バッドエンドの女神

かないみのる

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人生が変わったのは高校二年生の時。



 高校生活二年目。クラスは変わったけど、あたしの生活は何も変わる要素がなかった。



 あの時まではね。



 学校の勉強は分からなくはないけど面白くない。

サインコサインとか、イオンカケイコウとかアステカブンメイとか、ハマる人にはハマる内容なんだろうけど、あたしにはあんまり興味が持てなかった。

あたしは趣味がないから仕方なく勉強をしているだけだし、一応一通り覚えたりしたけど、好きで学んでいるわけじゃない。


じゃあ逆に興味のあるものって何って聞かれても困るけど。

ニヒリストを気取ってるわけじゃないよ。

色々な物事には意味があると思っているもん。

具体的には知らないけど。

そういうことは知りたい人が調べればいいじゃん。

だからあたしが頑張る必要はない。

時には人を頼ることもいい事だってテレビで見たし。

都合の良い生き方があたしには合っているんだよね。

え?適当なことばっかり言ってるって?バレたか。

あはは。……一人で何を書いているんだろう。



 勉強が終わったら、掃除してホームルームして荷物をまとめて学校を出て、予定があれば待ち合わせ場所に行って待ち合わせ相手と二人でホテル行って抱かれるだけ。

予定がなければ街中をぶらぶら彷徨って声を掛けてもらうのを待つ。

ひたすらその繰り返し、中学校の時からずっとそう。



 そりゃあ、あたしだって高校に入った時は新生活だし友達欲しいって思ったよ?

小学校と中学校ではいじめられてたけど、高校は環境がガラリと変わるからさ、新たな一歩が踏み出せるんじゃないかと思ったわけ。

こう見えて勉強はできるから、外見さえきちんと整えれば優等生になれるのよ。

だから県内で二番目に偏差値が高い進学校に入学できた。

ここで新たな人生を始めるんだって。



 でも、入学早々出鼻をくじかれるような出来事があった。



 それは入学式を終えた翌日、学校生活初日のことだった。机に座って次の授業の準備をしていたら、女の子が声をかけてきた。眼鏡をかけた、肩で髪を切り揃えた地味めの女の子。友達になれるかなってちょっと嬉しかったんだけど、その子、どうやら同じ中学校の生徒だったみたい。



「奈緒ちゃんだよね?わたし、同じ二中だった美保子!覚えてる?」



 もちろん覚えているわけがないから愛想笑いで誤魔化した。
 


「わたし、あなたに感謝してるの!わたし、小学校の頃はいじめられてたんだけど、中学校に入ったら、奈緒ちゃんがいじめの標的になってくれたから、わたし、いじめられなくなったんだ!本当にありがとう!高校でもよろしくね!」



 聞いた?もう不快感マックス。

「あなたがいじめられてたおかげ」だって?

あたしはあなたを助けるためにいじめられてたわけじゃないんですけど。

この子はあたしがいじめられていて嬉しかったってこと?

そのお礼?

それを本人に堂々と伝えるってどうなのよ?

「よろしく」って、あたしはそんなこと言われてもよろしくする気はないんですけど。

そもそもあんた誰?



 それからはなんか、何もかもがどうでもよくなっちゃった。

友達作りを頑張るのって疲れそうだし、期待した分、また仲間はずれにされたらガッカリだし。一人でいようと決めた。



 案の定、あたしのママが殺されたこと、あたしが売春していることはクラス中に瞬く間に広がった。

みんな心なしかよそよそしくなった。

また同じかーって思って、面倒になって自分から避けるようにした。

美保子も話しかけてこようとしたみたいだけど、機嫌が悪いふりをして寄せ付けないようにした。



 人生を変えるチャンスだって思っていたけど、人って簡単には変われないものだね。



 それからは元通り、ピアス付けてスカート短くしてネクタイ緩めて股も緩めて。

なんかこの高校は成績さえ良ければ何も言われないから気楽だった。

髪だけは傷むから染めるのをやめた。

度重なるブリーチ で傷んだ髪は黒く戻してもパサパサ、あたしの心と同じ。

誰かあたしのオアシスになって、心を潤してくれないかしら。

髪は高いシャンプーとトリートメントでなんとかなるけど、心のトリートメントはないのかな?



 まあ、こうして一年が過ぎ、あたしは高校二年生になった。

だけど、友達と何かを頑張ったとか、部活に励んだとかそういう青春らしいことは何もしてない。

したのは売春だけ。

同じ春が付くのに、こうも意味が違うなんて、言葉って不思議だね。



 でも、一つの出会いがあたしの人生を変えた。

こんな運命的なことって、本当にあるんだね。



それがあたしにとって人生で大きな意味をもつ出来事だった。



彼にとって悲劇の始まりだったのかもしれないけれど。
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