2 / 2
第2話 洗濯と陽ざし
しおりを挟む
久しぶりに、雲ひとつない週末だった。
ベランダの手すりまで光が届いて、空気まで熱を帯びている。
「今日は洗濯日和ある!」
朝からナオミは張り切っていた。
洗濯機の回る音と一緒に、家の中まで彼女の声が響く。
「ねぇ、手伝ってよ!」
「はいはい、今行く……」
僕は新聞を置き、ため息まじりに腰を上げた。
ベランダに出ると、ナオミは洗濯バサミを口にくわえていた。
髪が風で少し乱れている。
「そのタオル、端っこ持って、もっとピンとね。」
「ピンとって、どのくらい?」
「だから、こうあるよ!」
彼女は僕の手をぐいっと引き、バサッとタオルを張った。
水滴が一粒、僕の頬に跳ねた。
結婚して七年。
僕はいまだに、洗濯物の正しい干し方を学んでいない。
彼女の指示に合わせてピンチを挟む。
「ほら、ズボン逆さま。重い方を下に。」
「さすが先生、細かいですね。」
「主婦だって職人ね、あるよ!」
風が少し強くなり、干したタオルがふわっと顔にかかった。
僕はタオルの向こうから言う。
「顔に直撃したよ。」
「近づきすぎ。」
「まあね……」
その声に、彼女がくすっと笑う音が混じった。
一息ついて空を見上げると、陽ざしがまぶしい。
そのとき、一枚のTシャツが風にあおられて、ハンガーから滑り落ちた。
僕とナオミ、同時に手を伸ばす。
指先が、かすかに触れた。
「下手ね……」
「まあね。」
「でも、ありがと。」
ナオミは拾ったTシャツのシワを伸ばして、僕の手に戻した。
指先に、太陽の熱がまだ残っていた。
しばらく黙って、干された洗濯物を眺める。
風が通るたび、シャツが軽く揺れ、影が踊る。
「ねえ、知ってる? 中国では“婚姻は縫補(ほうほ)”ってことわざがあるよ。」
「縫うってこと?」
「うん。昔はね、服が破れたら縫って、また着たの。
今はもう、破れる服なんて少ないけど――汚れたら洗えばいい。
でもね、手をかけて直そうとする気持ちは、同じあるよ。」
僕は無言でうなずいた。
言葉を足すと、せっかく乾いた空気がまた湿りそうだった。
洗濯物が風に揺れて、僕らの影もゆらゆらと踊った。
手をかけるたびに、少しずつ色あせて、でも馴染んでいく。
今日の陽ざしは少し熱かったけれど、
それでも、悪くない週末だった。
ベランダの手すりまで光が届いて、空気まで熱を帯びている。
「今日は洗濯日和ある!」
朝からナオミは張り切っていた。
洗濯機の回る音と一緒に、家の中まで彼女の声が響く。
「ねぇ、手伝ってよ!」
「はいはい、今行く……」
僕は新聞を置き、ため息まじりに腰を上げた。
ベランダに出ると、ナオミは洗濯バサミを口にくわえていた。
髪が風で少し乱れている。
「そのタオル、端っこ持って、もっとピンとね。」
「ピンとって、どのくらい?」
「だから、こうあるよ!」
彼女は僕の手をぐいっと引き、バサッとタオルを張った。
水滴が一粒、僕の頬に跳ねた。
結婚して七年。
僕はいまだに、洗濯物の正しい干し方を学んでいない。
彼女の指示に合わせてピンチを挟む。
「ほら、ズボン逆さま。重い方を下に。」
「さすが先生、細かいですね。」
「主婦だって職人ね、あるよ!」
風が少し強くなり、干したタオルがふわっと顔にかかった。
僕はタオルの向こうから言う。
「顔に直撃したよ。」
「近づきすぎ。」
「まあね……」
その声に、彼女がくすっと笑う音が混じった。
一息ついて空を見上げると、陽ざしがまぶしい。
そのとき、一枚のTシャツが風にあおられて、ハンガーから滑り落ちた。
僕とナオミ、同時に手を伸ばす。
指先が、かすかに触れた。
「下手ね……」
「まあね。」
「でも、ありがと。」
ナオミは拾ったTシャツのシワを伸ばして、僕の手に戻した。
指先に、太陽の熱がまだ残っていた。
しばらく黙って、干された洗濯物を眺める。
風が通るたび、シャツが軽く揺れ、影が踊る。
「ねえ、知ってる? 中国では“婚姻は縫補(ほうほ)”ってことわざがあるよ。」
「縫うってこと?」
「うん。昔はね、服が破れたら縫って、また着たの。
今はもう、破れる服なんて少ないけど――汚れたら洗えばいい。
でもね、手をかけて直そうとする気持ちは、同じあるよ。」
僕は無言でうなずいた。
言葉を足すと、せっかく乾いた空気がまた湿りそうだった。
洗濯物が風に揺れて、僕らの影もゆらゆらと踊った。
手をかけるたびに、少しずつ色あせて、でも馴染んでいく。
今日の陽ざしは少し熱かったけれど、
それでも、悪くない週末だった。
0
この作品の感想を投稿する
あなたにおすすめの小説
ちょっと大人な物語はこちらです
神崎未緒里
恋愛
本当にあった!?かもしれない
ちょっと大人な短編物語集です。
日常に突然訪れる刺激的な体験。
少し非日常を覗いてみませんか?
あなたにもこんな瞬間が訪れるかもしれませんよ?
※本作品ではGemini PRO、Pixai.artで作成した生成AI画像ならびに
Pixabay並びにUnsplshのロイヤリティフリーの画像を使用しています。
※不定期更新です。
※文章中の人物名・地名・年代・建物名・商品名・設定などはすべて架空のものです。
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
あるフィギュアスケーターの性事情
蔵屋
恋愛
この小説はフィクションです。
しかし、そのようなことが現実にあったかもしれません。
何故ならどんな人間も、悪魔や邪神や悪神に憑依された偽善者なのですから。
この物語は浅岡結衣(16才)とそのコーチ(25才)の恋の物語。
そのコーチの名前は高木文哉(25才)という。
この物語はフィクションです。
実在の人物、団体等とは、一切関係がありません。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる