくんはぐーだった。
「じゃあ10数えるから逃げてね」
しょうたろうくんと僕は逆方向に散った。
僕は物置小屋がある方に、しょうたろうくんは畑がある方へと逃げた。物置小屋のある方は、畑が無い分逃げるスペースが広かったからだ。
10つ数えたいおりちゃんは真っ先にしょうたろうくんのいる方に向かった。僕は物置小屋に身を隠しながら2人の様子を眺めていた。しょうたろうくんはすばしっこくギリギリのところでいおりちゃんを躱していた。
それを繰り返して、いおりちゃんはしょうたろうくんを捕まえきれなかった。
「もう、、無理」
「姉ちゃん、もうバテたの?」
「しょうちゃんが、すばしっこすぎるからよ!」
僕は楽しそうに追いかけあっている、二人を見て、ここで一人で見ているのではなく、その追いかけあいに参加したい気持ちになった。
自然と足は前へ、二人の元へ駆け寄っていた。
「あ、陽太くん」
「二人がたのしそうにしてるからついでてきちゃった」
「隙あり!」
そうやって無防備になっていると、疲れて手を膝に着いていたいおりちゃんが俊敏な動きで僕にタッチした。
「うわーやられた」
「やべー!逃げろ~」
僕は、しょうたろうくんを追いかけることにした。
しょうたろうくんはさっき見た通りすばしっこかったけど、さすがに僕の方が年齢的にも運動能力は高く、少し追いかけたところでタッチすることが出来た。
「陽太兄ちゃん速いよ~。姉ちゃんとは、大違い。さすがだな!」
「もうしょうたろうったら!」
「姉ちゃん、次は僕が鬼だからね!おりゃー!」
「うわっ、早っ」
「いえーいタッチ」
「もう、私疲れたなー、、」
「ええ~まだ僕遊び足らないよー」
「じゃあ、僕が鬼やろうか?い、いおりちゃんは休んでて」
「やったー!」
「陽太!ありがとう」
鬼ごっこを繰り返し、僕らは疲れきってようやく鬼ごっこを終えることとした。
「二人ともお疲れ様」
「あー、疲れたー楽しかったー」
「さすがに僕も疲れたかな」
「でも、陽太、速かったよ。なにかスポーツでもやってるの?」
「一応、野球」
「えーすごい!しょうたろうも野球好きだし、合うかもね!というか陽太って呼び捨てにしちゃったけどいい?」
「全然いいよ」
「あと、さっきはありがとうね。鬼代わってくれて」
「改まってどうしたの?お礼ならさっきも受けたし」
「さっきの事じゃなくて、最初の時。わざとでしょ。私がタッチできたの」
いおりちゃんは僕のことを全て見透かしたようにそう言った。
「陽太って優しいね!」
いおりちゃんはそう続けた。僕は照れて頷くことしか出来なかった。
「しょうたろうも、陽太を見習いなさい!」
「なんか姉ちゃん、お母さんみたーい」
しょうたろうくんといおりちゃんは、互いに茶化し合いながらじゃれあっていた。
その後僕達は、休憩を取りながら漫画部屋にいた時とは大違いに会話に花を咲かせた。
学校の事だったり、趣味の話だったり。さっき思い浮かばなかったことが、自然と思い浮かび、言葉にすることが出来た。それは、2人と打ち解け合えた証拠だった。しょうたろうくんとは野球の話で盛り上がった。
そうしているうちに夜になっていた。
僕達は父親に声をかけられ、居間へと戻らされた。
「花火あるから、最後にこれやってくか?」
「うん、やる」
