一流冒険者トウマの道草旅譚

黒蓬

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第64話 レオンバーグの武器展示会

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レオンバーグの城壁が見えてくると、トウマの胸は期待で高鳴った。魔導都市として名高いこの街では、三日間にわたって武器展示会が開催される。世界各地から集まった職人たちが、自慢の逸品を持ち寄る一大イベントだ。

「おお~、いつみても立派な街ですね~!」

フロリアンが感嘆の声を上げる。空飛ぶ屋台を引きながら歩く姿は、なんとも奇妙な光景だった。屋台は時折ふわりと浮き上がろうとするが、その度にフロリアンが慌てて押さえつけている。

「確かに、見事な城壁だな」

トウマが城壁の高さに目を細める。レオンバーグの防御力は大陸屈指と言われるが、その威容は噂に違わぬものだった。

「私も初めて来ましたが、想像以上に大きな街ですね」

ガレットが荷車を引きながら、感心したように呟く。

街の入り口では、多くの商人や冒険者が列を作って入城を待っていた。武器展示会の影響で、普段以上に人が集まっているのだろう。

「結構混んでるな。入城に時間がかかりそうだ」

「仕方ありませんね~。でも~、これだけ多くの人が集まるということは~、展示会も盛り上がりそうです~」

フロリアンが楽しそうに周囲を見回す。

列に並んでいる間、トウマは他の冒険者たちの武器に目を向けていた。確かに、普段見かけないような珍しい武器を持った者が多い。中には明らかに魔法がかかっていると分かる、光を放つ剣や、氷の結晶で装飾された杖なども見える。

「トウマさん~、あちらを見てください~」

フロリアンが指差した方向に、巨大な荷車を引く筋骨隆々の男が見えた。荷車には大きな布がかけられており、その下に何が隠されているのか気になるところだ。

「あれは……もしかして、噂の『巨人殺し』かもしれませんね」

ガレットが小声で囁く。

「巨人殺し?」

「伝説の大剣の名前です。かつて巨人族との戦いで使われたという、全長三メートルの巨大な剣だと聞いています」

「へぇ、そんなもんがあるのか」

トウマが興味深そうに男を見つめる。確かに、あの体格なら三メートルの剣も扱えそうだ。

――――――

ようやく入城の順番が回ってきた。門番に簡単な身分証明を済ませ、入場料として銅貨五枚を支払う。

「武器展示会の会場は中央広場です。開催時間は朝の八時から夕方の六時まで。宿泊施設は満室の可能性が高いので、早めの確保をお勧めします」

門番が慣れた様子で説明する。

「了解した。ありがとう」

トウマが軽く頭を下げて、街の中に足を踏み入れる。

レオンバーグの街並みは、魔導都市らしく魔法の光で彩られていた。街灯代わりに浮かぶ光の球、勝手に掃除をしている魔法のほうき、空中に浮かぶ看板など、魔法技術が日常生活に根付いている。

