バッドエンドの女神

かないみのる

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 まず、あたしの小さい頃の話をしないとね。



 あたしは会社員のパパと、専業主婦のママの間に生まれた女の子。

二人からこれでもかというくらい愛情をたっぷり受けてすくすく育った。



 パパもママもあたしのことが大好きで、あたしが大人になって、結婚して、子どもができたら、あたしと孫に看取られて一生を終えたいねなんて話してたんだって。


 
 でも現実はそうならなかった。ママは、あたしが三歳の時に死んじゃった。

パパとあたしが買い物から帰ってきたら、家で倒れていた。

お腹には新しい命が宿っていたのに、二人とも一緒にいなくなっちゃった。

生まれてくるはずだった子は男の子で、よくお腹越しに話しかけてたんだけど、会うこともなく死んじゃった。


死因は転倒。打ちどころが悪かったんだって。だけどそれは嘘だって小学二年生の時に知った。



 ママが死んでから、なぜかパパとあたしはいじめられた。

パパもあたしもなぜかいつも仲間はずれにされた。

保育園でも、ご近所でも、いつも責められる様な目で見られて、聞こえよがしに悪口言われたり罵倒されたりした。



 それは小学生になってからも変わらなかった。

いつも仲間はずれにされて、なぜかわからないけど「悪女の娘」って罵られていた。

先生は軽く注意はするけど、いじめは全然良くならなくて、雑巾を投げつけられたり給食の量を減らされたりした。

給食のプリンなんて一度も食べたことがなかった。



 小学二年生の時の担任は若い女の先生だった。

いつも元気で、曲がったことは許さないような熱血先生。

いじめなんか絶対許さないっていう気概を感じた。



 ある時、先生はいじめられているあたしを見かねて、学級会を開いた。

そこで先生は「奈緒ちゃんは、何も悪いことしてないじゃない!」と言ってみんなを叱ってくれた。

でもある子は「うちのお母さんは、奈緒ちゃんのお母さんは悪い人だって言ってたよ」て口答えした。

先生は「それが奈緒ちゃんと何の関係があるの?奈緒ちゃんはお母さんが殺されたのよ!悪いのは犯人。被害者は奈緒ちゃんの家族なのにどうしていじめるの?」って言った。



 あたし、先生が何を言っているのか、すぐに理解できなかった。

ママが殺された?事故じゃなくて?パパは家での事故だって言ってたよ?

