10 / 37
第三章
第三話 中二病という名の、心を守る刃
しおりを挟む夜はすっかり更け、窓の外には薄い雲が月を覆っていた。
湯上がりの熱がまだ頬に残り、髪先から滴る水滴が首筋を伝っていく。
柔らかなパジャマからは、シャンプーの香り。
高橋惠美は机に向かい、静かに息を吐いた。
デスクライトの光が小さな円を描き、その内側だけが、まるで孤島のように沈黙していた。
机の上には、ノートと教科書、そして一台のスマートフォン。
指先が滑らかに画面をなぞり、瞳に光が映る。
SNSのタイムラインには、無数の文字が流れていく。
冗談、悪口、流行語。
そして――
「中二病……」
李守義は胸奥で低く呟いた。
「ふむ……此の語、世人の嘲りにして蔑称。
己を誇り、言を大きくし、行いは稚くして狂い。
だが――その奥に燃ゆるは、未だ折れぬ心火。」
スマホの画面には、
「#痛い」「#黒歴史」「#見てられない」などのタグが並んでいた。
だが惠美――否、李の瞳には、微かに熱が宿っていた。
「笑われようと構わぬ。
若き志を抱き、己の理想を信ずること――
これを浪漫と言わずして、何を夢と呼ばん。」
李はゆるやかに息を吐き、胸の奥で静かに笑った。
「嗤う者は多けれど、信じる者は少なし。
されど――吾、この嘲笑を鎧とし、此の名を盾とせん。
“中二病”なる呼び名、笑うがいい。吾はそれを、心を守る刃とす。」
「ピコンッ。」
スマホが震え、夜の静寂を裂く。
画面には、クラスのグループチャット。
流れるコメント。
連打されるスタンプと笑いの絵文字。
――英語の授業。
立ち上がる惠美の背中。
そこに大きく貼られた言葉。
「THIS IS A PEN 😂」
次に送られてきたのは録音。
「Yes, teacher!」――と、誰かが真似をし、爆笑の渦。
『怪物女、マジ最高!』
『中二すぎて草www』
チャット欄は瞬く間に埋まっていく。
上段には佐々木綾香。
続いて森下里奈の猫スタンプ。
最後に――高村紗希の一言。
『……気持ち悪い。』
淡々としたその文字列が、刃物のように鋭く突き刺《さ》さる。
だが惠美は、指一本動かさなかった。
ただ静かに画面を見つめ、呼吸を整える。
瞳の奥で、微かな炎が灯った。
――ドクン。
「心の鼓が、鳴っておる。」
李の声が胸中で響いた。
「恐れではない。これは決意の音。
ならば――退くことなく、進むのみ。」
惠美はゆっくりとスマホを閉じた。
暗闇が画面を覆い、
灯された瞳の光だけが、なお強く残った。
「笑うなら、笑うがいい。
――だが、明日、我は再び立つ。」
その呟きは、夜の空気に溶け、
まるで釘のように、静かに、確かに、
この世界へと打ち込まれた。
0
あなたにおすすめの小説
異世界転生した女子高校生は辺境伯令嬢になりましたが
初
ファンタジー
車に轢かれそうだった少女を庇って死んだ女性主人公、優華は異世界の辺境伯の三女、ミュカナとして転生する。ミュカナはこのスキルや魔法、剣のありふれた異世界で多くの仲間と出会う。そんなミュカナの異世界生活はどうなるのか。
最強令嬢とは、1%のひらめきと99%の努力である
megane-san
ファンタジー
私クロエは、生まれてすぐに傷を負った母に抱かれてブラウン辺境伯城に転移しましたが、母はそのまま亡くなり、辺境伯夫妻の養子として育てていただきました。3歳になる頃には闇と光魔法を発現し、さらに暗黒魔法と膨大な魔力まで持っている事が分かりました。そしてなんと私、前世の記憶まで思い出し、前世の知識で辺境伯領はかなり大儲けしてしまいました。私の力は陰謀を企てる者達に狙われましたが、必〇仕事人バリの方々のおかげで悪者は一層され、無事に修行を共にした兄弟子と婚姻することが出来ました。……が、なんと私、魔王に任命されてしまい……。そんな波乱万丈に日々を送る私のお話です。