「すげぇな、この街」

トウマが呟く。琥珀色の瞳が、街の魔法に照らされてきらめいている。

「魔法都市の名に恥じない光景ですね~」

フロリアンが感心しながら、屋台が勝手に浮き上がろうとするのを必死に押さえている。

「私も商人として、この街で商売をしてみたいものです」

ガレットが目を細めながら、街を眺める。

三人は街の案内板を確認しながら、それぞれの目的地を決めていた。

「えーと、冒険者ギルドは……あっちの方向だな」

「わたくしの屋台は~、商業区で営業許可を取らないと~」

「私も商品の販売許可が必要ですね」

トウマは案内板を見ながら、三人の行く先が違うことに気づく。

「そうか、方向も違うようだし、それじゃ一旦ここで解散としようか」

「ええ、そうですね~」

フロリアンが少し寂しそうな表情を浮かべる。

「でも~、お二人のおかげで~、無事にレオンバーグに着くことができました~」

「こちらこそ、楽しい旅でした」

ガレットも感謝の気持ちを込めて頭を下げる。

「俺も面白い体験をさせてもらったよ。空飛ぶ屋台なんて、滅多に見られるもんじゃなかったしな」

トウマが軽く笑う。確かに、昨日からの道中は予想以上に楽しいものだった。

「それでは~、また会場でお会いしましょう~」

「ええ、また後程」

三人は中央広場で別れることになった。フロリアンは商業区へ、ガレットは商人組合へ、そしてトウマは冒険者ギルドへと向かう。

「それじゃあ、またな」

トウマが手を振って別れを告げる。

「お気をつけて~」

「トウマさんも、あまり無茶をしないでくださいね」

フロリアンとガレットが心配そうに声をかける。彼らはトウマの性格を短い間でもよく理解していた。

「はは、気をつけるよ」

――――――

一人になったトウマは、改めて街の雰囲気を感じ取っていた。

冒険者ギルドに向かう道中、魔法工房から響く金属音や、魔法を唱える声が聞こえてくる。武器展示会を前に、職人たちが最後の仕上げに取り組んでいるのだろう。

「ん?」

トウマの足が止まる。工房街の方向から、何やら騒がしい声が聞こえてきた。

「助けて~!誰か~!」

女性の声だ。トウマは反射的にその方向に駆け出していた。

工房街の一角で、一人の若い女性が困り果てている。彼女の周りには、小さな鉄球のような物体がいくつも浮かんでおり、勢いよく回転している。

「うわっ!何だこれは!」

トウマが驚く。鉄球は魔法で制御されているようだが、明らかに暴走している。

「すみません!魔法が暴走してしまって!」

女性が涙目になって助けを求める。

「わかった!今助ける!」

トウマが短剣を抜く。魔力を込めて刃を伸ばし、回転する鉄球を一つずつ叩き落としていく。

「すげぇスピードだな……」

鉄球は思った以上に速く回転しており、タイミングを計るのが難しい。しかし、トウマの反射神経と短剣の性能が功を奏し、次々と鉄球を無力化していく。

「最後の一つ!」

トウマが勢いよく短剣を振り下ろす。最後の鉄球が地面に落ちると、ようやく静寂が戻った。

「ありがとうございます!」

女性がほっとした表情で、深々と頭を下げる。

「大したことじゃないさ。それより、怪我はないか?」

「はい、おかげさまで無事です」

彼女は二十代前半くらいの女性で、工房で働く職人のようだった。エプロンには金属の粉が付いており、手には魔法道具を持っている。

「魔法の暴走って、よくあることなのか?」

「いえ、滅多にないんですが……今日は武器展示会の準備で、新しい魔法を試していたら……」

女性が困ったような表情を浮かべる。

「そうか、明日から展示会だもんな」

「はい。私、ミリアと申します。魔法道具の職人をしています」

「俺はトウマだ。冒険者をやってる」

「冒険者の方だったんですね。道理で、あんなにあっさりと……」

ミリアが感心したように呟く。

「ところで、その魔法道具は何を作ろうとしてたんだ?」

「攻撃用の魔法球です。敵に向かって自動で飛んでいく仕組みなんですが、制御が難しくて……」

なるほど、とトウマが納得する。確かに、あの鉄球が敵を自動で追尾してくれれば、戦闘でかなり便利そうではあった。

「面白そうな道具だな」

「ありがとうございます。でも、まだ完成には程遠くて……」

ミリアはトウマが落とした鉄球を見ながら、落胆した表情を浮かべた。

「まぁ、焦らず頑張れよ。きっと良いものができるさ」

「はい。頑張ります」

トウマの励ましに、ミリアは幾分か元気を取り戻したようだった。

「それじゃあ、俺は用事があるから」

「あ、はい。本当にありがとうございました!」

トウマはミリアと別れて、改めて冒険者ギルドに向かった。

――――――

レオンバーグの冒険者ギルドは、他の街のギルドと比べて一回り大きく、魔法の装飾が施されている。さすがは魔導都市といったところだ。

「いらっしゃいませ」

トウマが入ってくると、受付嬢が笑顔で迎える。

「冒険者のトウマだ。何かお勧めの依頼はあれば教えて欲しい」

「トウマさんですね。冒険者証を……あぁあの、お噂はかねがね」

トウマの冒険者証を確認した受付嬢の表情が明るくなった。

「現在、武器展示会の警備に協力していただける冒険者を募集しているんですが、いかがでしょうか?」

「警備か。詳しく聞かせてくれ」

「はい。期間は三日間、報酬は一日銀貨三枚です。主な仕事は会場の巡回と、トラブルが発生した時の対応です」

「悪くない条件だな。やらせてもらおう」

トウマは展示会を見学するついでに、警備の仕事もこなすことにした。

「ありがとうございます。それでは、明日の朝八時にこちらまでお越しください」

手続きを済ませた後、トウマは依頼掲示板を眺めてみる。レオンバーグは大きな街だけあって、依頼の種類も豊富だ。

「魔物討伐、遺跡探索、護衛……いろいろあるな」

その中で、トウマの目に留まったのは『工房街の異変調査』という依頼だった。

「工房街の異変調査?」

依頼内容を読んでみると、最近工房街で魔法の暴走が頻発しているという。さっき助けたミリアの件も、その一つだったのかもしれない。

「面白そうだな」

トウマが呟く。武器展示会の警備もあるし、この依頼は後回しにしようと思ったが、彼の好奇心はすでに工房街に向いていた。

「この依頼について詳しく教えてもらえるか?」

「ああ、その依頼ですね。実は昨日から掲示している依頼なんですが、まだ受けてくれる方がいなくて……」

受付嬢に聞いてみると、彼女は少し困った様子でそう答えた。

「そうなのか?」

「はい。魔法の暴走が相手なので、魔法に詳しい冒険者でないと難しいんです」

なるほど、とトウマが納得する。確かに、魔法のことは専門外だが、さっきの経験もあるし、何かできることがあるかもしれない。

「俺が受けてみよう」

「本当ですか?でも、魔法の知識は……」

「たぶん大丈夫だ。少なくとも対処には慣れてるからな」

トウマの言葉に、受付嬢は少し心配そうな表情を浮かべたが、結局依頼を受けることになった。

「それでは、工房街の組合長のところに行ってください。詳しい話を聞けます」

「わかった。ありがとう」

トウマは依頼書を受け取り、ギルドを後にした。

工房街に向かう途中、再び金属音や魔法を唱える声が聞こえてくる。職人たちの熱気が、街全体に満ちているようだった。

「明日の展示会も、楽しみだな」

トウマが空を見上げる。夕日が街を染めており、魔法の光と混じり合って幻想的な雰囲気を醸し出している。

工房街の組合長に会って詳しい話を聞き、宿を確保して、明日に備える。やるべきことは山積みだが、トウマは充実した気持ちだった。
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