武徳JK ~山川異域、風月同天!

盛桃李もりももり

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第三章

第三話 中二病という名の、心を守る刃

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 夜はすっかりけ、窓の外には薄い雲が月をおおっていた。

 湯上ゆあがりの熱がまだほおに残り、髪先からしたた水滴すいてき首筋くびすじつたっていく。
 柔らかなパジャマからは、シャンプーのかおり。
 高橋惠美たかはしめぐみは机にかい、静かに息を吐いた。

 デスクライトの光が小さな円を描き、その内側うちがわだけが、まるで孤島ことうのように沈黙ちんもくしていた。
 机の上には、ノートと教科書、そして一台いちだいのスマートフォン。

 指先がなめらかに画面がめんをなぞり、瞳に光が映る。
 SNSのタイムラインには、無数むすう文字もじが流れていく。

 冗談じょうだん悪口わるぐち流行りゅうこう
 そして――

中二病ちゅうにびょう……」

 李守義りしゅぎ胸奥きょうおうで低くつぶやいた。

「ふむ……世人せじんあざけりにして蔑称べっしょう
 おのれほこり、げんおおきくし、おこないはいとけなくしてくるい。
 だが――そのおくゆるは、いまれぬ心火しんか。」

 スマホの画面がめんには、
「#痛い」「#黒歴史」「#見てられない」などのタグがならんでいた。

 だが惠美――いな、李のひとみには、かすかに熱が宿やどっていた。

「笑われようとかまわぬ。
 わかこころざしいだき、おのれ理想りそうしんずること――
 これを浪漫ろまんと言わずして、なにゆめと呼ばん。」

 李はゆるやかに息を吐き、胸の奥で静かに笑った。

わらう者は多けれど、信じる者は少なし。
 されど――われ、この嘲笑ちょうしょうよろいとし、たてとせん。
 “中二病”なる呼び名、笑うがいい。われはそれを、こころまもやいばとす。」



「ピコンッ。」

 スマホが震え、よる静寂せいじゃくく。
 画面がめんには、クラスのグループチャット。

 流れるコメント。
 連打れんだされるスタンプと笑いの絵文字。

 ――英語の授業。
 立ち上がる惠美の背中せなか
 そこに大きく貼られた言葉。

「THIS IS A PEN 😂」

 次に送られてきたのは録音ろくおん
「Yes, teacher!」――と、誰かが真似まねをし、爆笑ばくしょううず

『怪物女、マジ最高!』
『中二すぎて草www』

 チャット欄はまたたく間に埋まっていく。
 上段には佐々木ささき綾香あやか
 つづいて森下もりした里奈りなの猫スタンプ。
 最後さいごに――高村たかむら紗希さき一言ひとこと

『……気持ち悪い。』

 淡々たんたんとしたその文字列もじれつが、刃物はもののようにするどき刺《さ》さる。


 だが惠美は、指一本ゆびいっぽん動かさなかった。
 ただ静かに画面がめんを見つめ、呼吸こきゅうととのえる。

 おくで、かすかなほのおともった。

 ――ドクン。

こころが、っておる。」
 李の声が胸中きょうちゅうひびいた。

おそれではない。これは決意けついおと
 ならば――退しりぞくことなく、すすむのみ。」

 惠美はゆっくりとスマホをじた。
 暗闇くらやみ画面がめんおおい、
 ともされた瞳の光だけが、なお強く残った。

「笑うなら、笑うがいい。
 ――だが、明日、われふたたつ。」

 そのつぶやきは、よるの空気に溶け、
 まるでくぎのように、しずかに、たしかに、
 この世界へとまれた。
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