特に、花火がやりたかったわけじゃない。別れを先延ばしにして、もう少し、ふたりと遊びたかったからだ。
僕達は、袋に入った数本の花火セットと水の入ったバケツを持って、庭へと出た。
昼とはまた違った庭に見えた。辺りは暗く、家の明かりだけが頼りだった。
父親がライターの火をカチカチと着けて、その火で、花火に火をつける。
色鮮やかな火花が、その暗闇を彩っていく。僕の花火は青色で、いおりちゃんが黄色、しょうたろうくんが緑だった。
一通り勢いのある花火を何度も楽しんで、残るは線香花火だけになっていた。
あれだけ大きな花火セットだったのにな。
「線香花火対決しよう!」
しょうたろうくんがそう言って、線香花火をみんなに配り始めた。誰の線香花火が一番長く燃えているかの勝負らしい。
線香花火がパチパチと燃え始め、何輪もの花が一斉に開花するかのように、火花を散らしていた。
それまで談笑していた親達も綺麗だねと言って、線香花火に釘付けになっていた。
「あー、僕の線香花火消えちゃった」
しょうたろうくんはそう言って残念がった。
「しょうたろうの負けー。残るは私と陽太君のだけだね」
「うん」
僕は頷いて、ずっと自分の線香花火を見つめていた。
この線香花火が一生消えなければいいのにと思った。
でも、僕の思いとは裏腹に線香花火に終わりが来た。結局、いおりちゃんの線香花火が一番長く燃えていた。
「あー姉ちゃんの勝ちだー」
そうしょうたろうくんが言って、大人っぽいいおりちゃんも手を挙げて喜んでいた。
「陽太くん悔しい?」
「いや、悔しくは無いけど」
僕はいおりちゃんの問いにそう言葉を濁して答える。
僕が納得いかない表情を浮かべたのはどう願ってもこの時間が永遠に続くことはない事へのものだった。
「じゃあ笑顔で、お別れだね」
「えーもう?」
「またいつか会えるかな」
「会えるよきっと!」
「じゃあみんなでまた会う約束しようよ」
しょうたろうくんがそう言って、みんなで指切りげんまんをした。
「おーいもうそろそろ帰るぞー」
父親がそう言って僕を呼び寄せた。
「じゃ、いおりちゃん、しょうたろうくんまたね」
「陽太くんまたね!」
「陽太兄ちゃんまた遊ぼうぜー!」
「うん!」
僕達は最後まで見えなくなるまで手を振りあっていた。
「お前たちいつの間にそんなに仲良くなったんだ?」
父親は僕たちの一連のやりとりを見てそうそう言った。
「ふふ、ナイショだよ」
僕はそう答えた。
帰り道、僕は父が運転する隣の助手席でウトウトしていると、父親がそれに気づかず、僕に話しかけてきた。
「それにしても、線香花火風情あったな。やっぱり線香花火がいちばん綺麗だな」
「うん。まぁそうだけど、すぐ消えちゃうからなあ」
「何言ってんだ。陽太。すぐに消えるから綺麗なんだろ」
「そういうもんかなぁ」
「そういうもんなんだよ。いろんな物事ってな」
「まあでも少しわかる気がするよ」
僕はそう言って、あの二人の顔を思い浮かべていた。
僕が季節の中で、夏が一番好きだ。
その理由は単純で、夏休みがあるからだ。
僕は小学5年生で、友達もいるけど、学校は嫌いだった。
この理由も単純で、毎日朝起きるのが嫌だ。そして、勉強するのが嫌だからだ。
そんな日常に、いきなり現れる天国のような日々が、夏休みなのだ!
プール・海、夏祭り、甲子園、虫取りに、夏の特番、ホラー番組。
どのイベントも好きで、夏が一番、風物詩を感じられる。
例えば、海でスイカ割りの後に食べるスイカとか、海の帰り道にうるさく鳴く蝉の声とか、夏祭りに行ってみれば、花火の中、ラムネを飲んだりかき氷を食べたり、金魚すくいをしたり。家にいても、風鈴の音がなり、その中で流しそうめんを食べるのも、暑くて団扇を仰いだり、扇風機の前で声を出して宇宙人の物真似をするのも風物だ。
そんなよくある夏休みの一日で、僕は特に印象に残ってる日があった。
それは、山の奥にあるおばあちゃんの家に家族で行くことになったある日だ。
毎年夏休みに、おばあちゃんの家に数日ほど泊まって過ごすのは変わらないが、今年は初めていとこが来ることになっているらしいことを両親が話している時に小耳に挟んだ。
それもあってか、僕はいつもより少しワクワクしていた。
長い凸凹とした山道を父親の運転する車が進む中、僕は後部座席で寝転びながら揺られていた。
「そろそろ着くぞー」
父親の声に僕は飛び起き、窓の外を見た。一面、木。ほんとに田舎だなと思った。
おばあちゃんの家に着き、玄関に入ると、独特の木の家の匂いがする。この匂いは、他の場所では一度も嗅いだことの無いおばあちゃん家特有のものだった。そしてこの匂いを嗅ぐと僕は子供ながらにして懐かしい気持ちになるのだった。
いとこ達は、もう着いていて、玄関から 廊下を抜けて、居間に行くと何やら騒がしかった。
その騒がしさは、いとこのお母さんといとこ達が何やら言い合いをしているからだった。
僕は、おばあちゃんやおじいちゃんと挨拶をして、それに続いて、お父さんとお母さんが話をしているところを静かに聞いていた。だから、いとこがどんな感じなのか何を言い合いしているのかとかは分からなかった。
一悶着着いて、いとこのお母さんやお父さんがこちらに挨拶をしに来た。
その時に、初めて、僕はいとこと対面した。
いとこは二人いた。僕より年上そうな女の子と、僕より少し年下っぽい男の子。
「陽太、実は今日はいとこも来てて、伊織ちゃんと翔太郎くんだ。仲良くしような」
お父さんは、そう言って僕にいとこを紹介した。
多分お父さんは、僕が少し人見知りなことを知っててやった事だろう。
相当なお節介の父親だから、いおりちゃんやしょうたろうくんにも僕と仲良くしてやってくれと念を押していた。
あとは大人の会話が展開されていくことは予定調和であったから、お父さんは、僕といとこの2人で遊びに行きなと勧めてきた。
僕は、父の足の陰に隠れていたが、父親に背中を押されて、二人の目の前に出された。
そこで僕の顔は赤くなり、何も言えなかったけど、それを見て、いおりちゃんは気を使ってくれたのか、口を開いた。
「じゃあ、2階の漫画部屋、行く?」
「う、うん」
夏休み、ギラギラと太陽が照り付ける中、絶好の行楽日和に、おばあちゃん家の漫画部屋(お父さんやいとこのお母さんの子供部屋)で僕達は古い漫画を読んでいた。
「姉ちゃん、これ全部読んでいいの?」
「読んでいいけど、汚しちゃダメだからね」
「やったー!!」
いおりちゃんは静かに漫画を読んでいて、しょうたろうくんは、部屋の中をウロウロしながら漫画を読み、面白いところがあったら声を出して笑い、いおりちゃんに漫画を見せていた。いおりちゃんの読む漫画は少女漫画でしょうたろうくんは子供向けのギャグ漫画だった。
僕は、どの漫画を読むかずっと悩んでいた。古い漫画はあまり読んだことが無く、初めて見るものばかりで、種類も多かったのでどれを読んでいいか分からなかった。
「ようたくんって、何年生なの?」
「え、小5だよ」
いおりちゃんのいきなりの問いに僕はびくりとしながら答えた。
「あー、私の一個下で、しょうたろうの三個上か」
いおりちゃんとしょうたろうくんは四歳差だとそこで初めて知った。
「学校で何か部活入ってる?」
「いや、特に。そっちは?」
「私も、入ってない」
「陽太くんの学校では何が流行ってるの?」
「うーん、僕流行りに疎いし、、、」
「そっか」
「そっちの学校は何が流行ってるの?」
「今はやってるのは交換日記かな」
「交換日記か、、やった事ないな」
「ねえねえ漫画読まないの?」
「うん」
「どうして?」
「えっと、古いのばかりでどれを読んでいいのか」
「あー、確かに。私のおすすめは、」
「姉ちゃん姉ちゃん、コレ見てよ~」
