天の川の中心で

かないみのる

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詩織ちゃんに促されるまま、俺は歩き続けた。

道ゆく人を避けながら、気づくと俺達は公園に着いていた。



「この時間で人がいないのは珍しいなー」



詩織ちゃんは俺の手を引き続けた。

広い公園内を歩き、ようやく立ち止まったのは大きな噴水の前だった。

その噴水はかなり広く、噴水というより浅いプールのようだった。

中央にある彫刻から水が吹き出していて、霧のような水飛沫が身体を冷やしてくれて心地いい。

涼んでいると、詩織ちゃんはサンダルのまま噴水の水のたまり場に足を踏み入れた。



「流君も来て」



俺はスニーカーと靴下を脱いで水たまり場に足を入れた。

水の冷たさに驚きながら、詩織ちゃんの元へ向かった。



空を見上げると満天の星だった。

その星々が水面に映り、まるで星空の中に足を踏み入れているようだった。



詩織ちゃんはステップを踏むように水を蹴っていた。

その姿が、夢で見た星と戯れる少女と重なった。



詩織ちゃんに見惚れていると、彼女は近寄ってきて、噴水の音に負けない程度の声量で俺の耳元で囁いた。



「わたしね、好きでもない人と結婚させられるの」



その言葉は、鈍器で殴るかのように俺の心にぶつかった。

あまりに急で受け止められない。



「政略結婚っていうのかな?わたしの親が勝手に決めて、自由な恋愛ができないの。好きな人とは結ばれないんだ」



詩織ちゃんは自分の感情を押し殺しているのか、抑揚なく淡々と続けた。



「今日、流君と一緒にいられて、最高の思い出になったよ。でも、お別れだね」



詩織ちゃんはにっこり笑って俺に背を向けた。



そんなの嫌だ。

彼女が幸せになれるのならともかく、望まぬ結婚で不幸になるなんて。

俺は彼女の腕を掴んで乱暴にこちらを向かせた。



「俺、高校行かずに働くから! 一緒にいよう! 好きでもない相手と結婚する必要なんてない!」



俺は一日詩織ちゃんと一緒にいて、彼女の人となりに惹かれていた。

好きになっていた。

人を好きになるなんて初めての経験だった。

一緒にいて楽しいと感じたのは、相手が詩織ちゃんだったからだ。

俺を変えてくれた詩織ちゃんには幸せになってほしい。

いや、俺が幸せにする。



「そんな一時の感情で人生の選択を決めてしまってはダメ」



詩織ちゃんは俺の手を優しく握って、自分の腕から離した。

そして俺の後ろに回り、俺の背中にもたれかかった。



「流君、大きくなったね。お父さんにそっくり」



詩織ちゃんの言葉に、俺は身動きが取れなかった。



「お母さんね、謝りたかった。あなたと一緒にいられなくて。でも」



詩織ちゃんは再度俺の前に来て、俺の顔を見て笑った。

その瞳には涙が浮かんでいた。



「こうやってまた会えて良かった。ありがとう。無理しないでね。お母さん、空から見守っているから」



詩織ちゃんはそう言って俺から離れていった。

母さん……?

空から見守っている……?



「待って」



俺は彼女の腕を掴もうとしたが、触れたら夢のように、光の粒となって消えてしまうのではないかと思い、触れられなかった。

俺の手は暗闇の中、浮いたままだった。
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