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秋も深まり、冷たい風がガラス戸を叩いている。
瀟洒なシャンデリアが照らすガラ空きの披露宴会場。
十月十六日、中嶋友希哉と吉川麻里奈の結婚式は予定通り行われた。
元々は中嶋の元彼女である佐藤真由子と挙げるために予約した式場を、花嫁だけを入れ替えてそのまま使用したというお粗末な披露宴だった。
会社関係者は披露宴からの参加だったがことごとく空席、いるのは何も知らない親戚や一部の友人だけだ。
バツの悪そうな新郎をよそに、幸せそうな新婦は高砂から目が痛くなりそうなほどに眩しい笑顔を振り撒いていた。
式を挙げるか挙げないかで相当揉めたらしいが、結局は花嫁である吉川麻里奈の強引な押しに負けたようだ。
式場を元彼女と同じにしたのも、キャンセル料金が勿体ないというよりか、元彼女に対する当てつけだろう。
仕方なく出席した会社関係者は新郎上司である営業部の菊池さんと同僚の浅田さん、そして俺。
仕事で関わりがある二人は頬を引き攣らせながらもなんとか笑顔を保っていた。
俺は終始不機嫌にビールをあおっていた。
「新郎新婦中座です」
女性司会者が溌剌とした声で告げると、今話題の男性シンガーの曲が流れて、新郎新婦が席を立った。
俯き気味の新郎と満面の笑みを浮かべた新婦は、腕を組み、テーブルの隙間を縫って会場から出て行った。
俺は新たにビールを頼んだ。
お色直しの準備中に流れるプロフィールムービー に関しては観る気にならず、休みなく酒を口に運んだ。
「横山君、大丈夫? 飲み過ぎじゃない?」
浅田さんが気遣って声をかけてくれた。
やめろと言わんばかりに、ビールを持った俺の手を掴んでくる。
俺は無視してビールを呷った。
「大丈夫ですよ、これくらい。高いご祝儀払っているんだから、元を取るまで飲まないと」
スタッフを呼び、もう一杯ビールを注文する。
浅田さんはそれでも止めるような素振りを見せたが、諦めたようだ。
俺には彼らを祝福するつもりなど最初からなかった。
俺の目的は、あれほどにも一途な女性を裏切り、自分だけ幸せになろうとした新郎に、ビールでもぶっかけて恥をかかせ式を台無しにして帰ることだった。
しかしタイミングを掴めず、結局この時間まで居座り続けてしまった。
次こそは実行してやろうと、アルコールで頭をふらつかせながら新郎を待った。
「お待たせいたしました。新郎新婦のご入場です」
スポットライトが入り口を照らす。
今度は女性歌手の曲が流れた。
ウェディングソングとして定番の曲だ。
甲高い声が頭に響く。
勢いよく扉が開き、手を繋いだ新郎新婦が会場に一歩踏み出した。
新婦は水色のふんわりとしたドレスに身を包んでいた。
その時だった。
彼らの前に黒い影が現れたのは。
瀟洒なシャンデリアが照らすガラ空きの披露宴会場。
十月十六日、中嶋友希哉と吉川麻里奈の結婚式は予定通り行われた。
元々は中嶋の元彼女である佐藤真由子と挙げるために予約した式場を、花嫁だけを入れ替えてそのまま使用したというお粗末な披露宴だった。
会社関係者は披露宴からの参加だったがことごとく空席、いるのは何も知らない親戚や一部の友人だけだ。
バツの悪そうな新郎をよそに、幸せそうな新婦は高砂から目が痛くなりそうなほどに眩しい笑顔を振り撒いていた。
式を挙げるか挙げないかで相当揉めたらしいが、結局は花嫁である吉川麻里奈の強引な押しに負けたようだ。
式場を元彼女と同じにしたのも、キャンセル料金が勿体ないというよりか、元彼女に対する当てつけだろう。
仕方なく出席した会社関係者は新郎上司である営業部の菊池さんと同僚の浅田さん、そして俺。
仕事で関わりがある二人は頬を引き攣らせながらもなんとか笑顔を保っていた。
俺は終始不機嫌にビールをあおっていた。
「新郎新婦中座です」
女性司会者が溌剌とした声で告げると、今話題の男性シンガーの曲が流れて、新郎新婦が席を立った。
俯き気味の新郎と満面の笑みを浮かべた新婦は、腕を組み、テーブルの隙間を縫って会場から出て行った。
俺は新たにビールを頼んだ。
お色直しの準備中に流れるプロフィールムービー に関しては観る気にならず、休みなく酒を口に運んだ。
「横山君、大丈夫? 飲み過ぎじゃない?」
浅田さんが気遣って声をかけてくれた。
やめろと言わんばかりに、ビールを持った俺の手を掴んでくる。
俺は無視してビールを呷った。
「大丈夫ですよ、これくらい。高いご祝儀払っているんだから、元を取るまで飲まないと」
スタッフを呼び、もう一杯ビールを注文する。
浅田さんはそれでも止めるような素振りを見せたが、諦めたようだ。
俺には彼らを祝福するつもりなど最初からなかった。
俺の目的は、あれほどにも一途な女性を裏切り、自分だけ幸せになろうとした新郎に、ビールでもぶっかけて恥をかかせ式を台無しにして帰ることだった。
しかしタイミングを掴めず、結局この時間まで居座り続けてしまった。
次こそは実行してやろうと、アルコールで頭をふらつかせながら新郎を待った。
「お待たせいたしました。新郎新婦のご入場です」
スポットライトが入り口を照らす。
今度は女性歌手の曲が流れた。
ウェディングソングとして定番の曲だ。
甲高い声が頭に響く。
勢いよく扉が開き、手を繋いだ新郎新婦が会場に一歩踏み出した。
新婦は水色のふんわりとしたドレスに身を包んでいた。
その時だった。
彼らの前に黒い影が現れたのは。
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