いおりちゃんが何かを言おうとしたその時、しょうたろうくんが再び自分の読んでいた漫画を見せた。
「もう、さっき見たよこれ」
「えー違うって!これまた別のページ」
「同じような展開ばっかりだね、それ」
「言われてみればそうかも。なんか飽きたなー漫画」
僕が、漫画を読む前にしょうたろうくんはもう飽き飽きとしていた。
「うーん。確かにね」
「なんか別のことやろうよー、別の遊び!」
「うーん、、、陽太くん、何かある?」
「えっと、、鬼ごっことか?」
僕は、急に聞かれてふと思いついた鬼ごっこを適当に言った。
「鬼ごっこかー!いいなーそれ」
しょうたろうくんはテンションが上がり、心を躍らせてそう言った。それとは対照的にいおりちゃんは浮かない顔をしていた。
「私、運動苦手なんだよね、、」
「そうなんだ、、じゃあどうしよう」
「えー、姉ちゃん!たまには運動しないとダメだよ!運動不足~」
しょうたろうくんはそう言って、いおりちゃんの服の裾を掴んで引っ張っていた。
「えー、、もうしょうがないなあ。だから引っ張らないで」
結局、観念したといったような表情でいおりちゃんも鬼ごっこに参加することとなった。
おばあちゃんの家の大きな庭には、鬼ごっこができるスペースが十分にあって、家庭菜園をしている畑や物置小屋など、鬼をまくための障害物もあった。
「畑の中には入っちゃダメだからねしょうたろう」
「はーい。で、誰が鬼やる?」
「じゃんけんでいいんじゃない?負けた人が鬼で」
「いいと思う」
僕はいおりちゃんの提案に同意した。しょうたろうくんもそれに同意していた。
「ジャーンケーン、ぽん」
「あ、負けちゃった」
「あー姉ちゃん、言い出しっぺなのに負けたー!」
いおりちゃんはちょきをだして、僕としょうたろうくんはぐーだった。
「じゃあ10数えるから逃げてね」
しょうたろうくんと僕は逆方向に散った。
僕は物置小屋がある方に、しょうたろうくんは畑がある方へと逃げた。物置小屋のある方は、畑が無い分逃げるスペースが広かったからだ。
10つ数えたいおりちゃんは真っ先にしょうたろうくんのいる方に向かった。僕は物置小屋に身を隠しながら2人の様子を眺めていた。しょうたろうくんはすばしっこくギリギリのところでいおりちゃんを躱していた。
それを繰り返して、いおりちゃんはしょうたろうくんを捕まえきれなかった。
「もう、、無理」
「姉ちゃん、もうバテたの?」
「しょうちゃんが、すばしっこすぎるからよ!」
僕は楽しそうに追いかけあっている、二人を見て、ここで一人で見ているのではなく、その追いかけあいに参加したい気持ちになった。
自然と足は前へ、二人の元へ駆け寄っていた。
「あ、陽太くん」
「二人がたのしそうにしてるからついでてきちゃった」
「隙あり!」
そうやって無防備になっていると、疲れて手を膝に着いていたいおりちゃんが俊敏な動きで僕にタッチした。
「うわーやられた」
「やべー!逃げろ~」
僕は、しょうたろうくんを追いかけることにした。
しょうたろうくんはさっき見た通りすばしっこかったけど、さすがに僕の方が年齢的にも運動能力は高く、少し追いかけたところでタッチすることが出来た。
「陽太兄ちゃん速いよ~。姉ちゃんとは、大違い。さすがだな!」
「もうしょうたろうったら!」
「姉ちゃん、次は僕が鬼だからね!おりゃー!」
「うわっ、早っ」
「いえーいタッチ」
「もう、私疲れたなー、、」
「ええ~まだ僕遊び足らないよー」
「じゃあ、僕が鬼やろうか?い、いおりちゃんは休んでて」
「やったー!」
「陽太!ありがとう」
鬼ごっこを繰り返し、僕らは疲れきってようやく鬼ごっこを終えることとした。
「二人ともお疲れ様」
「あー、疲れたー楽しかったー」
「さすがに僕も疲れたかな」
「でも、陽太、速かったよ。なにかスポーツでもやってるの?」
「一応、野球」
「えーすごい!しょうたろうも野球好きだし、合うかもね!というか陽太って呼び捨てにしちゃったけどいい?」
「全然いいよ」
「あと、さっきはありがとうね。鬼代わってくれて」
「改まってどうしたの?お礼ならさっきも受けたし」
「さっきの事じゃなくて、最初の時。わざとでしょ。私がタッチできたの」
いおりちゃんは僕のことを全て見透かしたようにそう言った。
「陽太って優しいね!」
いおりちゃんはそう続けた。僕は照れて頷くことしか出来なかった。
「しょうたろうも、陽太を見習いなさい!」
「なんか姉ちゃん、お母さんみたーい」
しょうたろうくんといおりちゃんは、互いに茶化し合いながらじゃれあっていた。
その後僕達は、休憩を取りながら漫画部屋にいた時とは大違いに会話に花を咲かせた。
学校の事だったり、趣味の話だったり。さっき思い浮かばなかったことが、自然と思い浮かび、言葉にすることが出来た。それは、2人と打ち解け合えた証拠だった。しょうたろうくんとは野球の話で盛り上がった。
そうしているうちに夜になっていた。
僕達は父親に声をかけられ、居間へと戻らされた。
「花火あるから、最後にこれやってくか?」
「うん、やる」
特に、花火がやりたかったわけじゃない。別れを先延ばしにして、もう少し、ふたりと遊びたかったからだ。
僕達は、袋に入った数本の花火セットと水の入ったバケツを持って、庭へと出た。
昼とはまた違った庭に見えた。辺りは暗く、家の明かりだけが頼りだった。
父親がライターの火をカチカチと着けて、その火で、花火に火をつける。
色鮮やかな火花が、その暗闇を彩っていく。僕の花火は青色で、いおりちゃんが黄色、しょうたろうくんが緑だった。
一通り勢いのある花火を何度も楽しんで、残るは線香花火だけになっていた。
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「線香花火対決しよう!」
しょうたろうくんがそう言って、線香花火をみんなに配り始めた。誰の線香花火が一番長く燃えているかの勝負らしい。
線香花火がパチパチと燃え始め、何輪もの花が一斉に開花するかのように、火花を散らしていた。
それまで談笑していた親達も綺麗だねと言って、線香花火に釘付けになっていた。
「あー、僕の線香花火消えちゃった」
しょうたろうくんはそう言って残念がった。
「しょうたろうの負けー。残るは私と陽太君のだけだね」
「うん」
僕は頷いて、ずっと自分の線香花火を見つめていた。
この線香花火が一生消えなければいいのにと思った。
でも、僕の思いとは裏腹に線香花火に終わりが来た。結局、いおりちゃんの線香花火が一番長く燃えていた。
「あー姉ちゃんの勝ちだー」
そうしょうたろうくんが言って、大人っぽいいおりちゃんも手を挙げて喜んでいた。
「陽太くん悔しい?」
「いや、悔しくは無いけど」
僕はいおりちゃんの問いにそう言葉を濁して答える。
僕が納得いかない表情を浮かべたのはどう願ってもこの時間が永遠に続くことはない事へのものだった。
「じゃあ笑顔で、お別れだね」
「えーもう?」
「またいつか会えるかな」
「会えるよきっと!」
「じゃあみんなでまた会う約束しようよ」
しょうたろうくんがそう言って、みんなで指切りげんまんをした。
「おーいもうそろそろ帰るぞー」
父親がそう言って僕を呼び寄せた。
「じゃ、いおりちゃん、しょうたろうくんまたね」
「陽太くんまたね!」
「陽太兄ちゃんまた遊ぼうぜー!」
「うん!」
僕達は最後まで見えなくなるまで手を振りあっていた。
「お前たちいつの間にそんなに仲良くなったんだ?」
父親は僕たちの一連のやりとりを見てそうそう言った。
「ふふ、ナイショだよ」
僕はそう答えた。
帰り道、僕は父が運転する隣の助手席でウトウトしていると、父親がそれに気づかず、僕に話しかけてきた。
「それにしても、線香花火風情あったな。やっぱり線香花火がいちばん綺麗だな」
「うん。まぁそうだけど、すぐ消えちゃうからなあ」
「何言ってんだ。陽太。すぐに消えるから綺麗なんだろ」
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そこには、ずっと榊だけを見つめ続けてきた、静かな執着がある。
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あなたが誰かに“支配される”ところ、きっと綺麗だろうなって」
支配する側だったはずの男が、
支配されることで初めて“生きている”と感じてしまう――。
上司と部下、立場も理性も、すべてが絡み合うオフィスの夜。
秘密の扉を開けた榊は、もう戻れない。
快楽に溺れるその瞬間まで、彼を待つのは破滅か、それとも救いか。
――これは、ひとりの上司が“愛”という名の支配に沈んでいく物語。
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