第5皇子に転生した俺は前世の医学と知識や魔法を使い世界を変える。
黒ハット
ファンタジー
前世は予防医学の専門の医者が飛行機事故で結婚したばかりの妻と亡くなり異世界の帝国の皇帝の5番目の子供に転生する。子供の生存率50%という文明の遅れた世界に転生した主人公が前世の知識と魔法を使い乱世の世界を戦いながら前世の奥さんと巡り合い世界を変えて行く。
勇者の様子がおかしい
しばたろう
ファンタジー
勇者は、少しおかしい。
そう思ったのは、王宮で出会ったその日からだった。
神に選ばれ、魔王討伐の旅に出た勇者マルク。
線の細い優男で、実力は確かだが、人と距離を取り、馴れ合いを嫌う奇妙な男。
だが、ある夜。
仲間のひとりは、決定的な違和感に気づいてしまう。
――勇者は、男ではなかった。
女であることを隠し、勇者として剣を振るうマルク。
そして、その秘密を知りながら「知らないふり」を選んだ仲間。
正体を隠す者と、真実を抱え込む者。
交わらぬはずの想いを抱えたまま、旅は続いていく。
これは、
「勇者であること」と
「自分であること」のあいだで揺れる物語。
醜悪令息レオンの婚約
オータム
ファンタジー
醜悪な外見ゆえに誰からも恐れられ、避けられてきたレオン。
ある日、彼は自分が前世で遊んでいたシミュレーションRPGの世界に転生しており、
しかも“破滅が確定している悪役令嬢の弟”として生きていることに気付く。
このままでは、姉が理不尽な運命に呑まれてしまう。
怪しまれ、言葉を信じてもらえなくとも、レオンはただ一人、未来を変えるために立ち上がる――。
※「小説家になろう」「カクヨム」にも投稿しています。
冤罪で辺境に幽閉された第4王子
satomi
ファンタジー
主人公・アンドリュート=ラルラは冤罪で辺境に幽閉されることになったわけだが…。
「辺境に幽閉とは、辺境で生きている人間を何だと思っているんだ!辺境は不要な人間を送る場所じゃない!」と、辺境伯は怒っているし当然のことだろう。元から辺境で暮している方々は決して不要な方ではないし、‘辺境に幽閉’というのはなんとも辺境に暮らしている方々にしてみれば、喧嘩売ってんの?となる。
辺境伯の娘さんと婚約という話だから辺境伯の主人公へのあたりも結構なものだけど、娘さんは美人だから万事OK。
追放された味噌カス第7王子の異種族たちと,のんびり辺境地開発
ハーフのクロエ
ファンタジー
アテナ王国の末っ子の第7王子に産まれたルーファスは魔力が0で無能者と言われ、大陸の妖精族や亜人やモンスターの多い大陸から離れた無人島に追放される。だが前世は万能スキル持ちで魔王を倒し英雄と呼ばれていたのを隠し生まれ変わってスローライフを送る為に無能者を装っていたのだ。そんなルーファスはスローライフを送るつもりが、無人島には人間族以外の種族の独自に進化した先住民がおり、周りの人たちが勝手に動いて気が付けば豊かで平和な強国を起こしていく物語です。
出来損ない貴族の三男は、謎スキル【サブスク】で世界最強へと成り上がる〜今日も僕は、無能を演じながら能力を徴収する〜
シマセイ
ファンタジー
実力至上主義の貴族家に転生したものの、何の才能も持たない三男のルキウスは、「出来損ない」として優秀な兄たちから虐げられる日々を送っていた。
起死回生を願った五歳の「スキルの儀」で彼が授かったのは、【サブスクリプション】という誰も聞いたことのない謎のスキル。
その結果、彼の立場はさらに悪化。完全な「クズ」の烙印を押され、家族から存在しない者として扱われるようになってしまう。
絶望の淵で彼に寄り添うのは、心優しき専属メイドただ一人。
役立たずと蔑まれたこの謎のスキルが、やがて少年の運命を、そして世界を静かに揺るがしていくことを、まだ誰も知らない。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる