3 / 9
3.繕いの術
しおりを挟む
コガタナは、ヒスイの腕を掴んで小走りになって、仲間たちから距離を空けた。そして誰よりも早く、一目散に自分が働く秘術工房の戸の前に立つと、松明の柄で扉を乱暴に殴った。
「起きろ、起きろ! さあ、起きろ! 見習いが来たぞ、新年が来るぞ! とっとと出てこい!」
コガタナがそうして何度も扉を殴っているのを、ヒスイは笑いながら見ていた。
「お前、そんなことして平気なのかよ。親方におこられないか。」
「大丈夫だって。心配すんなよ。」
そう答えながらも、コガタナは少しばかり心配していた。見習いとなってから、これまでに冬の行進を二度経験していたが、自分の働く工房の扉をこうやって叩いたのは初めてだった。
祭が終わったら、師匠の下で働く日常が戻ってくるのだ。それを考えると、尻込みしてしまうのだ。だが今年は、コガタナの成人になる年でもあって、若者の気はいつにも増して大きくなっていた。
扉がゆっくりと開き、小さな隙間ができた。中からは、松明の黄色い光に照らされているというのに青白く見える、コガタナの先輩の顔が浮かび上がった。その顔は疲れと眠気で荒んで見えた。それが余計におもしろくて、見習いはげらげらと笑った。
「菓子をくれよ。かわいい後輩が来たんだぜ。菓子をくれよ。」
コガタナはそう言って手を差し出した。先輩は後輩に目もくれず、そのそばに立っていたヒスイに目をやった。それから、コガタナに目を向け直す。
「入ってこい。あの水差しが組み立て終わったんだ。これから秘術で直すところを見られるぞ。」
そう言って、先輩は工房の中に入った。
コガタナはヒスイにちらと目を向け、どうしたものかと思った。若者だから、コガタナもヒスイも、騒がしい行列と一緒に行かなければならなかった。走ってきたから、いまは仲間たちから距離を空けているが、すぐに近くまで来るし、追い越されてしまうかもしれない。
だが呪文による修理はすぐに終わるだろうから、それを見てから仲間を追いかけたら十分間に合うはずだ、と見習いは思い直した。それで、コガタナはヒスイの手を引くと、工房に入った。
二人が入ると、仕事場は松明の灯りでまばゆく照らし出されたが、火鉢の灰に差し込むと、その光も弱まった。
作業机を挟んで、師と先輩とが並んで立っていた。机の上には、泥で一時的に組み立てられた、硝子の水差しが置いてある。コガタナとヒスイは、師の反対に並んで立った。
近くに行くと、水差しの横に、ひとつまみの地の元素塩を載せた小皿が置いてあるのが見えたが、呪術師ではないヒスイには、たぶん色のついた砂としか見えないことだろう。
ヒスイが、心配そうに囁いた。
「なあ、おれ、見ていいのかな。呪いって、秘密じゃないのか。」
「見ても構わんよ。」
そう答えたのは、コガタナの師だった。
「秘密はあるがね、繕いの術を見るくらい、どうということはない。治療師が、わざわざ患者に目隠しをするかね。見ただけで分かるような秘密ではないのだよ。」
それから、師はコガタナの先輩に目を向けた。
「さて、今夜はお前さんにしてもらおうか。」
「おれがしたい!」
コガタナはそう言って、飛び上がらんばかりに、勢いよく手を上げた。
「おれがする。そのくらい、おれにだってできますよ。」
先輩が、くっくと喉を鳴らして笑った。
「お前、そうやってヒスイに、いいところを見せようってのか?」
「違いますよ。ヒスイは関係ない。」
コガタナはむすっとして口を尖らせた。だが言われてみると、ヒスイに自分の仕事を見せられるいい機会だった。ふだんは、それぞれ別の仕事をしているのだし、秘術は日常で使うような技ではなかったからだ。それで、いよいよ自分で修理をしたいと思った。
「おれがしますよ。」
そう言って、コガタナは作業台の小皿に手を伸ばした。しかし見習いの手が届くより早く、先輩が皿を手元に引き寄せた。コガタナは先輩を睨んだ。先輩は苦笑した。
「お前はこれから朝まで騒ぐんだろ。いま術を使ってみろ、日が昇る前に疲れて寝てしまうぞ。」
「それに、さっき塵をやっただろう」
と、師が引き取った。
「後で、なにか見世物でもしたらどうだね。お前の技を見せる、またとない機会ではないかね。」
コガタナは、腰に下げている小さな袋を手で撫でた。そこには呪文に力を与える材料となる、元素の結晶が入っていた。これを仲間たちが見ている前で使って術を披露すれば、この上なく楽しそうだった。それで、ここは先輩に任せることに納得した。
先輩は小皿から元素の結晶を手に取ると、両手に等分に乗せた。そして継ぎだらけの水差しに覆いかぶさるようにして、それを抱くように両腕を曲げた。だが、水差しに触れはしなかった。
それから顔を水差しに近づけると、聞き取れぬほどの小さな声で囁きかけた。ヒスイは興味を持って作業台に身を乗り出した。コガタナは、なにを囁いているのか聞こえてはいなかったが、おおむね想像ができた。
「引き離されたものよ、結びつくがいい。欠けたものよ、満ちるがいい。割れたものよ、一つとなるがいい。お前は土から生まれたもの。ここにお前の源がある。お前がそこから出たところへと帰り、私の手でふたたび全きものとなるがいい。引き離されたものよ――」
秘術師は繰り返し囁いた。コガタナは、むっと土や草、木の匂いが立ち込めるのを感じた。それは秘術師の両手にある、土の元素塩から発せられているものだった。元素の結晶が燃え、濃い大地の匂いのする不可視で無形の、なにか微細で軽やかな霞のようなものとなり、それが壊れた水差しに吸い込まれていくのが、コガタナには目に見えるように感じ取れた。
とはいえ、それは本当の匂いではなく、呪術師だけが感じる感覚だった。呪術師でないヒスイには、なにが起こっているのか分からないだろう。
それに、師や先輩も、それぞれに違った感覚を覚えているに違いなかった。霊的な感覚は、人によって違いがあった。コガタナには、元素を匂いのようなものとして感じられるが、先輩は熱として、師は音として感じ取るのだと言っていた。それがどうしてなのかは、誰にも分からなかった。
コガタナは、元素がすべて水差しの中に吸い込まれるのを感じた。あたりに立ち込めていた大地の香りは、消えてなくなった。先輩は呪文を唱えるのを止めると、手を机につき、荒く息をした。額には汗が浮かんでいる。
ヒスイは困惑気味に、三人の呪術師の顔を順々に見て、それからコガタナに向けて言った。
「なにが起こったんだ? なにか……変な感じがしたけど。」
コガタナは頷いた。
「いまのが秘術だよ。その『変な感じ』ってのが元素だろうな。先輩が命の息吹と大地の元素を、壊れた水差しに吹き込んで、新しい形を与えたんだ。つまり壊れた水差しと塩を可能なものとして、別の現実のものに……。」
そこまで言ってから、コガタナは首を捻った。ヒスイは明らかに理解していなかった。見習いは師に困った顔を向けた。師は穏やかに言った。
「基本的な考え方は、ふつうの修理と同じだよ。二つに割れたものがあれば、くっつければいい。だが硝子をくっつけることは、まして元通りにくっつけた上で使えるようにすることは、手の技ではなかなかできないことだろう。それが、呪術にならできる。いま起こったのは、壊れた水差しに少しばかり材料を継ぎ足して、壊れる前にそっくり同じ水差しに作り直したのだよ。」
「じゃあ、これ、継ぎだらけだけど、直ったんですか?」
「直っている。手にとって確かめてみるといい。その泥を剥がしてみなさい。」
師がそう言うと、ヒスイは水差しを手に取った。それは術が施される前と、見た目はなにも変わってはいなかった。粘土で継がれて、無数の線が表面に走っている。
ヒスイは泥で描かれた線を指で撫で、それから、爪で引っ掻いた。すると、若者は息を飲んで、顔を上げた。
「これ、もともと割れてたんですよね。すごいな、新品みたいだ。」
そう言って、ヒスイは泥を爪で削っていった。コガタナが横から覗き込むと、思った通り割れは直っていて、その痕跡すらも残ってはいなかった。
ヒスイは何箇所かを調べて、そのどこにも傷が残っていないことを確認すると、作業台に置いた。それから、コガタナに顔を向けた。
「お前も、こんなことができるのか?」
「そりゃ、そうさ。こんくらい――」
と言いかけて、コガタナは一度口をつぐんで、言い直した。
「いや、難しいかな。こんだけばらばらになってたら、できない……かもしれない。」
「できるわけがないだろう。」
術を施してからずっと黙っていた先輩が、ようやく口を開いた。
「おれだってきついんだ。お前にはまだ早いな。」
コガタナは不満そうに口を尖らせていたが、黙って俯いた。暗かったから誰からも見えなかったが、顔は赤くなっていた。ついさっき、自分で修理をするのだと息巻いていたのが恥ずかしかったからだ。
師が口を開いた。
「さてさて、二人とも、行かなくていいのかね。連中はもう先に行ったようだが。」
コガタナとヒスイは、はっとして戸口に顔を向けた。若者たちの騒ぎ声が、遠くの方に聞こえていた。秘術師の仕事を見ているうちに、思ったよりも時間が経っていたようだった。
二人は急いで火鉢の灰に刺していた松明を取り出すと、戸口に向かった。ヒスイが先に出て、コガタナがそれに続こうとして、振り返った。
「お二人は来ないんですか?」
「しばらくしたら行く。お前の先輩が、少し休んだらな。」
それで、コガタナはヒスイに続いて出ていった。ヒスイは通りの向こうを見ていた。コガタナがそちらに目を向けると、遠くに松明の群れが見えた。
「急がなきゃな。」
ヒスイが言った。二人は並んで走り出した。しばらくして、コガタナは友人に言った。
「後で、いいもん見せてやるよ。さっきのより、もっと派手なのをな。」
ヒスイは見習い秘術師に怪訝そうな顔を向けた。
「なんだよ、なにかまた直すのか? 誰かが壊した扉とか?」
「違うよ、そんなんじゃない。もっと――」
と言いかけて、止めた。
「後で見せるよ。楽しみにしてろよ。」
そう言って、コガタナはにやっと笑った。二人は、騒がしい人だかりに近づいていた。
「起きろ、起きろ! さあ、起きろ! 見習いが来たぞ、新年が来るぞ! とっとと出てこい!」
コガタナがそうして何度も扉を殴っているのを、ヒスイは笑いながら見ていた。
「お前、そんなことして平気なのかよ。親方におこられないか。」
「大丈夫だって。心配すんなよ。」
そう答えながらも、コガタナは少しばかり心配していた。見習いとなってから、これまでに冬の行進を二度経験していたが、自分の働く工房の扉をこうやって叩いたのは初めてだった。
祭が終わったら、師匠の下で働く日常が戻ってくるのだ。それを考えると、尻込みしてしまうのだ。だが今年は、コガタナの成人になる年でもあって、若者の気はいつにも増して大きくなっていた。
扉がゆっくりと開き、小さな隙間ができた。中からは、松明の黄色い光に照らされているというのに青白く見える、コガタナの先輩の顔が浮かび上がった。その顔は疲れと眠気で荒んで見えた。それが余計におもしろくて、見習いはげらげらと笑った。
「菓子をくれよ。かわいい後輩が来たんだぜ。菓子をくれよ。」
コガタナはそう言って手を差し出した。先輩は後輩に目もくれず、そのそばに立っていたヒスイに目をやった。それから、コガタナに目を向け直す。
「入ってこい。あの水差しが組み立て終わったんだ。これから秘術で直すところを見られるぞ。」
そう言って、先輩は工房の中に入った。
コガタナはヒスイにちらと目を向け、どうしたものかと思った。若者だから、コガタナもヒスイも、騒がしい行列と一緒に行かなければならなかった。走ってきたから、いまは仲間たちから距離を空けているが、すぐに近くまで来るし、追い越されてしまうかもしれない。
だが呪文による修理はすぐに終わるだろうから、それを見てから仲間を追いかけたら十分間に合うはずだ、と見習いは思い直した。それで、コガタナはヒスイの手を引くと、工房に入った。
二人が入ると、仕事場は松明の灯りでまばゆく照らし出されたが、火鉢の灰に差し込むと、その光も弱まった。
作業机を挟んで、師と先輩とが並んで立っていた。机の上には、泥で一時的に組み立てられた、硝子の水差しが置いてある。コガタナとヒスイは、師の反対に並んで立った。
近くに行くと、水差しの横に、ひとつまみの地の元素塩を載せた小皿が置いてあるのが見えたが、呪術師ではないヒスイには、たぶん色のついた砂としか見えないことだろう。
ヒスイが、心配そうに囁いた。
「なあ、おれ、見ていいのかな。呪いって、秘密じゃないのか。」
「見ても構わんよ。」
そう答えたのは、コガタナの師だった。
「秘密はあるがね、繕いの術を見るくらい、どうということはない。治療師が、わざわざ患者に目隠しをするかね。見ただけで分かるような秘密ではないのだよ。」
それから、師はコガタナの先輩に目を向けた。
「さて、今夜はお前さんにしてもらおうか。」
「おれがしたい!」
コガタナはそう言って、飛び上がらんばかりに、勢いよく手を上げた。
「おれがする。そのくらい、おれにだってできますよ。」
先輩が、くっくと喉を鳴らして笑った。
「お前、そうやってヒスイに、いいところを見せようってのか?」
「違いますよ。ヒスイは関係ない。」
コガタナはむすっとして口を尖らせた。だが言われてみると、ヒスイに自分の仕事を見せられるいい機会だった。ふだんは、それぞれ別の仕事をしているのだし、秘術は日常で使うような技ではなかったからだ。それで、いよいよ自分で修理をしたいと思った。
「おれがしますよ。」
そう言って、コガタナは作業台の小皿に手を伸ばした。しかし見習いの手が届くより早く、先輩が皿を手元に引き寄せた。コガタナは先輩を睨んだ。先輩は苦笑した。
「お前はこれから朝まで騒ぐんだろ。いま術を使ってみろ、日が昇る前に疲れて寝てしまうぞ。」
「それに、さっき塵をやっただろう」
と、師が引き取った。
「後で、なにか見世物でもしたらどうだね。お前の技を見せる、またとない機会ではないかね。」
コガタナは、腰に下げている小さな袋を手で撫でた。そこには呪文に力を与える材料となる、元素の結晶が入っていた。これを仲間たちが見ている前で使って術を披露すれば、この上なく楽しそうだった。それで、ここは先輩に任せることに納得した。
先輩は小皿から元素の結晶を手に取ると、両手に等分に乗せた。そして継ぎだらけの水差しに覆いかぶさるようにして、それを抱くように両腕を曲げた。だが、水差しに触れはしなかった。
それから顔を水差しに近づけると、聞き取れぬほどの小さな声で囁きかけた。ヒスイは興味を持って作業台に身を乗り出した。コガタナは、なにを囁いているのか聞こえてはいなかったが、おおむね想像ができた。
「引き離されたものよ、結びつくがいい。欠けたものよ、満ちるがいい。割れたものよ、一つとなるがいい。お前は土から生まれたもの。ここにお前の源がある。お前がそこから出たところへと帰り、私の手でふたたび全きものとなるがいい。引き離されたものよ――」
秘術師は繰り返し囁いた。コガタナは、むっと土や草、木の匂いが立ち込めるのを感じた。それは秘術師の両手にある、土の元素塩から発せられているものだった。元素の結晶が燃え、濃い大地の匂いのする不可視で無形の、なにか微細で軽やかな霞のようなものとなり、それが壊れた水差しに吸い込まれていくのが、コガタナには目に見えるように感じ取れた。
とはいえ、それは本当の匂いではなく、呪術師だけが感じる感覚だった。呪術師でないヒスイには、なにが起こっているのか分からないだろう。
それに、師や先輩も、それぞれに違った感覚を覚えているに違いなかった。霊的な感覚は、人によって違いがあった。コガタナには、元素を匂いのようなものとして感じられるが、先輩は熱として、師は音として感じ取るのだと言っていた。それがどうしてなのかは、誰にも分からなかった。
コガタナは、元素がすべて水差しの中に吸い込まれるのを感じた。あたりに立ち込めていた大地の香りは、消えてなくなった。先輩は呪文を唱えるのを止めると、手を机につき、荒く息をした。額には汗が浮かんでいる。
ヒスイは困惑気味に、三人の呪術師の顔を順々に見て、それからコガタナに向けて言った。
「なにが起こったんだ? なにか……変な感じがしたけど。」
コガタナは頷いた。
「いまのが秘術だよ。その『変な感じ』ってのが元素だろうな。先輩が命の息吹と大地の元素を、壊れた水差しに吹き込んで、新しい形を与えたんだ。つまり壊れた水差しと塩を可能なものとして、別の現実のものに……。」
そこまで言ってから、コガタナは首を捻った。ヒスイは明らかに理解していなかった。見習いは師に困った顔を向けた。師は穏やかに言った。
「基本的な考え方は、ふつうの修理と同じだよ。二つに割れたものがあれば、くっつければいい。だが硝子をくっつけることは、まして元通りにくっつけた上で使えるようにすることは、手の技ではなかなかできないことだろう。それが、呪術にならできる。いま起こったのは、壊れた水差しに少しばかり材料を継ぎ足して、壊れる前にそっくり同じ水差しに作り直したのだよ。」
「じゃあ、これ、継ぎだらけだけど、直ったんですか?」
「直っている。手にとって確かめてみるといい。その泥を剥がしてみなさい。」
師がそう言うと、ヒスイは水差しを手に取った。それは術が施される前と、見た目はなにも変わってはいなかった。粘土で継がれて、無数の線が表面に走っている。
ヒスイは泥で描かれた線を指で撫で、それから、爪で引っ掻いた。すると、若者は息を飲んで、顔を上げた。
「これ、もともと割れてたんですよね。すごいな、新品みたいだ。」
そう言って、ヒスイは泥を爪で削っていった。コガタナが横から覗き込むと、思った通り割れは直っていて、その痕跡すらも残ってはいなかった。
ヒスイは何箇所かを調べて、そのどこにも傷が残っていないことを確認すると、作業台に置いた。それから、コガタナに顔を向けた。
「お前も、こんなことができるのか?」
「そりゃ、そうさ。こんくらい――」
と言いかけて、コガタナは一度口をつぐんで、言い直した。
「いや、難しいかな。こんだけばらばらになってたら、できない……かもしれない。」
「できるわけがないだろう。」
術を施してからずっと黙っていた先輩が、ようやく口を開いた。
「おれだってきついんだ。お前にはまだ早いな。」
コガタナは不満そうに口を尖らせていたが、黙って俯いた。暗かったから誰からも見えなかったが、顔は赤くなっていた。ついさっき、自分で修理をするのだと息巻いていたのが恥ずかしかったからだ。
師が口を開いた。
「さてさて、二人とも、行かなくていいのかね。連中はもう先に行ったようだが。」
コガタナとヒスイは、はっとして戸口に顔を向けた。若者たちの騒ぎ声が、遠くの方に聞こえていた。秘術師の仕事を見ているうちに、思ったよりも時間が経っていたようだった。
二人は急いで火鉢の灰に刺していた松明を取り出すと、戸口に向かった。ヒスイが先に出て、コガタナがそれに続こうとして、振り返った。
「お二人は来ないんですか?」
「しばらくしたら行く。お前の先輩が、少し休んだらな。」
それで、コガタナはヒスイに続いて出ていった。ヒスイは通りの向こうを見ていた。コガタナがそちらに目を向けると、遠くに松明の群れが見えた。
「急がなきゃな。」
ヒスイが言った。二人は並んで走り出した。しばらくして、コガタナは友人に言った。
「後で、いいもん見せてやるよ。さっきのより、もっと派手なのをな。」
ヒスイは見習い秘術師に怪訝そうな顔を向けた。
「なんだよ、なにかまた直すのか? 誰かが壊した扉とか?」
「違うよ、そんなんじゃない。もっと――」
と言いかけて、止めた。
「後で見せるよ。楽しみにしてろよ。」
そう言って、コガタナはにやっと笑った。二人は、騒がしい人だかりに近づいていた。
0
あなたにおすすめの小説
邪神の祭壇へ無垢な筋肉を生贄として捧ぐ
零
BL
鍛えられた肉体、高潔な魂――
それは選ばれし“供物”の条件。
山奥の男子校「平坂学園」で、新任教師・高尾雄一は静かに歪み始める。
見えない視線、執着する生徒、触れられる肉体。
誇り高き男は、何に屈し、何に縋るのか。
心と肉体が削がれていく“儀式”が、いま始まる。
上司、快楽に沈むまで
赤林檎
BL
完璧な男――それが、営業部課長・**榊(さかき)**の社内での評判だった。
冷静沈着、部下にも厳しい。私生活の噂すら立たないほどの隙のなさ。
だが、その“完璧”が崩れる日がくるとは、誰も想像していなかった。
入社三年目の篠原は、榊の直属の部下。
真面目だが強気で、どこか挑発的な笑みを浮かべる青年。
ある夜、取引先とのトラブル対応で二人だけが残ったオフィスで、
篠原は上司に向かって、いつもの穏やかな口調を崩した。「……そんな顔、部下には見せないんですね」
疲労で僅かに緩んだ榊の表情。
その弱さを見逃さず、篠原はデスク越しに距離を詰める。
「強がらなくていいですよ。俺の前では、もう」
指先が榊のネクタイを掴む。
引き寄せられた瞬間、榊の理性は音を立てて崩れた。
拒むことも、許すこともできないまま、
彼は“部下”の手によって、ひとつずつ乱されていく。
言葉で支配され、触れられるたびに、自分の知らなかった感情と快楽を知る。それは、上司としての誇りを壊すほどに甘く、逃れられないほどに深い。
だが、篠原の視線の奥に宿るのは、ただの欲望ではなかった。
そこには、ずっと榊だけを見つめ続けてきた、静かな執着がある。
「俺、前から思ってたんです。
あなたが誰かに“支配される”ところ、きっと綺麗だろうなって」
支配する側だったはずの男が、
支配されることで初めて“生きている”と感じてしまう――。
上司と部下、立場も理性も、すべてが絡み合うオフィスの夜。
秘密の扉を開けた榊は、もう戻れない。
快楽に溺れるその瞬間まで、彼を待つのは破滅か、それとも救いか。
――これは、ひとりの上司が“愛”という名の支配に沈んでいく物語。
番を拒み続けるΩと、執着を隠しきれないαが同じ学園で再会したら逃げ場がなくなった話 ――優等生αの過保護な束縛は恋か支配か
雪兎
BL
第二性が存在する世界。
Ωであることを隠し、平穏な学園生活を送ろうと決めていた転校生・湊。
しかし入学初日、彼の前に現れたのは――
幼い頃に「番になろう」と言ってきた幼馴染のα・蓮だった。
成績優秀、容姿端麗、生徒から絶大な信頼を集める完璧なα。
だが湊だけが知っている。
彼が異常なほど執着深いことを。
「大丈夫、全部管理してあげる」
「君が困らないようにしてるだけだよ」
座席、時間割、交友関係、体調管理。
いつの間にか整えられていく環境。
逃げ場のない距離。
番を拒みたいΩと、手放す気のないα。
これは保護か、それとも束縛か。
閉じた学園の中で、二人の関係は静かに歪み始める――。
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる