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5.苛立ち
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早朝の訓練が終わり、タカネはふうっと息をついて、棍棒を地面に置いた。慣れているとはいえ、疲れないわけではなかった。対するイワオも、肩を上下させてはいるものの、周りの若者たちのようにへたり込むことはなかった。
日が昇る頃に、主塔から寝ぼけ眼の青年たちは出てきた。タカネを含め、最後の夜番をしていた者たちは、もちろんずっと起きていた。
一晩防具を着けていて、きっとみなよく眠れていないことだろう。眠気と疲れにふらふらとしながら中庭に集まると、一同は固まった体を動かし、関節がぱきぱきと音を鳴らした。朝の空気は冷たく、みなぶるぶる震えていた。
そうして昨日と同じように組に分かれ、訓練がはじまった。
タカネはまた昨日と同じく同輩たちに加わった。そしてこれまた同じく、イワオの相手にあてがわれた。どうやら仲間たちは、二人のことをどうやってでも近づけようと思っているようだった。タカネはおこる気も起こらず、ただ苦笑した。
そして早朝の訓練が終われば、朝食だった。タカネは武器を置くと、すぐに準備に取りかかった。村の連中はたいがい疲れ切っていて動くのも億劫そうだったし、十人隊の中では一番の年少だったから、料理は自分の仕事だと思っていた。といっても、そんなに手のかかるものは作らないから、すぐに終わったが。
かわいそうなほど疲れた様子の村の連中に食べ物を配ると、自分の分を椀によそった。そして歳の近い若者が集まっている、中庭の端に向かった。
みんな青い顔をして、倉庫の壁にもたれているか、地面に腰を下ろすかしていた。いつもは陽気なハルは、どうやら食べ物も喉を通らないようで、椀を手にしたまま、座ってうなだれていた。
ハルの横にはイワオがいた。イワオは一同の中では元気そうで、ハルの様子をうかがいながら、朝食を取っていた。
タカネが近づくと、イワオは顔を上げた。二人は視線を合わせたが、すぐに逸した。タカネはイワオを挟んで、ハルの隣で膝をつく。すると、ハルは顔を上げた。
「吐きそう。」
ハルは短く言った。タカネは、いつもは明るい友人の、哀れを催す蒼白な顔に、思わずくすっと笑った。ハルは恨めしそうに睨んだ。
「お前はなんで元気そうなんだ。」
「そりゃ、鍛えてるからさ。」
タカネは答えて、朝食を口にした。実際、この訓練くらいでは、タカネはそうひどく疲れるということはなかった。もっと酷い目に遭ってきたのだ。
ハルは、うう、と唸った。タカネはびっくりして顔を上げ、思わずイワオと目を合わせた。イワオはハルの肩を掴んだ。
「おい、吐くなよ。」
イワオに続けて、タカネが言った。
「飯を食ったほうがいいぜ。いま食っとかなきゃ、後から辛いぞ。」
ハルは顔を上げ、左右の友人を憎々しげな目で見た。タカネもイワオも、ハルを励ましながらもぐもぐと口を動かし、すでに食べ終えてしまっていた。
「お前らは元気でいいよな、この、仲良し食いしん坊どもが。」
ハルは吐き捨てるように言った。タカネは友人のみょうな罵倒に、イワオと一瞬、目を合わせた。
イワオが、あきれたように言った。
「ハル、お前、腹減ってないのか。食ったほうがいいぜ。」
ハルはタカネとイワオを睨みつけた。だが弱った顔で睨まれても、少しも怖くなく、むしろ滑稽な感じがした。それでタカネが笑みを漏らすと、ハルはおこった声で言った。
「お前ら、おれのこと苛めて楽しいかよ。こっちは、お前ら仲良し組を仲直りさせようってんで、頑張ってるのによう。」
ハルが言うと、タカネはむっとして、相手の目を睨んだ。
「心配してやってるのに、そんなこと言うのか。」
「おれだって、お前らのこと心配してやってるのになあ。」
ハルは不貞腐れたように言った。そして匙で汁物を口に入れると、顔をしかめて飲み込んだ。
タカネは溜め息をつくと、立ち上がった。もう食事は終え、ハルも食べはじめたことだから、一緒にいてやる必要もなさそうだった。
