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■28.バイバイ

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拓真くんと話がしたい。


だけれども、厨房にいるオーナーの視線がそれを躊躇わせる。


働く皆が私と拓真くんの動向を気にしている。
その空気も、近付き難くしている。




お盆が過ぎて暇な筈なのに、わざと忙しいふりをして動き回る。

さり気なく拓真くんの近くへ……。




「昨日はゴメンね。」

こそっと声をかけた。


「謝らないで。
るあちゃんは何も悪くないよ。
こっちこそゴメン。
帰り…遅くなっちゃったよね。」


あんなに怒られて嫌な思いしたのにも拘わらず、拓真くんは私の心配をしてくれた。



「ううん。私は大丈夫……。」

「俺も大丈夫だよ。
それにしても、昨日のオーナー恐かったなぁ~w」


明るく振る舞う拓真くん。


どう返したらいいのかわからず沈黙………。




「なんだか……話にくくなっちゃったね。」


「そうだね……。
皆の視線が気になって……。」



いつもの様に笑って話せない。
最後だから楽しく笑っていたいんだけど…。


上手く笑えない。



お昼過ぎまでそんな感じで、拓真くんと殆ど話せずに終った。


夕方私がバイトをあがるちょっと前。
拓真くんが時間を作り、抜け出して
裏口でこっそり密会した。



「これ、、、俺の番号。」


メモ用紙に携帯番号が書かれた紙を
渡された。


わ…………!



「ありがとう////」


両手で大事に受け取った。


「るあちゃんは携帯持ってないって
言ってたよね…?」

「ウン…。あ、でもバイト代入ったら
買うつもりなんだ!
だから…自宅の番号教える!」


そう言って、エプロンのポケットからメモ帳とボールペンを取り出し、家電の番号を書いて拓真くんに渡した。


「ありがとう!
ここにかけても平気?」

「あ…いや…私が拓真くんの携帯にかける!」

「本当!?」

「ウン!かけるよ!」

「ありがとう!
……嬉しい。絶対かけてね!」

「ウン!」


拓真くんの携帯番号を教えてもらえた!
今日で拓真くんはバイト終わりだけど、まだ繋がっていられると思うと
嬉しくて仕方がなかった////


17時を知らせる放送が流れると、帰り支度をし、拓真くんにもらった携帯番号が記された紙を大切にバッグの中へしまった。


拓真くんと光くんは、私の自転車が停めてある場所までお別れを言いに来てくれた。



「るあちゃん、バイバイ。
一緒に働けて楽しかった!
また会いに来るから!」

金髪チャラ男の光くんは、目を潤ませて私にハグした。


涙目の光くんにハグされて私もウルッときた。


「ウン。絶対会いに来てね!」



「本当にこの夏は最高の思い出になったよ。
るあちゃんにも、皆にも出会えた事に
感謝してる。ありがとう。
また絶対会いに来るよ。」


光くんから離れると拓真くんに手を差し出されたので、固く握手を交わした。


軽い光くんとはすんなり出来るハグも、拓真くんとは意識しちゃって出来ない。
握手で精一杯だった。


「ウン。本当にありがとう。
二人に出会えて良かった。」


そう言ってお別れした。


明日の朝にはもう二人はここを発っている。


淋しくなるよ。




だけど、まだ繋がってる。

私が勇気を出して電話をかけられれば
ずっと繋がっていられる。
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