バッドエンドの女神

かないみのる

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翌日の昼休み、霜田のところに数学のノートを返しに行ったら、先客がいた。

三枝美憂だ。

あたしは少し遠くから二人のやりとりを見ていた。

本当は邪魔しに入っていきたいところだけど、彼女でもないのにそんなことはできない。



「ねえ、こーちゃん、今日から駅前のアイス屋さんで期間限定のフレーバーが発売するんだけど、食べに行こうよ!」


こーちゃん?なにその呼び方。

そこのアイスはあたしが霜田と行こうって約束しているの!

あーもう! 馴れ馴れしくしないでよ!

心の中で叫ぶことしかできず、足を踏み鳴らしたい気持ちをグッと堪えた。



「悪いけど、今日は諏訪部と勉強するんだ。別の友達と行ってきなよ」



霜田は突き放すように三枝に伝えた。

三枝のベタベタとした甘ったるい態度に嫌気がさしているようにも見えた。

そう見えたのは、霜田と三枝が仲良くして欲しくないというあたしの願望があったからかもしれない。

三枝に嫉妬して、二人を見る時に変なフィルターがかかっているんだなと自分を俯瞰する。



霜田は少し離れたところにつっ立ってたあたしに気づいて手を上げた。



「あ、諏訪部」


「霜田、ノートありがとう」



あたしが霜田にノートを手渡すと、三枝が睨みつけてきた。

悪いわね、あたしは霜田とノートを貸し借りするくらいの仲なのよ、と見せつけるように余裕の笑顔で三枝に会釈をした。

睨まれたからって睨み返したりするほど子どもではない。



「じゃ」


「え、もう戻るの?」


「放課後来るから」



教室に戻って、あたしは一人でにやけてしまった。

霜田がまたあたしとの予定を優先してくれた。

先に約束していたからだとは思うけど、嬉しくて仕方がなかった。



放課後、約束通り霜田と勉強をした。

あたしは物理の教科書を鞄から引っ張り出した。

最近物理で勉強している単元が難しくて仕方がないから、積極的に霜田に教えてもらうことにしていた。


あたしは物理の教科書の表紙に載っているオーロラの写真を見た。



「これ、オーロラだよね?」



 
オーロラの写真を指でなぞりながらあたしはつぶやいた。

美しい光のカーテンが空にたなびく様子を想像してうっとりした。

霜田もオーロラの写真に目をやった。



「うん」


「綺麗だよねー」


「オーロラが発生するメカニズムって知ってる?」



霜田が小難しい事を聞いてきた。



「知らない」


「オーロラはね、太陽から発せられる太陽風が地球の裏側から大気圏に侵入して、太陽風のプラズマが酸素や窒素と衝突することで起こる発光現象のことなんだよ」


「日本語で喋って」



霜田の言葉はあたしの耳を右から左に抜けていった。

まったく理解ができない。

ところどころ知っている単語はあるけど、単語の点と点が繋がらず線にできない。



「えーと、太陽風っていうのは、太陽から放出されるプラズマを含んだ風のことで……プラズマは分かる?」


「陽子と電子がバラバラになった状態のことでしょ?」


「そうそう。そのプラズマを含んだ風が太陽から地球に吹きつけてくるんだよ。そのプラズマが、大気圏の中で一番外側にある電離圏っていうところで、窒素分子や酸素原子とぶつかることで、発光するんだよ。それがオーロラ」



 
霜田はノートの余白に図を描きながら教えてくれた。

丸い地球や矢印などを書き込んでいく。

霜田の手の動きに合わせて、あたしのあげたシャープペンが蛍光灯の光をぼんやりと優しく反射させた。



「ふうん。理屈はわかったけど、なんで日本では見られないの?どこでも見られそうじゃん」


「地球には、磁気圏っていう磁場のバリアがあってね、それが地球を有害なエネルギーから守っているんだよ。だから太陽風も磁気圏で防がれている。でも、磁気圏で全てを防げるわけじゃなくて、磁気圏にぶつかった太陽風の一部が、隙間から入り込んだり、地球の反対側、つまり夜側から回り込んだりすることで、プラズマが電離圏に到達する。地球って大きな磁石みたいなものだから、磁極である北極や南極に、プラズマが引き寄せられるんだろうね。だから北極や南極みたいな寒いところで、しかも夜しかみられないんだよ」


「よくそんなこと知ってるね」



あたしは素直に感心した。

オーロラのメカニズムではなく、そんな難しい事を知っている霜田の博識さに驚いた。



「自然現象って不思議なものが多いから、つい調べちゃうんだよ。オーロラ、見てみたいな」



霜田が頬杖をついた。

おそらくオーロラに思いを馳せているんだろう。

その様子が、恋する乙女が好きな人を思い浮かべる姿に似ていて可愛らしかった。



「一緒に見に行こうよ」


「諏訪部と?」



 
また変なこと言い出したぞという顔で霜田はあたしを見た。

もちろんあたしは本気である。



「うん。どこで見られるの?」


「カナダのイエローナイフとかアラスカのフェアバンクスが有名だね」


「大人になったら行こうよ!霜田、英語苦手でしょ?あたしが連れて行ってあげる!」


「諏訪部、寒いの得意?」


「苦手だけど」


「生きて帰れるかな」


「大丈夫だよ!」


「少なくともそのスカートの丈で行ったら凍死するよ」


「え?なに、霜田、あたしの足に興味あったの?イヤらしいなあ」


「失礼だな。そもそも、女の子ってなんでそんなに短いスカート履くの?生地が
もったいないエコノミストなの?」


「霜田って鈍感なんだね。健全な男子高校生とは思えない」



あたしと霜田はケラケラ笑った。

こういうくだらない話をする時間が愛おしい。

霜田と一緒なら、難しい物理の勉強も楽しく感じる。

改めて思う、恋ってすごいな。



また翌日の昼休み、霜田のところに向かった。

席についている霜田に声をかけ、「今日の約束忘れてないよね?」と念を押した。

今日は霜田とジェラート屋さんに行く約束があるのだ。


二人で話をしていると、三枝が話に割り込んできた。

自分を優先させろという傲慢さが透けて見えた。



「こーちゃん、シャーペンの芯ちょうだい」



そう言って勝手に霜田のペンケースを漁り出した。

無遠慮なところが「あたしはこーちゃんに私物を触っても問題ないくらい仲がいいんですよ」と周囲にアピールしているように見えた。

この間の仕返しか?と穿った見方をしてしまう。

あたしは霜田のことになるとどうしてこうも余裕がなくなるのか。



「このシャーペン、カッコいいね。いくらしたの?」



三枝はあたしが霜田にプレゼントしたシャープペンを手に取った。



「もらった物だから値段はわからないよ。値段を聞くような野暮なマネしたくないし」


「でも地味だね、かわいいシールつけてあげる」


そういって自分の携帯電話の貼ってあったハートのシールを剥がし、シャープペンに貼ろうとした。

なんて事を!

それはあたしが霜田にプレゼントしたんだよ!

勝手な事しないでよ!

と心の中では叫んだけど、もう霜田のものなんだから、どう扱うかは霜田の自由だ。

あたしに止める権利はない。



「ダメ!大切な物だから!」



 霜田は普段より少し大きめの声を出した。


 霜田の声に、周囲にいた二、三人のクラスメイトが振り向いた。

霜田が大声を出すことなんてないから、あたしも驚いた。

三枝も驚いていたが、怒られたと分かると途端に不機嫌になった。



「なんでそんなに大事なの?」



 唇を突き出して頬を膨らませた。



「大きな声出してごめん。それ、諏訪部からもらったものなんだよ。シールを貼ったら粘着剤が付くでしょ?汚したくないんだよ」



 霜田は大声を出して悪いと思ったのか、今度は諭すように言った。



「ねー、こーちゃんはどうして諏訪部さんなんかと一緒にいるの?」



 三枝は一瞬あたしを睨みつけ、すぐに霜田に視線を移した。

声は甘ったるいけど顔は険しい。

なんかとはなんだ、なんかとは。

これは宣戦布告と捉えていいんだな?



「どうしてもなにも」


「諏訪部さんの話、知ってるよね?援交してるって。そんな子と一緒にいない方がいーよ」



 あたしの目の前で堂々とあたしの悪口を言ってくるとは驚いた。

その清々しいまでのあてつけに、怒りを通り越して感心した。

あくまであたしではなく霜田に話している体裁をとっているのがまた嫌味ったらしい。



「僕が一緒にいたいからだよ。諏訪部を悪くいうことは許さない」



 あたしが文句を言おうとした直前、霜田が三枝にピシャリと言った。

予想外の発言にあたしは硬直した。

三枝も驚いたようで、何回か瞬きをして何か言おうとして口を半開きにしたが、何も言わずに足音を大きく鳴らしながら教室を出ていった。


 
あたしは霜田の顔をまじまじと見た。

霜田はあたしの視線に気づいたのか、「なに?」と呟いた。



「霜田、大丈夫?」


「ああ、ごめん、びっくりさせたね。大丈夫だよ」


 霜田は気を取り直してシャープペンを筆箱に戻した。

あたしはまだ霜田の顔を見つめていた。



「ん?僕の顔に何かついてる?」


「いや、霜田がさっき……あたしと一緒にいたいって……」



霜田は頭をかいた。

頬を紅潮させて、照れているように見えた。



「ああ、だって諏訪部は大事な友達だから」



ああ、そういうことか。

まあそうだよね、霜田はあたしに好意なんて抱いていないし、期待して損した。

少しでも好きになってもらえたかもしれないなんて考えて、馬鹿みたい。



 霜田はノートを開いて熟読するようにして顔を隠した。

耳が赤くなっているのをあたしは見逃さなかった。

自分の思わせぶりな言葉の意味を考えて恥ずかしくなったようだ。

かわいい。



放課後、トイレの個室にいたら、女の子二人が話しながらトイレに入ってくる音が聞こえた。

ドアを開ける音が乱暴で、相当苛立っているようだ。



「あーもう!どうしてこーちゃんは諏訪部奈緒なんかと一緒にいるのよ!」



急に名前を呼ばれて驚いた。

この甘ったるい声は、間違いなく三枝美憂だ。

彼女は廊下に聞こえてしまうんじゃないかというくらいの声量で叫んでいた。

あたしは出て行くタイミングを完全に逃してしまい、仕方ないから三枝達が出て行くのを待つことにした。



「美憂落ち着いて!裕太に頼んで幸祐君連れ出してもらうから!二人きりになったらせまっちゃいなさい!諏訪部奈緒はなんとかして幸祐君から引き離しとくから!大丈夫、あの子、一人ぼっちだから、仲良くなりたいってちょっと優しく話しかければ尻尾振って食いついてくるよ。ぷっ」



三枝の友人が三枝を慰めるように言った。

さりげなくあたしの事を馬鹿にしたのを聞き逃さなかった。

誰が尻尾を振って食いつくって?

あなたみたいな性根のひん曲がった人間となんて、一言も話さないから。

寝言は寝てから言え。



「裕太が軽音部の部室空けておいてくれるって!裕太に霜田君連れて来てもらうから、あとは二人きりになって、そこで押し倒しちゃいなって!霜田君たぶん童貞だからすぐにノっちゃうって!」


「うん!経験なさそうだもんね!あたしが教えてあげよう!じゃあ、よろしくね!あ、リップ付け直しておこう」



裕太も軽音楽部なのか。

この間のライブにいたっけ?

まあそんな事はどうでもいい。


こいつら学校で何しようとしてやがるんだ!


あたしだけならまだしも霜田のことまで馬鹿にしやがって。

霜田はもっと理性的なんだよ!

それに、霜田の童貞はあたしがいただくんだから!


霜田と引き離そうなんてそうはいかないからね。



 二人がトイレから出ていったのを見計らってあたしは意を決して個室を出た。

手を洗い、トイレを後にする。

自分の教室から鞄を持って、霜田を探すことにした。

裕太とやらに変な事を吹き込まれていないといいけど。



「あ、諏訪部さん!前から話したかったんだよね。めっちゃかわいー」



廊下を歩いていると、女の子に話しかけられた。

背が高くがっしりとした女の子だ。

さっきトイレで聞いたのはこの声だ。



「ごめんなさい。今忙しいの」


そう言って彼女の脇を通り過ぎたが、あたしに軽くあしらわれたのがムカついたのか彼女は足を乱暴に踏み鳴らしながら追いかけてきた。



「ねえねえ、諏訪部さんってどこ中だったの?ちょっとウチのクラスおいでよ!ゆっくり話したいな」



しつこいな。

あたしは彼女の方を振り向いた。



「悪いけど、霜田とあたしはネオジム磁石くらい強い力で結ばれてるの。あんたたちには引き離せないから。あたしと霜田の邪魔しないでくれる?」



あたしは唖然としている彼女を置いて足早にその場を後にした。

彼女がその後どうしたのかはあたしの知る事じゃない。



霜田、どこだ!?

どこに呼び出された!?

そういえば軽音部の部室って言ってたな。



あたしは部室棟へ走った。

ボロいプレハブのような建物の、金属性の階段を蹴って二階へ向かった。

鈍い足音が鳴る。

そして、軽音楽部の部室に辿り着き、扉をノックした。



出てきたのは三枝美憂だった。

あたしの顔を見るなり顔を引き攣らせた。



「あれ?諏訪部さん、どうしてここに?」


 三枝の話を無視してあたしは部室の中を覗いた。

霜田はまだ来ていなかった。

裕太とやらは霜田呼び出しに手間取っているのか。

よかった、襲われる前で。



「ちょっと会いたい人がここに来るんだよね。ここで待たせてもらってもいいかな?」



あたしは三枝に言った。



「それは困るー。あたし、待ち合わせしてるの。諏訪部さんの会いたい人ってだあれ?」


「霜田」



三枝の顔が弱い電流でも流したかのようにピクリと引き攣った。



「なんでこーちゃんがここに来るの?来ないよ?」



三枝は甘ったるい声ですっとぼけた。

顔は引き攣ったままだった。

右頬だけ糸で引っ張っているようだった。



「あれ?じゃあ裕太君とやらが呼び出し失敗したの?」


三枝は口を金魚のようにパクパクさせた。

作戦がバレたのが信じられないようだ。

あんなに大声で話していたら誰かしら聞いていてもおかしくないというのに、そこまで頭が回らなかったのだろう。

三枝に極秘ミッションを任せたらとんでもないことになるな。



「あんたねえ、こーちゃんはあんたに付き纏われて迷惑しているの!離れてよ!」


 三枝が大声を出した。

ペットショップのインコのような甲高い声でピーチクパーチク喋った。



「あたしは霜田から直接聞いた言葉じゃないと信じないから」



あたしはピシャリと言った。

三枝は冷や水を浴びせられたように一瞬怯んだが、さらに噛みついてきた。



「なによ!売春婦!あんたみたいな淫乱はこーちゃんとは釣り合わないのよ!」


「霜田を襲おうとした人には言われたくないんだけど!」


三枝の顔がどんどん赤くなる。

丸顔も相まってリンゴのようだった。

こんなリンゴは食べたくない。



「こーちゃんにフラれたくせに!」



なんでそんな事を知っているんだ?

もしかしてこの間の登校中の霜田との会話を誰かが聞いていやがったのか!?

結構大きな声で話していたし、あたしも三枝の事を馬鹿にできないな。

誰かが聞いて、巡りめぐってこの女の耳に入ったのか。

あたしは学校というコミュニティの情報ネットワークの力の恐ろしさを身をもって知らされた。



「フラれても好きなの!文句ある!?」



三枝に痛いところを突かれて、あたしはつい叫んでしまった。

霜田にフラれたことなんて誰にも触れられたくないのに。

頭に血が昇るのがわかった。

冷静にならないといけないと頭では分かっているけど、あたしの心臓はそんなに頑張らなくてもいいよと労いたくなる程に頑張っていた。

脈拍急上昇だ。



あたしも三枝も興奮状態、猛獣が決闘をする直前のように睨み合っている。

このままでは殴り合いに発展しかねない。

というかあたしの身体は今にも三枝に飛びかかりそうだった。



「おーい、ちょっと」



少し離れたところから声が聞こえた。

張り詰めた糸が切れるようにあたしたちの睨み合いは終わり、声がする方へ視線を向けた。



「諏訪部の声が聞こえたから来てみたけど、何してるの?二人とも。大声で人の名前叫ばないでよ。恥ずかしい」


「霜田!」


「こーちゃん!」


あたしと三枝は同時に叫んだ。

霜田が階段をゆっくり登って来た。

帰りの身支度を整えていて、下校する準備が万端だった。



「ていうか諏訪部!全然教室に来ないから、探してたんだけど!今日放課後アイス食べる約束してたじゃん!」


「こーちゃん、裕太は一緒じゃないの?」


三枝は驚いた顔で霜田に聞いた。

本来なら霜田は裕太とやらと一緒に来るはずだったのではないか。



「え?裕太君?ああ、確かに僕のところに来たけど、今日の日直だったらしくて、担任の先生に呼ばれてたよ。日誌書くの忘れてたらしいから、今頃書かされてるんじゃない?」


裕太は霜田を誘い出すことに失敗したらしい。

今頃あの面倒で仕方がない学級日誌と睨めっこしているのか。

哀れだな。



「こーちゃん!その女とあたし、どっちか大事か決めてよ!その売春婦なんかより、あたしの方が絶対いいよね!?あたし処女だよ?」



三枝が叫んだ。

嘘だな。

さっきのトイレでの話からして処女じゃないだろう。

どうやら三枝は事が上手く運ばれなくて苛立っているらしい。

それにしても大声で言うことか?

三枝の羞恥心のなさにあたしは呆れて何も言えなくなった。

周囲を見渡したが誰もいなかったのが不幸中の幸いだった。



「しょ、処女?急に何の話?」



霜田は困惑していた。



「こーちゃんが付き合うならどっちがいいかって話!あたしとその子どっちが大事なの!?」


「いや、大事なのはお母さんだから」



霜田は自然の摂理を述べるかのごとく当たり前のように言った。

雨が降れば地面が濡れる、それくらい当たり前のことを言ったかのようだった。

そしてそれが三枝の逆鱗に触れたらしい。



「ハア?ふざけてるの?」


「いや、真面目に言ってるんだけど」


「何それ!マザコンじゃない!キモっ!」



三枝は霜田を馬鹿にする言葉を次々と吐いた。

思い通りにならないことの連続で頭が正常でなくなったようで、霜田に当たり散らす様はなんと見苦しいことか。



一方霜田はあまりの迫力に圧倒されていた。

あたしは霜田が傷ついていないかをまず心配した。

そして三枝に対する怒りがムクムクと膨らみ、三枝の「ママがいないと何もできない赤ちゃん」という言葉で大爆発した。



「あんたねえ、フラれたからって逆ギレしてんじゃないわよ!霜田が誰を好きだろうと、霜田の自由じゃない!あんたに悪く言われる筋合いないから!」


「何よ!じゃああんたはマザコンでも好きだって言うの?」


「マザコンマザコンうるさいな!お母さんを好きなことの何がいけないのよ!あたしは、お母さんのことを大事にしているところもひっくるめて霜田が好きなの!彼氏にフラれたからってちょっと手を出そうとしたあんたと違うんだから!あたしのことはなんて言おうと勝手だけど、霜田のことを悪く言うのは許さないから!」



三枝はあたしの剣幕に負けたようで、少し涙目になっていた。

あんたが霜田に投げつけた暴言はこんなものじゃない。

あたしはあんたを許さない。



「行こう!霜田!」


 

あたしは乱暴に霜田の手を引いて部室棟を後にした。



「諏訪部、アイス美味しくないの?」



木のベンチに座ってジェラートを二人でつついていると、霜田が聞いてきた。

木目調を基本としたナチュラル志向のジェラート屋さんは人気があるようで、近くに設置されたベンチにはほかのお客さんもちらほらいた。



「ん?美味しいよ!」


「それならもう少し美味しそうに食べたら?」


「あれ?変な顔してる?」


「眉間に皺寄ってるよ」


あたしは慌てて眉間を指でなぞり、凝り固まっている眉間の皮膚をなだらかにした。

さっきの三枝とのバトルでまだ興奮状態が覚めていないのかもしれない。

自分の好きな人を馬鹿にされるのがこんなに腹が立つとは思わなかった。

でもせっかく霜田と一緒にいるのだから、楽しく過ごさなければ損だ。



「諏訪部、ありがとう」



 霜田は紙カップの中のジェラートをつつきながら言った。

霜田はピスタチオとチョコレート、あたしは塩バニラと黒ゴマのダブルのアイスだ。

程よい甘さと濃厚なミルク感、なめらかな舌触りと、満点の味だった。



「ああ、このジェラート屋さん、気に入った?」


「それもあるけど、さっきのこと。僕のことをあんなに真剣に庇ってくれたの、諏訪部が初めてだよ」


霜田は照れているのか、アイスから目を離さず言った。

顔を少し赤くしていて、不覚にもこっちの顔も熱くなってしまった。



「ピスタチオ一口ちょうだい」



あたしは霜田のアイスに手を伸ばした。

霜田は食べやすいようにアイスをあたしに近づけてくれた。



「ありがと」


「取りすぎだよ。もう少し遠慮してよ」


「こっちの塩バニラも美味しいよ」


「じゃあちょっともらうね。あ、本当だ。うまい」


 
お互いのジェラートを分け合いながら、あたしたちは寒さに負けないくらい温もりのある時間を過ごした。

わざわざ恋人同士にならなくても、こういう関係でも十分楽しいのかもしれない。

あたしは新たな幸せの形を見つけられたらしい。
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