中庭の向こうにある井戸の近くに即席の調理場があったから、食器を集めるためにそちらに向かった。焚き火のそばに大鍋があり、その近くに使った後の椀と匙とが盛られていた。青年が数人座って、食器を洗っていた。
食器を置いて振り返ると、食器を手に、イワオがこちらに向かっていた。タカネは、その場を離れようかと思ったが、立ち止まってイワオを待った。
イワオがタカネの横を通り、食器を先輩らに任せると、タカネを振り向いた。目を伏せ、なにか考え込んでいる様子だったが、やがて口を開く。
「ちょっと、いいか。」
タカネは頷いた。
イワオが近くに来て、二人は並んで歩いた。中庭の隅を歩き、倉庫の陰に入る。人の目がまったくないわけではなかったが、小声で話していれば誰にも聞こえないであろう、といった場所だった。
イワオがタカネに振り向いた。タカネは巨躯の友人を見上げた。
二人は向かい合ったまま、しばし沈黙した。タカネは、自分から話すつもりはなかった。イワオが誘ったのだから、相手から話せばいいのだ。
イワオは逡巡するように視線を泳がせていたが、やがてタカネに目を合わせると、口を開いた。
「強くなったよな、タカネ。」
イワオが言った。思わぬ言葉に、タカネは眉を上げた。イワオは続ける。
「前よりも体が大きくなったし、力も強くなってる。剣の腕だって、ずっとよくなった。」
「そうだな。」
そう答えながら、タカネは苛立ちを覚えた。
確かに、少年時代よりも強くなっただろうことは、自分でも分かっている。だが、イワオとは少し型の練習をしたに過ぎない。そんなことで腕の良し悪しが分かるわけもなかった。イワオの言葉は、中身のない薄っぺらな世辞にしか聞こえなかった。
「それが言いたかっただけか?」
タカネは冷たい声で言った。
イワオは、視線を落とした。言うべきことを探しているのだろう。どうやら、イワオがタカネと話したいと思っていることは、ほんとうのようだった。以前のように、仲良くなりたいのだろうか。だがそのためには、軽薄な称賛では足りなかった。しかしなにが必要なのか、それはタカネにも分かっていなかったが。
今度はタカネが先に口を開いた。考えたわけではなく、思わず言葉が飛び出た。
「なんでおれが戦士団に入ったか、分かるか。」
タカネが問うと、イワオは苦痛に耐えるような顔をした。その表情で、タカネは確信した。
もちろん、イワオには分かっているのだ。戦士団には入れぬと言って侮辱したことをイワオは忘れてはおらず、それがタカネの決心に繋がったことも理解しているのだ。
二人は見合ったまま、黙った。
しかし次の言葉が出る前に、周りがざわめき、人が中庭に集まりはじめた。訓練の再開だった。
タカネは視線を外すと、イワオに背を向け、先に歩き出した。
人混みを歩いて、タカネは真っ先にハルの様子を窺った。細身の若者は、まだ青白い顔をしていたが、いちおう武器と盾とを持ち上げられるほどには回復しているようだった。タカネはほっと息をついた。
また組に分かれ、練習がはじまる。
今度も、タカネとイワオが組んだ。今度ばかりは、タカネもこの組み合わせに文句はなかった。他の同輩たちはみんな消耗していたから、イワオの相手はできないだろう。戦士のツムジが間を回って、叱咤する声が上がっていた。
タカネはイワオと基本的な型の練習をした。一方が攻撃し、他方が防御し、それを交代で繰り返す。相手を打つことが目的の試合ではないが、といって楽なわけでは決してない。動きは素早く、打撃にはしっかりと力が込もっている。防御を疎かにすれば、簡単に怪我をするだろう。加えて鎧を着ているものだから、それだけ力を使った。
タカネはもちろん戦士であるし、イワオも腕が良かったから、ツムジは二人から目を離し、他の者に気を向けていた。
繰り返し打ち合いながら、タカネは内心で苛々としていた。ついさっきイワオが言った言葉が、耳に蘇る。
強くなった、とイワオは言った。あの軽い言葉。あれで自分のことをなだめようとしているのだとしたら、ずいぶん舐められたものだと思う。
幼い頃であったら、それにあの決定的な誓いの日の前であれば、あんな言葉でも、きっと喜んだだろう。ずっと慕っていたイワオに褒められて、うれしがっただろう。だがいまさらあんなことを言われても、無意味なことだった。タカネはもう、少年ではなかった。
タカネは苛立ちを込めて、力強く棍棒を振るった。それまでは、本気では打っていなかったのだが、いまは本気だった。重い棒が盾にぶつかって、がんっと大きな音を立てた。
イワオは兜の下で、腹立たしそうに目を細めた。そしてイワオも、いっそうの力を込めて応じた。力強い打撃に、タカネは盾を持つ腕に大きな衝撃を感じた。
それから、二人は全力の応酬をはじめた。互いに相手を見据え、打ち倒さんとばかりに強い一撃を加える。
イワオはさすがに、力が強かった。巨体から放たれる攻撃を、盾と棍棒とで受け止めるたびに、腕がびりびりと痺れた。しかしタカネは一歩も引かなかった。ただ力だけで押されるような、生半可な鍛え方はされていなかった。
攻防を続けていると、タカネの腹の中で、闘争心がむらむらと燃え上がった。激しく手足を動かし、手合わせしている最中、言葉など頭の中に浮かばなかった。ただ猛々しい感情が湧き上がり、それに促されるまま、自分でも気が付かぬ間に、少しずつ型通りの練習から、試合に近いものへと移っていった。
タカネは、イワオを打ち倒そうとしていた。
そうして戦いをはじめようとしていると、突然、背後で大きな声が上がった。タカネとイワオは手を止めた。タカネが振り返ると、ツムジが恐ろしい顔をしていた。
「お前、なにをやってやがる。」
ツムジは低い声で言った。
周りの者は、顔を見合わせる。タカネは息を荒げながらも、ただ黙っていた。
ツムジはタカネの肩を掴むと、その顔を覗き込んだ。ツムジの厳しい形相に、若い戦士は血が凍るような思いをした。
しばらく、ツムジは黙って若い後輩のことを睨んでいた。少しずつ、歳の近い若者たちが集まってきた。視界の端で、ハルが、元から疲れで青白い顔を、いっそう蒼白にしているのが見えた。
やがてツムジは力を抜いて、溜め息をついた。
「少し頭を冷やしてこい。」
そう言って、戦士はタカネの肩から手を放した。タカネは一同に背を向け、中庭から門へと足早に歩いた。
日が昇る頃に、主塔から寝ぼけ眼の青年たちは出てきた。タカネを含め、最後の夜番をしていた者たちは、もちろんずっと起きていた。
一晩防具を着けていて、きっとみなよく眠れていないことだろう。眠気と疲れにふらふらとしながら中庭に集まると、一同は固まった体を動かし、関節がぱきぱきと音を鳴らした。朝の空気は冷たく、みなぶるぶる震えていた。
そうして昨日と同じように組に分かれ、訓練がはじまった。
タカネはまた昨日と同じく同輩たちに加わった。そしてこれまた同じく、イワオの相手にあてがわれた。どうやら仲間たちは、二人のことをどうやってでも近づけようと思っているようだった。タカネはおこる気も起こらず、ただ苦笑した。
そして早朝の訓練が終われば、朝食だった。タカネは武器を置くと、すぐに準備に取りかかった。村の連中はたいがい疲れ切っていて動くのも億劫そうだったし、十人隊の中では一番の年少だったから、料理は自分の仕事だと思っていた。といっても、そんなに手のかかるものは作らないから、すぐに終わったが。
かわいそうなほど疲れた様子の村の連中に食べ物を配ると、自分の分を椀によそった。そして歳の近い若者が集まっている、中庭の端に向かった。
みんな青い顔をして、倉庫の壁にもたれているか、地面に腰を下ろすかしていた。いつもは陽気なハルは、どうやら食べ物も喉を通らないようで、椀を手にしたまま、座ってうなだれていた。
ハルの横にはイワオがいた。イワオは一同の中では元気そうで、ハルの様子をうかがいながら、朝食を取っていた。
タカネが近づくと、イワオは顔を上げた。二人は視線を合わせたが、すぐに逸した。タカネはイワオを挟んで、ハルの隣で膝をつく。すると、ハルは顔を上げた。
「吐きそう。」
ハルは短く言った。タカネは、いつもは明るい友人の、哀れを催す蒼白な顔に、思わずくすっと笑った。ハルは恨めしそうに睨んだ。
「お前はなんで元気そうなんだ。」
「そりゃ、鍛えてるからさ。」
タカネは答えて、朝食を口にした。実際、この訓練くらいでは、タカネはそうひどく疲れるということはなかった。もっと酷い目に遭ってきたのだ。
ハルは、うう、と唸った。タカネはびっくりして顔を上げ、思わずイワオと目を合わせた。イワオはハルの肩を掴んだ。
「おい、吐くなよ。」
イワオに続けて、タカネが言った。
「飯を食ったほうがいいぜ。いま食っとかなきゃ、後から辛いぞ。」
ハルは顔を上げ、左右の友人を憎々しげな目で見た。タカネもイワオも、ハルを励ましながらもぐもぐと口を動かし、すでに食べ終えてしまっていた。
「お前らは元気でいいよな、この、仲良し食いしん坊どもが。」
ハルは吐き捨てるように言った。タカネは友人のみょうな罵倒に、イワオと一瞬、目を合わせた。
イワオが、あきれたように言った。
「ハル、お前、腹減ってないのか。食ったほうがいいぜ。」
ハルはタカネとイワオを睨みつけた。だが弱った顔で睨まれても、少しも怖くなく、むしろ滑稽な感じがした。それでタカネが笑みを漏らすと、ハルはおこった声で言った。
「お前ら、おれのこと苛めて楽しいかよ。こっちは、お前ら仲良し組を仲直りさせようってんで、頑張ってるのによう。」
ハルが言うと、タカネはむっとして、相手の目を睨んだ。
「心配してやってるのに、そんなこと言うのか。」
「おれだって、お前らのこと心配してやってるのになあ。」
ハルは不貞腐れたように言った。そして匙で汁物を口に入れると、顔をしかめて飲み込んだ。
タカネは溜め息をつくと、立ち上がった。もう食事は終え、ハルも食べはじめたことだから、一緒にいてやる必要もなさそうだった。
中庭の向こうにある井戸の近くに即席の調理場があったから、食器を集めるためにそちらに向かった。焚き火のそばに大鍋があり、その近くに使った後の椀と匙とが盛られていた。青年が数人座って、食器を洗っていた。
食器を置いて振り返ると、食器を手に、イワオがこちらに向かっていた。タカネは、その場を離れようかと思ったが、立ち止まってイワオを待った。
イワオがタカネの横を通り、食器を先輩らに任せると、タカネを振り向いた。目を伏せ、なにか考え込んでいる様子だったが、やがて口を開く。
「ちょっと、いいか。」
タカネは頷いた。
イワオが近くに来て、二人は並んで歩いた。中庭の隅を歩き、倉庫の陰に入る。人の目がまったくないわけではなかったが、小声で話していれば誰にも聞こえないであろう、といった場所だった。
イワオがタカネに振り向いた。タカネは巨躯の友人を見上げた。
二人は向かい合ったまま、しばし沈黙した。タカネは、自分から話すつもりはなかった。イワオが誘ったのだから、相手から話せばいいのだ。
イワオは逡巡するように視線を泳がせていたが、やがてタカネに目を合わせると、口を開いた。
「強くなったよな、タカネ。」
イワオが言った。思わぬ言葉に、タカネは眉を上げた。イワオは続ける。
「前よりも体が大きくなったし、力も強くなってる。剣の腕だって、ずっとよくなった。」
「そうだな。」
そう答えながら、タカネは苛立ちを覚えた。
確かに、少年時代よりも強くなっただろうことは、自分でも分かっている。だが、イワオとは少し型の練習をしたに過ぎない。そんなことで腕の良し悪しが分かるわけもなかった。イワオの言葉は、中身のない薄っぺらな世辞にしか聞こえなかった。
「それが言いたかっただけか?」
タカネは冷たい声で言った。
イワオは、視線を落とした。言うべきことを探しているのだろう。どうやら、イワオがタカネと話したいと思っていることは、ほんとうのようだった。以前のように、仲良くなりたいのだろうか。だがそのためには、軽薄な称賛では足りなかった。しかしなにが必要なのか、それはタカネにも分かっていなかったが。
今度はタカネが先に口を開いた。考えたわけではなく、思わず言葉が飛び出た。
「なんでおれが戦士団に入ったか、分かるか。」
タカネが問うと、イワオは苦痛に耐えるような顔をした。その表情で、タカネは確信した。
もちろん、イワオには分かっているのだ。戦士団には入れぬと言って侮辱したことをイワオは忘れてはおらず、それがタカネの決心に繋がったことも理解しているのだ。
二人は見合ったまま、黙った。
しかし次の言葉が出る前に、周りがざわめき、人が中庭に集まりはじめた。訓練の再開だった。
タカネは視線を外すと、イワオに背を向け、先に歩き出した。
人混みを歩いて、タカネは真っ先にハルの様子を窺った。細身の若者は、まだ青白い顔をしていたが、いちおう武器と盾とを持ち上げられるほどには回復しているようだった。タカネはほっと息をついた。
また組に分かれ、練習がはじまる。
今度も、タカネとイワオが組んだ。今度ばかりは、タカネもこの組み合わせに文句はなかった。他の同輩たちはみんな消耗していたから、イワオの相手はできないだろう。戦士のツムジが間を回って、叱咤する声が上がっていた。
タカネはイワオと基本的な型の練習をした。一方が攻撃し、他方が防御し、それを交代で繰り返す。相手を打つことが目的の試合ではないが、といって楽なわけでは決してない。動きは素早く、打撃にはしっかりと力が込もっている。防御を疎かにすれば、簡単に怪我をするだろう。加えて鎧を着ているものだから、それだけ力を使った。
タカネはもちろん戦士であるし、イワオも腕が良かったから、ツムジは二人から目を離し、他の者に気を向けていた。
繰り返し打ち合いながら、タカネは内心で苛々としていた。ついさっきイワオが言った言葉が、耳に蘇る。
強くなった、とイワオは言った。あの軽い言葉。あれで自分のことをなだめようとしているのだとしたら、ずいぶん舐められたものだと思う。
幼い頃であったら、それにあの決定的な誓いの日の前であれば、あんな言葉でも、きっと喜んだだろう。ずっと慕っていたイワオに褒められて、うれしがっただろう。だがいまさらあんなことを言われても、無意味なことだった。タカネはもう、少年ではなかった。
タカネは苛立ちを込めて、力強く棍棒を振るった。それまでは、本気では打っていなかったのだが、いまは本気だった。重い棒が盾にぶつかって、がんっと大きな音を立てた。
イワオは兜の下で、腹立たしそうに目を細めた。そしてイワオも、いっそうの力を込めて応じた。力強い打撃に、タカネは盾を持つ腕に大きな衝撃を感じた。
それから、二人は全力の応酬をはじめた。互いに相手を見据え、打ち倒さんとばかりに強い一撃を加える。
イワオはさすがに、力が強かった。巨体から放たれる攻撃を、盾と棍棒とで受け止めるたびに、腕がびりびりと痺れた。しかしタカネは一歩も引かなかった。ただ力だけで押されるような、生半可な鍛え方はされていなかった。
攻防を続けていると、タカネの腹の中で、闘争心がむらむらと燃え上がった。激しく手足を動かし、手合わせしている最中、言葉など頭の中に浮かばなかった。ただ猛々しい感情が湧き上がり、それに促されるまま、自分でも気が付かぬ間に、少しずつ型通りの練習から、試合に近いものへと移っていった。
タカネは、イワオを打ち倒そうとしていた。
そうして戦いをはじめようとしていると、突然、背後で大きな声が上がった。タカネとイワオは手を止めた。タカネが振り返ると、ツムジが恐ろしい顔をしていた。
「お前、なにをやってやがる。」
ツムジは低い声で言った。
周りの者は、顔を見合わせる。タカネは息を荒げながらも、ただ黙っていた。
ツムジはタカネの肩を掴むと、その顔を覗き込んだ。ツムジの厳しい形相に、若い戦士は血が凍るような思いをした。
しばらく、ツムジは黙って若い後輩のことを睨んでいた。少しずつ、歳の近い若者たちが集まってきた。視界の端で、ハルが、元から疲れで青白い顔を、いっそう蒼白にしているのが見えた。
やがてツムジは力を抜いて、溜め息をついた。
「少し頭を冷やしてこい。」
そう言って、戦士はタカネの肩から手を放した。タカネは一同に背を向け、中庭から門へと足早に歩いた。
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