「先生、あたしのママ、事故じゃないの?転んで死んだって聞いたよ?殺されたの?」って聞いたら、先生、顔が真っ青になってた。


 
 パパが、あたしにショックを与えない様に事故死ってことにしてたらしいんだけど、本当は男の人に首を絞められて窒息死だって。

どっちの理由にしろ、ママと弟が死んだことには変わらないから、嘘をついていたパパにも嘘をバラした先生にも何も感じてない。

先生は泣きながら謝ってくれたけど、あたしはそんなことを求めてないかった。



 もう少し大きくなってから自分なりに考えたんだけど、あたしのママが悪女って呼ばれたのは、二つの理由があると思う。



 一つ目は、周囲の人達はあたし達被害者を悪者にして、殺されたのは当然ってことにしたかったんじゃないかな。

殺人は胸糞悪い事件だけど、被害者が悪者であれば、悪が成敗される勧善懲悪の物語になる。

悪い奴だから殺された。

そうなると、スッキリとした気分になるんだろうね。



 もう一つは自衛のため。

被害者に理由がなく殺されたのであれば、自分も被害者となる可能性がある。

ひょっとしたら自分が被害に遭っていたかもしれない。

でも被害者が悪い事をした人間なら、悪人ではない自分は殺されない。

そう思うことで安心を得たいんだと思う。



 だから彼らはあたし達被害者家族を悪人にしたんじゃないかなって、あたしは思っている。

そう言って自分を納得させないと、とてもじゃないけど生きていけない。



 学級会が終わった後も、仲間はずれがなくなったわけではなかった。

先生だけは気を遣って声をかけてくれたけど、やっぱり寂しくて悲しかったな。



 学年が上がるにつれていじめはどんどんエスカレートして、私物を隠されたり壊されたり、体育の時間にわざとボールを当てられたりもした。

黒板に悪口を書かれたこともあった。大きな字で『悪女の娘 なお』って。

なんであたしは悪いことなんてしていないのにいじめられるんだろうって、毎日泣きながら帰った。


 
 そのうち、何もしてなくてもいじめられるんだし、だったら好き勝手やっていじめられようと思って、四年生の時に髪を染めた。

思いっきり目立たせたいと思ってブリーチ してグレーに染めてみた。

パパには何かあったんじゃないかと心配されたけど、困らせたくないから「イメチェンだよ」って言っていつも通り接していたら「奈緒の好きなようにしたらいい」って言ってくれた。

元々パパには心配かけたくないから明るく接するようにしてたし、法に触れるような悪いことをしたわけじゃないから、パパも好きなようにさせてくれたんだと思う。



 代わりに先生にはしこたま怒られた。

いかつい顔した教頭先生に、ものすごい声で怒鳴られた。

耳元で雷でも鳴っているみたいだった。



 けれどいじめから助けてくれない先生の言葉なんてガーガー騒ぐ九官鳥みたいもので何もあたしの心に響かなかった。

電車が通り過ぎる音を我慢する要領でやり過ごした。

「先生があたしをいじめから救ってくれたら戻す」って言ったら黙ってた。

いじめを止めるよりも、生徒のカラーリングを認める方が楽だもんね。

 

 まあ、先生を黙らせる事には成功したけど、上級生からも目をつけられたみたいで、放課後校舎裏に呼び出されて六年生数人に取り囲まれて頭を掴まれちゃった。

この髪の色がよっぽど気に入らなかったんだろうね。

でも、いじめられる理由が今のあたしにはあるから、いじめられることにも納得感があった。

まあ髪の色を理由にいじめるのもどうかとは思うけどね。

前のあたしは訳もわからず理不尽にいじめられてたから、今回は理由が分かったことに感動しちゃった。

髪を掴まれながらニヤニヤと笑っていたら、その上級生達、不気味がってどこかへ行っちゃった。



 五年生のときにはピアスを開けた。

 六年生の時にはカラコンと派手なメイク。


とにかく周囲から浮いて、いじめられる理由を作った。



 みんなあたしのことを「風紀を乱す問題児」扱いしてたけど、それはあたしが自分でやった結果だから何も辛くなかった。

まあ、殺人の被害者の娘としていじめられることがなくなったわけじゃないけど、見た目で非難するほうがわかりやすいのか、見た目の悪口を言われることが多くなった。


 
 パパは少し不安そうだったけど、あたしの中身は何も変わっていないことがわかると、「奈緒の自由にやっていいけど、パパの前からいなくなるような危険なことはしないでね」って少しだけ釘を刺した。

パパは独りぼっちになるのが怖かったんだと思う。



 パパは、朝は早くから、夜は遅くまで仕事。

あたしを育てるために一生懸命働いてくれている。

あたしはそんなパパのことが大好きだし尊敬している。

だからパパの言うことは聞くようにしてた。



 パパもけっこういじめられてたんだよ。

ご近所さんにはヒソヒソされて、保育園や学校の保護者からは仲間はずれ。

それでも授業参観には来てくれた。



 そんな優しい頑張り屋なパパがあたしは大好きだった。ていうか今も好き。



 前にパパの書斎のゴミ箱を見たら、本と手紙が捨ててあったの。

本のタイトルは『少年の日の想い』。

国語の教科書に載っている有名なお話のタイトルをもじったやつだね。

作者の名前はアリゴだかアミドだかそんな感じの苗字の人だった。



 その時は、なんで本が捨ててあるのか不思議だったな。

理由を知ったら納得したけど、それは追々書いていくから待っててね。



 まあ、その本は読む気にならないからそのままゴミ箱に戻した。

一緒にゴミ箱に入っていた手紙を見たら、「人の一生を壊した悪女」とか「家族全員死ぬべきだ」とか、いわゆる誹謗中傷が書かれていた。

何通あったのか分からないけど、ぐしゃぐしゃになった紙がゴミ箱にいっぱい入っていたのを見ると、パパはあたし以上に苦しんでいたと思う。



 あたしはパパにこれ以上苦しんでほしくないから、行方をくらましたりはしない。

見た目はこんなだけど行動は品行方正でいこうと思っていた。

学校だってまじめに行くし、勉強以外にやる事ないから成績だって優秀なんだから。



 けれど、一人はやっぱり寂しかったんだ。

友達なんてできたことないし、人との関わり方も分からなかった。

他人との繋がりを得るためにあたしにできることは、身体を売ることだった。



 わかってるわかってる。どこが品行方正なんだって言いたいんでしょ?

自分でもおかしいって思うもん。

でもさ、あたしの寂しさを埋めてくれるのはこれだけなんだもん。

他に悪いことなんてしないからさ、多めに見てよ。



 初めて売春したのは中学一年生の時。

街を歩いていたらナンパされたの。

「一緒にお茶でも飲みませんか?」って、小太りのタヌキみたいなおじさんに。

それが援交相手のパパ第一号、タヌキおじさんとの出会い。

悪い人じゃなさそうだったし、なんか愛嬌があって可愛かったからOKしちゃった。



 カフェで二人でお茶を飲んでいると、おじさんは「三万円でどう?」って聞いてきた。

ああ、これが援助交際ってやつか。

まあ、あたしも性に対して興味あったし、さっさと処女を卒業しちゃうのもありかなって思って、OKして二人でホテルに行った。



 そしたら、今まで感じたことのない感情が湧いてきて、一気にハマっちゃった。

いや物理的な意味じゃなくてだよ。

初めてだったしなかなかハマらなくて大変だったんだから。

心理的な意味でハマっちゃったよ。



 だって、初めて他人に抱きしめられたんだもん。

人の手があんなに温かくて柔らかくて、くすぐったいものだって初めて知った。

あたしの名前を愛おしそうに呼んでくれて、激しく求めてくれた。

ああ、あたしが欲しかったのはこういうことだったんだなって分かった。



 その後もタヌキおじさんはあたしと会ってくれるようになった。

誰かに必要とされるのがこんなに幸せだったなんて知らなかった。

それがベッドの上のたった一時であったとしてもね。



 それからは若さと身体を活かして様々な人に抱かれた。

危険な目にあったことも何度かあったけど、慣れると危険な人とかも分かってくる。



 相性がいい人は一回きりじゃなくその後も関係を継続させた。

相性って、身体だけじゃなくて、話していて楽しいか、とか、一緒にいて苦にならないか、とか、お互いが楽しめるかどうかってところもきちんとチェックする。

それがいい相手を見つけるコツ。



 流石に不倫は抵抗あったけど、だんだん慣れて気にならなくなっていった。

もちろんバレないように細心の注意を払ってるよ。

不倫の慰謝料ってバカにならないらしいから。



 たまにお茶とか食事だけって人もいる。楽でいいけど、やっぱり抱き合った時の方が強い繋がりを感じられるから、あたしは即ホテルOK。



 人と繋がりたいだけなら、お金なんてもらわなくてもいいんじゃない?って思うかもしれないけど、タダでヤらせたら男が際限なく近寄ってくるかもしれないじゃん?

そんなの身が持たないから、篩にかけるつもりでお金を貰うことを条件にしている。



 お金がないとダメ、愛情もないとダメ。

あたしって結構面倒くさいね。



 たまに、あたしと付き合いたいっていう人もいるけど、どうせあたしのことを詳しく知ったら面倒だって思うだろうし、あたしも今まで本気で一緒にいたいと思える相手はなかなか見つからなかったから恋愛にまでは発展してない。

 普通の人なら身体売ったりしなくても、恋人とか友人とかと繋がりを作れるんだろうけど、あたしには無理なんだよね。ああ、虚しい。



 こんな生活をいつまで続けるのかな、続けられなくなったらどうしようって、不安になる時もある。

でも、あたしにできることはこれしかないし、不安が現実になった時に考えればいいかなって、今はやれることをやるだけかなって自分を言い聞かせて生きている。
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