ジュンケツノハナヨメ

かないみのる

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 定番のウェディングソングが流れ、扉が開き、新郎新婦を一部の人の大きな拍手が出迎えた。


 暗い会場で、眩し過ぎるスポットライトが二人を映し出す。


 別の出入り口から会場に入っていた私は、この瞬間を待っていたのだ。


 わたしは二人の前に駆け出した。



 目の前に現れた人物がわたしだと分かり、二人は驚きの表情を見せ。


 目を見開いて、口を半開きにして、せっかくのお色直しが台無しだね。



 わたしは友希哉の方を見た。


 わたしをまっすぐ見てくれている。


 たとえどんな状況でも、彼の瞳にわたしが映っていることが嬉しかった。


 わたしは視線を新婦の方へ移す。


 あら? 貴女が着ているそのドレス、わたしが選んだものと同じなのね。


 空を切り抜いたような水色のドレス。


 わたしに対する当てつけかしら?



 友希哉、あなたは騙されているのよ。


 わたしが目を覚まさせてあげる。


 この女の正体を、目を背けずきちんと見ていてね。



 わたしは腰にくくりつけていたナイフを二本取り出した。


 鈍色の刃がスポットライトで照らされて光る。


 恐怖で歪む花嫁の表情は、今までにないほど痛快だった。



 花婿は硬直、花嫁は逃げようとして転倒。


 わたしはドレスの裾目掛けてナイフを突き立てた。


 ナイフはドレスを貫通し床に突き刺さった。


 裾が引っかかって逃げられずにトカゲのようにもがく花嫁に馬乗りになり、もう一本のナイフを構える。


 恐怖に怯えたその表情、これ以上にないケッサクね。


 現実だけでなく、夢の中でまで苦しめてくれたわね。


 大丈夫、あなたを殺そうなんて野蛮な事、考えていないわ。


 わたしがずっと求めていたドレス。


 空のような淡めの水色、わたしにとっての恋の色。


 だけれどその水色のドレスは、あなたには全く似合わないわ。


 何度も股から血を流すことを、誇らしげに言う下卑たあなたには。


 さあ、本当のあなたを見てもらいましょう。


 わたしはナイフを突き刺した。


 ナイフが首を切り裂く痛み、溢れ出す熱い血液、聞こえてくる悲鳴。


 血飛沫が花嫁へ降り注ぐ。


 みんなの目がわたし達を捉えている。
 

 年老いた両親、若い女性たち、友人男性の集団、親戚のおじさん、いとこと思しき双子の男女。


 みんなが見ている、魔女誕生の瞬間を。


 そうだ。わたしの中の可愛い憎しみ、きちんと産んであげないとね。
 

 わたしの中で芽生えた憎悪。


 大きく大きく育ったの。


 出してあげなきゃかわいそうでしょう? 


 愛しい子どもに会うためであれば、腹を裂くなんて怖くない。


 腹部の痛み、溢れ出る液体。
 

 水色のドレスは真っ赤に染まる。


 吉川麻里奈、おめでとう。


 純潔からは程遠い、本当のあなたによく似合うのは、血でどす黒く濁ったドレスよ。


 純血の花嫁のできあがり。
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